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時巡り2
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コツコツコツと近づいて来た足音は僕の隣で止まると
デューデューを見下ろした。
「アーレンハイム公、こちらを」
そう言って先に来ていた男が懐から何かを取り出すと、
叔父に大切そうに渡した。
叔父はそれを受け取ると、
「薬は効いて居るようだな」
そう言い受け取った物を胸にしまいながら床に伏して見上げる僕を見た。
一瞬僕は彼と目が合ったと思いドキッとした。
“僕の事が見えてる?”
でもそれも気のせいだったようだ。
彼はくるっと向きを変えると、
「間違っても殺すんじゃないぞ。
所で大賢者の行方はわかったのか?」
叔父はフードを深く被って一緒に来た男にそう尋ねた。
“大賢者?!
塔に居てダンジョンに呑み込まれたとか言う?!
彼は今でも生きてるの?!“
フードを被った男は、
「ダンジョンから逃亡して異次元へ続く扉を使ったところまではわかって居るのですが……」
そう言うと、フードを深く被り直した。
「異次元の扉か…… それは厄介だな……
異次元への扉を使ったと言うのは確かな情報か?」
「只今そちらの真偽の方も追っております。
分かり次第追って連絡致します」
フードを被った男がそう言うと、叔父は
「分かった。
引き続きこの扉には二重にも三重にも防壁を掛けておくように」
そう言って向きを変えた。
フードを被った男が一例をすると、叔父に続き皆が揃ってこの部屋から出た。
僕は床に横たわるデューデューにキスをするとその場から立ち上がった。
“デューデュー、絶対助けるからね。
頑張って待ってて”
そう言うと、彼らの後を追って僕も部屋を出た。
フードを被った男が扉に向かって手を差し出すと、
何やら呪文を唱え始めた。
“この人は魔法使いだったんだ……”
その男の手から紫色の魔法陣が扉に放たれると、
扉は紫色の光に包まれまた何の変哲もない普通の扉に戻った。
彼らはそれを確認すると、
禁断の間の入り口へと向かって歩き出した。
僕も彼らの後をついて入り口まで行った。
入り口まで行くと、魔法使いの男が扉に向かって手を翳した。
すると、扉の横にあった魔法の痕が光出した。
“この扉を破ったのはこの人だったんだ……”
「アーレンハイム公、この扉には未だ外から使われた痕跡はございません」
そうその男が言うと、叔父は、
“やはり兄上は此処へは訪れていない様だな”
そう呟くと、魔法使いに向かって頷いた。
魔法使いは又呪文を唱え始めると、
目の前にポータルが現れた。
“この人は召喚師なんだ……
人を移動すると言うことはかなりレベルの高い……“
そう思って居ると、彼らがそのポータルを潜り始めた。
”ヤバイ! 僕も付いて行かなきゃ!”
僕も急いで彼らに続いてポータルの中へ跳び入った。
そして僕が抜けた向こう側は彼らの行った先ではなかった。
そこにはもう彼らは居なかった。
“え? 叔父上達はどこに? それに此処は……”
僕はキョロキョロと辺りを見回した。
”間違いない、この場所は!”
僕が出た場所は僕がいつか夢で見たエレノアとメルデーナが居た綺麗な野原だった。
僕がその野原に居ると気付いたとたん、
叔父上とあの魔法使い、そして4、50人くらいの人々がその場になだれ込んできた。
その先にはメルデーナが叔父達が来るのを知っていたかのように待ち受けていた。
叔父達はメルデーナを囲むと、
「やはりお前が隠していたか」
そう言った叔父上の先には、ダリルの様に真っ黒な長い髪を後ろで一つにまとめた男が立っていた。
“黒髪の人……?!”
その人は見た感じでは父とそう歳が変わらない様な見栄えで、
大賢者のローブを着ていた。
大賢者のローブは禁断の書で見た事があった。
賢者のローブとは違い、何重にも重ね着されたローブは羽衣と呼ばれるらしく、
何重にも重ねられた割には鳥の羽の様に軽く、空を飛ぶこともでき、
水の中でも息ができる代物だ。
また容易く魔法を通さず、剣で斬る事ができない。
白地に金の模様を施したその衣は重ねた部分が虹色をして居る。
“この人は大賢者で間違いがないはず……
でも、何故大賢者がこんな所に?!
それに彼のあの見た目は…?!”
彼は何百年も前の人なのに全く歳を重ねていない。
僕は彼らのやりとりを注意深く聞き、そして見ていた。
彼らの話の筋によりと、塔がダンジョンに呑み込まれる寸前でメルデーナがこの場所に大賢者を召喚した様だ。
そしてこの地はメルデーナが収める地の精霊の空間。
此処では時間が止まり、歳を取らない。
だから大賢者は此処に召喚された日のままの姿を保っていた。
そしてこの場所は城の南にある森と空間が繋がっている。
それでメルデーナがあの森に現れた意味が分かった。
でも彼女が何処へ行ったのかは未だ不明なままだ。
僕がメルデーナの方へ回ると、なんとメルデーナが僕の方を見て語りかけて来た。
「貴方がエレノアの愛し子ですね」
僕はギョッとして彼女の方を見た。
「私が見えるのですか?」
そう尋ねると彼女は頷いた。
「あたなたが此処にいると言うことはエレノアは……」
そう言って彼女は悲しそうな顔をした。
「エレノアは囚われていると言っていました」
僕がそう言うと、
「私は……現世での私は今はどうしているのですか?」
そう言う彼女に更にギョッとして彼女から目を逸らした。
僕は顔を背けたまま
「何故そのような事を……」
そう尋ねると、彼女は全てわかっているような顔をして、
「……分かりました。ありがとう」
そう言った後、
「貴方は今時巡りをしていますね?」
と僕に尋ねた。
「時……巡り?」
僕が繰り返しそう尋ねると、彼女は頷いた。
「今起きている事は貴方にとっては過去にあった事ですよね?」
彼女のその言葉に僕は言葉を詰まらせ頷いた。
彼女は叔父の軍隊を向くと、
「ではあの灰色の子龍は今……」
そう言った。
「え? 灰色の子龍って……デューデューの事ですか?!
貴方はデューデューの事を知っているのですか?」
僕はメルデーナがデューデューの事を知っている事に驚いた。
彼女は僕を見ると微笑み、
「彼はデューデューと言うのですね」
そう言って優しそうな顔をした。
僕には彼らの関係がわからなかった。
エレノアもデューデューの事を知っているようだった。
でもデューデューは彼女らの事を聞いた事のように話した。
少なくとも面識は無いはずだ。
「貴方が時巡りをしていると言う事はエレノアの力を授かったのですね」
メルデーナのその言葉に僕は
「え?」
と呟いて彼女を見た。
「エレノアは全ての生ある者を司る事ができます」
「はい、聞いています」
そう言って頷いた。
「そうですか、既に聞いていましたか……
それとエレノアにはもう一つ、人の時間を遡って巡る事ができるのです。
おそらく彼女の力を受け取った反動で貴方に時巡りが起きているのでしょう」
そう彼女は説明してくれた。
「貴方には僕が時を巡っていると言う事が分かるのですね」
「ええ、エレノアは私の双子の姉妹。
私達はお互いの魔力を感じる事ができます。
ですがもうずっと彼女の魔力を感じる事が出来ません。
あの日彼を探しに行くと出て行った日から……
それなのに貴方からはエレノアの時巡りの魔力を感じます……
エレノアが貴方に魔力を捧げたと言う事は
彼女の身に何かあって、その上にデューデューの身に危険な事が起こったと言う事ですね」
彼女は即座に今現世で起こっている事を理解した。
「あの、貴方がたとデューデューの関係は?」
そう尋ねると、彼女はただ微笑むだけだった。
「最後に一つ、私の現在の状態を教えてください」
彼女の真剣な瞳に、僕は事を誤魔化す事が出来なかった。
僕はゴクリト唾を飲み込むと、深呼吸してゆっくりと、
「貴方はには呪いの術がかけられています。
ある日突然森に現れ、城の騎士達を襲ったあと、何処かに消えていきました。
今では行方知れずです」
そう言うと彼女は、
「そうですか…… 正直に教えて下さり有り難うございました。
今の私では余り力になれませんが、どうかデューデューを頼みます。
そして貴方は次の時巡りへ……どうか光が貴方を導きますように…」
そう言うと、彼女はポータルを召喚し、
「此処へお入りなさい。
貴方が次へゆく道を示してくれるでしょう」
そう言い残すと、森に現れたように巨大化した。
彼女はもう一度、
「どうか、どうか、デューデューを助けてください」
そう言うと、叔父の軍団に向けて一歩を踏み出した。
僕は
“必ず貴方を呪いから解き放つ術を見つけます!”
そう呟くと、僕はそのポータルを潜った。
僕が次に行き着いた所は荒野だった。
“あれ? 此処は……”
そう呟いて周りを見回した。
僕が新しく踏み出した大地は、
今まで僕が話をしていた場所、メルデーナが収める地の精霊の空間だった。
でも先程とは打って変わって、草木は枯れ花も咲かず、川は流れを止め、湖は干上がり、
主を失ったその地はその生命力さえも失い荒野と化した姿だった。
“そんな……”
呆けていると、急にポータルが現れ、
メルデーナを襲った軍隊と叔父が姿を現した。
”何故あなたがここに?!”
僕はツカツカと叔父に歩みよると、
「あなたと言う人は! 信頼していたのに!」
そう言って胸倉をつかもうとしたけど、
僕の手はスルッと叔父の胸をすり抜けた。
ワナワナと震え叔父をにらんでいると、
叔父の後に続いてあの大賢者が魔法の鎖につながれて姿を現した。
大賢者は禍々しく真っ黒に染まった靄を纏い
彼が闇に落ちているのが見て取れた。
”そんな……”
僕は更に怒りが増してきた。
その時、大賢者が手を振りかざした。
僕はそれに釣られ天を見上げた。
すると天空に黒いモヤがトグロを巻いて現れ始め、
それが巨大になるとポータルへと変化した。
”何だあの禍々しいポータルは……魔神でも出てくるのか?!”
そう思った瞬間、そのポータルが開き、
そこから魔神ではなくデューデューが落ちてきた。
“えっっっっ?!”
余りにも早く事が起き、、
とっさに起きたそのことに僕の頭が追い付いて行かなかった。
”これは何だ! 一体何が起きているんだ!
何故叔父上はデューデューを狙うんだ!”
僕の息がどんどん荒くなり、
自分の見ていることが信じられなかった。
叔父が引き連れてきた軍隊はデューデューが落ちてくるなり、一斉にデューデューに襲い掛かった。
幾らデューデューでも、50人の軍隊に襲われればひとたまりも無い。
それもこの軍隊は地の守り神であるメルデーナを射った軍隊だ。
それに軍隊とは言っても、普通の軍隊とは違う。
騎士、狩人、魔法使い、回復師などがバランス良く交わり、
統率が取れていた。
まるで前にアーウィンに聞いていたギルドによるレイドそのものだ。
“叔父上はこの人達を一体何処から連れて来たんだ?!”
向こうでは大勢がデューデューに切り込んで、デューデューは大きな翼をバタつかせながら必死に抵抗し苦しみながら叫んでいた。
「やめろー!!!!! やめてくれ!」
僕はそう叫んで叔父に襲い掛かった。
でもただすり抜けるだけで、
叔父を止めるどころか僕は彼の腕をつかむことも出来なかった。
僕は頭を抱えて襲われるデューデューの前で泣き叫ぶ事しかできなかった。
『少年よ、私の声が聞こえるか?』
“えっ?”
その時僕の頭の中にはっきりとその声が響いた。
僕はキョロキョロと辺りを見回した。
『少年よ、私は少しの間しか自我を持つことが出来ない。
奴らに捕まってしまった私を許しておくれ』
その時視線を感じ僕はハッとして大賢者を見た。
『もしかして…… あなたなのですか?
私の頭の中に語り掛けてるのはあなたなのですか?!』
そう言うと彼は僕をみた。
はっきりと彼と目が合い、僕は確信した。
『私の声が聞こえているようだな。
少年よ……私にはもう時間がない……
これからあなたにある呪文を授ける。
そなたの大切な者に何かあるときはその者に触れ、この呪文を唱えよ』
そう言って彼は僕に念を移した。
その瞬間、僕の中に一つの呪文が浮かび上がった。
『この呪文は?』
そう尋ねると、
『この戦いは世界をも変えてしまう戦いだ。
もし……もし万が一戦いに敗れ、そなたが死の淵にある時、そなたを助ける道筋となろう』
そう言った後彼は苦しみ始めた。
『すまない、もう限界が来たようだ。
これからポータルを開ける。
そこから現世に戻りなさい。
そして私の少しの力をこの龍に授けよう。
皆を頼む』
そう言うと彼は又苦しみ始めた。
デューデューを見ると、
もう地上に落ちてきた時の姿と近いものになっている。
僕は大賢者を見つめると、頷いた。
大賢者は苦しそうに宙を見つめると、
そこにポータルを発現させた。
彼が残った魔力を振り絞りデューデューをそこに投げ入れると、
『今だ!』
彼が叫んだので僕はポータルに飛び込んだ。
デューデューを見下ろした。
「アーレンハイム公、こちらを」
そう言って先に来ていた男が懐から何かを取り出すと、
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一瞬僕は彼と目が合ったと思いドキッとした。
“僕の事が見えてる?”
でもそれも気のせいだったようだ。
彼はくるっと向きを変えると、
「間違っても殺すんじゃないぞ。
所で大賢者の行方はわかったのか?」
叔父はフードを深く被って一緒に来た男にそう尋ねた。
“大賢者?!
塔に居てダンジョンに呑み込まれたとか言う?!
彼は今でも生きてるの?!“
フードを被った男は、
「ダンジョンから逃亡して異次元へ続く扉を使ったところまではわかって居るのですが……」
そう言うと、フードを深く被り直した。
「異次元の扉か…… それは厄介だな……
異次元への扉を使ったと言うのは確かな情報か?」
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分かり次第追って連絡致します」
フードを被った男がそう言うと、叔父は
「分かった。
引き続きこの扉には二重にも三重にも防壁を掛けておくように」
そう言って向きを変えた。
フードを被った男が一例をすると、叔父に続き皆が揃ってこの部屋から出た。
僕は床に横たわるデューデューにキスをするとその場から立ち上がった。
“デューデュー、絶対助けるからね。
頑張って待ってて”
そう言うと、彼らの後を追って僕も部屋を出た。
フードを被った男が扉に向かって手を差し出すと、
何やら呪文を唱え始めた。
“この人は魔法使いだったんだ……”
その男の手から紫色の魔法陣が扉に放たれると、
扉は紫色の光に包まれまた何の変哲もない普通の扉に戻った。
彼らはそれを確認すると、
禁断の間の入り口へと向かって歩き出した。
僕も彼らの後をついて入り口まで行った。
入り口まで行くと、魔法使いの男が扉に向かって手を翳した。
すると、扉の横にあった魔法の痕が光出した。
“この扉を破ったのはこの人だったんだ……”
「アーレンハイム公、この扉には未だ外から使われた痕跡はございません」
そうその男が言うと、叔父は、
“やはり兄上は此処へは訪れていない様だな”
そう呟くと、魔法使いに向かって頷いた。
魔法使いは又呪文を唱え始めると、
目の前にポータルが現れた。
“この人は召喚師なんだ……
人を移動すると言うことはかなりレベルの高い……“
そう思って居ると、彼らがそのポータルを潜り始めた。
”ヤバイ! 僕も付いて行かなきゃ!”
僕も急いで彼らに続いてポータルの中へ跳び入った。
そして僕が抜けた向こう側は彼らの行った先ではなかった。
そこにはもう彼らは居なかった。
“え? 叔父上達はどこに? それに此処は……”
僕はキョロキョロと辺りを見回した。
”間違いない、この場所は!”
僕が出た場所は僕がいつか夢で見たエレノアとメルデーナが居た綺麗な野原だった。
僕がその野原に居ると気付いたとたん、
叔父上とあの魔法使い、そして4、50人くらいの人々がその場になだれ込んできた。
その先にはメルデーナが叔父達が来るのを知っていたかのように待ち受けていた。
叔父達はメルデーナを囲むと、
「やはりお前が隠していたか」
そう言った叔父上の先には、ダリルの様に真っ黒な長い髪を後ろで一つにまとめた男が立っていた。
“黒髪の人……?!”
その人は見た感じでは父とそう歳が変わらない様な見栄えで、
大賢者のローブを着ていた。
大賢者のローブは禁断の書で見た事があった。
賢者のローブとは違い、何重にも重ね着されたローブは羽衣と呼ばれるらしく、
何重にも重ねられた割には鳥の羽の様に軽く、空を飛ぶこともでき、
水の中でも息ができる代物だ。
また容易く魔法を通さず、剣で斬る事ができない。
白地に金の模様を施したその衣は重ねた部分が虹色をして居る。
“この人は大賢者で間違いがないはず……
でも、何故大賢者がこんな所に?!
それに彼のあの見た目は…?!”
彼は何百年も前の人なのに全く歳を重ねていない。
僕は彼らのやりとりを注意深く聞き、そして見ていた。
彼らの話の筋によりと、塔がダンジョンに呑み込まれる寸前でメルデーナがこの場所に大賢者を召喚した様だ。
そしてこの地はメルデーナが収める地の精霊の空間。
此処では時間が止まり、歳を取らない。
だから大賢者は此処に召喚された日のままの姿を保っていた。
そしてこの場所は城の南にある森と空間が繋がっている。
それでメルデーナがあの森に現れた意味が分かった。
でも彼女が何処へ行ったのかは未だ不明なままだ。
僕がメルデーナの方へ回ると、なんとメルデーナが僕の方を見て語りかけて来た。
「貴方がエレノアの愛し子ですね」
僕はギョッとして彼女の方を見た。
「私が見えるのですか?」
そう尋ねると彼女は頷いた。
「あたなたが此処にいると言うことはエレノアは……」
そう言って彼女は悲しそうな顔をした。
「エレノアは囚われていると言っていました」
僕がそう言うと、
「私は……現世での私は今はどうしているのですか?」
そう言う彼女に更にギョッとして彼女から目を逸らした。
僕は顔を背けたまま
「何故そのような事を……」
そう尋ねると、彼女は全てわかっているような顔をして、
「……分かりました。ありがとう」
そう言った後、
「貴方は今時巡りをしていますね?」
と僕に尋ねた。
「時……巡り?」
僕が繰り返しそう尋ねると、彼女は頷いた。
「今起きている事は貴方にとっては過去にあった事ですよね?」
彼女のその言葉に僕は言葉を詰まらせ頷いた。
彼女は叔父の軍隊を向くと、
「ではあの灰色の子龍は今……」
そう言った。
「え? 灰色の子龍って……デューデューの事ですか?!
貴方はデューデューの事を知っているのですか?」
僕はメルデーナがデューデューの事を知っている事に驚いた。
彼女は僕を見ると微笑み、
「彼はデューデューと言うのですね」
そう言って優しそうな顔をした。
僕には彼らの関係がわからなかった。
エレノアもデューデューの事を知っているようだった。
でもデューデューは彼女らの事を聞いた事のように話した。
少なくとも面識は無いはずだ。
「貴方が時巡りをしていると言う事はエレノアの力を授かったのですね」
メルデーナのその言葉に僕は
「え?」
と呟いて彼女を見た。
「エレノアは全ての生ある者を司る事ができます」
「はい、聞いています」
そう言って頷いた。
「そうですか、既に聞いていましたか……
それとエレノアにはもう一つ、人の時間を遡って巡る事ができるのです。
おそらく彼女の力を受け取った反動で貴方に時巡りが起きているのでしょう」
そう彼女は説明してくれた。
「貴方には僕が時を巡っていると言う事が分かるのですね」
「ええ、エレノアは私の双子の姉妹。
私達はお互いの魔力を感じる事ができます。
ですがもうずっと彼女の魔力を感じる事が出来ません。
あの日彼を探しに行くと出て行った日から……
それなのに貴方からはエレノアの時巡りの魔力を感じます……
エレノアが貴方に魔力を捧げたと言う事は
彼女の身に何かあって、その上にデューデューの身に危険な事が起こったと言う事ですね」
彼女は即座に今現世で起こっている事を理解した。
「あの、貴方がたとデューデューの関係は?」
そう尋ねると、彼女はただ微笑むだけだった。
「最後に一つ、私の現在の状態を教えてください」
彼女の真剣な瞳に、僕は事を誤魔化す事が出来なかった。
僕はゴクリト唾を飲み込むと、深呼吸してゆっくりと、
「貴方はには呪いの術がかけられています。
ある日突然森に現れ、城の騎士達を襲ったあと、何処かに消えていきました。
今では行方知れずです」
そう言うと彼女は、
「そうですか…… 正直に教えて下さり有り難うございました。
今の私では余り力になれませんが、どうかデューデューを頼みます。
そして貴方は次の時巡りへ……どうか光が貴方を導きますように…」
そう言うと、彼女はポータルを召喚し、
「此処へお入りなさい。
貴方が次へゆく道を示してくれるでしょう」
そう言い残すと、森に現れたように巨大化した。
彼女はもう一度、
「どうか、どうか、デューデューを助けてください」
そう言うと、叔父の軍団に向けて一歩を踏み出した。
僕は
“必ず貴方を呪いから解き放つ術を見つけます!”
そう呟くと、僕はそのポータルを潜った。
僕が次に行き着いた所は荒野だった。
“あれ? 此処は……”
そう呟いて周りを見回した。
僕が新しく踏み出した大地は、
今まで僕が話をしていた場所、メルデーナが収める地の精霊の空間だった。
でも先程とは打って変わって、草木は枯れ花も咲かず、川は流れを止め、湖は干上がり、
主を失ったその地はその生命力さえも失い荒野と化した姿だった。
“そんな……”
呆けていると、急にポータルが現れ、
メルデーナを襲った軍隊と叔父が姿を現した。
”何故あなたがここに?!”
僕はツカツカと叔父に歩みよると、
「あなたと言う人は! 信頼していたのに!」
そう言って胸倉をつかもうとしたけど、
僕の手はスルッと叔父の胸をすり抜けた。
ワナワナと震え叔父をにらんでいると、
叔父の後に続いてあの大賢者が魔法の鎖につながれて姿を現した。
大賢者は禍々しく真っ黒に染まった靄を纏い
彼が闇に落ちているのが見て取れた。
”そんな……”
僕は更に怒りが増してきた。
その時、大賢者が手を振りかざした。
僕はそれに釣られ天を見上げた。
すると天空に黒いモヤがトグロを巻いて現れ始め、
それが巨大になるとポータルへと変化した。
”何だあの禍々しいポータルは……魔神でも出てくるのか?!”
そう思った瞬間、そのポータルが開き、
そこから魔神ではなくデューデューが落ちてきた。
“えっっっっ?!”
余りにも早く事が起き、、
とっさに起きたそのことに僕の頭が追い付いて行かなかった。
”これは何だ! 一体何が起きているんだ!
何故叔父上はデューデューを狙うんだ!”
僕の息がどんどん荒くなり、
自分の見ていることが信じられなかった。
叔父が引き連れてきた軍隊はデューデューが落ちてくるなり、一斉にデューデューに襲い掛かった。
幾らデューデューでも、50人の軍隊に襲われればひとたまりも無い。
それもこの軍隊は地の守り神であるメルデーナを射った軍隊だ。
それに軍隊とは言っても、普通の軍隊とは違う。
騎士、狩人、魔法使い、回復師などがバランス良く交わり、
統率が取れていた。
まるで前にアーウィンに聞いていたギルドによるレイドそのものだ。
“叔父上はこの人達を一体何処から連れて来たんだ?!”
向こうでは大勢がデューデューに切り込んで、デューデューは大きな翼をバタつかせながら必死に抵抗し苦しみながら叫んでいた。
「やめろー!!!!! やめてくれ!」
僕はそう叫んで叔父に襲い掛かった。
でもただすり抜けるだけで、
叔父を止めるどころか僕は彼の腕をつかむことも出来なかった。
僕は頭を抱えて襲われるデューデューの前で泣き叫ぶ事しかできなかった。
『少年よ、私の声が聞こえるか?』
“えっ?”
その時僕の頭の中にはっきりとその声が響いた。
僕はキョロキョロと辺りを見回した。
『少年よ、私は少しの間しか自我を持つことが出来ない。
奴らに捕まってしまった私を許しておくれ』
その時視線を感じ僕はハッとして大賢者を見た。
『もしかして…… あなたなのですか?
私の頭の中に語り掛けてるのはあなたなのですか?!』
そう言うと彼は僕をみた。
はっきりと彼と目が合い、僕は確信した。
『私の声が聞こえているようだな。
少年よ……私にはもう時間がない……
これからあなたにある呪文を授ける。
そなたの大切な者に何かあるときはその者に触れ、この呪文を唱えよ』
そう言って彼は僕に念を移した。
その瞬間、僕の中に一つの呪文が浮かび上がった。
『この呪文は?』
そう尋ねると、
『この戦いは世界をも変えてしまう戦いだ。
もし……もし万が一戦いに敗れ、そなたが死の淵にある時、そなたを助ける道筋となろう』
そう言った後彼は苦しみ始めた。
『すまない、もう限界が来たようだ。
これからポータルを開ける。
そこから現世に戻りなさい。
そして私の少しの力をこの龍に授けよう。
皆を頼む』
そう言うと彼は又苦しみ始めた。
デューデューを見ると、
もう地上に落ちてきた時の姿と近いものになっている。
僕は大賢者を見つめると、頷いた。
大賢者は苦しそうに宙を見つめると、
そこにポータルを発現させた。
彼が残った魔力を振り絞りデューデューをそこに投げ入れると、
『今だ!』
彼が叫んだので僕はポータルに飛び込んだ。
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ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
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明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
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