優しきジゼル

ニチカ

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ノアは霧のかかった森の中で迷っていた。足は痛く疲れて、酷く疲弊していた。まったく森の出口が見えず、ただただ白い霧だけが広がっている。そんななか、ひとつの明るい光が見えた。

「誰がいるんですか?」
「あの、迷ってどこからなら出れますか?」

霧から見えてきたのは、タートルネックの黒い服を着て、白いロングスカートを着た綺麗な女性だった。彼女は淡い光を放つランプを持ち、立っていた。

「今日はもう日が暮れましたし、家で泊まっていってくださいな」

女性はにっこりと笑って、森の中にある、トンネルを指さした。

「こんなところにトンネルなんかあったのか」
「すぐ家には着きますよ」

女性の後ろをついてトンネルを通っていくと、すっかりと霧が晴れて、空には綺麗な星空が見えた。

「こんなところがあったなんて…」

近くから川の音が聞こえてくると、大きな、レンガ造りの家が見えてきた。つたがからまり、窓が沢山あった。その前には川が流れ、小さな橋があった。

「もうみんな寝てますから、お静かにお願いしますね」

女性は口の前に人差し指を立て、ニコッと笑った。家の中に入ると、暖炉があり、ソファが囲むように並んでいた。

「そういえば、名前を聞いていませんでしたね。私はジゼルです。あなたは?」
「ノアです」
「そう、いい名前ね。好きなソファに座ってください。ココアでもどうですか?」

ノアは言われた通りソファに座った。ジゼルは暖炉に薪を入れて、その薪の隙間に新聞紙を詰めた。そしてそこに火をつけた。

「すごく大きな家ですけど、どんな仕事を」
「仕事はしてないですよ。人から譲り受けた家です。ここで子供達と暮らしています」
「お子さんが?」

ジゼルはノアの前にココアを差し出した。

「病気のある子供達を引き取って育てています」

ノアは飲んでいたココアのカップから口を離して、ジゼルを見た。

「病気?」
「獣病、知りませんか?イングランド都心では流行ってきている奇病ですけど」

ノアをみるみるうちに目を丸くして、カップを落としてしまった。

「獣病の者は処刑されるはずじゃ…」

ジゼルがパチンと指を鳴らすと、ほうきとちりとりがやってきて、カップの破片を片付けた。そして雑巾でココアを拭き取った。
ノアはそれを見て目を丸くする。

「私は子供たちを放って置けないんです」
「…あなた何をしているか分かっているのですか、大罪人ですよ」
「今は違いますよ。悪いことはしませんし。怖がらないでください」

ジゼルは優しく笑って、入れ直したココアを入れると、2階の方から誰かが降りてくる足音がしてきた。

「ジゼル…怖い夢見たァ…」
「ルイーズ、どうぞいらっしゃい」

降りてきたのはうさぎの耳を持った小さな少女だった。真っ黒な目をうるうるとさせていた。そしてぴょんと高く飛ぶとジゼルの膝に乗っかった。ジゼルは優しくルイーズの頭を撫でた。

「この子のような獣病の子供がここに住んでいます」
「ジゼル、このひと誰?」
「森に迷ったそうなので、今日泊めようかと思って連れてきました」

ルイーズは「ふーん」と言い、ジゼルに頭を撫でられ、すぐに眠ってしまった。

「もう眠いでしょう?ベッドへ案内しますよ」

ジゼルはルイーズを抱き抱えたまま、階段を登った。階段の壁には絵が飾られていて、2階には部屋が沢山あった。ジゼルは1番奥の部屋で足を止めて、部屋のドアを開けた。

「ここで寝てくださいね。いつも掃除しているから綺麗です」

部屋にはベッドと、机がひとつあった。机の上にはランプが置いてあった。

「テーブルの引き出しにマッチが入ってます。あかりが恋しくなったらそのランプをつけてくださいね」

「分かりました」

その夜ノアはその部屋で眠りについた。





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