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第66話 月明りの中で
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湖から出ている蒸気が周りの空気を包んでいるのか、
当たりはうっすらと靄がかかっていた。
昼間はあんなに暑かったのに、
今ではそんな空気さえ感じない。
ソヨソヨと吹く風が少し気持ち良い感じだ。
木々の間から入る月の光は、
周りのモヤを避ける様に湖を照らし出すと、
その水面をキラキラと輝かせて
息を呑むほどに綺麗だった。
2年前の夜も此処に足を踏み入れたけど、
今日の様に胸を打たれる事はなかった。
葉擦れの音さえもハーモニーの様で
その音が段々とボリュームを増してくると、
何かが近ずいて来ている事が直ぐにわかった。
一歩後ずさると、
そこに現れたのは矢野君だった。
突然に現れた彼に少しの恐怖さえ感じたけど、
直ぐに僕は矢野君に心奪われた。
月の光に照らされ、
霞の中に立つ矢野君は、
まるで別世界から来た人の様だった。
僕は暫く言葉を失った。
「矢野……君……?」
僕が先に声を掛けた。
彼はゆっくりと目を伏せると、
静かに瞬きをした。
そして顔を上げると、
僕を真っ直ぐに見た後、
湖に目を移した。
そして何かを思った様にして又僕を見ると、
「何故お前がここに……?」
と初めて口を開いた。
僕も矢野君の目を見つめた後、
湖に目を移すと、
「此処、すごく綺麗だね。
月の光に照らし出されると、
別世界と繋がっちゃうみたいだね」
そう言って空を仰いだ。
矢野君はただ黙って僕の事を見ていた。
僕はもう一度矢野君を見ると微笑んで、
そして湖に向かって歩き出した。
僕が一歩足を踏み出すと、
矢野君もそれに合わせて一歩足を踏み出した。
そうして僕らは一歩ずつ湖に近づいた。
後一歩で水に入ると言う所で、
僕は足を止めた。
すると矢野君もその足を止めた。
僕がクルッと振り返ると、
矢野君は急に目頭を押さえた。
そしてそのまま静止した。
僕は暫く矢野君の様子を伺っていた。
彼は眉間に皺を寄せて眉を歪めると、
何かをブツブツと言い始めた。
でも彼が何を言っているのかは聞き取れなかった。
そんな矢野君を無視して、
僕は水の中に入って行った。
真っ直ぐに滝のところまで進んでいくと、
落ちてくる水に手を差し伸べた。
水は僕の腕を伝って滴り落ちると、
僕はそのまま流れ落ちる滝の中に身を任せた。
瞬間矢野君が僕に向かって叫び始めた。
「何故だ?!
何故お前が此処に居るんだ?!
何故お前の姿が俺の脳裏にチラつくんだ?!
何かを思い出しそうなのに思い出せない!
何故なんだ?!」
僕は滝から出て湖から上がると、
ツカツカと矢野君目掛けて歩き出した。
そして彼に向かって両手を伸ばすと、
思いっきり彼を突き飛ばした。
彼はびくりともしなかったけど、
そんな僕を目を丸くして見ていた。
僕をビックリした様にしている矢野君を見ると、
これまでの想いが溢れ出して、
「何故?!
それしか言うことないの?
僕が偶然にここを見つけたと思ってるの?!」
そう叫んで僕は走り出した。
すると矢野君の長い腕が走り出す僕に伸びて来て、
首のチョーカーに彼の指がかかった。
丁度首を絞められた様な形になった僕は、
「く……苦し……」
と言ってゴホッと咳き込んだ瞬間、
矢野君の指にかかった僕のチョーカーは
外れるはずも無いのに簡単に外れて、
そのまま地に落ちてしまった。
「なっ……」
僕は思わず金縛りに遭ってしまった。
スローモーションの様に地に落ちてゆくチョーカーを見ていると、
後ろからビックリする矢野君の声が聞こえた。
「お前…… その項……」
矢野君にあらわになった項は月明りに照らされ、
あの熱い夏の夜の印がくっきりと暗闇に浮かび上がっていた。
僕は矢野君のそのセリフにハッとしてつかさず項を両手で隠した。
“何故…… しっかりと首に嵌っていたはずなのに……
指に絡んだだけて外れるなんて考えられない……”
僕は硬直してそこに立ち尽くした。
Ω用のチョーカーの留め具は鍵を掛けたような作りになっていて、
ちょっとやそっとじゃ外れるものじゃない。
鍵付きでないつくりの物は、
少し面倒になるけど、
まるで知恵の輪を解くように外すよう出来ている。
留め具が壊れたときのセーフティーまで付いているほどで、
“魔法をかけた”
と、言うでもない限りは、
指で触れただけでとれるものじゃない。
“バレた……
矢野君にバレてしまった!
どうしよう……”
僕は半ば頭がパニックになってしまった。
「佐々木君!
佐々木君!」
僕は思わず佐々木君を呼んでいた。
「陽向! 落ち着け! 陽向!」
矢野君にがっちり腕をつかまれ、
彼に引き寄せられた。
矢野君は僕を自分の胸に抱き込むと、
そっと頭を撫で始めた。
「佐々木君……
佐々木君……
助けて……」
僕は未だ必至で佐々木君を呼んでいた。
「シーッ、大丈夫だ。
お前の秘密は誰にも言わない。
大丈夫だ。
頼むから落ち着いてくれ」
耳元で囁く矢野君の声に、
少しずつ心が落ち着いてきた。
僕が息を弾ませて矢野君の胸に顔を埋めていると、
矢野君は僕の頭を撫でながら、
「なあ、陽向……
一つ聞いても良いか?」
そう尋ねた。
僕の頭はまだ整理しきれずに黙ったままでいると、
矢野君はぽつりと僕に向かって、
「俺は前にも、お前をこうやって抱いたことがあるか?」
とそう尋ねた。
当たりはうっすらと靄がかかっていた。
昼間はあんなに暑かったのに、
今ではそんな空気さえ感じない。
ソヨソヨと吹く風が少し気持ち良い感じだ。
木々の間から入る月の光は、
周りのモヤを避ける様に湖を照らし出すと、
その水面をキラキラと輝かせて
息を呑むほどに綺麗だった。
2年前の夜も此処に足を踏み入れたけど、
今日の様に胸を打たれる事はなかった。
葉擦れの音さえもハーモニーの様で
その音が段々とボリュームを増してくると、
何かが近ずいて来ている事が直ぐにわかった。
一歩後ずさると、
そこに現れたのは矢野君だった。
突然に現れた彼に少しの恐怖さえ感じたけど、
直ぐに僕は矢野君に心奪われた。
月の光に照らされ、
霞の中に立つ矢野君は、
まるで別世界から来た人の様だった。
僕は暫く言葉を失った。
「矢野……君……?」
僕が先に声を掛けた。
彼はゆっくりと目を伏せると、
静かに瞬きをした。
そして顔を上げると、
僕を真っ直ぐに見た後、
湖に目を移した。
そして何かを思った様にして又僕を見ると、
「何故お前がここに……?」
と初めて口を開いた。
僕も矢野君の目を見つめた後、
湖に目を移すと、
「此処、すごく綺麗だね。
月の光に照らし出されると、
別世界と繋がっちゃうみたいだね」
そう言って空を仰いだ。
矢野君はただ黙って僕の事を見ていた。
僕はもう一度矢野君を見ると微笑んで、
そして湖に向かって歩き出した。
僕が一歩足を踏み出すと、
矢野君もそれに合わせて一歩足を踏み出した。
そうして僕らは一歩ずつ湖に近づいた。
後一歩で水に入ると言う所で、
僕は足を止めた。
すると矢野君もその足を止めた。
僕がクルッと振り返ると、
矢野君は急に目頭を押さえた。
そしてそのまま静止した。
僕は暫く矢野君の様子を伺っていた。
彼は眉間に皺を寄せて眉を歪めると、
何かをブツブツと言い始めた。
でも彼が何を言っているのかは聞き取れなかった。
そんな矢野君を無視して、
僕は水の中に入って行った。
真っ直ぐに滝のところまで進んでいくと、
落ちてくる水に手を差し伸べた。
水は僕の腕を伝って滴り落ちると、
僕はそのまま流れ落ちる滝の中に身を任せた。
瞬間矢野君が僕に向かって叫び始めた。
「何故だ?!
何故お前が此処に居るんだ?!
何故お前の姿が俺の脳裏にチラつくんだ?!
何かを思い出しそうなのに思い出せない!
何故なんだ?!」
僕は滝から出て湖から上がると、
ツカツカと矢野君目掛けて歩き出した。
そして彼に向かって両手を伸ばすと、
思いっきり彼を突き飛ばした。
彼はびくりともしなかったけど、
そんな僕を目を丸くして見ていた。
僕をビックリした様にしている矢野君を見ると、
これまでの想いが溢れ出して、
「何故?!
それしか言うことないの?
僕が偶然にここを見つけたと思ってるの?!」
そう叫んで僕は走り出した。
すると矢野君の長い腕が走り出す僕に伸びて来て、
首のチョーカーに彼の指がかかった。
丁度首を絞められた様な形になった僕は、
「く……苦し……」
と言ってゴホッと咳き込んだ瞬間、
矢野君の指にかかった僕のチョーカーは
外れるはずも無いのに簡単に外れて、
そのまま地に落ちてしまった。
「なっ……」
僕は思わず金縛りに遭ってしまった。
スローモーションの様に地に落ちてゆくチョーカーを見ていると、
後ろからビックリする矢野君の声が聞こえた。
「お前…… その項……」
矢野君にあらわになった項は月明りに照らされ、
あの熱い夏の夜の印がくっきりと暗闇に浮かび上がっていた。
僕は矢野君のそのセリフにハッとしてつかさず項を両手で隠した。
“何故…… しっかりと首に嵌っていたはずなのに……
指に絡んだだけて外れるなんて考えられない……”
僕は硬直してそこに立ち尽くした。
Ω用のチョーカーの留め具は鍵を掛けたような作りになっていて、
ちょっとやそっとじゃ外れるものじゃない。
鍵付きでないつくりの物は、
少し面倒になるけど、
まるで知恵の輪を解くように外すよう出来ている。
留め具が壊れたときのセーフティーまで付いているほどで、
“魔法をかけた”
と、言うでもない限りは、
指で触れただけでとれるものじゃない。
“バレた……
矢野君にバレてしまった!
どうしよう……”
僕は半ば頭がパニックになってしまった。
「佐々木君!
佐々木君!」
僕は思わず佐々木君を呼んでいた。
「陽向! 落ち着け! 陽向!」
矢野君にがっちり腕をつかまれ、
彼に引き寄せられた。
矢野君は僕を自分の胸に抱き込むと、
そっと頭を撫で始めた。
「佐々木君……
佐々木君……
助けて……」
僕は未だ必至で佐々木君を呼んでいた。
「シーッ、大丈夫だ。
お前の秘密は誰にも言わない。
大丈夫だ。
頼むから落ち着いてくれ」
耳元で囁く矢野君の声に、
少しずつ心が落ち着いてきた。
僕が息を弾ませて矢野君の胸に顔を埋めていると、
矢野君は僕の頭を撫でながら、
「なあ、陽向……
一つ聞いても良いか?」
そう尋ねた。
僕の頭はまだ整理しきれずに黙ったままでいると、
矢野君はぽつりと僕に向かって、
「俺は前にも、お前をこうやって抱いたことがあるか?」
とそう尋ねた。
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