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01. 生まれ変わった護衛騎士
しおりを挟むアルベルト・シェライン。
莫大なる富を持つシェライン公爵家の次男坊であり、政略結婚にしては珍しくおしどり夫婦の間に生まれた彼は、数奇なことに前世の記憶があった。
かつての亡国アシード、その王国でとある姫君の護衛騎士を彼は務めていたのだという。
まるで理想郷のように豊かで緑あふれる国には、それそれは賢い王太子と、その妹である可愛らしい姫が暮らしており、温和な王が収める国はこじんまりとしているものの、他国と対等に交易ができるほど文化や技術が発展していた。
姫君はアルベルト一目見たときから好きになり、同様にアルベルトも姫君に好感を抱いたという。身分の差はあれど、公平な精神を尊ぶ王は2人の恋路を温かく見守った。
二人は優しく甘い日々を過ごし、幸せな日々を過ごしていた。
しかし、それは長くは続かなかった。
ある裏切り者が王城へと敵国の兵士を手引きしたのだ。
軍事に力を割いていなかった王国は、すぐに火に包まれた。王太子の行方もわからぬまま、護衛騎士は嫌がる姫君の手を掴み、城を出て逃げようとした。
しかし、敵国の兵士に見つかり、姫はあっけなく命を奪われた。護衛騎士も同じように深い傷を負い、息も絶え絶えになりながら、冷たくなった姫の手を掴んで誓った。
生まれ変わったら、貴方様を探しに行きます。
その時は必ず一緒になりましょう。
生まれ変わっても変わらず貴方を愛します。
私の最愛の姫──エリーシャ。
そして姫を抱き、持っていた短剣で胸を貫いた。
それが、アルベルト・シェラインの生まれながらにして存在していた記憶である。
アルベルトは生まれてすぐ、このような記憶があったために混乱し、夜は泣き喚いて疲れては眠り、また昼も泣き喚き続けた。
公爵夫妻は心配し医者を手配したが、健康になんら問題はないという診断を下された。他の医者を呼んでも、同じように言われるだけで、なんの手立てもなく日常は進んだ。
泣くアルベルトを心配し、ある日、10歳上の兄のロベルトはベビーベッドを覗いた。小さな赤ん坊がぱんぱんに目を晴らした姿を見て、悲しくなったロベルトは、アルベルトの手を取り言った。
「大丈夫だよ。何があってもお前はこの兄様が守ってやるから」
アルベルトはこの言葉に、存在した記憶がストンと心に落とし込まれる音を聞いた。今まで他人の記憶でしかなかったものが、アルベルトの記憶になったのだ。そう、かつてのアルベルトも、兄と同じように守ってやりたいと思った子がいたはずだ。
そこからアルベルトはすくすく育ち、5歳になってすぐ、「父上、母上、兄上、そしてリーン。俺には前世の記憶があります」と告白した。
公爵夫妻は衝撃のあまり卒倒しそうになり、一歳になった妹アイリーンをロベルトは慌てて公爵夫人の腕から救い出した。
あまりにも荒唐無稽な話に、理解を示したのは兄のロベルトだった。半信半疑の夫妻にロベルトは歴史書のページを開き、示した。
「アルベルトの話は本当だよ。かつてアシードという国があって、王子と姫がいた。そしてその代に国は滅んでる」
あまりにもアルベルトの話と合致した歴史の変遷に、夫妻はアルベルトを信じることにした。それに好きな姫君をまた見つけてお嫁さんにします、と宣言する息子は、微笑ましいものがあったからだ。
しかし、待てども待てども、姫君の生まれ変わりと思える女性は現れなかった。
アルベルトの容姿も名前も、今世と前世で変わっていない。
だから姫君──エリーシャ──も同じだろうと踏んでいたのだが、合致した女性は現れなかった。アルベルトは市井に潜り込み平民まで探したし、最下層のスラムまで向かったが、彼女らしき人は居なかった。
アルベルトが7歳のときに、自国に公女が生まれ、「エリーシャ」と名付けられた。しかし育つにつれて「我儘で性悪な王女」と噂され始めた。さらには黒い髪で真っ赤な目をしていると知り、彼女ではないと判断した。
アルベルトはすでに23歳となり、王国騎士団でも高い地位を得るまでに出世した。それでも姫は見つかっていない。
しかし、アルベルトは生涯、姫君だけを追い求め生きていくだろう。「あなただけは生きて」とアルベルトを庇って命を落とした彼女に、もう一度会うために。
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