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05.諦めさせて
しおりを挟む「弟には打ち明けないんですか?」
「何度目の質問だ、それ」
「142回目ですね」
「お前らそういうところがちょっと気持ち悪いぞ。何度も言っただろう」
「ええ、聞きました。何度も。姫の立場では弟への脅しになるからって」
「ああ。私が申し出たら、納得しなくても私がその前世の相手だと認めなくてはならない。権力とはそういうものだ」
「前世の相手そのものなのに?」
「アルベルトにとっては偽物の相手だ。彼が納得しない限りは」
「難儀ですねえ」
◇ ◇ ◇
「エリーシャ殿下、15歳の貫禄じゃないんだよな……」
「俺も平民じゃ無いけど6人目の男にしてくれないかな、踏まれたい……ってイテェ! 殴んなアル」
「すまない、手元が狂った」
「そう言いながらも殴り続けんのやめてくれる?」
◇ ◇ ◇
「エル、由々しき自体だ。父上の隠し子が見つかった」
「は?」
寝耳に水、とはまさにこのことだ。城は大騒ぎになり、急いでその落胤を迎えることとなった。
ミシェル、という名前の、17歳の女の子らしい。そうなると、私とフィロンの姉となる。
今までは城下町で暮らしていて、ミシェルの母が王である父上からもらったペンダントのおかげで発覚したらしい。
というか王家の宝を一般人にあげるな。
ミシェルの母はミシェルが14歳の時に病死してしまったらしい。
それから後見人に面倒を見てもらっていたミシェルだが、17歳になり娼館に無理やり売られそうになったようだ。それでやむなく逃走資金を得るため、母の形見を質屋に出し、それが王家の宝だと発覚。
そして私たちは今、ミシェルと顔合わせをすることになったのだ。
「初めまして、ミシェルと申します」
──似てる。
前世の私に、似ている。
ふわふわのピンク色の髪も、快晴の空のように青い瞳も。背の低く華奢なところも。
黙り込んだ私の手を握り、フィロンが「よろしく。しばらくは慌ただしいだろうけど、ゆっくり落ち着いたら三人で話をしよう」と言い、私の手を引いて部屋を出た。
「エル……」
気遣わしげにフィロンが呼ぶ。だから、私はなんとか笑顔を作った。
「大丈夫」
なにが大丈夫かとは言えなかったが、フィロンは困ったように笑って「無理はしないで」と言ってくれた。
フィロンと別れてから、城にある庭園へと足を運ぶ。月が昇り、星がちらついているが、構わずに噴水の縁に座った。
ぽろり、と涙が溢れたら最後、決壊するだけだった。
──きっとアルベルトは、ミシェルを愛するだろう。
ミシェルは何も分からないまま、彼の純真な愛を受け取り、二人は結ばれるだろう。
そのとき、私は笑顔でいられるだろうか。何事もなかったように姉を、彼を祝福できるだろうか。
黒くまっすぐな髪が目に入る。ピンク色だったら、すぐにわかってくれただろうか。
涙が溢れる目も、冴え冴えとした青だったなら、気づいてもらえただろうか。
でも、このままでいいのかもしれない。
わたしのせいで彼は死んだ。わたしが彼を殺したようなものだ。
──この罪を償うために、手放した方がいいのではないだろか?
心の中でリーシャが泣き喚く。
嫌よ! 彼はわたしの騎士だった! わたし以外は目もくれないと言った! 来世も愛すると言った! わたしのなの、アルベルトは、わたしのなの──。
おさない姫が心の中でくずおれて泣いている。
泣けばすべてが手に入ると思っていた、甘ったれたお姫様が喚いてる。
私は目を開いた。
潮時だ。心に住む甘ったれたお姫様と彼への恋心を殺すときが来た。
私はわたしが嫌いだった。アシードの姫エリーシャが嫌いだった。何も聞かず何も見ず、何も考えない彼女が嫌いだ。その無知と純粋な心が、無辜の国民さえも殺し、愛する人まで殺した。
だから、私は今の私が好きだ。嫌なものでも聞いて見て考える。傷だらけの今の私の方が好きだ。彼に受け入れてもらえない私でも、きっと好きでいられる。
「殿下?」
俯いていた顔をあげれば、アルベルトがいた。
──ああ、あなたは簡単には諦めさせてくれないのね。
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