龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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帝都到着

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「貴方達、家族に挨拶しなくても良いの?」

セシルがジュジュにそう訪ねた。

僕達が山を降りて最初に到着した村には
ジュジュとリアの家族が住んでいる。

それなのに彼らは家族に会おうとしなかった。

「いえ、良いんです。

反対される中、あれだけイキって出て行ったんです…

未だ何も達成して無い今のままでは
親に合わせる顔がありません。

前に言いました通り、
こもまま一緒に帝都までお願いします」

ジュジュはそう言うと,
躊躇いもせずリュックを背にからった。

セシルはリアを見ると,

「あなたもそれで良いの?

今会っておかないと,
次はいつになるか分からないのよ?」

心配そうにそう訪ねた。

でもリアの決心もジュジュと同じ様で、
唇をキュッと締めると、
コクンと頷いた。

セシルはフ~っとため息を吐くと、

「分かったわ。

じゃあ、先に提案した通りに帝都に着いたら
ギルドでパーティー登録しましょ。

出来るだけ早く何か手柄を立てて、
少しでも早くご家族に会いに帰ってきましょうね」

と言う事で彼等は落ち着いた。

「じゃあ皆んな準備できた?

馬車も来たみたいだし、
帝都までいくわよ!」

セシルはそう掛け声をかけると,
勢い良く部屋を出た。

宿を出ると,
護衛の冒険者達はもう既にやって来ていた馬車に乗り込んでいた。

セシルはチラッと彼等を見ると,

「貴方達、こんな時は誰よりも早いのね」

セシルのそんなセリフに彼らは苦笑いしていたけど、
僕達が馬車に乗り込むと,
馬車はスムーズに帝都へ向けて出発した。

“いよいよか!”

そう思うと,
父さんの言っていた

“試練”

と言う言葉が急に頭の中に浮かんで
少し緊張して来た。

セシルと前世について少し話をしたけど、
大した進歩は無かった。 

でも前世がローティの言っていた
サンクホルムの人物達と関係があるのは間違い無さそうだ。

それはセシルも同じ様な意見だった。

でも父さんの言っていた試練が何の事なのかは
僕もセシルもサッパリだった。

僕は少し緊張した心を落ち着かせようと外を見た。

外観は余り美しいとは言えず、
あたりに何もないためか
馬車の車輪で巻き上がった土埃だけが中を舞っていた。

僕は少しケホッと咳をすると、
又馬車の中を見た。

朝早くから僕を探して疲れいたためか、
セシルとローティはお互いの肩に持たれ掛かって目を閉じていた。

僕もフ~っとため息を吐くと目を閉じた。

最初は唯目を閉じてリラックスするだけだったのに、
馬車はちょうど良い具合にカタカタとゆりかごの様に振動して、
いつの間にか本当に眠りに落ちていた。

馬車がガクンと大きく揺れて僕はハッとして目を覚ました。

どうやら馬車がスピードを落とした様だ。

捲り上げた幌の下から街並みを眺めて目を見張った。

”帝都?!“

これまでとは雲泥の差で建物がひしめき合い、
人の多さにもびっくりした。

その為に馬車がスピードを落とした様だ。

「此処まで来ると流石に人通りも多くなったわね」

セシルが僕の肩越しから声を掛けてきた。

僕はセシルの方を向くと、

「こんなに沢山の人を見るのは初めてだ……」

と圧倒された様に言った。

セシルの向こうからはジュジュが、

「帝都はもっと人が多いよ。

こんなのは序の口だよ」

そう付け加えた。

僕はさらに目を見張って、

「え?! 此処は未だ帝都じゃないの?!」

驚いてそう訪ねた。

ジュジュは笑いだすと、

「ハハハ、帝都までは未だ未だだよ。

先ず帝都に入る時は検問が有るし、
帝都は大きくて高い壁に囲まれてるんだよ」

そう言って僕の肩をバシバシと叩いた。

僕はジュジュが叩いた肩を摩りながら、

「痛いよジュジュ!

でもジュジュは帝都に行った事があるの?」

そう尋ねると、

「うん、毎年建国祭のお祭りに来てたけど、
帝都は大きすぎて何度来ても慣れないね」

そう言って肩を窄めた。

「へ~ 帝都ってそんなに大きいんだ……」

僕がボソッとそう言うと,

「そりゃあ、帝都はこの大陸で一番大きな国の首都だからな」

とのジュジュの返答に僕は首を傾げた。

一番大きい国と言われてもピンとこない。

他の国がどの位の大きさなのかも良く分かっていない。

でも外を見ると,
帝都よりも小さいと言うこの街が
僕にとっては途轍も無く大きく感じる。

“これよりも大きな町って一体……”

僕はまた外を見ると,
キョロキョロと辺りを見回した。

「これからは帝都に近づくにつれて
街並みも人通りも大きくなるよ」

そうジュジュに言われ、

「これって帝都に着く前の最後の町?」

そう尋ねると,

「いや、此処からだと確か後3っつくらい町が続いてるよ。

でも町と町の間には塀やこれまであった平地が無いから
次の町に行っても町が変わったことは分からないと思うよ。

ただ、帝都に近づくにつれてどんどん栄えて来るって事かな?」

とジュジュに言われ、
余り感覚としては分からなかったけど、 

”帝都はもう此処からは近い“

そう思うと、どんどんドキドキとして来た。

そうこうしているうちに、
どんどん帝都の壁が近くに見えて来始めた。

「うわー!!!

壁が高ーい!」

僕は馬車から乗り出して目の前に聳え立つ壁を仰ぎ見た。

馬車は壁伝いをぐるっと回って入り口へと進むと,
馬車専用の検問の門に並んだ。

馬車が多かったので検問は割と時間がかかった。

“何処からみんな来たんだろう?!”

移動中、僕達の前後には
他の馬車は全く見受けられなかったのに、
まるで地中から湧いて出た様に馬車は門の前に並んでいた。

“証明書は此処でも大丈夫かな?”

ちゃんと僕の証明書が帝都でも使えるか心配だったけど、
無事みんな帝都に入ることができた。

門を潜り抜けてその時だった。

僕達の前にいた冒険者らしき人達が急に

「ギャーギャー」

騒ぎ出した。

何だろうと思い冒険者の指さす方を見ると,
空高く龍達がゆっくりと飛び回っていた。

「へっ?! 龍?!」

僕もびっくりして身構えた。

するとジュジュが、

「そうそう,これ、帝都の名物なんだよね。

翠、検問で話を聞いてなかったね。

門番の騎士が説明したでしょ。

帝都ではある侯爵家が飼っている龍が早朝と夕方に
放龍されるって。

彼らは帝都の南にある森に餌を狩に行くんだよ。

皆首輪をしてるから人を襲ったりしないんだよ。

それに彼らを狩るのは法律で禁止されてるんだ。

間違っても彼らを狩る様な人が居たら、
厳重に罰せられるみたいだよ。

まあ龍なんて冒険者がレイドして狩る様な生き物だから、
飛んでるのを見つけたからって
そこにいる人が直ぐ直ぐに狩れるものでもないんだけどね」

そう言って肩を窄めた。

“緑と赤い龍達……何て美しんだ……

アレが父さんの仲間達なんだ……

灰色って本当に父さん以外居ないんだ……”

僕は唯、悠々と南の方へ飛んでいく龍達を
見えなくなるまで目で追っていた。

「じゃあ、私達の役目はここまでと言う事で……」

そう言う御者と護衛冒険者の声で僕はハッと我に返った。

“そうか,契約は此処までか”

僕は御者に残金を払うと,
礼を言いそこで御者や冒険者達と別れた。

晴れて自由の身となった僕達は、

「ねえ、早速ギルドへ行って
ジュジュとリアのパーティー登録をしましょう!」

セシルにそう急かされ、
僕達はギルドへ行くことにした。

幸いジュジュがギルドの場所を知っていたので、
ギルドまではスムーズに行けた。

そこで僕達はパーティーとして登録をした。

セシルは一通りの職種がパーティーに揃ったことで
ウホウホだった。

僕はギルド受付に、

「あの…… フジワラ侯爵家にはどう行けば良いのでしょうか?」

そう訪ねた。

受け付けの彼女はポカンとした様な顔で僕を見た。

「あ、すみません。 

此処では分かりませんか?」

彼女の表情から此処では分からないと思い、
そう謝ると,

「いえ! 場所は分かるのですが、
お約束があるのですか?」

受け付け嬢は恐る恐るそう尋ねた。

僕は首を傾げ、

「約束? が必要なのですか?」

と、そう尋ねると、
彼女は少し目を泳がせて、

「え? いや~ 取り敢えず侯爵家は貴族ですので、
私達のような平民がお会いするのは無理なのではないかと……

あ、もしかして貴方は貴族の方でしょうか?」

そう言った答えが返って来た。

「貴族には……会えない……?」

眉間に皺を寄せそう言い返すと、

「オホホ~ 侯爵家の事は気にしないで下さいね~」

と横からセシルが入り込んできて僕の腕を掴むと、

「ほら、用は済んだから行くわよ!」

そう言って僕の腕を引いた。

「え、でも未だフジワラ侯爵家の場所が!」

僕がそう言ってもセシルはニコニコと受け付嬢に挨拶をして、
無理やり僕をギルドから連れ出した。

「バカね! 貴族なんて平民はおいそれとは会えないのよ!」

そう言って僕に説教し始めた。

そしてハッとしたような顔をすると,

「そう言えばローティ! 

あなた、サンクホルム男爵家の嫡男だったわよね!」

そうローティに向かって尋ねると,

「あ~まあ三男だけどな」

ローティはそう言って頭をポリポリと掻いた。

セシルは僕の腕から手を離すと,

「三男上等!

三男でも腐っても貴族!

さあ、ギルドに戻って侯爵家の住所を貰ってきて!」

そう言ってローティの背を押した。

ローティは

「え~ 俺が?!

で? そのフジワラ侯爵決って誰?!」

と訝しげにしてたけど、
直ぐにギルドに戻ってフジワラ侯爵家の住所を貰って来てくれた。

セシルは住所の書かれた紙をローティから奪い取ると、

「はい、これ,あの双子の家でしょ?」

そう言って僕にその紙をくれた。

「助けてくれたお礼が言いたいのは分かるけど、
私にとっても彼は命の恩人なの!

私もぜひお礼が言いたいわ」

セシルもそう言うと,
僕の胸をポンポンと軽く叩いて、

「さあ今日は遅くなるから明日の朝尋ねてみるわよ。

もしかしたらルーへの橋渡しをしてくれるかもしれないし!」

セシルはそう言うと,
ペロッと舌を出した。

「そうか、ルーにも会わないといけないよね」

僕がそう言うと,

「そう言えばルーってお前達の会話に良く出てくる人物だけど、
ルーって一体誰?」

そうローティが聞いてきた。

「ルーはね、この国の第三者皇子だよ」

僕がそう答えると,

「は?! お前達、ルーって……何友達みたいに呼んでるんだ?!

皇子だろ? ルー?!

第三ってリュシアン皇子の事だよな?!

会うって一体何事?!」

そう言いながら少しパニック気味になっていた。

“やっぱり皇家の人間は偉いっぽい……

他国のローティがこうだから、
この国のジュジュとリアは……”

そう思い二人を見ると,
二人は放心した様に口をポカンと開けて
僕達の会話を聞いていた。

「う~ん、その第三皇子なんだけど、
僕達、ルー、あ、第三皇子ね、に会わないといけなんだ。

多分普通には会えないっぽいから、
フジワラ侯爵家に手伝ってもらえれば……

だから明日はローティお願い!

サンクホルムの男爵家の人間として
どうにか侯爵家の人に会えないか取り継いでくれないかな?!

僕達を山賊から助けてくれたのは、
その侯爵家の息子達なんだ。

危ないところを助けてくれたから是非お礼が言いたくて!」

そう言うと,ローティも渋々

「じゃあ、そう言う事だったら……

でも会えるか保証は出来ないぞ!

大体男爵と侯爵って言ったら雲泥の差があるんだからな」

そう言って僕の頭にポンと拳を置いた。 

「うん、ありがとう!

会えなくても、
できる事はやってみたいから!」

そう言うと,

「今日はこれから宿を探して、
会いに行くのは明日の朝食後くらいが良いだろうな」

と言う事で、
僕達は明日の朝フジワラ侯爵家へと尋ねることにした。



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