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第53話 朝の目覚め

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「フッ、ア~ッッッ……」

両手を思いっきり伸ばして、
大きく伸びをして寝返ると、
横に誰かが寝ていた。

“ヒッ”

とびっくりして飛び上がり、
ブランケットを顔からずらすと、
それは懐かしい見覚えのある寝顔だった。

「……」

僕は久しぶりに見る矢野君の寝顔に、
懐かしさがこみ上げるのと同時に、
彼が自分の隣で寝ている事が信じられなかった。

“矢野君…… 一晩僕の隣にいたの?
もしかしてこれって夢?”

自分の頬を指で摘まんでみた。

“痛い…… やっぱり夢じゃない……”

僕は周りを見回した。

“ホテル……?”

自分がいる所は、
ホテルの一室の様だった。

それも星が三つ以上並んでいそうな……

僕はベッドから飛び降りると、
窓に駆け寄ってカーテンをめくった途端、

「ギャッ!」

と叫んでカーテンを閉めた。

そしてもう一度そっとカーテンをめくると、
その風景に驚いた。

目の前に広がるのは東京の絶景……

“ここ何階?”

見下ろす風景を考えると、
40階以上はあったはずだ。

僕があまりにもバタバタと部屋の中を走り回っていたので、
どうやら矢野君を起こしたようだった。

「う~ん」

と唸って寝返った矢野君の体を揺さぶると、
彼は目を開けた。

「あの~? 
ここは一体、何処なのかな?」

僕はやっと起きてきた矢野君に尋ねた。

彼の眉間には皺が寄っている。

「矢野君?
怒ってる? 眉間にしわが寄ってるよ?
そんな顔何時もしてたら、
早く年取っちゃうよ? テヘ」

とごまかしてみた。

すると矢野君は、
少し不機嫌な声を出して僕の耳を引っ張ると、

「お前は馬鹿なのか?!

それともアホなのか?!

二十歳にもなって、
ジュースとアルコールの区別もつかないのか?!」

と急に今の状況とは違う事でカンカンに怒り出した。

でも僕としては矢野君の怒ってる内容なんて耳に入って来ていない。

“何て…… 何て…… 何て懐かしい響き!”

矢野君の怒るこの光景はあの夏の続きのようだ。
2年のブランクがあったようにはとても思えない。

勘違いさえしてしまいそうになる。

僕はそんな風にカンカンに怒る矢野君を見て、
そしてハッと思った。

“僕、フワフワとして夢見心地だったから、
夢だと思っていたけど、
僕を抱えていたのは……”

僕は上目使いで恐る恐る矢野君の顔を見た。

「何だよ!」

と矢野君はぶっきらぼうに言って僕を見た。

「あのさ~

僕さ~

夕べさ~」

とモタモタとしていると、

「早く言えよ!」

と矢野君も忍耐力がない。

「もう! 君、ほんと堪えようがないよね!

少しは待つって事出来ないの?」

とブツブツと言っていると、

「お前は文句を言う前にお礼の一言も言えないのか?!」

と今度はクワッと般若のような顔をして僕の方を見た。

僕は唇を尖らすと、

「夕べは介抱して頂き、
有難うございました。

次いでと言っては何ですが、
僕何か言ってましたか?!」

とぶっきらぼうに尋ねた。

その問いに矢野君は変な顔をして、

「お前の寝言の事か?

よく聞き取れなかったけど、
何だか誰かの事を好きとか愛してるとか?」

と、良くは聞き取れなかったようだけど、

「お前、好きな奴いたんだな~

だったらあんな合コンなんかに来るんじゃない!

いくらダチに頼み込まれたと言っても、
嫌なことはちゃんと嫌と言え!」

そう言って諭されてしまった。

僕は矢野君の顔を見ると、
ニコニコとして

「うん! 分かった!

今度からはそう言うことにするよ!」

と腕にしがみ付いた。

「お前! 腕! 離せ、離せ!

俺は男には興味はないんだ!」

そのセリフにズキッと来たけど、

「良いじゃ~ん!

友達でしょ?」

とズキズキとする心を隠して少し彼に甘えた。

「お前、好きな奴いるんだろ?

両思いなのか?

俺とこんなところでゴロゴロとしてないで、
そいつの所へ行ったらどうなんだ?!」

「良いんだ。

別に両思いって訳じゃないから……

今は僕の片思いだけど、
何時かは両思いになる予定なんだ!」

僕がそう言うと、

「やけに自信家だな。

ま、俺には関係ないけど、がんばれよ!」

そう言ってベッドから滑り降りると、

「ほら、チェックアウトの時間がそこまで来てるんだから、
早く着替えろよ!

お前の服はクローゼットの中だ」

そう言って矢野君が服を着だした。

「ねえ、このホテル凄いよね!
ねえ、もう一泊泊まろうよ~」

そう言うと、

「お前、一泊いくらかかると思ってるんだ!

お前が半分出すのか?!」

と来たので、

「え? 矢野君が払ってくれたの?

僕、御曹司の特権で、ただで泊ってるのかなって思っちゃったよ~」

と言った。

「何だよ、仁の野郎、
俺んちがこのホテル経営してる事まで言ったのか?!

あいつ、プライベートは黙秘なはずなのに……」

その矢野君のセリフにドキッとした。

僕自身そのことについて佐々木君に聞いていたか覚えて無いのだ。

“後で佐々木君と話を合わせなきゃ……”

そんなことを考えていると、

「お前、早く着替えろよ!

またここには連れて来てやるから!」

との矢野君のセリフに、
僕は飛び上がって万歳三唱をした。

そして良く見ると、お互い下着一枚だ。

「あれ~? 
もしかして僕……ゲロゲロしちゃった?」

そう言って頭を掻いていると、
矢野君が僕の服を僕に投げながら、

「何がゲロゲロだよ!

それで可愛く言ってるつもりか?!

そうだよ! お前が戻したんだよ!

それも俺のおろしたてのジャケットにな!

やっと取り寄せたイタリアから来たばかりだったのに!」

とカンカンだ。

「ごめん、ごめん、そんな怒んないでよ~

僕だって不可抗力だったんだから!

でもお酒って初めて飲んだよ。

凄く甘いんだね。

でもきっともう飲まないかなって言うか、
今回も本当は飲むはずじゃなかったんだよ~」

「まったく!俺があそこにいたから良かったものを……

お前は自分がΩって言う自覚を持て!」

「へへへ面目ない」

そう言って僕は照れ隠しに
ベッドメイキングを始めた。

そんな僕を矢野君はすかさず、

「お前、何やってるんだ?」

と僕の行動に口をはさんできた。

「え? いや~
ちょっとベッドメイキングをしようかな~って思って……」

「そう言うのはハウスキーピングがやるから良いんだよ!

ほら、飯食いに行くぞ」

そう言って矢野君はスタスタと自分のものをまとめて部屋を出て行った。

僕も急いでバッグをつかみ取ると、
そそくさと矢野君の後をついて部屋を出た。
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