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エピローグ 後編
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僕はある時を境に時として
同じような夢を見るようになった。
そういう時は決まって父さんに起こされる。
泣いて居る時もあれば、
唸されて居る時もあるようだ。
だけど僕が起きた時は、
一向に夢の内容に関しては覚えて居ない。
ただ胸が苦しくなるくらいの切なさが残って居る。
「翠… 翠!どうしたんだ?
何時もの夢か?」
優しい声に瞳を開けると、
そこにはいつもと変わらない彼が、
心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
「父さん……」
「又泣いているのか?」
彼がそっと僕の頬に彼の頬を摺り寄せた。
「え? 夢……?」
目が覚めた瞬間までは確かに覚えて居た。
今では胸の鼓動だけが残って居る。
時々、どれが現実なのか混乱してしまう時がある。
“又あの訳のわからない夢か…
そして又覚えていない……”
そう思いながら目を伏せた。
何故そんな夢を見るのかわからない。
「父さん…」
そうポツリと言って周りを見回した。
そこは風が吹き抜けるばかりの何も無い渓谷。
裸岩がそこらじゅう剥き出しになり、
人っこ1人の声さえ聞こえない。
誰も寄り付かなければ、
魔獣さえも見当たらない。
日の出だと言うのに、
鳥の囀りさえも聞こえなければ、
川のせせらぎの音さえしない。
時折岩が砕けて弾け飛ぶ音と、
かぜの吹き抜ける音が不気味に聞こえるだけだ。
でもそんな光景にも慣れた。
それしか知らない生活だった。
僕はもう一度明るくなり始めた空を見渡した後、
彼を見上げまた彼の首に体を擦り寄せた。
僕が
“父さん”
と呼ぶ人は…人、いや、彼は人族ではない。
彼は自分の種族の事を
“ドラゴン”
と呼ぶ。
龍の寿命は人のそれと違い、
何百年と長い。
灰色の鱗を身にまとった彼は、
100年を少し越える年月をずっと一人で生きてきた。
”この世界に灰色のドラゴンは自分以外存在しない、
ドラゴンにはあり得ない色だ”
そう言って、ずっとほかのドラゴンより迫害され、
彼は群れから外されて生きてきた。
僕は生まれてからの12年間をこの誰よりも優しい、
自分の事をドラゴンの出来損ないと呼ぶ人に育てられた。
人にこそ姿が変わるが、
人の姿に変われる様になったのは、
僕を育て始めてからだと言っていた。
彼自身、龍が人の姿になれることを知らなかった様だ。
群れで暮らして居る時は、
誰一人として人の姿になれた龍は居なかったらしい。
それでも龍族が人族を育てるのは並大抵のことじゃない。
でもきちんと人間の言葉や風習、
マナーなど一般の人間が学ぶことを一通り教えてくれた。
きっと僕を育てる為にかなりの努力をしたのだろう。
人の姿に変わるのは疲れるからと
大抵はドラゴンの姿でいる彼が、
僕の全身より大きな顔を岩の上に乗せ、
僕の頭よりも大きな瞳でこちらを見ていた。
今年で13歳になる僕はこれまで他の人に会ったことがない。
人から恐れられるドラゴンは、
単独でいると最悪の場合狩られてしまう。
それを避け、彼は、人も、魔獣も寄り付かないような
こんな岩に囲まれた谷深い所に
住居を構えてくれた。
それに僕を両親から託された時のことが関係しているのもあるのだろう。
色々と訳ありの様だが、
その時のことは詳しくは話してくれない。
ただ、両親の死に際に居合わせたとだけ……
まだ生まれたばかりの僕を僕の両親より託された彼は、
その言葉通り、僕を育ててくれた慈悲深いドラゴンだ。
物心ついたある時、
「僕の両親ってどんな人達だったの?」
そう尋ねた事があった。
その時にアミュレットを渡され、
「お前の母親がお前に託した物だ」
そう言われた。
よく見ると、アミュレットには真っ白な龍と
リリースノーの花が彫ってあった。
その下には読めない字で何かが書いてあった。
僕がその文字を指でなぞると、
そんな僕の行動を見ていた彼が、
「それを受け取った少し前に、小国の姫と、
大国の最高神官とが恋に落ち行方しれずとなった」
そう教えてくれた。
僕が
“?”
と言うような顔をしていたのだろう。
実際になぜ彼がそんな話をしているのか分からなかった。
“小国の姫? それって王女?
それに最高神官って……普通は結婚できないんじゃ?
それなのに国の違う2人が駆け落ち?
それが僕の両親?! 小国の王女と大国の最高神官が?!”
そんな事を思っていると彼は続けて、
「その家紋はその小国の物ではないが、
大陸にある一つの王国の王家の紋章だ。
それから……」
そう言った後、僕の本当の父親から託されたと言う
“指輪”
も渡してくれた。
僕はまじまじとその指輪にも見入った。
その指輪には太陽を両手に掲げた女の人の像が彫ってあり、
その指輪をはめた途端、
僕の全身に暖かな温もりが広がり、
その瞬間指輪から眩い光が放たれた。
慌てて指輪を抜くと、
指輪は僕の手からすり抜けてカランと音を立てて、
岩の上に転がっていった。
「やはりお前は女神に愛されているんだな」
彼はそう言って拾った指輪をもう一度僕の手のひらに乗せてくれた。
「ねえ父さん、やはりって何?
父さんは何か知ってるの?
僕が女神に愛されて居るってどう言う意味?」
そう尋ねた時の彼の表情は今でも忘れる事が出来ない。
”なんだろう?この感覚は?”
そう思ったのを今でもはっきりと覚えている。
訳の分からない感情で、
「それに……女神? 女神とは……?」
僕がそう尋ねると、僕の掌の指輪の絵を指さして、
「太陽を掲げし乙女は創世の女神……
すべてを包み、愛し、癒すという……
それに姫のアミュレットに掘ってある白い龍は
その女神の化身ともいわれている……」
そういうと、一つ間を置いて、
「その指輪は……指輪は最高神官のみが持てるという指輪だ。
それにその指輪には女神の加護が掛かっている」
そう言って教えてくれたけど、
姫や神官といっても、これまで人に会ったことのない僕にはピンと来ない。
そんな僕でも一般常識は供えられていたようだ。
「でもこれって、最高神官が持つべき指輪なのなら、
今の最高神官に返すべきじゃ?!」
フッと思って慌ててそう言うと、
「その指輪は自分が使えるべき人を選ぶ。
これまでその指輪を使いこなせた神官は存在していない……
お前の父親でさえもだ……
それに此処にこの指輪があるってことは、
お前がその指輪に選ばれたって事だろう……
実際に光ったしな。
最高神官は再選されたようだが、
この指輪の祝福無しには大した事は出来ないだろう。
実際、大陸ではかなり問題になっているらしい。
指輪のことではなく、神官の質が落ちたってな。
だれもその指輪の事は覚えていないし、
その指輪にどのような力があるのかもわかっていない。」
そういって彼は僕の手のひらの中で光る指輪を
撫でると、僕の手に握りしめさせた。
「ねえ、それってどう言う意味?
神官が持つ指輪に選ばれるってどう言う意味?
指輪に選ばれた僕は神官になるべきなの?!
それに僕の母さんは王女だったの?!」
そう尋ねると、彼は
「さぁなぁ」
そう言って静かに微笑んだ。
「父さんは何故いろんな事を知ってるの?
小さな国の姫や、最高神官の事、
人と交わったことがないのに、
何故人の事が分かるの?!」
そう言うふうに尋ねると、
彼は何時も微笑みを浮かべるだけだった。
「このアミュレットと指輪はきっとお前の道標となるだろう。
だが決して他の者に見せるんじゃない」
そう言って僕の手をギュッと握りしめた。
「どうして見せちゃダメなの?
これらは悪い物なの?
僕が持っていてもいい物なの?!」
不安げに尋ねると、
「これらはお前のものだ。
お前の未来を安じ、お前の両親が死の間際に
お前に渡すよう俺に託した物だ。
だが、それらを悪用しようとする者は必ず出てくる。
そうすると、お前の身に危険が及ぶ可能性だって出てくる」
そう言って遠い目をした事を今でも鮮明に覚えている。
彼はいつも何かを言いたそうにして僕のことを見つめていた。
僕にはそれがなぜなのか分からなかった。
何度も、何度も繰り返し尋ねたのに、
ついに彼は一度もそのことについて触れることはなかった。
そして彼との別れはすぐにやってきた。
「もうこれでお別れなの?」
彼を見つめて唇を噛み締めると、
「何度も言うが、お前は人に紛れて人として暮らした方が良い」
そう言って彼は僕の頬を撫でた。
「どうしても一緒には来てくれないの?
僕は父さんが居ないと…」
そう言いかけたのを遮って、
「心配するな。
これまでお前には人の中で生きる方法を教えてきた。
後はきっと、そのアミュレットと指輪が導いてくれる筈だ。
人に紛れて、人として生きれ!」
そう言うと、
「俺の背に乗れ。
人里近くまで運ぼう」
そう言って首を低くしてくれた。
僕が彼の背に乗るのを躊躇っていると、
それに気付いたのか、
鼻で僕を抱え上げると、
ポーンと自分の背に投げやった。
「しっかり捕まっていないと
ふりおとされるぞ」
そう言うと、瞬く間に飛び上がり、
一山向こうの町の膝の近くまでやってくると、
周りの安全を確認した後、
誰の目にも留まらないような場所で僕を下ろして
人の姿になると、
ギュッと僕のことを抱きしめた。
「本当に、本当にこれでいいの?!
父さんは僕がいなくても平気なの?!
また一人に戻るの?!」
そういうと、彼は又静かにほほ笑んだ。
僕は首をブンブンと降ると、
「違うんだ、本当は僕がダメなんだ!
父さんがいないと!」
そう言うと、彼はそっと僕の頬にキスをして、
そのまま何も言わずにスーッと龍の姿に戻ると、
サッと飛び上がりたちまちその姿は見えなくなってしまった。
僕は彼の姿が見えなくなっても、
ずっと彼の消え去った方向を眺めていた。
「あっけない12年だったな」
そうぽつりと言うと、
もう一度託されたアミュレットと指輪を握りしめ、
僕は勇気を出してもう目と鼻先である人里目掛けて歩き始めた。
同じような夢を見るようになった。
そういう時は決まって父さんに起こされる。
泣いて居る時もあれば、
唸されて居る時もあるようだ。
だけど僕が起きた時は、
一向に夢の内容に関しては覚えて居ない。
ただ胸が苦しくなるくらいの切なさが残って居る。
「翠… 翠!どうしたんだ?
何時もの夢か?」
優しい声に瞳を開けると、
そこにはいつもと変わらない彼が、
心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
「父さん……」
「又泣いているのか?」
彼がそっと僕の頬に彼の頬を摺り寄せた。
「え? 夢……?」
目が覚めた瞬間までは確かに覚えて居た。
今では胸の鼓動だけが残って居る。
時々、どれが現実なのか混乱してしまう時がある。
“又あの訳のわからない夢か…
そして又覚えていない……”
そう思いながら目を伏せた。
何故そんな夢を見るのかわからない。
「父さん…」
そうポツリと言って周りを見回した。
そこは風が吹き抜けるばかりの何も無い渓谷。
裸岩がそこらじゅう剥き出しになり、
人っこ1人の声さえ聞こえない。
誰も寄り付かなければ、
魔獣さえも見当たらない。
日の出だと言うのに、
鳥の囀りさえも聞こえなければ、
川のせせらぎの音さえしない。
時折岩が砕けて弾け飛ぶ音と、
かぜの吹き抜ける音が不気味に聞こえるだけだ。
でもそんな光景にも慣れた。
それしか知らない生活だった。
僕はもう一度明るくなり始めた空を見渡した後、
彼を見上げまた彼の首に体を擦り寄せた。
僕が
“父さん”
と呼ぶ人は…人、いや、彼は人族ではない。
彼は自分の種族の事を
“ドラゴン”
と呼ぶ。
龍の寿命は人のそれと違い、
何百年と長い。
灰色の鱗を身にまとった彼は、
100年を少し越える年月をずっと一人で生きてきた。
”この世界に灰色のドラゴンは自分以外存在しない、
ドラゴンにはあり得ない色だ”
そう言って、ずっとほかのドラゴンより迫害され、
彼は群れから外されて生きてきた。
僕は生まれてからの12年間をこの誰よりも優しい、
自分の事をドラゴンの出来損ないと呼ぶ人に育てられた。
人にこそ姿が変わるが、
人の姿に変われる様になったのは、
僕を育て始めてからだと言っていた。
彼自身、龍が人の姿になれることを知らなかった様だ。
群れで暮らして居る時は、
誰一人として人の姿になれた龍は居なかったらしい。
それでも龍族が人族を育てるのは並大抵のことじゃない。
でもきちんと人間の言葉や風習、
マナーなど一般の人間が学ぶことを一通り教えてくれた。
きっと僕を育てる為にかなりの努力をしたのだろう。
人の姿に変わるのは疲れるからと
大抵はドラゴンの姿でいる彼が、
僕の全身より大きな顔を岩の上に乗せ、
僕の頭よりも大きな瞳でこちらを見ていた。
今年で13歳になる僕はこれまで他の人に会ったことがない。
人から恐れられるドラゴンは、
単独でいると最悪の場合狩られてしまう。
それを避け、彼は、人も、魔獣も寄り付かないような
こんな岩に囲まれた谷深い所に
住居を構えてくれた。
それに僕を両親から託された時のことが関係しているのもあるのだろう。
色々と訳ありの様だが、
その時のことは詳しくは話してくれない。
ただ、両親の死に際に居合わせたとだけ……
まだ生まれたばかりの僕を僕の両親より託された彼は、
その言葉通り、僕を育ててくれた慈悲深いドラゴンだ。
物心ついたある時、
「僕の両親ってどんな人達だったの?」
そう尋ねた事があった。
その時にアミュレットを渡され、
「お前の母親がお前に託した物だ」
そう言われた。
よく見ると、アミュレットには真っ白な龍と
リリースノーの花が彫ってあった。
その下には読めない字で何かが書いてあった。
僕がその文字を指でなぞると、
そんな僕の行動を見ていた彼が、
「それを受け取った少し前に、小国の姫と、
大国の最高神官とが恋に落ち行方しれずとなった」
そう教えてくれた。
僕が
“?”
と言うような顔をしていたのだろう。
実際になぜ彼がそんな話をしているのか分からなかった。
“小国の姫? それって王女?
それに最高神官って……普通は結婚できないんじゃ?
それなのに国の違う2人が駆け落ち?
それが僕の両親?! 小国の王女と大国の最高神官が?!”
そんな事を思っていると彼は続けて、
「その家紋はその小国の物ではないが、
大陸にある一つの王国の王家の紋章だ。
それから……」
そう言った後、僕の本当の父親から託されたと言う
“指輪”
も渡してくれた。
僕はまじまじとその指輪にも見入った。
その指輪には太陽を両手に掲げた女の人の像が彫ってあり、
その指輪をはめた途端、
僕の全身に暖かな温もりが広がり、
その瞬間指輪から眩い光が放たれた。
慌てて指輪を抜くと、
指輪は僕の手からすり抜けてカランと音を立てて、
岩の上に転がっていった。
「やはりお前は女神に愛されているんだな」
彼はそう言って拾った指輪をもう一度僕の手のひらに乗せてくれた。
「ねえ父さん、やはりって何?
父さんは何か知ってるの?
僕が女神に愛されて居るってどう言う意味?」
そう尋ねた時の彼の表情は今でも忘れる事が出来ない。
”なんだろう?この感覚は?”
そう思ったのを今でもはっきりと覚えている。
訳の分からない感情で、
「それに……女神? 女神とは……?」
僕がそう尋ねると、僕の掌の指輪の絵を指さして、
「太陽を掲げし乙女は創世の女神……
すべてを包み、愛し、癒すという……
それに姫のアミュレットに掘ってある白い龍は
その女神の化身ともいわれている……」
そういうと、一つ間を置いて、
「その指輪は……指輪は最高神官のみが持てるという指輪だ。
それにその指輪には女神の加護が掛かっている」
そう言って教えてくれたけど、
姫や神官といっても、これまで人に会ったことのない僕にはピンと来ない。
そんな僕でも一般常識は供えられていたようだ。
「でもこれって、最高神官が持つべき指輪なのなら、
今の最高神官に返すべきじゃ?!」
フッと思って慌ててそう言うと、
「その指輪は自分が使えるべき人を選ぶ。
これまでその指輪を使いこなせた神官は存在していない……
お前の父親でさえもだ……
それに此処にこの指輪があるってことは、
お前がその指輪に選ばれたって事だろう……
実際に光ったしな。
最高神官は再選されたようだが、
この指輪の祝福無しには大した事は出来ないだろう。
実際、大陸ではかなり問題になっているらしい。
指輪のことではなく、神官の質が落ちたってな。
だれもその指輪の事は覚えていないし、
その指輪にどのような力があるのかもわかっていない。」
そういって彼は僕の手のひらの中で光る指輪を
撫でると、僕の手に握りしめさせた。
「ねえ、それってどう言う意味?
神官が持つ指輪に選ばれるってどう言う意味?
指輪に選ばれた僕は神官になるべきなの?!
それに僕の母さんは王女だったの?!」
そう尋ねると、彼は
「さぁなぁ」
そう言って静かに微笑んだ。
「父さんは何故いろんな事を知ってるの?
小さな国の姫や、最高神官の事、
人と交わったことがないのに、
何故人の事が分かるの?!」
そう言うふうに尋ねると、
彼は何時も微笑みを浮かべるだけだった。
「このアミュレットと指輪はきっとお前の道標となるだろう。
だが決して他の者に見せるんじゃない」
そう言って僕の手をギュッと握りしめた。
「どうして見せちゃダメなの?
これらは悪い物なの?
僕が持っていてもいい物なの?!」
不安げに尋ねると、
「これらはお前のものだ。
お前の未来を安じ、お前の両親が死の間際に
お前に渡すよう俺に託した物だ。
だが、それらを悪用しようとする者は必ず出てくる。
そうすると、お前の身に危険が及ぶ可能性だって出てくる」
そう言って遠い目をした事を今でも鮮明に覚えている。
彼はいつも何かを言いたそうにして僕のことを見つめていた。
僕にはそれがなぜなのか分からなかった。
何度も、何度も繰り返し尋ねたのに、
ついに彼は一度もそのことについて触れることはなかった。
そして彼との別れはすぐにやってきた。
「もうこれでお別れなの?」
彼を見つめて唇を噛み締めると、
「何度も言うが、お前は人に紛れて人として暮らした方が良い」
そう言って彼は僕の頬を撫でた。
「どうしても一緒には来てくれないの?
僕は父さんが居ないと…」
そう言いかけたのを遮って、
「心配するな。
これまでお前には人の中で生きる方法を教えてきた。
後はきっと、そのアミュレットと指輪が導いてくれる筈だ。
人に紛れて、人として生きれ!」
そう言うと、
「俺の背に乗れ。
人里近くまで運ぼう」
そう言って首を低くしてくれた。
僕が彼の背に乗るのを躊躇っていると、
それに気付いたのか、
鼻で僕を抱え上げると、
ポーンと自分の背に投げやった。
「しっかり捕まっていないと
ふりおとされるぞ」
そう言うと、瞬く間に飛び上がり、
一山向こうの町の膝の近くまでやってくると、
周りの安全を確認した後、
誰の目にも留まらないような場所で僕を下ろして
人の姿になると、
ギュッと僕のことを抱きしめた。
「本当に、本当にこれでいいの?!
父さんは僕がいなくても平気なの?!
また一人に戻るの?!」
そういうと、彼は又静かにほほ笑んだ。
僕は首をブンブンと降ると、
「違うんだ、本当は僕がダメなんだ!
父さんがいないと!」
そう言うと、彼はそっと僕の頬にキスをして、
そのまま何も言わずにスーッと龍の姿に戻ると、
サッと飛び上がりたちまちその姿は見えなくなってしまった。
僕は彼の姿が見えなくなっても、
ずっと彼の消え去った方向を眺めていた。
「あっけない12年だったな」
そうぽつりと言うと、
もう一度託されたアミュレットと指輪を握りしめ、
僕は勇気を出してもう目と鼻先である人里目掛けて歩き始めた。
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