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* 死神生活ニ年目 *
第146話 死神ちゃんと残念⑤
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死神ちゃんは前方に〈担当のパーティー〉と思しき盗賊を発見した。彼の目の前には大小様々な宝箱が幾つか点在しており、彼はそれをひとつずつ丁寧に開けている最中だった。死神ちゃんは彼に気づかれぬようこっそりと近づくと、物体をすり抜けることが出来るという死神の特技を活かして大きめの宝箱に入り込んだ。
しばらくして、盗賊が死神ちゃん入りの宝箱を開けた。彼はワクワクとした面持ちで箱を開けたが、死神ちゃんを見た途端に顔を盛大にしかめた。死神ちゃんはにっこりと爽やかな笑みを浮かべると、しかめっ面で箱に手をかけたまま硬直している彼に向かって身を乗り出した。
「そんな顔するなよ。余計に残念感が増すだろう?」
「うるせえよ! 残念っていうなああああ!」
死神ちゃんがぺちぺちと頬を叩いてくるのを、そこはかとなく運に恵まれていないエルフ族の盗賊――残念は振り払った。そして彼は死神ちゃんの脇の下に手を入れると、乱暴に持ち上げて箱の中から死神ちゃんを出した。
「しかも中身入ってねえし! 大きな箱だったから期待してたのに!」
「俺が何もしなくても、十分残念だったな」
「だから残念っていうなよ! ああああああ!」
どうやら彼が今開けた箱は全て空っぽだったらしい。彼は膝をつき地面を拳で殴りながら「鍵開け全部成功させたのに!」と憤っていた。ひとしきり発散して、何とか心の平穏を取り戻した残念はおもむろに立ち上がると、休憩するのに良さそうな場所に移動して腰を落ち着かせた。
「ほら、ドーナツ。半分分けてやるよ」
「おう、サンキュー。お前にしては気前がいいな」
「これから長丁場になるからな。少しでも腹を満たしておかないと」
「は? 長丁場? 俺のことを祓いに行かずに、どこか行こうっていうのか?」
死神ちゃんが眉間にしわを寄せると、残念はニヤリと笑ってゆっくりと頷いた。そして彼はもったいぶるかのような口調で「噂を聞いたんだ」と言った。
何でも、このダンジョンには死神憑きにならないと発見出来ない隠し扉が幾つかあるらしい。せっかく死神にとり憑かれたので、彼はその〈特殊な場所〉を探してみようと思っているのだという。
「竜神族さんとパーティー組んでうろうろしているおかげで、俺もかなり強くなってるからな。出来る限り〈姿くらまし〉で安全に移動して、どうしても戦闘しなくちゃいけなくなったらデコイ置いて丁寧に戦えば、何とかなるだろうし。今日は一人で精霊のナイフ掘りをするんだと決めてたんだけど、死神にとり憑かれたならちょうどいいよ」
「へえ。そんなところがあるのか。でも、そんなところに行って、一体何をしようっていうんだ?」
「――お前さ、魔法の万年筆って知ってる?」
死神ちゃんが眉根を寄せてほんの少し首を傾けると、残念は頬を上気させ、興奮を抑えるかのように声も潜めた。
魔法の万年筆というのは、以前このダンジョンで産出されていたアイテムだったそうだ。どうして〈以前〉かというと、最近はめっきり産出の噂を聞かないのだとか。
その万年筆は書いた文字や絵が具現化するという特徴があった。ただし、全てが具現化出来るというわけではなく、世界規模で見たらとるに足らないような事柄でないと叶えられないという限定条件付きだった。また、その効果がずっと続くというわけではなく一時的かつ、幻術のようなものなので、大それたことに使用することは出来なかった。
そんな〈一見素晴らしいようで、結構微妙な品〉なら使い道もないだろうと思うのだが、産出されていた当時は魔法を扱えない者が携帯し、その筆で書くことによって魔法を使っていたそうだ。
例えば、モンスターや異界の住人を描いて召喚するということが出来る。ただし、召喚士のように一度召喚魔法を唱えたら〈呼ばれたもの〉が帰還せねばならないような状態に陥るまで居続けてくれるというわけではなく、一定時間経つと突然いなくなってしまうという限定的な召喚だ。それでも、召喚士のスキルのない者が召喚魔法を使えるというだけでも凄いことである。
また、攻撃魔法や支援魔法が使えなくても、書けばそれが発動してくれる。ただしやはり、その効力は限定的で、攻撃力が通常のそれよりも弱かったり完全回復には至らないそうだ。それでも、ないよりはマシである。
つまり、万年筆は〈本来の魔法〉の劣化版の効力程度は発揮してくれるというわけだ。魔法に明るくない者には、それでも十分な代物なのだ。
「へえ。じゃあ、それを手に入れて、戦闘の補助にでも使おうと思っているんだな」
「いや。ダンジョンにいる間だけでも、俺の〈残念〉を緩和するために使いたいと思ってる」
興味深げに話を聞いていた死神ちゃんは、残念の残念な発言で呆れ眼を浮かべた。残念は死神ちゃんを睨みつけると、立ち上がりながら言った。
「何だよ! ペンは剣よりも強しって言うだろ!? だったら、俺のこの〈残念〉にだって勝ってくれると思ったんだよ!」
「その言葉、使い方間違ってると思うぞ。それから、お前から〈残念〉をとったら何が残るっていうんだよ」
「ひでえ! 俺は残念じゃない! だから、いくらでも残るものはあるさ! ――めっきり産出の噂を聞かなくなった物だから、特殊な場所に行けばもしかしたら今でも手に入るかもと思うんだよ。というわけで、ほら、そろそろ行くぞ」
残念を死神ちゃんを急かすと、どこかを目指して歩き出した。どうやら彼は暗闇ゾーンに向かっているようだった。四階はここそこにトラップが多く、また広大な暗闇ゾーンはただただ迷子になるだけだということで、冒険者からは嫌われている階層である。そしてそのような理由から、暗闇ゾーンに積極的に立ち入ろうという者は〈暗闇の図書館〉の噂を聞きつけ、それを信じて探索を行っている者かうっかり迷い込んだ者くらいだった。――噂の〈死神憑きでないと見つけることの出来ない部屋〉は目撃情報が極めて少ない。だから、そのくらい人の立ち寄らない場所にあるのではないかと彼は思ったようだ。
残念は無事に暗闇ゾーンに辿り着くと、手探りしながらゾーンの中を彷徨い歩いた。そしてしばらくして、彼はそれらしいものを見つけた。
「すげえ、暗闇の中なのに見えてる。本当にあったよ……。ここ、前にも通ったことあったけれど、こんな扉、前は影も形もなかったのに……」
感動する残念の横で、死神ちゃんは表情もなく首を捻った。たしかここは、〈修復課〉がダンジョンの修復作業をするのに必要な物を置いている倉庫だったはずだ。〈関係者以外立入禁止〉の場所は、社員用の黒い腕輪を身に着けているものでなければ見ることすら叶わず、もちろん扉すら開けられなければ入室することも出来ないようになっているはずである。――あとで、不具合報告しておこう。死神ちゃんは心の中でそう言い頷くと、残念の後あとに続いて部屋の中に入っていった。
やはり、中は修復課の倉庫だった。残念はそこに整然と並んでいる物を物珍しげに眺めていた。そして彼は、部屋の隅で埃を被って転がっている万年筆を見つけた。
「あった! これじゃね!? これが今はなき〈魔法の万年筆〉じゃねえ!?」
興奮で目を輝かせ、はち切れんばかりの笑顔を浮かべる残念に、死神ちゃんは「何か書いてみたら」と声をかけた。残念はその万年筆が本物であるか否かを確かめるために、ポーチから適当な紙を取り出すといそいそと何やら書き始めた。
少しして、何もない場所からナイフが現れ、彼の目の前にカランと音を立てて落ちた。彼は期待に満ちた表情でそれを拾い上げたが、ナイフを見るなり表情を失った。
「何だこれ、ただのナイフじゃんか。俺、精霊のナイフが欲しいって書いたんだけど。劣化版が出るにしても、劣化し過ぎだろう。ただのナイフなんて誰も要らねえよ」
「残念が使うと、残念が上乗せされるだけなのか。凄まじく残念だな。――ていうか、世界規模で見たらとるに足らないようなものなら叶うんだろう? なのに叶わないってことは、お前の残念は覆したら駄目なものってことなんじゃないのか? それはそれで凄いことだよ」
「褒めてるようで貶してる! ひでえ! ――ちょっと待って。他にも何か書いてみよう」
そう言って、彼は何やら紙に文字を書いた。すると、何故か死神ちゃんの背後にたくさんの花が出現した。
「何で……? 凹んだ心を癒やしたいと思って〈お花畑を見たい〉って書いたら、幼女が花背負った……。ウケる、癒やされた。ていうか、人に残念連呼しながら花に囲まれるお前のほうが残念……」
笑いを必死に堪えてぷるぷると震える残念を睨みつけると、死神ちゃんはきらびやかな花に囲まれたまま地団駄を踏んだのだった。
**********
待機室に戻ってくると、モニターを眺めていたグレゴリーが顎を擦りながら目をパチクリとさせていた。
「懐かしいもんが出てきたもんだな。万年筆って使い慣れてないとインクがドバッと出てきて残念なことになるだろ? その残念感を大いに表した、残念系パーティーグッズだったんだよな。何書いても残念になるから、それを笑うっていう」
「そもそもが残念な代物だったんですか」
「おう。一瞬流行ってダンジョン産出アイテムにもなったんだけどよ、案の定すぐに廃れて消えてなくなったな」
死神ちゃんが呆れ返って顔をしかめると、グレゴリーのとなりにいたマッコイが笑いを堪えて震えながら言った。
「モデルになった万年筆は凄い迷惑な力を持っていたらしいわよ。たしか、それを真似て作ったから〈書いたものが具現化する〉っていうオマケ機能がついたって聞いたわ」
「お前さ、結構笑いの沸点低いよな。〈小花がお花だらけ〉って、そんなに笑うことか?」
グレゴリーが不思議そうに首を傾げると、マッコイは死神ちゃんから顔を逸らし、身を折って声もなく笑った。死神ちゃんは彼を睨みつけると「迷惑って、どんな?」と尋ねた。すると、マッコイは目の端に浮かんだ涙を拭いながら答えた。
「何でも、願いごとを書くと、宇宙規模のでっち上げが起こるそうなのよ。傍迷惑よね」
死神ちゃんは口をあんぐりとさせると、心の中で「そんな危険なものをモデルにするな」とツッコミを入れたのだった。
――――願いというものは、自力で叶える努力をしたほうがいい。でっち上げで手に入れたものでは、結局のところ報われないのDEATH。
しばらくして、盗賊が死神ちゃん入りの宝箱を開けた。彼はワクワクとした面持ちで箱を開けたが、死神ちゃんを見た途端に顔を盛大にしかめた。死神ちゃんはにっこりと爽やかな笑みを浮かべると、しかめっ面で箱に手をかけたまま硬直している彼に向かって身を乗り出した。
「そんな顔するなよ。余計に残念感が増すだろう?」
「うるせえよ! 残念っていうなああああ!」
死神ちゃんがぺちぺちと頬を叩いてくるのを、そこはかとなく運に恵まれていないエルフ族の盗賊――残念は振り払った。そして彼は死神ちゃんの脇の下に手を入れると、乱暴に持ち上げて箱の中から死神ちゃんを出した。
「しかも中身入ってねえし! 大きな箱だったから期待してたのに!」
「俺が何もしなくても、十分残念だったな」
「だから残念っていうなよ! ああああああ!」
どうやら彼が今開けた箱は全て空っぽだったらしい。彼は膝をつき地面を拳で殴りながら「鍵開け全部成功させたのに!」と憤っていた。ひとしきり発散して、何とか心の平穏を取り戻した残念はおもむろに立ち上がると、休憩するのに良さそうな場所に移動して腰を落ち着かせた。
「ほら、ドーナツ。半分分けてやるよ」
「おう、サンキュー。お前にしては気前がいいな」
「これから長丁場になるからな。少しでも腹を満たしておかないと」
「は? 長丁場? 俺のことを祓いに行かずに、どこか行こうっていうのか?」
死神ちゃんが眉間にしわを寄せると、残念はニヤリと笑ってゆっくりと頷いた。そして彼はもったいぶるかのような口調で「噂を聞いたんだ」と言った。
何でも、このダンジョンには死神憑きにならないと発見出来ない隠し扉が幾つかあるらしい。せっかく死神にとり憑かれたので、彼はその〈特殊な場所〉を探してみようと思っているのだという。
「竜神族さんとパーティー組んでうろうろしているおかげで、俺もかなり強くなってるからな。出来る限り〈姿くらまし〉で安全に移動して、どうしても戦闘しなくちゃいけなくなったらデコイ置いて丁寧に戦えば、何とかなるだろうし。今日は一人で精霊のナイフ掘りをするんだと決めてたんだけど、死神にとり憑かれたならちょうどいいよ」
「へえ。そんなところがあるのか。でも、そんなところに行って、一体何をしようっていうんだ?」
「――お前さ、魔法の万年筆って知ってる?」
死神ちゃんが眉根を寄せてほんの少し首を傾けると、残念は頬を上気させ、興奮を抑えるかのように声も潜めた。
魔法の万年筆というのは、以前このダンジョンで産出されていたアイテムだったそうだ。どうして〈以前〉かというと、最近はめっきり産出の噂を聞かないのだとか。
その万年筆は書いた文字や絵が具現化するという特徴があった。ただし、全てが具現化出来るというわけではなく、世界規模で見たらとるに足らないような事柄でないと叶えられないという限定条件付きだった。また、その効果がずっと続くというわけではなく一時的かつ、幻術のようなものなので、大それたことに使用することは出来なかった。
そんな〈一見素晴らしいようで、結構微妙な品〉なら使い道もないだろうと思うのだが、産出されていた当時は魔法を扱えない者が携帯し、その筆で書くことによって魔法を使っていたそうだ。
例えば、モンスターや異界の住人を描いて召喚するということが出来る。ただし、召喚士のように一度召喚魔法を唱えたら〈呼ばれたもの〉が帰還せねばならないような状態に陥るまで居続けてくれるというわけではなく、一定時間経つと突然いなくなってしまうという限定的な召喚だ。それでも、召喚士のスキルのない者が召喚魔法を使えるというだけでも凄いことである。
また、攻撃魔法や支援魔法が使えなくても、書けばそれが発動してくれる。ただしやはり、その効力は限定的で、攻撃力が通常のそれよりも弱かったり完全回復には至らないそうだ。それでも、ないよりはマシである。
つまり、万年筆は〈本来の魔法〉の劣化版の効力程度は発揮してくれるというわけだ。魔法に明るくない者には、それでも十分な代物なのだ。
「へえ。じゃあ、それを手に入れて、戦闘の補助にでも使おうと思っているんだな」
「いや。ダンジョンにいる間だけでも、俺の〈残念〉を緩和するために使いたいと思ってる」
興味深げに話を聞いていた死神ちゃんは、残念の残念な発言で呆れ眼を浮かべた。残念は死神ちゃんを睨みつけると、立ち上がりながら言った。
「何だよ! ペンは剣よりも強しって言うだろ!? だったら、俺のこの〈残念〉にだって勝ってくれると思ったんだよ!」
「その言葉、使い方間違ってると思うぞ。それから、お前から〈残念〉をとったら何が残るっていうんだよ」
「ひでえ! 俺は残念じゃない! だから、いくらでも残るものはあるさ! ――めっきり産出の噂を聞かなくなった物だから、特殊な場所に行けばもしかしたら今でも手に入るかもと思うんだよ。というわけで、ほら、そろそろ行くぞ」
残念を死神ちゃんを急かすと、どこかを目指して歩き出した。どうやら彼は暗闇ゾーンに向かっているようだった。四階はここそこにトラップが多く、また広大な暗闇ゾーンはただただ迷子になるだけだということで、冒険者からは嫌われている階層である。そしてそのような理由から、暗闇ゾーンに積極的に立ち入ろうという者は〈暗闇の図書館〉の噂を聞きつけ、それを信じて探索を行っている者かうっかり迷い込んだ者くらいだった。――噂の〈死神憑きでないと見つけることの出来ない部屋〉は目撃情報が極めて少ない。だから、そのくらい人の立ち寄らない場所にあるのではないかと彼は思ったようだ。
残念は無事に暗闇ゾーンに辿り着くと、手探りしながらゾーンの中を彷徨い歩いた。そしてしばらくして、彼はそれらしいものを見つけた。
「すげえ、暗闇の中なのに見えてる。本当にあったよ……。ここ、前にも通ったことあったけれど、こんな扉、前は影も形もなかったのに……」
感動する残念の横で、死神ちゃんは表情もなく首を捻った。たしかここは、〈修復課〉がダンジョンの修復作業をするのに必要な物を置いている倉庫だったはずだ。〈関係者以外立入禁止〉の場所は、社員用の黒い腕輪を身に着けているものでなければ見ることすら叶わず、もちろん扉すら開けられなければ入室することも出来ないようになっているはずである。――あとで、不具合報告しておこう。死神ちゃんは心の中でそう言い頷くと、残念の後あとに続いて部屋の中に入っていった。
やはり、中は修復課の倉庫だった。残念はそこに整然と並んでいる物を物珍しげに眺めていた。そして彼は、部屋の隅で埃を被って転がっている万年筆を見つけた。
「あった! これじゃね!? これが今はなき〈魔法の万年筆〉じゃねえ!?」
興奮で目を輝かせ、はち切れんばかりの笑顔を浮かべる残念に、死神ちゃんは「何か書いてみたら」と声をかけた。残念はその万年筆が本物であるか否かを確かめるために、ポーチから適当な紙を取り出すといそいそと何やら書き始めた。
少しして、何もない場所からナイフが現れ、彼の目の前にカランと音を立てて落ちた。彼は期待に満ちた表情でそれを拾い上げたが、ナイフを見るなり表情を失った。
「何だこれ、ただのナイフじゃんか。俺、精霊のナイフが欲しいって書いたんだけど。劣化版が出るにしても、劣化し過ぎだろう。ただのナイフなんて誰も要らねえよ」
「残念が使うと、残念が上乗せされるだけなのか。凄まじく残念だな。――ていうか、世界規模で見たらとるに足らないようなものなら叶うんだろう? なのに叶わないってことは、お前の残念は覆したら駄目なものってことなんじゃないのか? それはそれで凄いことだよ」
「褒めてるようで貶してる! ひでえ! ――ちょっと待って。他にも何か書いてみよう」
そう言って、彼は何やら紙に文字を書いた。すると、何故か死神ちゃんの背後にたくさんの花が出現した。
「何で……? 凹んだ心を癒やしたいと思って〈お花畑を見たい〉って書いたら、幼女が花背負った……。ウケる、癒やされた。ていうか、人に残念連呼しながら花に囲まれるお前のほうが残念……」
笑いを必死に堪えてぷるぷると震える残念を睨みつけると、死神ちゃんはきらびやかな花に囲まれたまま地団駄を踏んだのだった。
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待機室に戻ってくると、モニターを眺めていたグレゴリーが顎を擦りながら目をパチクリとさせていた。
「懐かしいもんが出てきたもんだな。万年筆って使い慣れてないとインクがドバッと出てきて残念なことになるだろ? その残念感を大いに表した、残念系パーティーグッズだったんだよな。何書いても残念になるから、それを笑うっていう」
「そもそもが残念な代物だったんですか」
「おう。一瞬流行ってダンジョン産出アイテムにもなったんだけどよ、案の定すぐに廃れて消えてなくなったな」
死神ちゃんが呆れ返って顔をしかめると、グレゴリーのとなりにいたマッコイが笑いを堪えて震えながら言った。
「モデルになった万年筆は凄い迷惑な力を持っていたらしいわよ。たしか、それを真似て作ったから〈書いたものが具現化する〉っていうオマケ機能がついたって聞いたわ」
「お前さ、結構笑いの沸点低いよな。〈小花がお花だらけ〉って、そんなに笑うことか?」
グレゴリーが不思議そうに首を傾げると、マッコイは死神ちゃんから顔を逸らし、身を折って声もなく笑った。死神ちゃんは彼を睨みつけると「迷惑って、どんな?」と尋ねた。すると、マッコイは目の端に浮かんだ涙を拭いながら答えた。
「何でも、願いごとを書くと、宇宙規模のでっち上げが起こるそうなのよ。傍迷惑よね」
死神ちゃんは口をあんぐりとさせると、心の中で「そんな危険なものをモデルにするな」とツッコミを入れたのだった。
――――願いというものは、自力で叶える努力をしたほうがいい。でっち上げで手に入れたものでは、結局のところ報われないのDEATH。
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