龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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幕開け

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「ジェイド殿下…」

ダリルの囁く声で目を覚ました。

「う~ん…ダリル?

どうしたの? 未だ夜明けには早いよ?

今日何か予定あったっけ?」

寝ぼけ眼を擦りながら数回瞬きをすると、
ダリルがスッと体を滑らせる様にして
当たり前の様に僕のベッドのサイドに腰を下ろした。

「ダ…ダ…ダリル?! 何してるの?!」

何時ものダリルらしく無く、
何が起きてるのかとあたふたとすると、
ダリルの夜空に星を散りばめた様な潤んだ真っ黒な瞳が
僕の顔に近付いてきた。

「ダリル?!

本当にどうしたの?!」

その瞳に吸い込まれそうになり、
僕はジリジリと後退りした。

突然の事で握りしめたシーツが
僕と一緒に後ろにズレて床に落ちた。

「アッ…」

と言うま間も無く、
ダリルはジリジリと僕に近づくと、

「殿下……どうか私を受け入れて下さい」

そう言ってダリルはスルリとガウンを脱ぎ捨てその胸を露わにした。

“ヒイ~ッ“

何が起きてるのか分からない中、

「ジェイド……私の可愛いジェイド……」

と、ダリルの少し潤んだ
ほんのりと桃色に染まった唇が僕の名を呼んだ。

「何、何? 一体何事?! 君、本当にダリル?!」

何時もは見ない様なダリルの行動に少し……

いや、かなり戸惑った。

ダリルはこれまで僕の名を呼び捨てにした事がない。

それなのに連発して僕の名を呼んだ。

「ジェイド、私のこの胸の高鳴りを感じて下さい」

そう言って剥き出しになったダリルの逞しい胸が近づいて来た。

”は? え? はい?! む…胸?!“

僕はどんどん近付いて来るダリルの胸を凝視したまま
その場に固まった。

ダリルはそこで固まる僕の頬に優しくそっと触れると、
僕をグイッと自分に引き寄せ、

「あ~、本当はずっとジェイドとこんな事がしたかった」

そう言って僕の頬を両手で掴み自分の方へ向かせると、
その顔を近付け自分の唇を僕の唇に重ねた。

「ウ……ン……ン……」

いきなり重ねられた唇に、
僕は息をするのを忘れ、両目を見開いた。

でもそれも束の間、
僕は気付くと両腕をダリルの首に回し、
自分からそれをねだっていた。

「ハァ、ハァ、ダ……ダリル…… もっと……」

ピタリと合わさった様に吸い付いて来る
ダリルの柔らかい唇は気持ち良すぎて
急に僕の理性が崩れ去り、
僕はダリルがなすがままにその手に我が身を委ねた。

途端に体に力が入らなくなり、
腰のあたりが砕けた様になった。

お腹に力が入らず、
座っていることも出来なくなり、
僕はよろめいてダリルの胸に顔を埋めた。

”あ……お腹が……”

途端、お腹のあたりがモゾモゾとし、
下半身が凄く熱くなり始めた。

お腹をダリルの胸に押し付けて擦る合わせると、
ダリルの手が僕のガウンの下に伸びて来た。

その瞬間、僕は下半身に気持ち悪さを覚えて

『跳び起きた』

「え? あれ? ダリル?」

僕の息は乱れてハァハァと荒く、
肩は大きく上下している。

まだ暗い部屋の中を見回してもシーンとして、
誰1人としてそこには居ない。

”あれ? ゆ……め……?

うわー!!! 僕はなんて破廉恥な夢を!”

穴があったら入りたいと言う気分だった。

”でも…ダリルの唇、柔らかかった…

あ~もう一度寝直して同じ夢を~“

そう一人で悶えていた時、
下半身に不愉快さを覚えた。

”え?! おも…らし…?!“

僕はそっと下を向いてパンツの中に手を入れ、
その場所を確認した。

不意に触ったニュルッとした感覚に

「ギャーッッッッッ!!!!!」

と思わず大声で叫んでしまった。

僕の声は部屋中に響き渡り、
その声を聴いたアーウィンとダリルが
着るものも着らず上半身裸で駆けつけてきた。

僕はたった今見ていた夢とその光景が重なって
目がチカチカとした。

「殿下!」

「ジェイド!」

2人とも素早く僕の前に躍り出た。

流石のダリルはこんな真夜中の出来事なのに、
しっかりと剣を抱えている。

アーウィンだって僕の前に立ちはだかり
両手を広げて僕の身を守ろうとしている。

すぐさまダリルがランプに火をともすと、
その灯りが部屋の中を照らし出した。

ダリルは部屋に誰もいない事を確認して、
窓に歩み寄り、両手でガタガタと閉まっていることも確認した。

その間アーウィンは、

「誰か来たの?

何かされた?

ケガはない?」

そう言って僕の頬をペチペチと触っていた。

僕は2人の素早さに呆気に取られながら
ブンブンと首を振ると、
ランプを持ってきたダリルの明かりで
僕の全身が照らし出された。

そして僕の哀れな姿を見て二人は絶句した。

それは僕が真っ青になってパンツの中心を
指で摘んで肌に触らないように離して持っていたから。

そんな局部はジワーッと濡れて、
その部分が少しシミのようになっていた。

僕はハッとすると、

「違うよ! お漏らしじゃないよ!」

そう言って叫んだ。

僕のそんな姿をダリルとアーウィンは
共にに見合って大笑いをした。

「な~んだジェイド、大人になっただけじゃないか~

何あんな大声出して! 

僕、盗賊か何かが忍び込んできたのかと肝を冷やしたよ!

どうする? マギーを呼ぶ? それとも僕が着替えを手伝おうか?」

アーウィンがプククと笑いを堪えながら
僕のクローゼットに着替えを取りに行った。

ダリルは僕の隣に立って僕の事を見下ろしながら、

「殿下はこの事はもう既に学んでいらっしゃいますよね?」

と少し小馬鹿にしたようして尋ねた。

何だかダリルに全て見透かれた様な気がして、
僕は恥ずかしさの余りダリルの顔が見れなかった。

いや、本当は普通に尋ねただけなんだろうけど、
僕は夢の事を思い出して凄く気まずくなった。

ドギマギとしながらシドロモドロに、

「あーうん、学んだには学んだんだけど……

すっかり忘れちゃってたし……

ちょっと想像と違ってた……かな……?」

と言ってプイッとそっぽを向いた。

”あれ? 今のは印象悪かったかな?”

そう思ったけど、
恥ずかしくてダリルの顔がまともに見れない。

僕がソッポを向いていると、

「ほらジェイド、これに着替えて!

ガウンもちょっと汚れちゃってるから、
これもね」

そう言ってアーウィンが
真新しいパンツとナイトガウンを持って来てくれた。

「ありがとう……

でもどうしよう~ 気持ち悪くて動けない~」

アーウィンには思いっきり甘えて我が儘が言える。

そんな僕に見かねたのか、
ダリルは僕の腰に腕を回すと、
ヒョイッと抱え上げてベッドの上に立たせてくれた。

そんなダリルの行動に僕はタジタジだ。

夢が夢だっただけに、
余計に身構えてしまう。

僕がモタモタとしていると、
何を思ったのかダリルにシュルッとパンツを脱がされて、
僕は又ビクッとして後ずさりした。

でも運悪く、僕は物の見事に
前を思いっきりはだけさせて後ろに転んでしまった。

そんな僕の哀れな姿をアーウィンはじっと見て、

「へージェイドも大人になったんだね~

僕のより大きいや!」

目を大きく見開いてダリルの顔を見た。

そして悪気があるのか無いのか、

「でも、ダリル様はこれよりも立派ですよね?!

体も私達より大きいし!」

と、全く坊主は恥じらいを知らないのか?!

それとも男同士だとこういうものなのか?

僕にはそこは全く分からなかったけど、
僕には十分恥ずかしかった。

”見られた! ダリルに見られた!”

その事ばかりが頭の中をグルグルとしていた。

いや、アーウィンだったら見られても良いって訳じゃないけど、
ダリルに見られたショックが大きすぎて、
アーウィンに見られた事など、どうでも良くなっていた。

ダリルの反応が気になり、
彼の顔をチラッと見ると、
彼は全然気にしないような素振りで僕に手を差し出した。

僕はまだショックが大きくて、
夢の事も相まって、
前を隠すのも忘れてその手を取ることを躊躇した。

「殿下?」

変に思ったダリルが強制的に僕の腕を掴んで引き上げた。

「ヒ~ ごめんなさ~い!!

はしたない物をお見せしました!」

そう言って土下座すると、

「同じ男同士です。

お気になさらすに。

それに殿下は臣下に対して膝を付くものではありません」

そう、すらりと返すダリルに、

”やはり男同士ってこういうものか?”

と思った瞬間、彼の耳が真っ赤になっている事に気付いた。

それにつられて真っ赤になってしまった僕に、

「何? ジェイド、恥ずかしいの?

君って情緒があったんだね。

そんなの気にしなくていいのに!

同じ男同士だし! 同じもの付いてるし!

男だったら皆が通る同じ道だよ!」

そう言って笑うアーウィンに石を投げてやりたくなった。

前を濡れたタオルで拭こうとするアーウィンから
タオルを取り上げると、
僕はサッと自分で身を洗い新しい服に着替えた。

「ハ~ ほんと、ジェイドって人騒がせだよね~!

根っからの箱入り息子なんだよね~

こんなことも1人で処理できないなんて!

僕なんて初めての時なんて大人になった~!って
小躍りしたくらいだよ。

まあ、王子様だから仕方ないか~

で? ダリル様はどうでしたか?」

とまたダリルに振っていく。

「ちょっと、ちょっと、それはもう良いから、
日が昇るまで寝かせて!

昨日は色々ありすぎて疲れたから!」

僕が話を逸らそうとそう言うと、

「昨日はデューデューの所に行ったんだよね?

僕も連れて行ってくれればよかったのに!

で? デューデューとは何を話したの?

彼は元気だった?」

と、本当、どの口が言う。

もともとはアーウィンがあんな場所で
マグノリアとイチャイチャしてたから
色々あったのに。

でも僕はアーウィンもマグノリアも大好きだから、
本当に二人には幸せになってもらいたい。

「デューデューはすこぶる元気!

昨日も東の大陸について
何か知ってるか聞きたくて行ってみただけ!」

そう言うと、

「ジェイドって東の大陸が気に入ったんだね~

で? デューデューはなんだって?

何か知ってた?

東の大陸が滅んだのってデューデューが生まれる前だからね~

いくらデューデューが物知りっていっても、
生まれる前だから知らなかったんじゃないの?!」

そう言いながら僕のベッドに滑り込んできた。

「ちょっと、アーウィン、何してるの?」

僕がそう尋ねると、
彼はリラックスしたようにして伸びをすると、

「もうあと少しで陽も登るから、
もうここでいいじゃない!」

そう言うと、フワ~っと大きなあくびをした。

「ダリル様も入りますか?

3人入っても随分余裕がありますよ?

シーツも新しいのに変えたし、
ジェイドの粗相はきれいさっぱりですよ!」

そう言うと、スースーと寝始めた。

”僕のベッドなのに何勝手に?!

まあ、ダリルだったら僕の方からお願い…あ、いや、そうじゃ無くて……

うわーなんて寝つきのいい奴……”

そう思いながらもついでに僕も

「ダリルも一緒に入る?」

そう尋ねてシーツをまくり上げた。

さりげなく尋ねたのに、
心臓はバクバク鳴っている。

「いえ、私はもう起きて剣の鍛錬の準備を致します。

それまでは何かありましたら隣にいますので、
お声をおかけ下さい」

「今日は色々とありがとう、
変なことに付き合わせちゃって本当にごめんね」

あまりに緊張に声が裏返った。

ダリルはドアの所で一礼すると、
恥ずかしそうにして続きのドアから
自分の部屋へと戻って行った。

ドアがパタリとしまった瞬間、
凄く胸が苦しくなり、
凄くダリルが好きだと思った。

あの護衛時の鉄仮面と
プライベートのシャイな面のギャップが凄くて、
そこが可愛いと思った。

僕だけに見せてくれる彼の真の姿が
凄く愛おしいと思った。

”どうしよう…… 僕はこの気持ちを
隠し続けることが出来るのだろうか?”

僕は隣でもう既に寝入ったアーウィンを見て、
お昼のマグノリアとのやり取りを思い出し、
彼らの思いにも凄く胸が苦しくなった。

”どうしたらみんなが幸せになれるんだろう?

どうしたら僕やダリルのように
男性しか愛せない者が報われるんだろう?

僕は幸せになりたい。

ダリルにも幸せになってほしい。

ダリル、ダリル!”

ダリルの事を考えて胸が張り裂けそうになった時に、

”ズンッ!”

と物凄い爆発音が森の奥から聞こえ、

”ゴゴゴゴゴー”

っと地鳴りのような大きな音がしたかと思うと、
急に地が揺れ始めた。

「何?! 何?! 何?!」

アーウィンが再びびっくりして跳び起きた。

「殿下! 大丈夫ですか?!」

ダリルも再び僕の部屋へ飛び込んできた。

僕は初めて経験する地面の揺れに体を揺さぶられながら、
必死にベッドのポールに捕まっていた。

アーウィンも真っ青な顔をして僕の腰にしがみつき、
何やら怪しげな呪文を唱えていた。

ダリルは立っていられない様な振動の中、
窓まで這いつくばる様に移動すると、
その扉を開け外を見回した。

お城の色んな所では悲鳴が上がっている。

きっと王都もパニックになっているはずだ。

「一体何が起こっているんだ?!」

外の風景を見ながらダリルが呟いた。

その振動は本の少しの間続いて収まったけど、
これがこれから僕達の身に起こる
最初の幕開けとなった事はこの時の僕達は知る由もなかった。







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