腕切り、脚切り、ダルマの屍肉

白い封筒

　マットの下は塗装されていない木の板だった。

　その板の上に白い封筒と百元札一枚があった。封筒には宛先が書いてある。

　俺はそれを手に取って椅子に戻った。

　宛先は韓国大使館だ。中国語で何か書いてある。
　俺は辞書を使ってその中国語を解読した。


　この手紙を韓国大使館に届けてください。


　封筒には封がされている。

　俺は構わずに封を開けて中味を取り出した。中の文章は全てハングルだった。

　ハングルなら読みこなせる。日本語の読み書きよりも先に叩き込まれた母親の祖国の言葉。
　俺を捨てた母親が俺の脳に刻み込んだ教育の成果だ。


　私は北京で漢方薬の貿易をしている金仁錫という者です。
　天然の霊芝を仕入れることができるという話に騙されて湖北省の僧肉村というところに連れてこられました。
　村に着いた次の日に、同行して来た李一鉉が行方不明になりました。
　李は私の会社の昔からの社員です。真面目な男です。私に無断で勝手な行動をするようなことはありません。
　何かの事件に巻き込まれたことは間違いないのです。
　警察に連絡しようとしましたが僧肉村は解放区ではないため思いとどまりました。
　僧肉村は狭い村です。私は村の中を探し回りました。しかし村の人に訊ねても誰も金仁錫を知らないのです。
　金仁錫の行方を捜しているうちに私は奇妙なことに気が付きました。
　この小さな村に別の村から治療を受けに来る患者がいるのです。見たこともない病気でした。膝や肘の関節が膨らみ、ひどい患者は膨らんだ瘤が弾けて中の肉が見えていました。この病気は腐骨肉と呼ばれています。
　村の子供に訊ねると、腐骨肉の患者が来ると必ず遠くから外国人がやってきて、すぐにどこかにいなくなるというのです。
　この話を聞いたときに私は中国人の同業者から何度か聞いたことがある人部専家の噂話を思い出しました。