龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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覚えのある感情

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「どうかしましたか?」

龍輝の声にハッとして、

「ううん、何でも無い」

そう言って首を振った。

“でも、あれは何だったのだろう?

まるで目を開けたまま一瞬夢を見ていた様な……”

僕は龍輝の耳を撫でながら頭の中では
釈然としない、何か引っ掛かるものを感じでいた。

「くすぐったいですね」

龍輝のそのセリフに、

「ヒヒ、ここ? それとも此処?!」

と少しいたずら心が出て耳を少し撫で回した。

龍輝は耳まで真っ赤になりながら、

「もう良いですか?

くすぐったくて足がガクガクになりそうです」

そう言いながら上目使いに
垂れ落ちる前髪の間から僕の顔を覗き込んだ。

その表情にドキッとした僕は
サッと龍輝の耳から手を離し、
ドギマギとしながら

「さ、先に行くよ! バラ園はこっち?!」

そう言ってパッと走り出した。

龍輝は慌てて僕の腕を掴むと,

「翠! そちらでは有りません!

そちへいくと龍達の厩舎になります!

バラ園は此方ですよ!」

そう言い僕の腕を自分の方へ引いた。

「あ、ごめん……

それにしてもとても大きなお家だね。

龍輝が止めてくれなかったら、
危うく迷子になる所だったよ。

僕、割と街の中とか通って来たけど、
こんなに大きなお家は初めて見たと思う……」

辺りをキョロキョロと見回しながらそう言うと,
龍輝は僕の横に並んで歩き始めた。

「翠はデューデューとずっと山奥で暮らしてたんですよね?」

いきなり僕の育った環境を聞かれ驚いた。

「あ…… 知ってたんですか?

でもどうして?」

そう尋ねると,

「ええ、龍星が良くデューデューの事を聞いてましたから……

僕も自然と色々と聞く形になり……

ずっと翠の生活ってどういったものだろうって気になってたんです」

そう言って龍輝が僕の顔を覗き込んだ。

その時目が合って、ドキッとして顔を逸らすと,

「龍……龍星……が父さんの事を?」

ドギマギとしてそう尋ねた。

「ええ、いつもの様に、
何故デューデューは遊びに来れないのか?!って。

それで両親がその理由を良く説明していたんです。

その理由に龍星は納得いかなかった様ですが……」

そう言って龍輝がフッと笑った。

僕は

「そうですか……」

としか言えなかった。

僕も小さい頃は住んで居る状況に納得出来なくて、
父さんと言い合いになった経験がある。

“あれはいつの頃だったか……

無性に誰かに会いたくて駄々を捏ねた事が……

あれは……”

そう思って龍輝の顔を見上げた。

龍輝の僕を見下ろす顔を見た時,
フッとその顔があの時の記憶と重なった。

“あれ?”

そう思い、

「ねえ、龍輝ってもしかして、
僕が病気をして此処に来た時、
僕の寝てるベッドの所に来た事がある?」

そう尋ねると,一息置いて、

「……いえ……記憶には……」

そう答えられ、

「そうか……違うのか……

今、龍輝の顔を見た時、
一瞬あの時の記憶が蘇ったんだけど、
朧げな記憶で誰かに額を撫でられていた様な……

小さな男の子だったから龍輝だったのかな?って……

僕と目が合って直ぐに逃げて行ったから僕も誰だったのか覚えてないんだけど,
もしかすると龍星だったのかも……」

そう言うと、

「申し訳ありません」

そう言って龍輝は申し訳なさそうに謝った。

「あ、いや、龍輝は全然悪くないよ!

ずっと昔の事だし、
僕達自身も小さかったから!」

そう言うと,

「急に思い出したのは何か理由があるのですか?」

龍輝にそう尋ねられたけど、

「ううん、別に大した理由はないけど,
唯、本当にフッと誰だったんだろう?って思っただけ」

そう言って首を横に振ったけど、
本当はあの時も小さな男の子と目が合った時に
不思議な懐かしい感覚を感じた事を思い出した。

その感覚は丁度今龍輝に感じた感覚と似ていたから、
もしかしたら龍輝だと思った。

でもあの時の子は龍輝ではなかったかもしれない。

何だか少しがっかりした様な気がして、
そんな自分の感情に少し驚いた。

「ねえ、龍輝ってどんな子供だったの?」

そう尋ねると,龍輝は驚いた様にして僕を見た。

「ん?」

とした様な顔をすると,

「どうして私の幼少期の事を?

私の小さい時の事を聞いても
面白くも何ともありませんよ?」

そう言うので,

「え? どうして?

僕は龍輝の小さい頃の話も聞きたいよ?」

と返したら、少し考えた様にして、

「恥ずかしながら、
私はいつも母親の後ろに隠れて居る様な大人しい子でした。

人見知りもあったのですが、
やはり幼心に人と少し違う事を感じ取っていたのかも知れません……

私とは引き換えに、
龍星はとても活発で人懐っこく、
剣の扱いも上手で良く私は龍星と比べられていました」

そう言って龍輝は少し恥ずかしそうな顔をした。

「え?! 龍輝って大人しい子だったの?!

今から見ると,全然想像できないね?!」

そう言うと,

「いえ、実を言うと、
今でもそこまで変わっていません。

実際翠と二人で居ることに凄く緊張して
今でも心臓がドクドクと早鐘の様に脈打っています」

少し顔を赤らめながらそう言う龍輝が
何だか凄く可愛く見えた。

そしてハッとして、

“イヤ、イヤ、僕よりデカくて強そうな男性に
僕は何を考えて居るんだ?!

本当に女の子ならともかく、
龍輝は男だぞ?!”

そう思うと,首をブンブンと振った。

そんな僕を見て龍輝が、

「大丈夫ですか?」

そう聞いて来たので、

「あ、うん、大丈夫、大丈夫!」

慌ててそう言った瞬間少し声が裏返った。

僕は真っ赤になって、

「ハハ……龍輝が緊張してるなんて言うから、
僕も緊張して来ちゃったみたい……」

頭を掻きながらそう言うと,
龍輝がクスッと笑った。

「有難うございます。

翠のおかげで大分緊張が解れました」

龍輝がそういうふうに言うもんだから
僕は益々緊張して、

「いやいや、僕は何もしてないよ!

それより、龍輝は今では剣も凄く強いんだね!」

そう言うと,彼は

“?”

と言う様な顔をした。

「いや、言ってなかったけど,
本当は此処に来た時点で礼を言うつもりだったんだ。

実は先日、峠で山賊から助けてもらったのは
僕達の馬車だったんだ。

あの時は危ない所を本当に有難う!」

そう言って頭を下げた。

「あ~ あれは翠達の馬車だったんですね。

最近山賊が出始めたから討伐をする様に
皇帝の方から御達しが来たんです。

でも翠達が無事で本当に良かったです」

龍輝から皇帝という言葉が出て、

「あ! 皇帝といえば、
龍輝達って皇城には良く行ってるんだよね?!」

そう尋ねると,龍輝はコクンと頷いた。

もしかしたらルーと取り継いでもらえないかと、

「じゃあさ、第三皇子に会った事はある?!」

と尋ねた。

すると驚いた事に、

「殿下とは幼馴染で小さい時から良く一緒に遊んでいました。

実を言うと今日城に呼ばれたのも、
殿下の護衛騎士になる為だったんです」

そう言われ、

「へ~ 王子様の護衛騎士か~

やっぱり龍輝は凄いんだね!

でもすごい偶然!

あのさ、お願いがあるんだけど,
龍騎の伝で第三皇子と取り次いでもらえないかな?!

実を言うと、第三皇子と知り合うキッカケがあって、
帝都で会う約束をしてたんだ!

でもどうやって会ったらいいか分からなくて……」

そう言うと,

「え? じゃあもしかして殿下が言っていた人達って
翠達の事だったんですか?」

と、話がすでに出ていた様で、
僕は興奮して龍輝の手を取り、

「そうだよ! 僕達なんだ!

前にいた小さな町で友達になったんだ!

それで彼は冒険者になりたいって……」

とここまで言った時、

“あれ? 冒険者云々は秘密だったっけ?!”

とハッとして龍輝を見たら、
龍輝は真っ赤になっていた。

「え?」

っと龍輝の顔をじっと見ると,

「す……すみません!」

そう言って龍輝の手を握っていた僕の手を払った。

「どうして真っ赤になっているの?!」

不思議そうにそう尋ねると,

「い、いや、翠が急に私の手を取るから!」

そう言って挙動不審になった。

「え? いや、だって……

一番先に僕の腕を取ったのは龍輝だよ?」

そう言い返すと,

「いえ、私がエスコートするのと
翠から、て……手を取られるのは全然違いますから!」

そう言ってさらに真っ赤になっていた。

「ふーん、人見知りだと言うのは本当なんだね。

此処まで恥ずかしがり屋さんだって知らなかったよ。

ごめんね。

今度からは気を付けるから」

そう言って謝ると龍輝は、

「いえいえ、 翠のせいでは全然有りませんから!」

手のひらで顔を隠し、
もう一方の手を僕に向けると、
ブンブンと振り回した。

「ハハハ、龍輝可愛い!

まるで……

まるで……

あれ? 誰だと言おうとしたんだろう?」

“あれ? ちょっと待てよ?

前にも誰かこうやって照れてた人がいたよな?!

誰だっだっけ?!

いや、そんな人知ってるわけないよな?

もしかして気のせいか?!”

そんな事をブツブツと言っていたら、

「もう私の事は良いですから
リュシアン殿下のことですよね?!」

そう言って龍輝はもう平静な顔をしていた。

「そうそう! 

リュシアン殿下!

会う事出来るかな?!

出来るだけ早い方がいいんだけど……」

そう尋ねると,

「分かりました。

でしたら明日殿下を尋ねてみましょう。

あ、そうですね……出来たらその時一緒に行きますか?

おそらくそちらの方が早いでしょう」

「え? 良いの?

一緒に行っても門前払いされないかな?!」

急な申し出に興奮して思わず又龍輝の手を取ろうとした。

「あ、ごめん!」

そう言ってパッと離すと、
何だか龍輝の緊張が移ったのか、
僕の方がドキドキとして少し声が上擦った。

龍輝はそんな僕にクスッと小さく笑うと,

「バラ園はもうそこの角を曲がると直ぐですよ。

リュシアン殿下の事は大丈夫です。

ぜひ明日一緒に城へ参りましょう」

そう言って先を指差した。

少し気まずくなった僕は
急いで龍騎の指差した方へと駆けていった。

屋敷の裏手に回った僕が最初に感じたのは、
辺り一面を覆う薔薇の爽やかな香りだった。

“あれ? この匂い……知ってる……”

そう思うと,
スーッと胸いっぱいに空気を吸い、
フ~っと吐き出した。

“やっぱりこの匂いは嗅いだ事がある!

じゃあ、薔薇の花って……”

そう思い、バラ園一面に咲き誇る薔薇を見つめた。

“この何枚にも重なる光沢のあるベルベットの様な花びら……

やっぱり知ってる!

でも何処で?!

僕が住んでいた山には薔薇はなかったはずだ!

もしかして此処に来た時に見たのか?!

思い出せない……”

バラ園の前に立ち竦む僕見て、

「翠、どうかしましたか?

これが薔薇という花ですがとても綺麗でしょう?」

そう言う龍輝の顔を見ると,
僕はス~っとバラ園の中へと入って行った。

真ん中ら辺に来た時、
花に近寄り目を閉じてクンクンと
又匂いを嗅いだ。

“懐かしい!

とても懐かしい香りだ……

やっぱりどこかで嗅いだ事があるんだ……”

思い出せなかったけど,
薔薇の花はすごく好きだと思った。

辺りをキョロキョロと見渡すと,
向こう側にカラスでできた空間があった。

「龍輝! あれは何?!」

見たこともない様な空間に少し興奮して尋ねた。

龍輝は僕の指差した方を見ると,

「あーあれはサンルームと言って、
薔薇とは違い、
色んな観葉植物を育てているんです」

そう教えてくれた。

「観葉植物?

聞いたこともないや……

どんな植物なの? 覗いても良い?!」

そう尋ねると,

「どうぞ」

と龍輝が手を差したので、
僕はそこへ行きそっと扉を開けた。

「うわー凄い!

密林みたいになってるんだ!」

そう言うと,

「翠は密林を知っているのですか?」

そう龍輝が尋ねた。

「うん、父さんが前に一度連れて行ってくれた事があるんだ!

僕が生まれる前に住んでた事があるんだって!」

そう言うと,龍輝は少し驚いた様な顔をした。

「どうしたの?」

そう尋ねたけど,

「あ……いえ……」

そう言って言葉を濁した。

でも僕はこの小さな箱の中に作った密林に夢中で、
そんな龍輝の表情を気にせず、

「向こうには座るところがあるんだ!

あ、テーブルも!

何これ、何これ!

ちょっとした隠れ家みたい!」

僕ははしゃぎまくって、
ソファーに座ったり,
寝転んだり、
植物の葉を手で撫でたりしながら大きな葉の間を掻き分けた。

「あ、あそこにドアがある!」

掻き分けた葉の向こう側に大きなガラスドアを見つけた。

「あ、そこは!」

そう言って龍輝が僕を止めようとした。

「え? あそこは行っちゃダメなの?」

そう尋ねると,

「いえ、ダメというわけではないのですが、
あのドアは私の寝室に繋がっていて……」

龍輝のその答えに何だか覗いてみたくなった。

「龍輝の寝室?! ちょっと覗いてみても良い?

龍輝の寝室がどうなってるのかみてみたい!」

そう尋ねると,

「別に大したものは有りませんよ?」

そう言いながら龍輝がドアを開けてくれた。

「凄いね!

このドア,ガラスで出来てるんだ!

大きなドアだね~

あ、ベッド! 

ドアの隣にベッドを置いてるんだ!

ドアを開けたままにしてたらまるで密林にベッドもあるみたい!

龍輝、ここからこの風景がいつでも見れるんだね!

良いなあ~

他の部屋が豪華だったから凄いのかなって思ったけど、
龍輝の部屋って何だか他のと違うよね?!

何だか匂いまですごく自然って感じ!

僕こんなの好きかも?!

ねえ、ちょっとベッドに転がっても良い?!」

そう尋ねると、龍輝の返事を聞く間もなくポーンとベッドの上に寝転がった。

「やっぱり凄~い!

密林に中にいるみたい!」

そう言ってはしゃいでいる時、
ベッドの横に立ててある絵に目が入った。

「あれ? これは……?」

そう言って手に取り見ようとすると,

「あ、すみません!

それはちょっと!」

そう言って龍輝に素早く取られてしまった。

チラッと見えた感じ人物がの様だった。

でもその中に見えた人達は何だか見覚えのある様な人達だった。

「ねえ、その絵の人達って……」

そう言って尋ねようとすると,

「すみません。

この人達については何も言えないのです。

お願いですので、何も尋ねないでください……」

そう謝る龍輝に、

「いや、良いんだよ。

人にはプライバシーってものがあるから!」

そうは言ったけど,
チラッと見えた人のうちの二人は
僕の父親であるアーウィンと、
母親であるマグノリアにそっくりだった。

”もしかして客室で見た様な絵なのかな?

恥ずかしくて僕には見せたくはないのかな?

でも赤ちゃんはあの中にはいなかったよな?!“

その時はそんな事を考えていた。


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