龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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変な人

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「は~ お腹いっぱい!」

マグノリアは夕食を食べ終えると、
椅子にもたげかかりフ~ッと一息ついた。

「お姉ちゃん、夕食どうだった?

食後のお茶どうですか?」

スーが食べ終えたマグノリア達を見て
食後のお茶を進めてきた。

「スー! お夕飯、とても美味しかったわよ!

この魚、名前は何と言ったっけ?

初めて見る魚だけど、こちらでは良く出回るの?」

マグノリアは綺麗に残された既に骨だけになった魚を指さしてそう尋ねた。

「この魚はドドって言ってこの島の周りで一杯取れるんだ!

この島の人にとっては主食になる魚だよ!

島の周りのは小さい物ばかりだけど、もう少し北へ行くと凄く大きな個体が捕れるんだ!」

「へ~ じゃあ北の方って言ったら無人の島が沢山密集しているとこらへんかしら?」

「そうそう、お姉さん、良く知ってるね!

無人の島にはたくさんの魔獣がいるから人は住めないんだよね~

だからドドも大きい個体はあの辺に居るみたい。

産卵でこの島の浅瀬に戻ってきて浅瀬にある海藻に卵を産むんだよ。

その時期だけはこの魚は食べれないの!」

「へーそうなんだ~」

そう言った後マグノリアは。

”デューデュー、北の方ではこの魚が捕れるの知ってたな!

だからここに残っても食料にはあり付けるって訳ね”

そう思って少しホッとした。

「お姉さん、お茶は?」

スーが再度尋ねると、

「そう、そう、そろそろお薬の時間だから、
そうね、ハーブティーあるかしら?」

そう尋ねた。

スーは頭を捻ると、

「ハーブティー?」

と尋ね返した。

「え? もしかしてこの島にはハーブティーは無いの?

でもこのお魚、ハーブを使って焼いてるわよね?」

そう言って魚を指さした。

スーは目を丸々とすると、

「お料理にする香辛料?

それがハーブ? お茶にできるの?」

そう言って驚いた。

”そうか、この島にはハーブをお茶にするって定義が無いのか!”

マグノリアはスーを見ると、

「ハーブはね、お茶や香辛料だけじゃなく、お薬にもできるし、
一緒にお菓子を焼いたりパンを焼いたりも出来るのよ」

そう教えてあげた。

「凄い! お姉さん、もっといろいろ教えてくれる?

私、いつかはお母さんに変わってこの宿を切り盛りしたいの!

お母さんには早く楽をしてもらいたいからね!」

そう言ってにこりと笑った。

マグノリアもつられてにこりと笑うと、

「もちろんよ! じゃあ、今日はスーの持っているお茶を貰える?」

そう言ってポシェットの中から薬の包みを取り出した。

それに目ざとく気付いたスーが、

「お姉さん病気なの?」

心配そうに尋ねた。

マグノリアは優しく微笑むと、

「違うのよ。 お腹に赤ちゃんがいるの。

だからね、赤ちゃんが無事に大きくなるためのお薬なの」

そう言ってお腹を優しくさすった。

横からアーウィンが、

「マグノリア、僕達そろそろ……」

そう言ったので、

「そうだった、私達これから尋ねなくてはいけない人がいるからこれでお暇するわね。

お夕飯、本当にありがとう。

明日の朝食が楽しみだわ」

そう言うと、席を立って二階の部屋へと戻って行った。

部屋へ戻ると、デューデューは既に部屋に戻ってきていた。

「あら、早かったわね」

マグノリアが言うと、

「ハ~ あそこは食料の宝庫だ!

私は満足だ!」

そう言ってゲプッとげっぷをした。

「聞いたわよ~ あそこの島って魔獣が豊富にいるんですってね。

それに海には大きな魚もウヨウヨなんでしょう?」

マグノリアが揶揄った様に言うと、

「あの島に住むのもいいかもしれないぞ?

きっと人は誰も来ないだろう。

食料は豊富だし、水もある。

幸い小さな洞穴も見つけたし、
病院へは私が運べば通いで来れるだろう……

まあ、魔獣がウヨウヨしてるのは玉に瑕だがな」

真面目な顔をしてデューデューがそう言った。

マグノリアはその話を聞いて、

「ふん……」

と真剣に考えてっぽそうだったけど、アーウィンが直ぐに、

「ダメだよ! そんな魔獣がウヨウヨいるところで絶対危ない!」

と猛反対した。

「まあ、それは後で考えてもいいが、
時間じゃないのか?」

デューデューに急かされ、

「そう、そう、で? 私達、どこへ行けばいいの?」

そうマグノリアが尋ねた。

「ちょっと待って、彼のくれた住所が……」

そう言って、内ポケットに入れておいたメモを取り出すと、
その住所を見た。

でもこの島に初めて来た二人は、
その住所の場所が全く分からない。

「う~ん、これはルビーに聞いた方が良いかもしれないな」

アーウィンがそう言うと、二人は出かける準備をした。

下へ降りていくと、夕食の時間が丁度終わったようで、
ルビーとスーが忙しく動き回りながら夕食の後かたずけをしていた。

「ルビー、お忙しい所をごめんなさい。

実はこの住所に行きたいんだけど、どこかわかるかしら?」

そう言ってマグノリアが住所を書いたメモを渡すと、
ルビーは

「どれ、どれ、」

そう言ってその住所をジーっと見つめた。

「ちょっと読みにくいけど、その住所の主はシユウって言って、
長い黒髪の男の人なんだけど」

そう言うと、

「あ~ あの人ね!」

と理解したようだった。

「シユウを知ってますか?」

そう尋ねると、

「知ってるも何も、彼はこの辺りでは有名人だよ」

そう言ってメモをピンと指ではじいた。

「有名……と言いますと?」

「いやね、数年前にこの島に移り住んできたんだけど、
ここらへんで目撃情報があったってだけで龍を追ってここまで来たらしくて……」

そこまで言われてドキッとした。

「龍……をですか?」

「そうよ~ あなたたち、龍を見たことある?」

ルビーにそう聞かれ挙動不審者の様に首を横に振った。

「彼は龍を追って来たって……それは龍に何をする為……に?」

恐る恐るそう尋ねると、ルビーは急に笑い出して、

「あの人ね、龍をこよなく愛する人間って自分の事をそう言ってるの。

噂ではね、先祖は海に沈んだ東の大陸の王家の人間だったらしけど、
こちらの大陸に移り住んでからはランドビゲン帝国の侯爵の位を貰ったらしいわよ。

今では彼が領主みたいだけど、領地には留まらずにあちこちを龍を求めてフラフラしているみたい。

領地には10頭近い龍を飼っているって噂だけどね」

そう言って事細かに教えてくれた。

”何だか予想とは思いっきり外れてしまったけど、
心配しなくてもいいかもしれない……”

「それで、彼の住んでいる場所は分かりますか?」

マグノリアがそう尋ねると、

「ああ、小さな島だからね、
彼の家はこの町の北側にある森の中にあるよ。

行けばすぐにわかるさ。

一軒家だからね」

そう言うとメモをアーウィンに渡した。

「分かったわ、北の森ね。

ありがとう」

マグノリアがお礼を言うと、

「あんたたち、今から行くのかい?

夜の森は暗くて何も見えないよ?

それでも行くんだったらちょっと待って」

そう言って、台所の奥からランプを持って来てくれた。

「油を足しておいたから今夜一晩は持つはずだよ。

この島には魔獣はいないから森でも行き易いが気を付けて行っておいで」

「ありがとう。

そう遅くならないうちに戻るわね」

マグノリアはそう言うと、コートのフードを深くかぶった。

アーウィンはランプを手に取ると、
ルビーに挨拶をし、二人は外に出た。

”デューデュー、居る?”

”ああ、ここにいるぞ”

”ねえ聞いた? シユウって龍愛好家みたいだね?

だからデューデューの鱗にあんな態度取ってたんだね。

デューデューには害は無さそうだけど、用心はしておいてね”

そう言ってアーウィンはクスッと笑った。

流し馬車を見つけると、二人は馬車に乗り込んだ。

「北にある森の入り口までお願いできますか?」

そう言うと、馬車は北の森へ向けて走り出した。

「マグノリア、馬車の振動は大丈夫?」

少し気分が悪そうなマグノリアにアーウィンが尋ねた。

「そうね少し酔ったみたいだから、森に着くまで横にならせて」

そう言うと、マグノリアはアーウィンの膝を枕に馬車のベンチに横になった。

この町は小さいとは良く言ったもので、馬車に乗ってから30分ほどもすると森の入り口に着いた。

二人はお金を払い馬車を降りると、ランプに火をともした。

ランプは割と明るく、広範囲に渡ってあたりを照らし出してくれた。

魔獣はいないと言っていたけど、いろんな動物の声が聞こえる。

中にはオオカミの遠吠えのような声も聞こえる。

マグノリアよりもアーウィンの方が

”ヒッ、ヒッ!”

と所々で飛び上がると、

「心配するな。奴らは私の気配を感じ取れる。

何も寄ってこないはずだ」

デューデューのその声に、

「本当に大丈夫? 襲ってきたりしない?」

と何度も、何度もしつこくアーウィンが尋ねた。

「アーウィン、しつこい! 少しはマグノリアを見習え!」

そう言ってデューデューがアーウィンを𠮟責していると、

「あ、あそこじゃない?」

マグノリアが差した指の先を見ると、
一軒の丸太で作ったようなログハウスの明かりがマグノリア達が立っている少し先に見えた。

「あ、きっとそうだ! はーやばかった~

まさか、あんなに獣がいるなんて! 

まあ、森の中と聞いたときに予想はするものだったな」

そう言ってアーウィンが肩をなでおろした。

そして一歩を進み出ようとした瞬間デューデューが、

「しまった、奴は……」

そう言ってしっかりと見たシユウの家の前には、
シユウが如何にもデューデューがやってくることを知っていたようにして
弓を構えて立っていた。

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