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魔王の果実【第5話】
しおりを挟む「お…おば…さま…。」
「娘!しっかりするのじゃ!」
ベルルの腕の中で段々意識が遠のいて行く梨華子。
「ご…めんな…さい…いつの…まにか…ここに…。」
「ああ、わかった!気をしっかり持て!」
梨華子の額に手をあて、何があったのか記憶を探るベルル。
「そ、そんな!?おぬし…何故じゃ…こんなになってまでも…何故まだこの男のことを…。」
「わ…かってた…でも…信じて…信じて…いたかった…たとえ…嘘だとしても…。」
あまりに理不尽な男の扱いにあえて嫌にならず、愛するがままに自害しても自分の物にしたい胸の内をベルルは哀れんでいた。
「そこまでして…。」
メヒストが大慌てで救急箱を持ってきた。
「ベル様、救急箱!」
「お…おばさま…こ…これ…。」
バックの中を指差したそこには。
「果実!?おぬし…使わなかったのか?…。色が変わっておる…。“こやつ…願いだけして…。”」
「憎かった…でも…愛していたかった…だから…自分の手で…ぐふっ!お…おばさま…むだにして…ご…めん…な…。」
「!?娘ぇええ!」
ゆっくりと落ちてゆく腕を抱えずにはいられなかった。
「娘…。」
立ち尽くすメヒスト。
「そんな…ベル様…。」
するとベルルの肩が小刻みに震え出す。
「許さん…許さんぞ…私利私欲の為に女を騙し…愛情をもて遊ぶとは…。メヒスト!六星陣じゃ!」
「はい!」
裏庭にメヒストが手慣れたように六芒星の形の魔法陣を描き出す。
「亡骸を中心に!」
梨華子の遺体を陣の中心に置きベルルが呪文を唱える。
「リリラウア…リリラウア…グロリアス…グラカレス!主の意志を紡ぎ我が息吹き、ここに今現わさん!」
ベルルの右手には願いをこめた魔王の果実が。
“サクリ”
ベルルが果実をほおばりゴクリと飲み込む。
「ハーッ!ギリアムブレス!」
詠唱が終わって気合いをこめるとベルルの口から赤い霧が出て梨華子の口めがけ飛び込んだ。するとどうだろう、梨華子の体が微かに動き始める。そして別の意識なのかベルルが魔王の声で呟く。
「そちの願い聞き入れた…。」
すると梨華子の遺体がゆっくりと立ち上がり、目的を果たすか如く暗闇に消えて行った。
「ハー…ハー…。」
「ベル様、大丈夫ですか?なんか魔王様になってましたけど…。」
「どうじゃ?成功したか?」
「はい、大成功ですよ。娘さんも目的を果たしに行きました。」
「よ…かった…。」
よろけるベルをすかざす抱く止めるメヒスト。
「おっと!歳なんですから、あまり無理しないで下さい!」
「う、うるさいわい!人を年寄り扱いするなぁ!」
「あら?意外と元気ですね。じゃ助けはいらないか…。」
「ま、待て!メヒスト!た、立てんのじゃ!娘を追うのじゃ早く連れていけ~こ、この恩知らず~!!」
第6話へ続く
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