消えない思い

樹木緑

文字の大きさ
上 下
30 / 201

第30話 疑惑

しおりを挟む
そこには異様な空気が流れていた。 

「何故、そんなことを?」僕は少し緊張した。
「いや、裕也が美術室で僕を待ってたんだけど、待ってる間に寝入ってしまったらしくて、良い香りがしたから起きたら、パタパタと走り去って行く足音が聞こえたから、誰か来たんだと分かったらしいけど…後を追って美術室を出たけど、もう誰の姿も無かったって…」
「それで何か言ってましたか?」
「それで聞いてきたんだ…もしかしたら、美術部にはΩの生徒が居るか知ってるかって。」
「あ…僕…」僕は黙って下をうつ向いた。

暫くして、「部室に居たのは要君でしょ?」と先輩が尋ねたので、僕はコクンと頷いた。
「あ~やっぱりそうだったんだね。どうやってごまかそう?」と先輩はちょっと考えていた。
僕は先輩に嘘をつかせたくなかったので、「あ、先輩、正直に言っても僕は構いませんよ。」と言ったけど、
「じゃ、居るには居るけど、プライバシーの厳守で誰かは言えないって伝えておくよ。」と、先輩はごまかしてくれるみたいだった。
「すみません。お願いします。でも、本当にタイミング悪くあんな場所で発情しかけるなんて…そんな予感ちっとも無かったのに…」と少し困惑したが、
「大した事にならなかったから、今回は良しとしよう!」と先輩は余り気にしてないようだ。

「あの…あれが生徒会長だったんですか?」と僕が尋ねると、
「そうだよ。僕の幼馴染で生徒会長の佐々木裕也。どう?カッコよかったでしょ?モテモテ君だよ~」と先輩は答えた。
「いや、確かにカッコ良かったですけど…あ、じゃなくて、あの、生徒会長は大丈夫でしたか?僕の匂いに誘発されたりとか…」と恐る恐る聞くと、
「あ、裕也がαだって事は知ってるんだ」
「あ、はい、友達から聞いて…αでカッコよくて、権力持ちで、婚約者がいて、それでもいいからって女の子達は後を絶たないって。」と僕が言うと、
先輩は笑いながら、「要君は正直だね~ほら、裕也はカッコ良いって言ったのが色んな意味で分かったでしょ?でも、大丈夫だったと思うよ。詳しい事は言って無いけど、メッセージ出来るって事は大丈夫だと思う。もしラット起こしてたら、今頃、学校ぐるみで大変な事になってるからね~」と言った。
「そうですか、良かった~」そう言って僕は、胸を撫で下ろした。
「僕、まだ発情期始まったばかりだから時期がまだ不安定なのかなぁ~」と心配そうに言うと、
「そう言う事はあるかもね。気を付けるに越したことは無いよね。」と先輩が返してくれた。
「でも、ちゃんとラット抑制剤、持ってくれていたんですね。ありがとうございます。凄く、心強いです。」
「要君の両親にあった後、直ぐにもらいに行ったんだよ。早速役に立って良かったよ。」
「やっぱり先輩って頼りになりますよね!」
「ハハハ、おだてたって、今日は何にも出ないよ?」
「今日は?ですか?今日も…じゃ?」と言って僕は笑った。
「何時もお菓子あげてるでしょ~」
「先輩、それじゃ僕、駄々こねてる子供みたいじゃないですか~」と口を尖がらせると、
「まだまだ子供でしょ。」と先輩は僕をからかった。

「そう言えば、僕に何か用があったんでしょう?」
「そうそう、僕、クラスの応団幕の制作リーダーになっちゃったから、美術部の制作と被っちゃって…それを伝えようと思って美術部に行ったんです。」
「あ~そんな事、大丈夫だよ。出来る範囲で美術部にも顔を出してくれたら良いよ。」
「ありがとうございます!本当に、まったく、美術部員と言うだけで青木君に指名されちゃって…」と僕は苦笑いした。
「ハハハ、そう言う事ってあるよね。僕も一年生の時は同じ目に合ったよ。」
「先輩もですか?」
「そうだよ。スポーツクラブも同じだしね。クラスマッチの時なんて、そりゃあスポーツクラブは走り回ってるよ。」
「そうですね、そうですよね。皆同じって事ですよね。じゃ、僕もが学級委員長の特権を使って、クラスマッチの時は青木君を…ウッ・シッ・シッ~」と笑って見せた。
「ハハハその意気、その意気!でも思い出すな~。一年生の時のクラスマッチ!もう生徒会長の裕也が大変でね~。今思い出しても、笑いしか込み上げて来ないよ!もう目が回るほどクルクル・クルクルやって…先輩たちにこき使われてたからな~」
「そうですよね。先輩たちにも1年生の時があったんですよね~。なんだか先輩達に先輩がいて、こき使われてたことなんて想像出来ませ~ん。それもあの生徒会長がだなんて…でも生徒会長、何だか凄く良い香りがしてたな~」と言った瞬間先輩が立ち止まって、僕の方を急に振り返った。

「どうしたんですか?急に立ち止まって…」僕が驚いていると、
「え?要君、彼から何か匂いがしたの?」と先輩が驚いたように聞いて来るので、
「はい、凄く良い香りがして…どうかしたんですか?」と僕が言うと、
「今、僕から何か香りがする?」と先輩が尋ねたので、僕はクンクンと先輩の香りを嗅いでみた。
「あ、先輩、汗のにおいがしますよ。」と僕が言ったら、先輩は僕の頭にチョップをくれたけど、少し怪訝な顔をしていた。
「裕也の匂いもこんな感じ?」と先輩が尋ねるので、
「いえ、違いますね~。最初はコロンかなって思ったんですけど、ちょっと違いましたね。コロンって僕は全然使わないし、周りにも使ってる人は殆ど居ないから嗅いだことは殆どないからはっきりとは断言出来ないんですけど、どちらかというと、何かを付けたって言うよりは、生徒会長自身が匂ってたような…あっ、これ言ったら体臭みたいで失礼ですけど…でも、なんだかフワ~ッとするような、クラっとするような…強烈では無いんですけど、癖になっちゃうような…」と言うと先輩は、
「僕には今さっき汗のにおいがするって言ったばかりじゃないか~。僕には失礼じゃないのか~!」と言って頭をクシャクシャとしてきた。
「先輩、痛いですってば~。」
とふざけているうちに、僕のマンションのビルのドアの所についてしまった。
「あの…要君…もしかして…」と先輩は言いかけて、
「いや、何でもないよ。部屋まで送って行こうか?」と聞いてきた。
僕は何だろうと思ったけど、
「先輩、ここまでで大丈夫ですよ。薬も安定しているみたいだし。今回は問題なく行けそうです。」と答えた。
「じや、何かあったら、直ぐに電話して。」そう先輩は言い残して、僕は先輩が見送る中、エレベーターへと入って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

α嫌いのΩ、運命の番に出会う。

むむむめ
BL
目が合ったその瞬間から何かが変わっていく。 α嫌いのΩと、一目惚れしたαの話。 ほぼ初投稿です。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜

明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。 しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。 それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。 だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。 流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…? エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか? そして、キースの本当の気持ちは? 分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです! ※R指定は保険です。

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

【完結】もう一度恋に落ちる運命

grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。 そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…? 【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】 ※攻め視点で1話完結の短い話です。 ※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

僕を愛して

冰彗
BL
 一児の母親として、オメガとして小説家を生業に暮らしている五月七日心広。我が子である斐都には父親がいない。いわゆるシングルマザーだ。  ある日の折角の休日、生憎の雨に見舞われ住んでいるマンションの下の階にある共有コインランドリーに行くと三日月悠音というアルファの青年に突然「お願いです、僕と番になって下さい」と言われる。しかしアルファが苦手な心広は「無理です」と即答してしまう。 その後も何度か悠音と会う機会があったがその度に「番になりましょう」「番になって下さい」と言ってきた。

そんなお前が好きだった

chatetlune
BL
後生大事にしまい込んでいた10年物の腐った初恋の蓋がまさか開くなんて―。高校時代一学年下の大らかな井原渉に懐かれていた和田響。井原は卒業式の後、音大に進んだ響に、卒業したら、この大銀杏の樹の下で逢おうと勝手に約束させたが、響は結局行かなかった。言葉にしたことはないが思いは互いに同じだったのだと思う。だが未来のない道に井原を巻き込みたくはなかった。時を経て10年後の秋、郷里に戻った響は、高校の恩師に頼み込まれてピアノを教える傍ら急遽母校で非常勤講師となるが、明くる4月、アメリカに留学していたはずの井原が物理教師として現れ、響は動揺する。

処理中です...