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後編:フォブス王子の真の顔と「侵略者」
2-8 無能王子は聖女に告白したようです
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「兄上……本当に……いいのですか?」
その翌日、私たちはフォブス王子に南部地方に戻るように言われていた。
偵察部隊によると、すでにレイぺルド公国の軍がこちらに迫ってきており、この城が戦場になると言っていたからだ。
「ああ。お前たちは、そこの足手まといどもを連れて行ってくれ」
いかにも貧困層の娼婦と思われる女性たちを指さしてフォブス王子は無表情でいう。
「……わかりました」
「ええ、私たちにおまかせを!」
「お、おい、ライア殿……顔が、近いぞ……」
私は意図的に、アイネス王子にべたべたと触って頬を寄せるように見せつけた。
フォブス王子は私が『聖女メリア』だと知っている。
そしてアイネス王子と私が仲睦まじくしている姿を見たがっていた。
そのことを知った私は、彼へのせめてもの手向けとして、そんな態度をとって見せた。
……やはりだ。
フォブス王子は、そんな私たちを見てフッと笑った。
そんなフォブス王子は、もう『暴君』のポーズをとれていないが本人は気づいていない。
おそらく、あの時の傷による感染症が悪化し、演技をする余裕がなくなっているのだ。
「それでいい……。万一俺たちが負けたら、停戦協定を頼むぞ」
「兄上……」
「南部地方だけは戦火にのまれないようにしてくれ。……だが、併合だけは避けるように言うんだ」
それは当然だろう。
併合ということになったら、我々の土地は間違いなくレイぺルド公国に接収される。
そんなことになったら、南部地方の住民たちの今後は決まっている。
貴族たちのために、女は家事育児をやる侍女として、男は農奴として薄給でこき使われる。
いや、それはまだマシかもしれない。
レイぺルド公国の視点では我々は侵略者で、これは防衛戦争なのだ。
最悪の場合……。
それ以上は考えたくもない。
「もっとも、南部地方を守るための手筈は整えている。……お前たちは今まで通りに暮らしていけるようにな」
私はフォブス王子の顔を見て、何となく彼がしようとしていることを察した。
……この王子は、この戦で負けた後、自分が『市民を無理やり戦わせた暴君』として処刑されることで責任を取るつもりなのだ。
だが、それを止めることはもうできないだろう。
そう思ったのか、アイネス王子はこくりとうなづいた。
「わかりました、兄上。……ですが、どうか負けないでください」
それには何も返事をせず、フォブス王子は後ろの兵たちに叫ぶ。
「野郎ども! ここが最後の死に場所だ! 悪いがお前たちの命を預かるぞ!」
「いよ、この暴君め!」
それに合いの手を入れるのは道化師ベラドンナだ。
彼女はこの王都に残る唯一の女性となる。
「お前たちはもともと『いらない命』だ! 親にも捨てられたその命! ここでなくすのは怖くないだろう?」
「お前こそ『いらない命』だ、この暴君フォブス王子!」
あんな風にフォブス王子をからかうような形で合いの手を入れることは私には出来ない。
このあたりはまさに、道化師ベラドンナが大陸一と呼ばれるゆえんだろう。
「だが、それは向こうも同じことだ! 勝てばあいつらの土地が手に入る!」
「けど、負けたらあいつらに土地をとられますねえ!」
そして大きな声を上げる。
「そうだ! つまり、俺たちが勝って居場所を作るか! 俺たちが負けて居場所を譲るか! どっちに転んでも、新しい時代が訪れる! みな、存分に戦ってくれ!」
「うおおおおおおおお!」
その王子の檄に兵士たちは大きな歓声を上げていた。
……やはり、この時代の人たちは私と死生観が違う。
私の持つ「命は平等に大切」という概念がそもそも、戦争がなく平和な世界で、国から大事にされて当たり前という概念のもとに作られたものなのだ。
この世界では命の序列があり、その序列を引き上げるためには相手から居場所を奪うしかない。
そのうちの一つが戦なのだろう。
そんな世界で私は「戦争は嫌だ」と言っていた。
戦争が嫌なのは今も同じだが……王子にあきれられるわけだ、そう私は思った。
そして私たちは城を出て城門が見えなくなったあたりで、私はアイネス王子に声をかけた。
「アイネス王子……。私はフォブス王子を誤解していました……」
「誤解か……」
アイネス王子は、先日私が二人の会話を盗み聞きしていたことを知らない。
そのため、少し不思議そうに尋ねてきた。
「あの人は……もう少し賢い方だと思っていました」
「は?」
「……目の前に素晴らしい戦力があるっていうのに、それを使おうとしないんですから」
私は以前、かわいいカリナとスローライフを送ることができれば、北部の兵士たちはどうなってもいいと思っていた。
だが、彼らもまた命があり、そして私たちを守るために戦ってくれていたのだ。
特にフォブス王子はすべてを背負いこんで、一人で死のうと思っている。
……彼はおそらく、もう長くはないだろう。
だからといって、処刑されて終わるような最期を遂げさせるわけにはいかない。
彼らの血と犠牲の上に築かれるスローライフなんて、断固お断りだ。
だから私は言ってやった。
「私たちと、このマッチョマンを使って、あのバカたちを勝たせてやる方法が……あることも知らないで帰らそうとするんですから!」
「なに?」
その発言に周囲が反対すると思ったが、意外なことに男たちはみな笑顔を見せていた。
ガッツポーズを見せるものまでいる。
……そうか、私の発言を皆待っていたのだな。
そう思い『道化師』としてまともな仕事ができたことを少し誇りに思った。
「……そうだな。だが、ライア、そなたは……」
「女は戦場に出るなっていうんでしょ? ……それなら、私はそれに従います」
フォブス王子は、必死になって私を戦場から遠ざけてくれた。
万一ここで負けたとしても、私に責任が追わないように、荷物一つ触らせなかった。
そんな彼の思いを無駄にするわけにはいかない。
……そして私は地図を広げた。
「私は、皆さんを地元民として『案内』するだけです。案内役なら、女でも子どもでも民間人でも、普通にやっていますよね?」
そう、地元の村娘に道案内をさせるなど、どの軍でもやっていてもおかしくない。
私はそれと同じことをするだけだ。……その道中で兵士たちが歩きやすいように『お手伝い』はするだろうが。
「ライア殿……」
「もう演技はやめましょう? ……私の正体、もうご存じなのでしょう?」
「そうだな……」
そして王子は大声で叫んだ。
「皆の者! 今まで黙っていたが……彼女の正体は聖女メリア! かつてフォブス王子に婚約を破棄されたものだ!」
その発言に皆が「うわああああ!」と叫ぶものだと思っていた。
「え?」
「はあ……やっぱりっすか……」
だが、男たちの反応は大したことがなかった。
ここの住民たちは馬鹿じゃない。
『北部地方から逃げてきた聖女メリアの手配書』と『南部地方に現れた謎の道化師』が同時に現れたら、その二つをイコールで結ぶのは当然だ。
おそらく、みな正体には薄々勘付いていたのだろう。
「彼女の持つ豊穣の力! それを使えば敵兵など恐れるに足らない!」
「はあ……」
この反応は当然だろう。
豊穣の力が戦場で役には立たないのは考えるまでもないからだ。
そもそも私に『豊穣チート』なんて持っていないのだが。
……こういうところは本当に『無能王子』なんだな、と私は少し苦笑した。
アイネス王子は少し顔を赤らめながらつづけた。
「そして! 私の世界一愛するものは、ここにいる聖女メリアだ! どうか、彼女のために戦ってくれないか!」
「……ぷ……」
アイネス王子、こんな時に何言ってんですか!
……とも思ったが、その発言に男たちは急に表情を崩した。
そして、
「わははははは!」
そんな風に大声で笑いだした。
「な、なんだ、何がおかしいんだ!」
アイネス王子は、彼らが急に笑い出したことに戸惑いを隠せない様子だった。
どうやら、あれは計算ではなかったようだ。万一自分が死ぬことを考えて、悔いのないように行った告白だったのだろう。
「い、いえ、だって、みんな待ってたんすよ!」
「そうそう! お二人が早くくっつかないかなって!」
「王子、あんたが嬢ちゃんを好きなのなんて、わかりきってましたよ。その発言を聞けたので、嬉しくて、ねえ!」
「……で、嬢ちゃんはどうなんで?」
「え? わ、私ですか……?」
突然そう言われて、思わず私は顔を真っ赤にした。
メイクの上でもそれがわかったのだろう、彼らは下世話な笑みを浮かべて返答を待つ。
「アイネス王子……」
私はアイネス王子の顔をじっと見つめようとしたが、思わず恥ずかしくなって顔をそむけた。
昨夜の話を聞いて、私はアイネス王子から本当にいろいろなものをもらっていたことに気が付いた。
……そして何より、私の気持ちもその時に気づいた。
私は、アイネス王子のことが好きだ。
だが単にそれをいうだけでは『道化師』ではないし、正直この状況で告白なんて恥ずかしくてできるわけがない。
周りの士気を上げる方法を考えねば。
そう思った私は、一番近くにいたリーダー格のマッチョに、みなに聞こえるように耳打ちした。
「そうだ、おじさま。この戦いに勝ったら、キスしてあげますよ?」
その意外な発言に全員が注目した。
そう、私は道化師として周りを楽しませる義務がある。こういうサプライズを混ぜるのは当然だ。
「キス? 俺に、か?」
あからさまに迷惑そうな表情でその男は答えた。
……そんな顔しなくてもいいじゃないか、と思いながらも私は顔を離し、みんなに対して呼びかける。
「いえいえ、あなたのようなむさい男ではありません。……アイネス王子に、しっかりと! どうですか、見たくないですか?」
「ほお……」
「おお、見たいぞ、それ!」
「やってやろうじゃねえか!」
「そうだ! 二人のキスを見てやろうぜ!」
私のその発言に、彼らはみな楽しそうに笑い出した。
全く単純な奴らだ。だが、私はそんな彼らが大好きだ。
アイネス王子はというと……顔を耳まで赤くしながら、けど楽しそうな表情で私の方を見てきた。
「よ、よし、それじゃあメリア殿。そなたの作戦を教えてくれ」
アイネス王子はその男たちの中で一番華奢で若い男に娼婦たちの道案内をするように告げ、残りの者たちとともに私の作戦を聞くためにその場に腰を下ろした。
その翌日、私たちはフォブス王子に南部地方に戻るように言われていた。
偵察部隊によると、すでにレイぺルド公国の軍がこちらに迫ってきており、この城が戦場になると言っていたからだ。
「ああ。お前たちは、そこの足手まといどもを連れて行ってくれ」
いかにも貧困層の娼婦と思われる女性たちを指さしてフォブス王子は無表情でいう。
「……わかりました」
「ええ、私たちにおまかせを!」
「お、おい、ライア殿……顔が、近いぞ……」
私は意図的に、アイネス王子にべたべたと触って頬を寄せるように見せつけた。
フォブス王子は私が『聖女メリア』だと知っている。
そしてアイネス王子と私が仲睦まじくしている姿を見たがっていた。
そのことを知った私は、彼へのせめてもの手向けとして、そんな態度をとって見せた。
……やはりだ。
フォブス王子は、そんな私たちを見てフッと笑った。
そんなフォブス王子は、もう『暴君』のポーズをとれていないが本人は気づいていない。
おそらく、あの時の傷による感染症が悪化し、演技をする余裕がなくなっているのだ。
「それでいい……。万一俺たちが負けたら、停戦協定を頼むぞ」
「兄上……」
「南部地方だけは戦火にのまれないようにしてくれ。……だが、併合だけは避けるように言うんだ」
それは当然だろう。
併合ということになったら、我々の土地は間違いなくレイぺルド公国に接収される。
そんなことになったら、南部地方の住民たちの今後は決まっている。
貴族たちのために、女は家事育児をやる侍女として、男は農奴として薄給でこき使われる。
いや、それはまだマシかもしれない。
レイぺルド公国の視点では我々は侵略者で、これは防衛戦争なのだ。
最悪の場合……。
それ以上は考えたくもない。
「もっとも、南部地方を守るための手筈は整えている。……お前たちは今まで通りに暮らしていけるようにな」
私はフォブス王子の顔を見て、何となく彼がしようとしていることを察した。
……この王子は、この戦で負けた後、自分が『市民を無理やり戦わせた暴君』として処刑されることで責任を取るつもりなのだ。
だが、それを止めることはもうできないだろう。
そう思ったのか、アイネス王子はこくりとうなづいた。
「わかりました、兄上。……ですが、どうか負けないでください」
それには何も返事をせず、フォブス王子は後ろの兵たちに叫ぶ。
「野郎ども! ここが最後の死に場所だ! 悪いがお前たちの命を預かるぞ!」
「いよ、この暴君め!」
それに合いの手を入れるのは道化師ベラドンナだ。
彼女はこの王都に残る唯一の女性となる。
「お前たちはもともと『いらない命』だ! 親にも捨てられたその命! ここでなくすのは怖くないだろう?」
「お前こそ『いらない命』だ、この暴君フォブス王子!」
あんな風にフォブス王子をからかうような形で合いの手を入れることは私には出来ない。
このあたりはまさに、道化師ベラドンナが大陸一と呼ばれるゆえんだろう。
「だが、それは向こうも同じことだ! 勝てばあいつらの土地が手に入る!」
「けど、負けたらあいつらに土地をとられますねえ!」
そして大きな声を上げる。
「そうだ! つまり、俺たちが勝って居場所を作るか! 俺たちが負けて居場所を譲るか! どっちに転んでも、新しい時代が訪れる! みな、存分に戦ってくれ!」
「うおおおおおおおお!」
その王子の檄に兵士たちは大きな歓声を上げていた。
……やはり、この時代の人たちは私と死生観が違う。
私の持つ「命は平等に大切」という概念がそもそも、戦争がなく平和な世界で、国から大事にされて当たり前という概念のもとに作られたものなのだ。
この世界では命の序列があり、その序列を引き上げるためには相手から居場所を奪うしかない。
そのうちの一つが戦なのだろう。
そんな世界で私は「戦争は嫌だ」と言っていた。
戦争が嫌なのは今も同じだが……王子にあきれられるわけだ、そう私は思った。
そして私たちは城を出て城門が見えなくなったあたりで、私はアイネス王子に声をかけた。
「アイネス王子……。私はフォブス王子を誤解していました……」
「誤解か……」
アイネス王子は、先日私が二人の会話を盗み聞きしていたことを知らない。
そのため、少し不思議そうに尋ねてきた。
「あの人は……もう少し賢い方だと思っていました」
「は?」
「……目の前に素晴らしい戦力があるっていうのに、それを使おうとしないんですから」
私は以前、かわいいカリナとスローライフを送ることができれば、北部の兵士たちはどうなってもいいと思っていた。
だが、彼らもまた命があり、そして私たちを守るために戦ってくれていたのだ。
特にフォブス王子はすべてを背負いこんで、一人で死のうと思っている。
……彼はおそらく、もう長くはないだろう。
だからといって、処刑されて終わるような最期を遂げさせるわけにはいかない。
彼らの血と犠牲の上に築かれるスローライフなんて、断固お断りだ。
だから私は言ってやった。
「私たちと、このマッチョマンを使って、あのバカたちを勝たせてやる方法が……あることも知らないで帰らそうとするんですから!」
「なに?」
その発言に周囲が反対すると思ったが、意外なことに男たちはみな笑顔を見せていた。
ガッツポーズを見せるものまでいる。
……そうか、私の発言を皆待っていたのだな。
そう思い『道化師』としてまともな仕事ができたことを少し誇りに思った。
「……そうだな。だが、ライア、そなたは……」
「女は戦場に出るなっていうんでしょ? ……それなら、私はそれに従います」
フォブス王子は、必死になって私を戦場から遠ざけてくれた。
万一ここで負けたとしても、私に責任が追わないように、荷物一つ触らせなかった。
そんな彼の思いを無駄にするわけにはいかない。
……そして私は地図を広げた。
「私は、皆さんを地元民として『案内』するだけです。案内役なら、女でも子どもでも民間人でも、普通にやっていますよね?」
そう、地元の村娘に道案内をさせるなど、どの軍でもやっていてもおかしくない。
私はそれと同じことをするだけだ。……その道中で兵士たちが歩きやすいように『お手伝い』はするだろうが。
「ライア殿……」
「もう演技はやめましょう? ……私の正体、もうご存じなのでしょう?」
「そうだな……」
そして王子は大声で叫んだ。
「皆の者! 今まで黙っていたが……彼女の正体は聖女メリア! かつてフォブス王子に婚約を破棄されたものだ!」
その発言に皆が「うわああああ!」と叫ぶものだと思っていた。
「え?」
「はあ……やっぱりっすか……」
だが、男たちの反応は大したことがなかった。
ここの住民たちは馬鹿じゃない。
『北部地方から逃げてきた聖女メリアの手配書』と『南部地方に現れた謎の道化師』が同時に現れたら、その二つをイコールで結ぶのは当然だ。
おそらく、みな正体には薄々勘付いていたのだろう。
「彼女の持つ豊穣の力! それを使えば敵兵など恐れるに足らない!」
「はあ……」
この反応は当然だろう。
豊穣の力が戦場で役には立たないのは考えるまでもないからだ。
そもそも私に『豊穣チート』なんて持っていないのだが。
……こういうところは本当に『無能王子』なんだな、と私は少し苦笑した。
アイネス王子は少し顔を赤らめながらつづけた。
「そして! 私の世界一愛するものは、ここにいる聖女メリアだ! どうか、彼女のために戦ってくれないか!」
「……ぷ……」
アイネス王子、こんな時に何言ってんですか!
……とも思ったが、その発言に男たちは急に表情を崩した。
そして、
「わははははは!」
そんな風に大声で笑いだした。
「な、なんだ、何がおかしいんだ!」
アイネス王子は、彼らが急に笑い出したことに戸惑いを隠せない様子だった。
どうやら、あれは計算ではなかったようだ。万一自分が死ぬことを考えて、悔いのないように行った告白だったのだろう。
「い、いえ、だって、みんな待ってたんすよ!」
「そうそう! お二人が早くくっつかないかなって!」
「王子、あんたが嬢ちゃんを好きなのなんて、わかりきってましたよ。その発言を聞けたので、嬉しくて、ねえ!」
「……で、嬢ちゃんはどうなんで?」
「え? わ、私ですか……?」
突然そう言われて、思わず私は顔を真っ赤にした。
メイクの上でもそれがわかったのだろう、彼らは下世話な笑みを浮かべて返答を待つ。
「アイネス王子……」
私はアイネス王子の顔をじっと見つめようとしたが、思わず恥ずかしくなって顔をそむけた。
昨夜の話を聞いて、私はアイネス王子から本当にいろいろなものをもらっていたことに気が付いた。
……そして何より、私の気持ちもその時に気づいた。
私は、アイネス王子のことが好きだ。
だが単にそれをいうだけでは『道化師』ではないし、正直この状況で告白なんて恥ずかしくてできるわけがない。
周りの士気を上げる方法を考えねば。
そう思った私は、一番近くにいたリーダー格のマッチョに、みなに聞こえるように耳打ちした。
「そうだ、おじさま。この戦いに勝ったら、キスしてあげますよ?」
その意外な発言に全員が注目した。
そう、私は道化師として周りを楽しませる義務がある。こういうサプライズを混ぜるのは当然だ。
「キス? 俺に、か?」
あからさまに迷惑そうな表情でその男は答えた。
……そんな顔しなくてもいいじゃないか、と思いながらも私は顔を離し、みんなに対して呼びかける。
「いえいえ、あなたのようなむさい男ではありません。……アイネス王子に、しっかりと! どうですか、見たくないですか?」
「ほお……」
「おお、見たいぞ、それ!」
「やってやろうじゃねえか!」
「そうだ! 二人のキスを見てやろうぜ!」
私のその発言に、彼らはみな楽しそうに笑い出した。
全く単純な奴らだ。だが、私はそんな彼らが大好きだ。
アイネス王子はというと……顔を耳まで赤くしながら、けど楽しそうな表情で私の方を見てきた。
「よ、よし、それじゃあメリア殿。そなたの作戦を教えてくれ」
アイネス王子はその男たちの中で一番華奢で若い男に娼婦たちの道案内をするように告げ、残りの者たちとともに私の作戦を聞くためにその場に腰を下ろした。
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