龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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フェスティバル

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僕はこの夢を見始めてから気付いた事がある。

先ず、僕の見る夢は、時系列がバラバラだと言う事。

その証拠に、あの日ジェイドと呼ばれる少年は、
ダリルと共に確かに殺されたのに、
次に夢を見た時は楽しそうに皆んなと暮らしていた。

僕は試しに夢の中で経験した事を皆に話してみた。

それは過去の出来事であったのに、
夢の中の皆んなはその事を覚えて居なかった。

どうやら夢の中の出来事は、
その日限りで終わる様だ。

でもその夢を繋いでいく事で僕は色んな事に気付いた。

先ずジェイドは僕であると言う事。

そしてデューデューと呼ばれる灰色の小さな龍は父さんである事。

ダリルはジェイドの恋人で、
マグノリアとアーウィンはおそらく僕、翠の両親であるだろう事。

最後に父さんを残した4人は皆もうこの世には居ないと言う事……

あれから数回ほどジェイドらが殺された風景を目撃した。

目の前で彼らが殺されるのが分かっているのに
どうする事も出来なかった。

何度かその夢を繰り返していく内に、
僕はジェイドが死ぬ間際、何かの術を発した事に気付いた。

恐らくそれが僕が転生する理由になったのだろう。

と言う事はその時そこに居たダリルもきっとどこかに転生しているはず。

“会いたい……

凄くダリルに会いたい……

それにアーウィンやマグノリアにも会いたい”

一度、目を覚ましてしまうと彼らの事は忘れてしまうけど、
夢の中に戻ってくると、
どれだけ彼等が僕に取って愛おしい存在だったのかを思い出させる。

僕はちゃんと転生して此処にいるけど、
アーウィンとマグノリアがどうなったのかは夢に見ない。

きっとジェイドの記憶にないから……

僕の推理によれば彼らは僕を産んだ後、殺されているはずだ。

父さんが僕の両親は死んだって言ってたから……

彼らも転生してるのかは分からないが
もし転生しているのであれば会いたい。

“そう言えば僕達はお互い出会えた時にそれぞれがわかる様に
合言葉を決めていたはずだ…

あれは一体何だったっけ?”

僕はマグノリが部屋へ駆け込んできた時のことを
ぼんやりと思い出していた。

“そうだ、この時は僕達を孤立させるためにマグノリアは国に帰らせられたんだ。

でも誰に?!”

僕はジェイドの記憶をなん度も辿ってみたが、
ジェイドの物語の元凶が誰なのか未だ掴めていない。

きっとジェイドの心が思い出す事を拒否しているのだろう。

僕の部屋へ来て泣きじゃくるマグノリアを宥めながら
僕はそんな事をぼんやりと考えていた。

「アーウィンに会いたい!

アーウィンから離れるなんて絶対嫌!」

そんなに泣きじゃくる彼女を僕は

“大丈夫だよ。

君とアーウィンは結ばれるんだよ。

そして僕が生まれるんだ”

と慰めてあげたかったけど、
それは彼女を混乱させるだけだ。

それにその先を何と言う?

彼女達は死んでしまうんだ。

そんな事は口が裂けても言えない!

でも今言えば、それを回避できる?!

そう思い喉からその言葉がでかかったけど、
僕が目を覚ますとこの物語は今日で終わるはずだ。

先のことを言っても何の役にも立たない……

それに僕は彼等が何処でどの様にして殺されたのかわからない……

情報を持って居てもそれは何の役にも立たなかった。

僕達はこの状況をどうすることも出来なかった。

今はアーウィンも王都に行って居ない。

ダリルも遠征に行って居ない。

あの時僕達は本当にバラバラにされてしまったんだ……

“でも誰に?!”

泣きじゃくるマグノリアも

「xxxxxxxめ!

私達が共にいる事に恐怖を覚えているのよ!

あの腰抜けめ!」

マグノリアのそんなセリフに、

「え? 誰の事言ってるの?」

と尋ねても、帰ってくる答えは

「xxxxxxx!」

と言って肝心な事には雑音が入って聞き取れない。

でも僕は何の手を打つこともできないまま、
泣きじゃくるマグノリアをスゴスゴと帰してしまった。

こんな感じで夢の中では数日を過ごす事もある。

そして決まっているのは……





「セシル! セシル!」

僕は声を詰まらせながら泣くセシルを揺り起こした。

彼女はハッとした様に起きた。

「いや、いや、会えないの!

もう彼とは会えないの!」

泣きじゃくるセシルの肩を掴むと、

「どうしたの?!

誰に会えないの?!

一体誰の事を言ってるの?!」

そう言って揺り動かした。

セシルは肩を振るわせると、
両手で顔を覆って

「分からない!

分からないの……

今まで、ほんの今まで覚えて居たのに!

目を覚ますと分からなくなってしまうの!

でも凄く会いたいの!

誰なのか分からないあの人にずっと……会いたいの!

私を見つけてくれるのをずっと待ってるの!」

そう言って彼女は泣き崩れた。

僕はそんな彼女の頭をずっと撫でて居た。

しばらくすると彼女は落ち着いたのか僕の手を握って、

「翠の手って気持ち良い……

何だかずっと昔にこの手を握って居たような気がする……」

そう言って僕の掌に頬擦りした。

「どう? 落ち着いた?」

そう尋ねると彼女は小さく頷いた。

「御免なさい。

ただの夢なのに見苦しいところを見せたわね」

彼女そう言うと大きくため息を吐いた。

「ねえ、その覚えてない夢ってずっと見てるの?」

僕がそう尋ねると、

「ええ、物心ついた頃から……」

そう言って彼女が頷いた後、

「実を言うと僕もそうなんだ……

物心ついた頃から見始める様になった夢があって、
起きると覚えてないんだ……

そして決まって誰かに会いたくてたまらないんだ……」

そう言うと僕達は見合った。

「もしかして……」

2人して同じ事を言って首を振った。

「不思議なのよね、
翠ってすごく懐かしい感じがするんだけど、
夢で感じる彼に会いあたいって言う気持ちとは少し違うのよね。

どちらかと言うと何だろう?

言葉にできない愛しさと言うか……

会ったばかりなのに変だよね?

でも私は翠の事がすでに大好きよ」

そう言って泣きそうな顔で微笑む彼女は
誰かと重なる様な気がした。


それから数日間僕達は、
父さんが僕を下ろしてくれた森の入り口あたりでレベル上げをした。

別に大した事はしてないが、
既に上級魔法が使えた僕は魔力をコントロールするにはうってつけの訓練だった。

森の入り口辺りには獣に混じって弱い魔獣も結構いる。

魔獣と獣の違いは魔法やスキルが使えるか使えないかの違いだ。

魔獣の方が少し大きめで気性も荒いから見分けは割と簡単にできる。

それとドロップアイテム。

獣は基本的に何もドロップしないし、
魔法もスキルも使えない。

倒しても使えるのは獣の肉とか、皮、毛皮、牙、骨などだけ。

それに獣ではレベルは上がらない。

魔獣を狩らないとレベルは上がらないのだ。

弱いレベルの魔獣を駆り出して
そこで初めてセシルのスキルを実感した。

基本レベルの低い魔獣はドロップアイテムが全くと言って良い程無い。

でもセシル一緒だと、
必ずと言って良いほど毎回宝石がドロップした。

勿論高価なものでは無いけど、
少なくとも売れば一個で夕食にありつける。

数個で一晩の宿賃になる。

彼女は彼女が言ったようにラッキーガールだった。

「ほら! 見なさいよ!

キャー 又ドロップしたわー

私1人では魔獣を狩るのは難しかったけど、
プリーストのくせに攻撃魔法も使えるなんてさすが翠ね!

攻撃も回復もなんて、なんて便利君なの!

そんな翠を見つけるだなんて、
此処にも私のラッキーが働いてたのねー!!!」

そう言って興奮しまくるセシルをジッと睨むと、

「何よ! 何か文句あるの?!

貴方も私の恩恵が受けれるんだから感謝してよね!」

そう言って開き直った。

そこで僕達は数日小さな魔獣狩りを中心にレベル上げをした。

溜まった宝石を換金すると千セロン程になった。

「これだけあれば数日は困らないわね。

で? 私達のレベルは今はどうなってるの?」

セシルのリクエストで僕達のレベルを鑑定した。

「凄いよ! この数日でレベルが10まで上がってるよ!」

僕がそう言って喜ぶと、
セシルは

”チッ“

「未だレベル10か」

そう言って舌打ちした。

「でも、レベルが10になったらダンジョンへ行けるんでしょ?

他の冒険者がそう言ってたけど?」

僕がそう言うと、

「う~ん、今のうちは良いかもしれないけど、
レベル上がってくるとタンク無しでダンジョンは難しいでしょ?」

そう言って頭を抱えた。

「じゃあ、平地でレベル上げしたら良いじゃん」

僕がそう提案すると、

「全くこれだから世間知らずは!

平地でも強い魔獣と戦えるけど、
ダンジョンの方がレベル上がるの早いし、
ドロップも良いものが落ちるのよ」

そうセシルに言われ、

「タンクって簡単に見つかるの?」

と弱気になってしまった。

「そうね、タンク系と回復系は見つけるの難しいわね。

回復は翠が居るから良いとして、
先ずはタンク系を見つけないとね。

くれぐれも、あなたがプリーストだと言う事は言っちゃダメよ!

それにプリーストのくせに攻撃魔法が使える事もね!

あなたの力、絶対悪用されるわよ!」

セシルのそう言ったところは父さんと同意見だった。

僕は

「大丈夫だよ。

絶対言わないから。

それよりも、新しいメンバーを加えるんだったら、
信用できる人にしないと……」

そう言うと、

「うーん、そこなのよね。

一番ん見つけ安いのは魔法系攻撃なんだけど、
此処は王都までの旅を続けながらゆっくり考えましょう。

今は未だ私達だけでも十分に行けるはずよ!

まあ、明日はフェスティバルで街も忙しそうだから
今日は此処までにしましょう」

セシルの提案でその日はそこまでにした。

そしてやって来たフェスティバルの日。

僕は朝からワクワクとして居た。

「セシル!セシル!

起きてよ! 皇太子のパレード観に行くんでしょ?!

もう9時を回ったんだけど?!」

僕がそう言うと、セシルは未だ重たい目をゆっくりと開けた。

「も~ 何だかすごく良い夢を見てた気がするのに
こんな時に限って起こされるのよ!」

とちょっと御冠だ。

「へー今日はいい夢を見てたんだ!

実は僕もそうなんだよね!

まあ、いつもみたいに覚えてないけど、
人の夢って覚えてないもんなんだね。

僕だけだと思って居た!」

そう言いながら窓を開けると、
外は紙吹雪や風船が舞い上がり、
多くの人がもう街道に出て居た。

ちょうど窓のところに飛んできた紙吹雪に手を伸ばすと、

「絶対こっち見ないでよ!」

そう言ってセシルは着替え出した。

初めてセシルと宿に泊まった時は、
セシルの前で着替え出した僕に彼女が怒った。

最初は何を怒ってるのだろうと不思議に思ったけど、
今では理解できる様になった。

初めて宿に来た時に宿主が言った

“夫婦は一緒の部屋”

と言うのも理解した。

人の世界は未だ情緒的にも僕の知らない事が沢山ある。

でもこの数日セシルと生活する事により、
僕の情緒はかなり成長したと思う。

僕はセシルに言われた通りずっと窓から外を見て居た。

僕が窓の外を見ている内にセシルの着替えが終わった。

「翠! さあ行くわよ!」

気合いを入れた彼女が先に部屋のドアを開けた。

「君が寝てる間に朝食は終わったけどどうする?」

そう尋ねると、

「そんなの気にしない、気にしない!

フェスティバルはね、屋台もたくさん出るのよ!

色んな食べ物にあり付けるのもフェスティバルの醍醐味ね!

ほら、早速何か食べに行くわよ!

お小遣いもたんまりとあるしね!」

そう言うと、セシルは小銭を入れてた小袋をジャラジャラと僕の目に前でチラつかせた。

宿を出ると、広場に向けて彼女は走り出した。

「翠! 早く!」

キャッキャと騒ぎ立てる彼女は未だ未だ11才の顔だった。

屋台で色々と物色していると、
辺りがガヤガヤとして来た。

それと同時に馬の蹄の音がして人が街道脇に寄り始めた。

セシルは僕の袖を引くと、

「ほら! 皇太子殿下が来られるみたいよ!

ねえ、ねえ、見初められたらどうする?!」

と、興奮した様に騒ぎ出した。

「君、心に決めた人がいるって言って無かった?!

その人はどうしたの?」

僕が呆れた様にそう言うと、

「これはこれ、あれはあれよ!」

と意味不明な事を言い出して人の波を掻き分け出した。

「あ、ほら! 皇太子殿下がいらしたわよ!“

周りからそんな声が上がり始めた。

背伸びをして馬の蹄の音がする方を覗き込むと、
護衛騎士に囲まれた皇太子らしき人が馬に乗って
もうすぐ僕達の所へ通りかかるところだった。

「あん! 護衛騎士達が邪魔で皇太子殿下が見えないわ!」

そう言ったセシルはグイグイと前の方に進み出た。

「セシル! そんなに前に出たら危ないよ!」

そう言ってセシルの手を掴んだ。

でも運悪く、僕達は僕達と同じ様に皇太子殿下を見ようと思った人の波に押され、
僕とセシルは殿下の道筋に押し出されパレードを止める形で殿下の護衛隊の前に投げ出された。


「イタタタ」

そう言いながら擦りむいた肘をさするセシルに、

「セシル! 大丈夫?!

肘を擦りむいちゃったの?!」

と彼女の腕を取ると、
地の上に座り込む僕とセシルの目の前に剣が飛び出て来た。

「何をするんだ!

こちらは怪我人がいるんだぞ!」

そう言って見上げた皇太子殿下の髪は
これまで見たこともない様な燃えるような真っ赤な色をして居た。














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