龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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マグノリアの本音

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マグノリアの思いがけない登場は
僕の思考を一瞬停止させた。

僕はそこで跪くマグノリアを
まるで夢を見ているかのように見つめていた。

マグノリアは挨拶を終え立ち上がると、
今度は僕の前へ来て跪いた。

「この度ジェイド殿下の婚約者として
馳せ参じましたマグノリアと申します。

これから末永くお付き合い下さいますよう
お願い申し上げます」

マグノリアが僕に向かって挨拶をしているのに、
僕は思考回路が閉じたまま、
僕の前で頭を下げるマグノリアのつむじを眺めていた。

そして2,3ど瞬きをして、

”ちょっと待って、今確か、マグノリアが
僕の婚約者だって言ったよね?

昼間会ったこの人が僕の婚約者?!

アーウィンと仲良く話をしていたこの人が?!

アーウィンが天使って言ってたこの人が?!

僕の婚約者?!  ほんとに?!

でもマグノリアって僕より年上っぽくない?

本当に僕はこの人と結婚するの?!”

僕はアーウィンが言った、

”可憐”

も、

”天使”

も、

”お花みたい”

とも、なにも思わなかったし感じなかった。

”そうだ、アーウィン!”

僕がチラッとアーウィンの方を見ると、
彼は引き攣った様な顔を僕に見せた。

ダリルの方を見ると、
彼はちょっと困ったような顔をしていた。

もう一度オリビアを見ると、
彼女はニコニコとして僕の方を見ていた。

”殿下、ご挨拶!”

後ろからダリルが囁いた。

僕はピシッと背筋を張りなおして、

「はっ、はい。

この度は遠い所、
足を運んで頂き有難うございました。

至らぬ所もあると思いますが、
よろしくお願いします」

何度も、何度もこの日の為に
挨拶を練習したのに、
予期せぬハプニングで頭が付いてこない。

でも僕の挨拶が終わった時点で、
僕の婚約が発表された。

謁見の間に大きな喝采と拍手が起こると、
皆はボールルームへと移動した。

でも僕とマグノリアはまだ謁見の間に残された。

もちろん、アーウィンもダリルも此処にいる。

僕は少しソワソワとしてきた。

何だか凄く居心地が悪い。

「ジェイド……」

父が僕の名を呼んだ。

「はい、父上!」

「改めて紹介しておこう。

こちらがマグノリアだ」

父がそう紹介すると、
マグノリアはドレスを掴み会釈すると、

「先ほど殿下とはお会い致しました」

そう言ったマグノリアに対して、

「じゃあ紹介は省いてもいいな。

ではこれからの事を少し話をしよう。

ランカスより説明がある」

そうい言って、宰相のランカスを呼んだ。

ランカスはクルクルと丸めた証書を持ってくると、
それを広げて一つ咳ばらいをすると、
確認事項のようにこれからの事を読み上げて行った。

「マグノリア殿下は御年で13歳になられます」

”へっ?! 僕より5歳も年上?!

王家の人間は8歳になると婚約するんじゃなかったの?!

なぜ13歳の今?! それにちょっと年が離れてない?”

それが僕がマグノリアに対して抱いた第一印象だった。

「えーそれと、マグノリア殿下にはこちらのお城で
ジェイド殿下が13歳になられるまで
お妃教育を受けていただくことになります」

”えっ?! 一緒に住むの?!

部屋は?! もちろん別だよね?!”

それが二番目に感じたことだった。

「ジェイド殿下が13歳になられて
成人の戴冠が行われた直ぐ後、婚姻の儀が行われます」

”嫌だ! やっぱり結婚なんて無理だ!”

それが僕が最終的に感じた事だった。

「マグノリア殿下のお部屋はお妃様用の棟にご用意致しております。

殿下の使用人のお部屋はこちらの使用人の部屋の棟にございます。

そちらは既に荷物も運び終え、
城の案内も終えております」

ランカスが説明を全て終えると、

「それでは殿下方も会場の方へ」

そう言われ、僕は足取り重くボールルームの方へ進んだ。

そして僕と同じように足取りの重いものが約1名。

「アーウィン~」

僕がだるそうな声で彼を呼ぶと、
アーウィンはうつろな目で僕を見た。

僕はマグノリアが
少し離れて付いてきているのを確認すると、

”ねえ、僕この結婚嫌なんだけど?!

アーウィン、助けてよ!”

そう言ってアーウィンに囁いた。

アーウィンは僕の声が耳に入らないような感じで
ブツブツと独り言を言っていた。

”相手は一国の姫、
どう転んだって僕じゃ無理だよ……

それもジェイドの婚約者……

うん、傷は深くない。

まだ大丈夫。

僕は十分諦めれる!”

そんな感じでブツブツ言っている。

”ねえアーウィン、ねえってば!

何が大丈夫なの?

何を諦めるの?!”

アーウィンの祖手を掴んで
揺らしながら僕がそう尋ねると、
アーウィンはやっと僕を見た。

”アーウィン、今日のお昼から変だよ?!”

僕がまた囁くと、アーウィンはマグノリアの方を見て、

「マグノリア殿下! 
ぜひ私たちと一緒にボールルームに行きましょう!」

そう言って声をかけた。

マグノリアはニッコリと微笑むと、

「ええ、是非!」

そう言って僕達の所にスタスタと早歩きでやってきて並んだ。

「まさかマグノリア殿下が
ジェイド殿下の婚約者であられたなんて
今日のお昼は思いもせず失礼いたしました」

そう言ってアーウィンが頭を下げると、

「敬語は辞めてください!

今日のお昼のように楽にして下さい」

そう言ってマグノリアも頭を下げた。

「あの、もしかしてジェイド殿下と
アーウィン様って乳母兄弟ですか?」

そうマグノリアが聞くので、

「乳母兄弟……とは?」

僕には初めて聞く言葉だった。

「ジェイド、乳母兄弟とは同じ乳で育つ子らの事ですよ」

アーウィンは僕にそう教えてくれると、
マグノリアの方に向きなおして。

「だから私たちは違います。

ただ、ジェイド殿下が特別で他の王家の人とは少し違うんです」

そうアーウィンが説明すると、

「まあ、少し違うとは?」

そう言ってマグノリアが更に質問してきた。

「ジェイドと初めて会ったのは3年前でした。  

その時でジェイドは5歳でした。

私が回復師なもので、
ジェイドのお付として神殿から引き抜かれたのです。

でも基本的に私は神殿所属で、ただ今は神官見習です。

その頃のジェイドは子供特融の

”誰でも友達”

のノリで僕に接触してきたのです。

それ以来です。

僕達が友達のように接するようになったのは」

そう説明した。

するとびっくりしたことにオリビアも、

「じゃあ、私もそれに便乗していい?!」

と謁見の間に居た時とは別人のようにして話しかけてきた。

僕はあっけにとられ、

「え? はい? え? 同じ人?」

そんな感じで度肝を抜かれたけど、

「殿下、いえ、私もジェイドって呼んでいい?

は~ 私、窮屈なのはダメなの!

だからこれまでお嫁に行けなかったのよね!」

急に気楽にそう言い始めた。

「マグノリアってもしかして……」

「うん、猫かぶってた!」

そう来たので、僕は開いた口が塞がらなかった。

そして僕に向かって、

「ねえ、ジェイドはこの結婚に納得してるの?!」

といきなり聞いて来た。

まさか彼女の方からその話を振るとは思いもしなかった。

でもテンションが上がってしまった僕は、

「え? 本当の事を言ってもいいの?」

とつい本音が出てしまった。

「ほらね、やっぱり納得してないんでしょ?

どうして王家だけ政略結婚?

まあ貴族もそうでしょうけど、王家のそれほどはないわよね!」

そう言って肩をすぼめた。

「マグノリアもこの結婚に納得してないの?

僕は結婚よりももっとアーウィンと遊んだり、

ダリルと色んなお話をしたりしたい!

マグノリアはどうして結婚に納得してないの?」

そう尋ねると、

「私、結婚が嫌って訳じゃないの!

本当はね、結婚する前に、ただ恋がしてみたかったの!」

そう言うと彼女は僕を見た。

「恋? 恋って?」

そう尋ねると、

「ジェイドって今何歳?」

そう尋ね返した。

「僕は今8歳です」

そう答えると、

「そうよね、8歳ってまだ恋なんて分からないわよね?

それなのに結婚? 婚約?

あなた、それでいいの?!

私、あなたより5歳も年上なのよ?!

変だと思わないの?!

世の中には若い可愛い貴族の娘や
諸外国にも若いプリンセスはたくさんいるのよ?

どうして5歳も年上の私があなたにあてがわれると思う?

一つはね、私たち、遠い親戚みたい。

この国って聖龍伝説があるんでしょ?

その時の王様の娘が私の国に嫁いだのよ!

だから私に白羽の矢が立ったの!

あなたには悪いけど、
要は行き遅れの厄介払いを
押し付けられただけなのよ~

ごめんね~ 巻き込んじゃって!

私があんまりグズグズしてたから!

本当は恋がしたいだけなのにぃ~」

と来たもんだ。

「君の事情や、僕の遠い親戚っていうのは分かったけど、

でも……いいの?って言われても恋って分からないんだけど?!

恋って言う前に、王家ってそういうもんじゃないの?

僕、ずっとそう言われてきたんだけど!

ねえ、アーウィン?」

アーウィンに振った。

だって、アーウィンだってそう言った一人だったから。

アーウィンは少し困ったような顔をして、

「マグノリア殿下の言われることは分かりますが……」

そう言って言葉を濁すと、

「マグノリア!」

と急にアーウィンの目を見てそう叫んだ。

「へ?」

アーウィンは訳が分からず顔を顰めた。

「だ、か、ら、私の事はマグノリアって呼んで!

殿下はいらないから!」

マグノリアのその言葉にアーウィンが急に笑いだした。

「何? 何がおかしいの?」

「いや、だって僕が初めてジェイドにあった時と
同じ反応なんだもん。

ジェイドも自分の事は……(スンスン)

殿下って呼ぶなって……(グスン)

その時のこと思い出しちゃって……(ウワ~ン)」

とアーウィンが泣き出した。

「は? どうしてそこでアーウィンが泣いちゃうの?!」

僕はもう訳が分からなくなった。

「だって…… ずっと言わなかったけど、
僕も本当は恋がしたい!

神殿では禁止されてるけど、本当は僕も恋がしたい!」

そう言ってギャンギャン泣き始めた。

「そうよね? 私達恋がしたいのよ!」

オリビアもなぜかアーウィンと泣き始めて、

「ねえ、恋って何なの?!

そんな泣くほどの物なの?!」

僕がそう尋ねると、彼らは二人して、

「お子ちゃまには分からないのよ~」

そう言っておいおい泣いていた。

そんな二人を見て、
僕はますます開いた口が塞がらなくなった。
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