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* 死神生活ニ年目 *
第156話 死神ちゃんと知的筋肉④
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死神ちゃんが三階の人気修行スポットに顔を出すと、女性数名が何やらダンスを踊っていた。踊り子の集団かと思いつつ、誰にとり憑こうかと見定めていると、踊っていたうちの一人が死神ちゃんに気がついて笑顔で駆け寄ってきた。
「師匠~!!」
彼女は死神ちゃんと向き合う形で両手を繋ぐと、そのままその場でくるくると回った。うふふと乙女な笑みを漏らしながら回っていた彼女は、最高の笑顔で死神ちゃんをポンと上方へと高く投げた。――しかし、高く投げ過ぎた。
* 僧兵の 信頼度が 5 下がったよ! *
ゴシャッという音が広間に響くとともに、ステータス妖精さんが朗らかに信頼度低下を告げた。そんな中、彼女の仲間の女性達は〈ゴシャッという音の発生源〉を呆然と見つめていた。彼女達の視線の先には、死神ちゃんが天井にめり込んでいた。
じたばたともがいた死神ちゃんは、勢い良くベシャリと地面へ落ちてきた。ヨロヨロと立ち上がる幼女の元へ投げ飛ばした犯人は心配顔で駆け寄ったのだが、幼女と犯人は笑顔で拳と拳を打ち付け合った。
「何で!? どうしてそんな酷いことしておいて、二人とも笑顔なの!? むしろ、どうしてその幼女生きてるのよ!? あんなの、普通死ぬでしょう!?」
女性のひとりが顔を愕然とさせて絶叫すると、投げ飛ばした犯人――知的筋肉(略して、ちてきん)は死神ちゃんの両脇に手を差し入れて持ち上げ、死神ちゃんを肩車しながら苦笑いを浮かべた。
「師匠と会うと、あまりの嬉しさに力の制御を忘れちゃうのよね~」
「さすがに、俺でなかったら死んでるよなあ」
あははと楽しげに笑い合いながら幼女を肩に乗せてスキップをするちてきんに、仲間達が「わけが分からないよ!」と叫んだ。
彼女たちはつい先日発足したばかりのダンスユニットで、巷でアイドル活動をしているのだそうだ。ちてきんがハムとともに競技ダンスの大会に出たとき、彼女は「あのムキ可愛い子は一体誰なんだ」と会場内で話題になったのだという。
大会終了後に興行団体の経営者を名乗る男性から声をかけられたちてきんは「一緒に、街を活気づけませんか」と誘われたそうだ。彼女は「冒険者稼業に支障が出ないのであれば」という条件付きで、それを快諾したのだとか。
死神ちゃんはちてきんからお裾分けしてもらったおにぎりを頬張った状態で噎せ返ると、眉根を寄せて彼女を凝視した。
「なんだ、その〈ムキ可愛い〉ってのは!」
「いやだ、そんなの聞くまでもないでしょう? 筋肉神たる師匠ならば、そのくらい瞬時に理解出来て当然だと思うけれど」
言いながら、彼女はとても爽やかな笑みを浮かべてポージングした。際どいハイレグから伸びるムキムキの太ももや、男性顔負けの太い腕を見せつけてくる彼女を眺めて頬を引きつらせると、死神ちゃんは「ああうん、分かった」と抑揚のない声で答えた。
小さくため息をつきながら、死神ちゃんはおにぎりに再び口を運んだ。心なしか眉根を寄せると、隣に腰掛け直したちてきんに視線を向けた。
「なあ、このおにぎり、もしかして――」
「やっぱり、師匠なら気付いてくれると思った! そうです、乾燥させた豆を碾いて粉状にしたものを炊いた後に混ぜ込んであるの! ささみの燻製だけだと、ちょっと筋肉的に物足りなくなってきて!」
「ああ、やっぱりか。でも、炊いたあとに混ぜ込むだとボソボソして食べづらくないか? 変に腹持ち良くなりすぎるし。しっかり水に溶かしてから一緒に炊いたほうが、味的にもプロテインらしさが削がれて食べやすいんだが……。あ、でも、そこまで細かい粒子のプロテインは、ここにはないか」
ちてきんは不思議そうに首を傾げながら目を瞬かせた。死神ちゃんは苦笑いを浮かべてごまかすと、彼女のアイドル活動仲間へと目を向けた。
「ところで、なんでダンジョン内でダンスの練習をしてるんだ?」
「ああ、このグループのコンセプトは〈ムキ可愛い〉だから。ダンジョン内だったら合間にモンスターと戦って練習の成果を見ることも出来るから、一石二鳥でしょう?」
へえ、と死神ちゃんが相槌を打つと、ちてきんははにかんだ顔を俯かせた。競技ダンスの衣装の代金を、ハムは半分持ってくれたそうだ。彼は本当なら全額出したかったようだが、いつも修行に明け暮れて身銭稼ぎも後回しにしている彼に「そのお金は、防具を整えるのにでも使って欲しい」と言って、彼女は全額負担を断ったのだそうだ。むしろ自分の衣装代なのだから自分で出そうと思っていたのだが、彼がどうしてもというので半分だけ出してもらったのだという。
僧兵の道場に通って自分磨きをするのは楽しい。そして、ハムに誘われて始めた競技ダンスも楽しいから続けていきたい。もちろん、職業冒険者であるからには冒険もしっかり続けたい。しかし、そのためにはお金がどうしても必要となってくる。――そんな悩みを抱えた彼女にとって、このアイドル活動は〈鍛えながらお金を稼げて、さらにはたくさんの人をハッピーに出来る〉という、とても好条件のお誘いだった。
「スケジュール管理とかがさらに大変になったけど、でも、頑張ってやり遂げたいんだ」
ちてきんは伏せていた顔を持ち上げて笑顔を見せた。すると、仲間たちが「そろそろ練習を再開させよう」と声をかけてきた。彼女は頷いてすっくと立ち上がると、死神ちゃんににっこりと笑った。
「競技ダンスとはまた違ったダンスだけど、良かったら見てて!」
そう言って、ちてきんは仲間たちの元へと駆けて行った。彼女が合流するや否や、仲間のうちの誰かが「レツゴー!」と声を上げた。死神ちゃんは、目の前で繰り広げられているダンスを呆然と眺め見た。
(あ、あれだ……! 今はなき、金貸し系コマーシャルのアレだ……!)
決めのポーズをばっちりとキメた彼女達に戸惑いながらも拍手を送ると、次はファンの人たちと一緒に踊るためのものを踊る、と言って彼女達は別のダンスを踊り出した。それは、どう贔屓目に見てもエアロビクスだった。
「お前らさ、アイドル興行も悪くないかもしれないが、カルチャースクールとかでそのダンスを指導するのも、いいんじゃあないかと思うぞ。健康やダイエットを謳えば、ファン以外の人たちも喜んで来るだろう」
拍手のあと、ポツリと言った死神ちゃんのその言葉に、一同はハッとした表情を浮かべた。そして彼女たちは口々に「さすがは筋肉神……」と呟いた。
彼女たちは本日の稽古の成果の確認を兼ねて四階へと降りていった。そして、華麗なフォーメーションと流れるようなケリやパンチで火吹き竜をボコボコにした。動きそのものは先ほどのエアロビとそう変わっていないというにも関わらず、彼女たちは異様なパワフルさを発揮して笑顔でドレイクを叩きのめした。死神ちゃんは〈ムキ可愛い〉という新ウェーブの到来を感じながらも、表情のない顔で呆然と彼女達を眺め見守るしか無かったのだった。
**********
待機室に戻ってくると、死神ちゃんは同僚たちからのじっとりとした視線を一身に浴びた。不愉快と言わんばかりに死神ちゃんが顔をしかめると、同僚のひとりが低い声でボソリと呟くように言った。
「プロテインご飯とか、さすがに無いわ……」
死神ちゃんはムッとして口を開いたが、死神ちゃんよりも先にケイティーが不服そうな顔でそれに反論した。
「何でだよ、普通やるだろう? 水代わりにプロテイン飲んだり、おやつ代わりにプロテイン食べたり、プロテインで飯炊いたりっていうのは。――あんたもやってたでしょう?」
いきなり話を振られたマッコイはギョッとすると、さすがにそれはないと首を振った。
「運動の前後とか、代謝を上げ続けるための間食として摂取するというのはするけれど……。ていうか、おやつ代わりに食べるってどういうことよ?」
心なしか引き気味のマッコイに顔をしかめると、ケイティーは〈分かってないな〉という態度でフンと鼻を鳴らした。
「筋肉に一家言ある同盟のあんたなら、分かってくれると思ってたのに! ――筋肉神、今度、ちょっとじっくりと語り合おう。プロテイン飯、普及しよう!」
待機室中の死神達がげっそりとする中、ケイティーと死神ちゃんだけは使命感に燃えたキリッとした顔で堅く握手を交わした。後日、プロテイン飯がまさかの〈アイテム品として実装〉を果たすのは、また別のお話である。
――――なお、ムキ可愛い女子のエアロビスクールは、ハムエクササイズと双璧を成す人気カリキュラムとなったらしいDEATH。
「師匠~!!」
彼女は死神ちゃんと向き合う形で両手を繋ぐと、そのままその場でくるくると回った。うふふと乙女な笑みを漏らしながら回っていた彼女は、最高の笑顔で死神ちゃんをポンと上方へと高く投げた。――しかし、高く投げ過ぎた。
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「何で!? どうしてそんな酷いことしておいて、二人とも笑顔なの!? むしろ、どうしてその幼女生きてるのよ!? あんなの、普通死ぬでしょう!?」
女性のひとりが顔を愕然とさせて絶叫すると、投げ飛ばした犯人――知的筋肉(略して、ちてきん)は死神ちゃんの両脇に手を差し入れて持ち上げ、死神ちゃんを肩車しながら苦笑いを浮かべた。
「師匠と会うと、あまりの嬉しさに力の制御を忘れちゃうのよね~」
「さすがに、俺でなかったら死んでるよなあ」
あははと楽しげに笑い合いながら幼女を肩に乗せてスキップをするちてきんに、仲間達が「わけが分からないよ!」と叫んだ。
彼女たちはつい先日発足したばかりのダンスユニットで、巷でアイドル活動をしているのだそうだ。ちてきんがハムとともに競技ダンスの大会に出たとき、彼女は「あのムキ可愛い子は一体誰なんだ」と会場内で話題になったのだという。
大会終了後に興行団体の経営者を名乗る男性から声をかけられたちてきんは「一緒に、街を活気づけませんか」と誘われたそうだ。彼女は「冒険者稼業に支障が出ないのであれば」という条件付きで、それを快諾したのだとか。
死神ちゃんはちてきんからお裾分けしてもらったおにぎりを頬張った状態で噎せ返ると、眉根を寄せて彼女を凝視した。
「なんだ、その〈ムキ可愛い〉ってのは!」
「いやだ、そんなの聞くまでもないでしょう? 筋肉神たる師匠ならば、そのくらい瞬時に理解出来て当然だと思うけれど」
言いながら、彼女はとても爽やかな笑みを浮かべてポージングした。際どいハイレグから伸びるムキムキの太ももや、男性顔負けの太い腕を見せつけてくる彼女を眺めて頬を引きつらせると、死神ちゃんは「ああうん、分かった」と抑揚のない声で答えた。
小さくため息をつきながら、死神ちゃんはおにぎりに再び口を運んだ。心なしか眉根を寄せると、隣に腰掛け直したちてきんに視線を向けた。
「なあ、このおにぎり、もしかして――」
「やっぱり、師匠なら気付いてくれると思った! そうです、乾燥させた豆を碾いて粉状にしたものを炊いた後に混ぜ込んであるの! ささみの燻製だけだと、ちょっと筋肉的に物足りなくなってきて!」
「ああ、やっぱりか。でも、炊いたあとに混ぜ込むだとボソボソして食べづらくないか? 変に腹持ち良くなりすぎるし。しっかり水に溶かしてから一緒に炊いたほうが、味的にもプロテインらしさが削がれて食べやすいんだが……。あ、でも、そこまで細かい粒子のプロテインは、ここにはないか」
ちてきんは不思議そうに首を傾げながら目を瞬かせた。死神ちゃんは苦笑いを浮かべてごまかすと、彼女のアイドル活動仲間へと目を向けた。
「ところで、なんでダンジョン内でダンスの練習をしてるんだ?」
「ああ、このグループのコンセプトは〈ムキ可愛い〉だから。ダンジョン内だったら合間にモンスターと戦って練習の成果を見ることも出来るから、一石二鳥でしょう?」
へえ、と死神ちゃんが相槌を打つと、ちてきんははにかんだ顔を俯かせた。競技ダンスの衣装の代金を、ハムは半分持ってくれたそうだ。彼は本当なら全額出したかったようだが、いつも修行に明け暮れて身銭稼ぎも後回しにしている彼に「そのお金は、防具を整えるのにでも使って欲しい」と言って、彼女は全額負担を断ったのだそうだ。むしろ自分の衣装代なのだから自分で出そうと思っていたのだが、彼がどうしてもというので半分だけ出してもらったのだという。
僧兵の道場に通って自分磨きをするのは楽しい。そして、ハムに誘われて始めた競技ダンスも楽しいから続けていきたい。もちろん、職業冒険者であるからには冒険もしっかり続けたい。しかし、そのためにはお金がどうしても必要となってくる。――そんな悩みを抱えた彼女にとって、このアイドル活動は〈鍛えながらお金を稼げて、さらにはたくさんの人をハッピーに出来る〉という、とても好条件のお誘いだった。
「スケジュール管理とかがさらに大変になったけど、でも、頑張ってやり遂げたいんだ」
ちてきんは伏せていた顔を持ち上げて笑顔を見せた。すると、仲間たちが「そろそろ練習を再開させよう」と声をかけてきた。彼女は頷いてすっくと立ち上がると、死神ちゃんににっこりと笑った。
「競技ダンスとはまた違ったダンスだけど、良かったら見てて!」
そう言って、ちてきんは仲間たちの元へと駆けて行った。彼女が合流するや否や、仲間のうちの誰かが「レツゴー!」と声を上げた。死神ちゃんは、目の前で繰り広げられているダンスを呆然と眺め見た。
(あ、あれだ……! 今はなき、金貸し系コマーシャルのアレだ……!)
決めのポーズをばっちりとキメた彼女達に戸惑いながらも拍手を送ると、次はファンの人たちと一緒に踊るためのものを踊る、と言って彼女達は別のダンスを踊り出した。それは、どう贔屓目に見てもエアロビクスだった。
「お前らさ、アイドル興行も悪くないかもしれないが、カルチャースクールとかでそのダンスを指導するのも、いいんじゃあないかと思うぞ。健康やダイエットを謳えば、ファン以外の人たちも喜んで来るだろう」
拍手のあと、ポツリと言った死神ちゃんのその言葉に、一同はハッとした表情を浮かべた。そして彼女たちは口々に「さすがは筋肉神……」と呟いた。
彼女たちは本日の稽古の成果の確認を兼ねて四階へと降りていった。そして、華麗なフォーメーションと流れるようなケリやパンチで火吹き竜をボコボコにした。動きそのものは先ほどのエアロビとそう変わっていないというにも関わらず、彼女たちは異様なパワフルさを発揮して笑顔でドレイクを叩きのめした。死神ちゃんは〈ムキ可愛い〉という新ウェーブの到来を感じながらも、表情のない顔で呆然と彼女達を眺め見守るしか無かったのだった。
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待機室に戻ってくると、死神ちゃんは同僚たちからのじっとりとした視線を一身に浴びた。不愉快と言わんばかりに死神ちゃんが顔をしかめると、同僚のひとりが低い声でボソリと呟くように言った。
「プロテインご飯とか、さすがに無いわ……」
死神ちゃんはムッとして口を開いたが、死神ちゃんよりも先にケイティーが不服そうな顔でそれに反論した。
「何でだよ、普通やるだろう? 水代わりにプロテイン飲んだり、おやつ代わりにプロテイン食べたり、プロテインで飯炊いたりっていうのは。――あんたもやってたでしょう?」
いきなり話を振られたマッコイはギョッとすると、さすがにそれはないと首を振った。
「運動の前後とか、代謝を上げ続けるための間食として摂取するというのはするけれど……。ていうか、おやつ代わりに食べるってどういうことよ?」
心なしか引き気味のマッコイに顔をしかめると、ケイティーは〈分かってないな〉という態度でフンと鼻を鳴らした。
「筋肉に一家言ある同盟のあんたなら、分かってくれると思ってたのに! ――筋肉神、今度、ちょっとじっくりと語り合おう。プロテイン飯、普及しよう!」
待機室中の死神達がげっそりとする中、ケイティーと死神ちゃんだけは使命感に燃えたキリッとした顔で堅く握手を交わした。後日、プロテイン飯がまさかの〈アイテム品として実装〉を果たすのは、また別のお話である。
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