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第106話 僕の誕生日
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時がたつのは早いもので、
7月も今日で終わる。
そして今日は矢野先輩の1日をもらった
僕の誕生日でもある。
矢野先輩がまだ好きだった時、
何を血迷ったのか、
誕生日のプレゼントとして、
矢野先輩の一日が欲しいと願った。
それが今日である。
勿論佐々木先輩も、
僕と一緒にお祝いをしたそうだったけど、
週末にインハイを控えた先輩には、
僕達にジョイントすることは、
土台無理な話だった。
最後の最後まで一緒に祝いたいと粘っていたけど、
インハイが終わった後で、
先輩と二人きりの時間を作ると言う事で、
丸く収まった。
矢野先輩の一日をもらったにもかかわらず、
僕は一週間前から、
何をしたら矢野先輩が楽しめるのか、
グルグルとするだけで、
何も思い浮かばなかった。
色々と雑誌を買いあさって、
世のカップルのデート事情なども研究してみたけど、
どれも、男女のカップルと言った風で、
女の子の喜びそうなことばかりで、
余り僕の参考にはならなかった。
先輩の誕生日は、先輩がやりたいことを、
ちゃんと僕をリードして楽しませてくれた。
僕も同じようにしたかったけど、
余り経験の無い僕は、何も思いつかなかった。
それで先輩に何をしたいか聞いてみたところ、
「僕に任せて!」
そう返って来たので、恥ずかしながら、
僕は先輩に任せる事にした。
そしてその日は割と早くやって来た。
バイトの方は、奥野さんの計らいもあり、
問題なく休みを入れることが出来た。
最近は先輩の突拍子もない行動にも慣れ、
誕生日の朝は、割とリラックスして出かけた。
そして今日は何をかましてくれるんだろうと
少しワクワクもした。
「先ぱ~い!」
何時も公園で待ち合わせをする様に、
僕は先輩を呼びながら、走って池の所までやって来た。
「おはようございます!
今日は宜しくお願いします!」
「おはよう!
今日は楽しみだね~
僕、昨日からワクワクして眠れなくてね」
「今日は何をする予定なんですか?」
僕がそう聞くと、
先輩は意味深の様に僕を見て
不敵にニヤッと笑った。
「え~ 先輩、その笑顔怖いですよ~
何を企んでるんですか~」
「ハハハ!
何も企んでないよ!
あ、でも隙あらばってな思いはあるけどな~」
と、また意味深な話し方をする。
「とりあえず、僕についてきて!」
そう言って、僕は先輩の後を、
少しワクワクとしながら付いて行った。
そして電車を乗り継いで付いたところは、
アミューズメントパークだった。
僕は、余りにもの普通な選択に、
矢野先輩がアミューズメントパークを選んだことが
不思議でたまらなかった。
「はい、チケット」
「あ、ありがとうございます……」
「何? なんだか浮かない顔だね?
ここでは不満?」
先輩にそう言われて、
慌てて、
「いえ、凄く楽しみです!」
そう言ってチケットをもらった後、
そのチケットを見て僕は背筋が凍った。
そこには夏休み期間限定のお化け屋敷の
追加券があった。
「これか!」
そう言えば、テレビでコマーシャルやってよな~
と思いながらも、僕は少しドキドキとし始めた。
夏にぴったりのアトラクションには間違いないけど、
僕はお化けと言った類が凄く苦手だ。
そうか!
この間お母さんと電話で話していたのはこのことか!
先輩のあのニヤ顔はこの為だったのか!
僕は恨めしい顔をして先輩を睨んだ。
先輩は微笑みながら、
「このお化け屋敷はね、
ちょっと変わってるんだよ~
楽しみだね~」
と更にニヤニヤとして僕を見た。
「先輩、もしか知ってますか?」
僕がそう尋ねると、
「え?
知らないよ、要君が怖い物苦手なんて!」
そう言ってハハハと笑っていた。
そのお化け屋敷は、
カートに乗って、レールの上を回るように出来ていて、
自分で歩いて回るお化け屋敷とは少し違った。
一度はいると、
怖くても、逃げられないし、後戻りも出来ない。
僕は冷や汗をかきながら、
そのお化け屋敷までやって来た。
チケットを提示し、
いざ中へ。
入った直ぐはまだ明かりがあっていいものの、
カートが出発するのと同時に真っ暗になった。
ここ、かしこから、叫び声が聞こえて来る。
僕は直ぐに耳を塞ぎ、目をしっかりと閉じた。
それでもドロドロしい音は容赦なく響いて来る。
僕は歌を歌いだした。
耳を塞いでいる時は、自分の声が頭の中で響くから、
少しは助けになると思ったから。
先輩は僕のそんな行動を見て笑っていた。
そしてカートはゆっくりと進み始めた。
僕は、早く進んで終わって欲しかったのに、
その歩みは少しも早くはならなかった。
本当にカメが歩いているかのようなスピードだった。
そしてカートは、所々で止まる。
取り合えず、そう言うスポットは何かが待っている。
それは定番なので、そう予期していた。
僕は気を取りもどして、
その何かに備えた。
でも僕の努力は虚しく、
一番最初のスポットで、
凄い声を上げてしまった。
多分、他の人にも聞こえただろう。
幸いな事に、他の人には、それが僕だとは分からない。
矢野先輩は、
待ってました! とでも言うように、
直ぐに僕を抱き寄せて、
手をしっかりと握ってくれた。
最初のスポットを過ぎた後は、
怖くて、怖くて、
先輩の胸に顔を埋める他に、
僕は何もすることは出来なかった。
その後、矢野先輩の取った行動に
僕はびっくりした。
先輩の胸にもたれかかって震える僕の頭を、
何度も何度も優しく撫でながら、
僕の頭に沢山キスをしてくれたことだ。
丁度、外国映画を見る時に、
小さい子供が泣いていると、
お母さんが子供を抱き寄せて、
頭を撫でながら、
子供の頭に沢山キスをしてくれるような感じだ。
意識が飛んでいた僕は、
いつもだったらこんな行為は
心臓が破裂しそうな程ドキドキとするのに、
この時ばかりは只々、先輩の感触が心地よかった。
もう、お化け屋敷の内容なんて
全然頭に入って来なかったけど、
先輩が僕の頭に優しくキスをしてくれるたびに、
不思議と僕の恐怖が落ち着いていった事だけは凄く記憶に残った。
7月も今日で終わる。
そして今日は矢野先輩の1日をもらった
僕の誕生日でもある。
矢野先輩がまだ好きだった時、
何を血迷ったのか、
誕生日のプレゼントとして、
矢野先輩の一日が欲しいと願った。
それが今日である。
勿論佐々木先輩も、
僕と一緒にお祝いをしたそうだったけど、
週末にインハイを控えた先輩には、
僕達にジョイントすることは、
土台無理な話だった。
最後の最後まで一緒に祝いたいと粘っていたけど、
インハイが終わった後で、
先輩と二人きりの時間を作ると言う事で、
丸く収まった。
矢野先輩の一日をもらったにもかかわらず、
僕は一週間前から、
何をしたら矢野先輩が楽しめるのか、
グルグルとするだけで、
何も思い浮かばなかった。
色々と雑誌を買いあさって、
世のカップルのデート事情なども研究してみたけど、
どれも、男女のカップルと言った風で、
女の子の喜びそうなことばかりで、
余り僕の参考にはならなかった。
先輩の誕生日は、先輩がやりたいことを、
ちゃんと僕をリードして楽しませてくれた。
僕も同じようにしたかったけど、
余り経験の無い僕は、何も思いつかなかった。
それで先輩に何をしたいか聞いてみたところ、
「僕に任せて!」
そう返って来たので、恥ずかしながら、
僕は先輩に任せる事にした。
そしてその日は割と早くやって来た。
バイトの方は、奥野さんの計らいもあり、
問題なく休みを入れることが出来た。
最近は先輩の突拍子もない行動にも慣れ、
誕生日の朝は、割とリラックスして出かけた。
そして今日は何をかましてくれるんだろうと
少しワクワクもした。
「先ぱ~い!」
何時も公園で待ち合わせをする様に、
僕は先輩を呼びながら、走って池の所までやって来た。
「おはようございます!
今日は宜しくお願いします!」
「おはよう!
今日は楽しみだね~
僕、昨日からワクワクして眠れなくてね」
「今日は何をする予定なんですか?」
僕がそう聞くと、
先輩は意味深の様に僕を見て
不敵にニヤッと笑った。
「え~ 先輩、その笑顔怖いですよ~
何を企んでるんですか~」
「ハハハ!
何も企んでないよ!
あ、でも隙あらばってな思いはあるけどな~」
と、また意味深な話し方をする。
「とりあえず、僕についてきて!」
そう言って、僕は先輩の後を、
少しワクワクとしながら付いて行った。
そして電車を乗り継いで付いたところは、
アミューズメントパークだった。
僕は、余りにもの普通な選択に、
矢野先輩がアミューズメントパークを選んだことが
不思議でたまらなかった。
「はい、チケット」
「あ、ありがとうございます……」
「何? なんだか浮かない顔だね?
ここでは不満?」
先輩にそう言われて、
慌てて、
「いえ、凄く楽しみです!」
そう言ってチケットをもらった後、
そのチケットを見て僕は背筋が凍った。
そこには夏休み期間限定のお化け屋敷の
追加券があった。
「これか!」
そう言えば、テレビでコマーシャルやってよな~
と思いながらも、僕は少しドキドキとし始めた。
夏にぴったりのアトラクションには間違いないけど、
僕はお化けと言った類が凄く苦手だ。
そうか!
この間お母さんと電話で話していたのはこのことか!
先輩のあのニヤ顔はこの為だったのか!
僕は恨めしい顔をして先輩を睨んだ。
先輩は微笑みながら、
「このお化け屋敷はね、
ちょっと変わってるんだよ~
楽しみだね~」
と更にニヤニヤとして僕を見た。
「先輩、もしか知ってますか?」
僕がそう尋ねると、
「え?
知らないよ、要君が怖い物苦手なんて!」
そう言ってハハハと笑っていた。
そのお化け屋敷は、
カートに乗って、レールの上を回るように出来ていて、
自分で歩いて回るお化け屋敷とは少し違った。
一度はいると、
怖くても、逃げられないし、後戻りも出来ない。
僕は冷や汗をかきながら、
そのお化け屋敷までやって来た。
チケットを提示し、
いざ中へ。
入った直ぐはまだ明かりがあっていいものの、
カートが出発するのと同時に真っ暗になった。
ここ、かしこから、叫び声が聞こえて来る。
僕は直ぐに耳を塞ぎ、目をしっかりと閉じた。
それでもドロドロしい音は容赦なく響いて来る。
僕は歌を歌いだした。
耳を塞いでいる時は、自分の声が頭の中で響くから、
少しは助けになると思ったから。
先輩は僕のそんな行動を見て笑っていた。
そしてカートはゆっくりと進み始めた。
僕は、早く進んで終わって欲しかったのに、
その歩みは少しも早くはならなかった。
本当にカメが歩いているかのようなスピードだった。
そしてカートは、所々で止まる。
取り合えず、そう言うスポットは何かが待っている。
それは定番なので、そう予期していた。
僕は気を取りもどして、
その何かに備えた。
でも僕の努力は虚しく、
一番最初のスポットで、
凄い声を上げてしまった。
多分、他の人にも聞こえただろう。
幸いな事に、他の人には、それが僕だとは分からない。
矢野先輩は、
待ってました! とでも言うように、
直ぐに僕を抱き寄せて、
手をしっかりと握ってくれた。
最初のスポットを過ぎた後は、
怖くて、怖くて、
先輩の胸に顔を埋める他に、
僕は何もすることは出来なかった。
その後、矢野先輩の取った行動に
僕はびっくりした。
先輩の胸にもたれかかって震える僕の頭を、
何度も何度も優しく撫でながら、
僕の頭に沢山キスをしてくれたことだ。
丁度、外国映画を見る時に、
小さい子供が泣いていると、
お母さんが子供を抱き寄せて、
頭を撫でながら、
子供の頭に沢山キスをしてくれるような感じだ。
意識が飛んでいた僕は、
いつもだったらこんな行為は
心臓が破裂しそうな程ドキドキとするのに、
この時ばかりは只々、先輩の感触が心地よかった。
もう、お化け屋敷の内容なんて
全然頭に入って来なかったけど、
先輩が僕の頭に優しくキスをしてくれるたびに、
不思議と僕の恐怖が落ち着いていった事だけは凄く記憶に残った。
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