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* 死神生活三年目&more *
第275話 七夕★襲来②
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初夏が始まった辺りのころ。死神ちゃんは七夕の短冊を手にして、何やら悩んでいた。同居人の一人は不思議そうに目を瞬かせると、小首を傾げて「どうしたんだよ」と死神ちゃんに尋ねた。すると、死神ちゃんは思案顔のまま、リビングにいた同居人たちを見渡して言った。
「なあ、てんこ親子が寮に遊びに来たら、お前ら、さすがに迷惑?」
「えっ、何、どういうこと!?」
死神ちゃんは眉根を寄せて口を尖らせると、先ほど以上に〈悩んでいます〉という表情を浮かべた。
「いやあさあ、俺、てんこの母親とも定期的に会うようになっただろ? だからさ、改まって『お中元、好きなもの送りますよ!』的なことを言われても、今まで以上にもらいづらいっていうか。だから『いついつ死神寮に来てください』とだけ書いておいて、サプライズパーティーとかしたらおもしろいかなとか思ったんだが」
「やだそれ、おもしろそう。薫ちゃんの短冊だけ使用して、うちらの短冊は別に消費されないんでしょう? だったら全然問題ないよ。お中元もらって、ドッキリ企画にも参加できるだなんて、一石二鳥で楽しくていいじゃん」
「私も賛成! でも『来てください』だと思惑がバレそうだから、何か別の口実で呼び出したいよね。どうしようか」
「俺も別に問題ないぜ。ていうか、ここにいる数人で決めるのもアレだし、寮長に提案して全員に聞こうぜ。で、その日の三班のシフトは不参加希望者で埋めてもらってさ。参加者の方が多いなら、抽選制にして」
「おお、そうだな。じゃあ、ちょっとマコに聞いてくるわ」
死神ちゃんはソファーからピョンと飛び降りると、リビングをあとにした。
**********
「おい、何でお前がここにいるんだよ」
「何でよ、私がいたらまずいっていうの?」
七夕の短冊を利用してのサブライズパーティー当日。参加者の中でも料理のできる者がキッチンに集まる中、あからさまに場違いな者がひとり混ざっていた。アリサはムッとして口を尖らせると、サーシャとケイティーの腕を取って自身の腕を絡ませた。
「居住者でない人が参加してOKなんだから、社長だって参加したって良いでしょう?」
「そういう意味で言ったわけじゃあない」
死神ちゃんが顔をしかめてそう言うと、アリサは〈理解しかねる〉と言いたげに不服顔で首をひねった。
発案した日。マッコイに相談してみたところ、あっさりと了承がとれた上に出席希望者多数のため主要メンバー以外は抽選制となった。さらに、天狐の母親とよく顔を合わせる面々に声をかけたところ、彼女たちからも参加したいという返事をもらった。しかし、調理から参加するのはサーシャとケイティーだけのはずだったのだが、何故かアリサも一緒にやって来たのである。
「そもそも、お前にはパーティーの開始時間しか伝えていなかったはずなんだがな」
「本当に、ひどいわよね。私だけ爪弾きにしようとするだなんて。普段はレーションをアレンジするのが精一杯のケイティーだって調理に参加するのよ? だったら、私だって参加したって良いじゃないの」
「やだなあ。私は調理器具が空を飛んだり爆発したりなんかさせないよ? 包丁だって、普通に使えるし」
「私だって、少しはマシになったんだから! 手伝えるわよ!」
ケイティーは何もない瞳で虚空を見つめ薄っすらと笑みを浮かべながら、やんわりとアリサが絡めてきた腕を解いた。アリサは目くじらを立てると、素っ頓狂な声を上げた。
姦しく言い合いを始めた彼女たちに構うことなく、マッコイは笑顔でパンと手を打ち鳴らした。第三死神寮のお料理倶楽部は、各人の食費節約のために毎週のように行われている〈みんなでご飯を食べる会〉で調理を担当している。ひたすら材料を切る班、準備された食材を加工していく班などと工程別に作業分担をして、大人数分を効率よく調理しているのだ。マッコイがケイティーとサーシャにどの班に入って欲しいのかを伝えると、アリサがきょとんとした顔で自分を指差した。
「ねえ、私はどの班?」
「アンタは味見担当よ」
「いや、ほら、みんなと同じように何かあるでしょう? ね、どの班?」
「だから、味見担当」
「何でよ! 私だって包丁握りたいし、ハンドブレンダー使いたい!」
アリサが尖った耳の先をほんのりと赤らめて腹を立てたが、マッコイは無情にもそれをスルーして「さあ、ちゃっちゃと始めるわよー」と他のメンバーに笑顔を向けた。みんなも何事もなかったかのように返事をし、アリサ一人だけがギャアギャアと文句を言い続けた。
天狐親子の呼び出し方法だが、ちょうど天狐の母とマッコイが恒例の〈アルデンタスのサロン女子会〉の約束をしており、そして死神ちゃんが〈今度のんびりと、食事でもどうですか?〉と短冊に書いたため、マッサージを受けたあとに四人で食事でもしようかということになった。そのため、彼が天狐親子をそれとなく寮に連れてくるという手はずになっていた。
そして、マッコイも調理に参加したほうが効率がいいため、彼が出かける前にあらかた作っておき、直前でレンジで温めようということになった。作業状況はと言うと、一人を除いて、全員がとても楽しそうに調理をしていた。出来上がったものからどんどんとリビングに運んでいき、あとは新鮮さが勝負のサラダ系とオーブンを使うもの、そして片付けだけとなった。突如、死神ちゃんが顔を青ざめさせて叫んだ。
「サーシャ、逃げろ!」
「えっ、何――」
何かを言う前に、サーシャは血相を変えたマッコイに抱きかかえられた。サーシャの視界の端にはオーブンレンジ付近で血の気の引いた顔をした死神数名が集まっているのと、取り押さえられているアリサが入り込んだ。そしてサーシャがマッコイにお姫様抱っこでキッチンの外へと運び出された次の瞬間、第三死神寮のキッチンは大爆発を起こした。
「えっ、何、何、どういうことなの!?」
「サーシャ、怪我はない? 大丈夫?」
「マコちゃんのほうだよ、それは! 背中、燃えてる!」
あらやだ、と言うとマッコイはサーシャを降ろし、彼女に水系の魔法をかけてもらった。そしてもくもくと煙を吐き続けるキッチンを覗き込むと、彼は中の者たちに「みんな、大丈夫?」と声をかけた。
「死神課メンバーはもちろん全員、怪我はないぜ。ただ、服が再生不可能なほどに燃え尽きた。何か着るものを持ってきてくれ」
「ていうかむしろ、寮にいる男どもを全員リビングに押し込んでよ! もう面倒だから、そのまま自分たちで部屋に戻って着替えるよ!」
「あー、サーシャ、ごめん。第一に行ってさ、私の服、適当に何か持ってきてくれる? 第三の子に借りて帰るのは、洗って返さなきゃだから面倒だしさ」
マッコイは了解の返事をすると、何事かと見に来た男性陣にリビングへ行くようにとお願いした。さらに、腕輪を操作して〈男性陣はリビング待機〉という館内放送を流した。サーシャも慌てて、第一死神寮へと向かった。
不機嫌にキッチンを去っていく裸の死神ちゃんと女性陣を見送ると、マッコイは何故か無傷のアリサに無言で近づいていった。
「アンタ、この爆発の中で、どうして無傷なわけ? バリアでも張ったの!?」
「いや、張ってはないし、どうして無傷なのか分からないんだけれど……。私がオーブンに触ると、大抵こんな感じなのよ。大爆発を起こしても、何故か私はいろいろな理由で奇跡的に無事っていう」
「オーブンに触ったの!? あれだけ、調理には関わらせないようにしたのに!?」
「だって、手伝いたかったのよ。だから、サラダに使う茹で卵を作ろうと思って」
「アンタ、馬鹿でしょう! そりゃあ爆発するに決まってるわよ! でも、だからってここまで大惨事にはならないわよ! 他に何かしたんじゃあないの!?」
しきりに声を裏返させるマッコイに、アリサは〈理解しかねる〉という表情を浮かべて首をひねった。そして神妙な面持ちでポツリと呟くように言った。
「何もしてないわよ。普通に、爆発するもんなんじゃあないの?」
「するわけないでしょう! 大体、いつも爆発させてるなら無闇矢鱈に触らないでよ!」
アリサは申し訳なさそうにしつつも、やはり〈爆発するものだろうに、何を言っているんだろう。理解できない〉と言いたげな表情を浮かべていた。そして彼女は頬を搔きながら、言いづらそうに「そろそろ約束の時間じゃない?」と言った。マッコイは時間を確認すると、頬を引きつらせて慌てふためいた。
「やだ、うそ、本当だわ! アンタ、ここ最近ずっと薫ちゃんを噛んではいないでしょう? 一定量のデータは揃ったからってことで。だったら、その分、魔力有り余っているわよね。ここ、応急処置しておいて!」
「えっ、でも、万が一噛まなきゃな時や私が噛みたいって思った時のためにとってある魔力なのに――」
「この惨事の原因はアンタでしょう! つべこべ言わない!」
「そんなー!」
自分のやらかしたことを棚に上げて泣き言を垂れるアリサを放置して、マッコイはキッチンから出ていった。一部始終を見守っていたケイティーはヘッと皮肉っぽく鼻で笑うと、サーシャが持ってきてくれた服に着替えるべく、やはりアリサを放置してキッチンから出ていったのだった。
**********
「何だか、寮内が焦げ臭いのじゃ」
「おう、ちょっとアクシデントがあってな。でも、もう大丈夫だから。気にしないでくれ」
天狐は寮にやって来るなり、鼻をスンスンと動かして顔をしかめた。あの後すぐにアリサが応急処置をして、焦げ臭い香りも消してくれたはずなのだが、妖狐である天狐の鼻はごまかせなかったらしい。死神ちゃんは頬を引きつらせると、精一杯の苦笑いを浮かべた。
「それにしても、ほんまにお邪魔してしまってよかったんどすか?」
「もちろん! 俺らが住んでて、てんこも定期的に泊まりに来るところですから。チェックしてやってください」
申し訳なさそうに眉を寄せる天狐の母にそう言って笑顔を向けると、死神ちゃんは彼女たちをリビングへと案内した。そして天狐親子は、リビングに入るなりクラッカーの洗礼を受けて目を丸くした。
「いつも薫ちゃんがお世話になっておりまーす!」
リビングは全体的に可愛らしく飾り付けられており、壁には〈天狐ちゃん&天狐ちゃんママ、いつもありがとう! これからもよろしくね!〉と書かれた幕が掛けられていた。そしてテーブルの上には、天狐が好きなものを中心に様々な料理が並べられていた。
「あらまあ。お礼をするつもりが、されてしもたん」
天狐の母は驚嘆して目を瞬かせたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。そして料理に目を輝かせ、よだれが垂れそうになっている娘に手を引かれながら着席した。
サプライズは大成功だったようで、天狐親子はとても楽しい時間を過ごしてくれたようだった。死神ちゃんは自身の仲間たちと一緒に嬉しそうに笑い合う天狐親子を眺めながら、ほっこりと胸を暖かくしたのだった。
――――なお、お詫びということでキッチンはさらに使い勝手良く拡張されました。おかげさまで、マッコイ念願の〈キッチン台の一部が大理石〉が導入されたそうDEATH。
「なあ、てんこ親子が寮に遊びに来たら、お前ら、さすがに迷惑?」
「えっ、何、どういうこと!?」
死神ちゃんは眉根を寄せて口を尖らせると、先ほど以上に〈悩んでいます〉という表情を浮かべた。
「いやあさあ、俺、てんこの母親とも定期的に会うようになっただろ? だからさ、改まって『お中元、好きなもの送りますよ!』的なことを言われても、今まで以上にもらいづらいっていうか。だから『いついつ死神寮に来てください』とだけ書いておいて、サプライズパーティーとかしたらおもしろいかなとか思ったんだが」
「やだそれ、おもしろそう。薫ちゃんの短冊だけ使用して、うちらの短冊は別に消費されないんでしょう? だったら全然問題ないよ。お中元もらって、ドッキリ企画にも参加できるだなんて、一石二鳥で楽しくていいじゃん」
「私も賛成! でも『来てください』だと思惑がバレそうだから、何か別の口実で呼び出したいよね。どうしようか」
「俺も別に問題ないぜ。ていうか、ここにいる数人で決めるのもアレだし、寮長に提案して全員に聞こうぜ。で、その日の三班のシフトは不参加希望者で埋めてもらってさ。参加者の方が多いなら、抽選制にして」
「おお、そうだな。じゃあ、ちょっとマコに聞いてくるわ」
死神ちゃんはソファーからピョンと飛び降りると、リビングをあとにした。
**********
「おい、何でお前がここにいるんだよ」
「何でよ、私がいたらまずいっていうの?」
七夕の短冊を利用してのサブライズパーティー当日。参加者の中でも料理のできる者がキッチンに集まる中、あからさまに場違いな者がひとり混ざっていた。アリサはムッとして口を尖らせると、サーシャとケイティーの腕を取って自身の腕を絡ませた。
「居住者でない人が参加してOKなんだから、社長だって参加したって良いでしょう?」
「そういう意味で言ったわけじゃあない」
死神ちゃんが顔をしかめてそう言うと、アリサは〈理解しかねる〉と言いたげに不服顔で首をひねった。
発案した日。マッコイに相談してみたところ、あっさりと了承がとれた上に出席希望者多数のため主要メンバー以外は抽選制となった。さらに、天狐の母親とよく顔を合わせる面々に声をかけたところ、彼女たちからも参加したいという返事をもらった。しかし、調理から参加するのはサーシャとケイティーだけのはずだったのだが、何故かアリサも一緒にやって来たのである。
「そもそも、お前にはパーティーの開始時間しか伝えていなかったはずなんだがな」
「本当に、ひどいわよね。私だけ爪弾きにしようとするだなんて。普段はレーションをアレンジするのが精一杯のケイティーだって調理に参加するのよ? だったら、私だって参加したって良いじゃないの」
「やだなあ。私は調理器具が空を飛んだり爆発したりなんかさせないよ? 包丁だって、普通に使えるし」
「私だって、少しはマシになったんだから! 手伝えるわよ!」
ケイティーは何もない瞳で虚空を見つめ薄っすらと笑みを浮かべながら、やんわりとアリサが絡めてきた腕を解いた。アリサは目くじらを立てると、素っ頓狂な声を上げた。
姦しく言い合いを始めた彼女たちに構うことなく、マッコイは笑顔でパンと手を打ち鳴らした。第三死神寮のお料理倶楽部は、各人の食費節約のために毎週のように行われている〈みんなでご飯を食べる会〉で調理を担当している。ひたすら材料を切る班、準備された食材を加工していく班などと工程別に作業分担をして、大人数分を効率よく調理しているのだ。マッコイがケイティーとサーシャにどの班に入って欲しいのかを伝えると、アリサがきょとんとした顔で自分を指差した。
「ねえ、私はどの班?」
「アンタは味見担当よ」
「いや、ほら、みんなと同じように何かあるでしょう? ね、どの班?」
「だから、味見担当」
「何でよ! 私だって包丁握りたいし、ハンドブレンダー使いたい!」
アリサが尖った耳の先をほんのりと赤らめて腹を立てたが、マッコイは無情にもそれをスルーして「さあ、ちゃっちゃと始めるわよー」と他のメンバーに笑顔を向けた。みんなも何事もなかったかのように返事をし、アリサ一人だけがギャアギャアと文句を言い続けた。
天狐親子の呼び出し方法だが、ちょうど天狐の母とマッコイが恒例の〈アルデンタスのサロン女子会〉の約束をしており、そして死神ちゃんが〈今度のんびりと、食事でもどうですか?〉と短冊に書いたため、マッサージを受けたあとに四人で食事でもしようかということになった。そのため、彼が天狐親子をそれとなく寮に連れてくるという手はずになっていた。
そして、マッコイも調理に参加したほうが効率がいいため、彼が出かける前にあらかた作っておき、直前でレンジで温めようということになった。作業状況はと言うと、一人を除いて、全員がとても楽しそうに調理をしていた。出来上がったものからどんどんとリビングに運んでいき、あとは新鮮さが勝負のサラダ系とオーブンを使うもの、そして片付けだけとなった。突如、死神ちゃんが顔を青ざめさせて叫んだ。
「サーシャ、逃げろ!」
「えっ、何――」
何かを言う前に、サーシャは血相を変えたマッコイに抱きかかえられた。サーシャの視界の端にはオーブンレンジ付近で血の気の引いた顔をした死神数名が集まっているのと、取り押さえられているアリサが入り込んだ。そしてサーシャがマッコイにお姫様抱っこでキッチンの外へと運び出された次の瞬間、第三死神寮のキッチンは大爆発を起こした。
「えっ、何、何、どういうことなの!?」
「サーシャ、怪我はない? 大丈夫?」
「マコちゃんのほうだよ、それは! 背中、燃えてる!」
あらやだ、と言うとマッコイはサーシャを降ろし、彼女に水系の魔法をかけてもらった。そしてもくもくと煙を吐き続けるキッチンを覗き込むと、彼は中の者たちに「みんな、大丈夫?」と声をかけた。
「死神課メンバーはもちろん全員、怪我はないぜ。ただ、服が再生不可能なほどに燃え尽きた。何か着るものを持ってきてくれ」
「ていうかむしろ、寮にいる男どもを全員リビングに押し込んでよ! もう面倒だから、そのまま自分たちで部屋に戻って着替えるよ!」
「あー、サーシャ、ごめん。第一に行ってさ、私の服、適当に何か持ってきてくれる? 第三の子に借りて帰るのは、洗って返さなきゃだから面倒だしさ」
マッコイは了解の返事をすると、何事かと見に来た男性陣にリビングへ行くようにとお願いした。さらに、腕輪を操作して〈男性陣はリビング待機〉という館内放送を流した。サーシャも慌てて、第一死神寮へと向かった。
不機嫌にキッチンを去っていく裸の死神ちゃんと女性陣を見送ると、マッコイは何故か無傷のアリサに無言で近づいていった。
「アンタ、この爆発の中で、どうして無傷なわけ? バリアでも張ったの!?」
「いや、張ってはないし、どうして無傷なのか分からないんだけれど……。私がオーブンに触ると、大抵こんな感じなのよ。大爆発を起こしても、何故か私はいろいろな理由で奇跡的に無事っていう」
「オーブンに触ったの!? あれだけ、調理には関わらせないようにしたのに!?」
「だって、手伝いたかったのよ。だから、サラダに使う茹で卵を作ろうと思って」
「アンタ、馬鹿でしょう! そりゃあ爆発するに決まってるわよ! でも、だからってここまで大惨事にはならないわよ! 他に何かしたんじゃあないの!?」
しきりに声を裏返させるマッコイに、アリサは〈理解しかねる〉という表情を浮かべて首をひねった。そして神妙な面持ちでポツリと呟くように言った。
「何もしてないわよ。普通に、爆発するもんなんじゃあないの?」
「するわけないでしょう! 大体、いつも爆発させてるなら無闇矢鱈に触らないでよ!」
アリサは申し訳なさそうにしつつも、やはり〈爆発するものだろうに、何を言っているんだろう。理解できない〉と言いたげな表情を浮かべていた。そして彼女は頬を搔きながら、言いづらそうに「そろそろ約束の時間じゃない?」と言った。マッコイは時間を確認すると、頬を引きつらせて慌てふためいた。
「やだ、うそ、本当だわ! アンタ、ここ最近ずっと薫ちゃんを噛んではいないでしょう? 一定量のデータは揃ったからってことで。だったら、その分、魔力有り余っているわよね。ここ、応急処置しておいて!」
「えっ、でも、万が一噛まなきゃな時や私が噛みたいって思った時のためにとってある魔力なのに――」
「この惨事の原因はアンタでしょう! つべこべ言わない!」
「そんなー!」
自分のやらかしたことを棚に上げて泣き言を垂れるアリサを放置して、マッコイはキッチンから出ていった。一部始終を見守っていたケイティーはヘッと皮肉っぽく鼻で笑うと、サーシャが持ってきてくれた服に着替えるべく、やはりアリサを放置してキッチンから出ていったのだった。
**********
「何だか、寮内が焦げ臭いのじゃ」
「おう、ちょっとアクシデントがあってな。でも、もう大丈夫だから。気にしないでくれ」
天狐は寮にやって来るなり、鼻をスンスンと動かして顔をしかめた。あの後すぐにアリサが応急処置をして、焦げ臭い香りも消してくれたはずなのだが、妖狐である天狐の鼻はごまかせなかったらしい。死神ちゃんは頬を引きつらせると、精一杯の苦笑いを浮かべた。
「それにしても、ほんまにお邪魔してしまってよかったんどすか?」
「もちろん! 俺らが住んでて、てんこも定期的に泊まりに来るところですから。チェックしてやってください」
申し訳なさそうに眉を寄せる天狐の母にそう言って笑顔を向けると、死神ちゃんは彼女たちをリビングへと案内した。そして天狐親子は、リビングに入るなりクラッカーの洗礼を受けて目を丸くした。
「いつも薫ちゃんがお世話になっておりまーす!」
リビングは全体的に可愛らしく飾り付けられており、壁には〈天狐ちゃん&天狐ちゃんママ、いつもありがとう! これからもよろしくね!〉と書かれた幕が掛けられていた。そしてテーブルの上には、天狐が好きなものを中心に様々な料理が並べられていた。
「あらまあ。お礼をするつもりが、されてしもたん」
天狐の母は驚嘆して目を瞬かせたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。そして料理に目を輝かせ、よだれが垂れそうになっている娘に手を引かれながら着席した。
サプライズは大成功だったようで、天狐親子はとても楽しい時間を過ごしてくれたようだった。死神ちゃんは自身の仲間たちと一緒に嬉しそうに笑い合う天狐親子を眺めながら、ほっこりと胸を暖かくしたのだった。
――――なお、お詫びということでキッチンはさらに使い勝手良く拡張されました。おかげさまで、マッコイ念願の〈キッチン台の一部が大理石〉が導入されたそうDEATH。
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