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第62話 思いがけない結果

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「お前、少しは座ったらどうだ?」

僕はテーブルの周りをウロウロとあっちへ行ったり、
こっちへ来たりとして歩き回っていた。

「佐々木君、君、良くじっとしてらるね。
矢野君の事、心配じゃ無いの?

あ~っっっ!!! 今頃何話してるんだろう?!

今夜帰って来ないって事無いよね?!」

僕はもう今の状況を考えるると、
居ても立っても居られなかった。

「ねえ、矢野君に電話してみてよ!

僕、さっきからラインしてるんだけど、
既読にはなるのに何の返事もないんだ」

「俺だってラインくらい何度だって出してるよ。

まあ、今更慌てたってどうにも出来ないだろう?

今のうちにしっかり頭を休めておけ。

光といざ話をするとなった時、
肝心の頭が働かなかったら何にもならないだろ?!」

佐々木君にそうアドバイスされても、
休めるどころじゃ無い。

ソファーに腰掛けて携帯の時間を見ると、
もう既に8時を回っていた。

「矢野君遅いよね、ねえ、ここに来ると思ったけど、
自分の家に帰ったのかな?

それとも、僕に先に帰っている様に言ってたから、
僕のアパートに行ったのかな?!」

「いや、それは無い。

お前がここに来て直ぐにラインした時、
こっちへ来るって言ったから、
ここに来るのは間違いないだろう。

お前がここに居るのも知ってるし」

「でも遅く無い?

そんな何時間も何をそんなに話す事があるの?!」

「俺にそんなの聞いてもわかる訳無いだろ?

とにかくお前は落ち着け」

佐々木君がそう言った瞬間、
玄関のノブを回す音がガチャガチャと聞こえてきた。

「帰って来た!」

僕は一目散に玄関の方へと走って行った。

「矢野君!」

「スマン、こんなに掛かるとは思いもしなかったよ」

そう言いながら矢野君が玄関から上がって来た。

矢野君は僕の頭をポンポンとすると、
僕を通り越して佐々木君の方へと歩いて行った。

「イヤ~ 参ったよ」

そう言いながらソファーに座り込んだ矢野君は少し疲れている様だった。

「で? 一体、何がどうなったんだ?」

佐々木君の問いに、

「俺たち、あ、俺と咲耶な、
やり直すと言うか、
付き合う事にしたよ」

そう矢野君が答えた瞬間、
佐々木君が矢野君の胸ぐらを掴み、

「お前、それは正気なのか?!

お前の両親から、
あいつとの間に何があったのか聞いた事は
もう忘れたのか?!」

と食って掛かった。

矢野君は佐々木君の手を握ると、

「この手を離してくれるか?」

と至って冷静だった。

僕は何が起きているのかわからず、
頭の中は真っ白で、
二人の言い合いの言葉さえも耳に入って来なかった。

「お前は……」

そう言って佐々木君は
矢野君が握った手を振り切って僕の方にやって来た。

「陽向、大丈夫か?」

佐々木君の問いかけに彼の方を見た。

でも僕は佐々木君の目を見ると、
そのまま金縛りの様になってしまった。

「光」

佐々木君が矢野君の方をじっと見た。
矢野君は不機嫌そうに佐々木君の方を見ると、

「まだ何か言う事があるのか?!

言っておくけど、
お前らがいくら俺の過去の事を俺にすり込もうとしても、
今の俺にはそれが真実かわかる術はない」

そう言ったので、佐々木君はまた

「なっ……!」

と言って矢野君を殴るような勢いだった。

矢野君もひるまずに、

「もしお前らが咲耶の事を嫌っていて
俺と別れさせるために、
俺に都合のいい過去を教えているのなら、
今の俺にはそれは分からない」

と佐々木君に食って掛かった。

「お前…… 本気でそんな事言ってるのか?!

咲耶がそう言う風にお前に言ったのか?!」

「じゃあ、お前は、お前達が俺に教えてくれた
過去がちゃんと正しいと俺に証明できるのか?!」

“ああ…… やっぱり今僕が何を言っても、
僕たちの関係を矢野君に認めさせる事はできないんだ……”

僕は絶望しか感じなかった。

ここまで自分が無力だとは思いもしなかった。

“何かいい策は……

何か……”

そう思っていると、

「じゃあ、陽向の事は俺が貰ってもいいのか?」

と佐々木君がいきなりそんな事を言い出した。

「! 佐々木君!  何言ってるの?!

いくら矢野君の行動が受け入れられないからって、
そんな血迷った事を!」

僕がそう言うと、佐々木君は真剣な顔をして僕を見ると、

「これは血迷い事でも、気が触れた訳でも無い。

陽向、俺はお前が好きだ。

俺の事を真剣に考えてくれないか?」

と来たので、
矢野君が寺田さんと寄りを戻すと言った事よりもショックを受けた。

「俺に赦しを乞う必要はないだろう?

陽向は俺のものではない。

仁が陽向の事が好きなんだったら、
付き合うなり、何なり、お前達の好きにすればいい。
だが俺のやる事に口出しはしないでくれ」

矢野君のそのセリフに佐々木君の堪忍袋の緒が切れたのか、

「お前はもう帰ってくれ、
そして二度と此処へは来るな。

それに俺たちの前にも二度と姿を現すな」

そう言って矢野君を玄関まで押していくと、
ドアを大きく開けて靴ごと矢野君を外に追いやった。

矢野君は佐々木君の怒り具合に唖然としていたけど、
佐々木君に投げられた靴を拾うと、
何も言わずにその場を去った。

その姿を見送った佐々木君はドアを閉めると、
僕に向かって泣きそうな顔をして、

「スマン陽向、
お前の助けになってやれなくて……

まさかアイツがあそこまで馬鹿だとは思いもしなかったよ。

アイツが何を思って咲耶とヨリを戻そうとしたのか分からないけど、
俺の言った事、真剣に考えくれないか?

そして必要だったら、
どんな事をしてもお前の番の契約を解消する手助けをしてやる」

そう言ったので、僕は佐々木君に対して
矢野君の事が何も言えなくなってしまった。

今は頭が混乱して本当に
何を考えてどう答えを出したらいいのか分からない。

何が正しくて何が正しくないかの基準も分からなくなっている。

僕は佐々木君を見ると、

「少し考えさせて……
今日は僕ももう帰るから……」

そう言って玄関に向かって歩き出した。



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