上 下
34 / 102

第34話 第二次面接

しおりを挟む
手からは冷や汗がダラダラと流れていた。

それぞれが、それぞれに制作した作品の前に並び、
緊張した面持ちで、審査員の声を今か、今かと待っていた。

今から数時間前にさかのぼると、
僕達一同はこの会社が所有するフラワーショップに連れていかれた。

僕たちは既に二次審査に付いて説明されていたので、
昼食の中休憩で僕たちはそれぞれに制作する作品の構想を練った。
だから僕が作りたかったものはすでに決まっていた。

ショップに着くと、自分の使用したい花を好きに使っていいと言われ、
僕は決めていた花輪を作るワイルドフラワーっぽい花たちを探した。

そして見つけた一つの花に手を伸ばすと、
またあの日の記憶が蘇った。

「ほら、これ……」

「え~何、何?」

僕は矢野君に差し出された一つの写真を受け取って眺めた。

「可愛いね。で? これは誰?」

それは小さな女の子が、
お花畑でニッコリと笑って写っている写真だった。

「それ、一花大叔母さんの小さい時の写真だよ。

この間偶然に本に挟まってるの見つけてさ、
お前に見せようと思っていたら忘れていた」

そう言われ、僕はマジマジと写真を眺めた。

彼女は頭に可愛くできた花輪を嵌めていた。

「うわ~ 何この可愛さ。
本当に人間?

フランス人形みたい!
それに矢野君が言った様に本当に花が似合うんだね……

この時で何歳くらい?」

そう言って写真の裏を見ると、

“一花 10歳
マサチューセッツの自宅にて”

と書いてあった。

「マサチューセッツ? え? 
それってアメリカだよね? それが自宅って?」

「あ~ほら、前に彼女の父親が母親を追いかけて
アメリカへ行ったって言ったじゃないか?

それから暫くそっちに住んでたんだよ」

「へ~ そうなんだ。
なんだか矢野君の話を聞いてると
僕とはやっぱり次元が違うんだな~って思うよ……

矢野君、本当に僕なんかで良いの?」

そう言うと彼は何を思ったのか分からないけど、
僕の頭をクシャッとすると静かに微笑んだ。


途端、

「始め!」

という声が部屋中に響いた。

第二次審査の始まりの合図だ。

“いけない、いけない……

またトリップしていたよ……”

僕は唇をきゅっと絞ると、
ショップから届けられた花に手を掛けた。

深呼吸をして目を閉じると、
あの日矢野君に見せてもらった
一花大叔母さんの写真を思い浮かべた。

“一花大叔母さん……
可愛かったな……

本当に花が似合って……

あの花輪は確か……”

僕は一花大叔母さんのはめていた花輪をイメージして、
一つ一つの花を丁寧に、丁寧に作り上げていった。

あの夏が終った後福岡に帰り、
何となく立ち寄ったアーケードを歩いていた時に、
今まで気にもしていなかった花屋さんがあることに気付いた。

僕は何かに導かれるようにフラフラとその花屋さんに入って行った。
するとショップの一角に
可愛らしい花輪が飾ってあることに気付いて
その前に立ちすくんでいた。

「何かお探しですか?」

そこの店員が声をかけてきた。

振り向くと、可愛いらしい女性が
ニコニコとして僕の後ろに立っていた。

「あの…… これ……」

そう尋ねると、

「リースをお探しですか?」

「え? リース?」

「はい、こちらの商品がリースですが……」

そう言われ、しっかりと花輪を見ると、
ちゃんとリースと書いてあった。

“そっか…… リースっても言うのか……”

「これって作るのは難しいんですか?」

「そうねぇ~ 人それぞれじゃないかしら?」

「僕にも作れますか?」

そう尋ねると、

「クラフトのクラスがあるのよ。
申し込んでみる?」

と言われた。

「クラス……ですか?」

「そうよ。リース作りに興味があるんですか?」

そう尋ねられ、

「興味……どうなんだろう?」

そう言うと、彼女は僕の事を

“変な客に声かけちゃったな“

と言う目をして見た。

僕は愛想笑いをすると、

「すみません、情報ありがとうございました」

と言って花屋さんを急いで出た。

施設に帰ると、
小学生高学年の清香ちゃんが花輪をしてかえってきた。

「清香! その頭!」

「あ? これ? 綺麗でしょう?
運動会のダンスで使うんだよ~

今クラスで女子達が作ってるんだよ」

「自分達で作ってるの?

ちょっと見せてもらっても良い?」

そう言って彼女から花輪を受け取ると、
僕はマジマジと見入った。

生花ではなく造花だったけど、
恐らく基礎は同じだ。

「これ、作り方教えて!」

「プフッ……
どうしたの? 陽向お兄ちゃん、
好きな子でもできた?」

清香にはからかわれたけど、
丁寧に花輪の作り方を教えてくれた。

その時に僕は気付いた。

“僕はこんなにも花に興味が出て来ているんだ……

何時かは、花に携わる事ができたら良いな“


そして僕は今、自分曰く、会心の作、
花輪を前にして審査官の前に立っていた。

横目で他の人の作品をチラチラとみると、
如何にも芸術は爆発だとでも言うような、
超ビビッドなカラーとゴージャスな花で作った作品が、
自分の存在を主張するかのようにそこに並んでいた。

まるで有名デパートのフロントに飾ってもおかしくないような作品だ。

「え~ 長谷川君」

僕の名が呼ばれ、ドキリと心臓が跳ねた。

「は……はい!」

「君は何故この作品を選んだのですか?」

第一質問がそれだった。

僕は緊張に緊張をしていて、
暫く頭が真っ白になった。

すると、質問をした隣に座っていたもう一人の係の人が、

「大草原が見えて来そうな冠ですね」

とそう言われて、僕はその人の顔を見上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋をしたから終わりにしよう

夏目流羽
BL
【BL】年下イケメン×年上美人 毎日をテキトーに過ごしている大学生・相川悠と年上で社会人の佐倉湊人はセフレ関係 身体の相性が良いだけ 都合が良いだけ ただそれだけ……の、はず。 * * * * * 完結しました! 読んでくださった皆様、本当にありがとうございます^ ^ Twitter↓ @rurunovel

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

泥酔魔王の過失転生~酔った勢いで転生魔法を使ったなんて絶対にバレたくない!~

近度 有無
ファンタジー
魔界を統べる魔王とその配下たちは新たな幹部の誕生に宴を開いていた。 それはただの祝いの場で、よくあるような光景。 しかし誰も知らない──魔王にとって唯一の弱点が酒であるということを。 酔いつぶれた魔王は柱を敵と見間違え、攻撃。効くはずもなく、嘔吐を敵の精神攻撃と勘違い。 そのまま逃げるように転生魔法を行使してしまう。 そして、次に目覚めた時には、 「あれ? なんか幼児の身体になってない?」 あの最強と謳われた魔王が酔って間違って転生? それも人間に? そんなことがバレたら恥ずかしくて死ぬどころじゃない……! 魔王は身元がバレないようにごく普通の人間として生きていくことを誓う。 しかし、勇者ですら敵わない魔王が普通の、それも人間の生活を真似できるわけもなく…… これは自分が元魔王だと、誰にもバレずに生きていきたい魔王が無自覚に無双してしまうような物語。

50代後半で北海道に移住したぜ日記

江戸川ばた散歩
エッセイ・ノンフィクション
まあ結局移住したので、その「生活」の日記です。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。 その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。 落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。

【猫画像あり】島猫たちのエピソード

BIRD
エッセイ・ノンフィクション
【保護猫リンネの物語】連載中! 2024.4.15~ シャーパン猫の子育てと御世話の日々を、画像を添えて綴っています。 2024年4月15日午前4時。 1匹の老猫が、その命を終えました。 5匹の仔猫が、新たに生を受けました。 同じ時刻に死を迎えた老猫と、生を受けた仔猫。 島猫たちのエピソード、保護猫リンネと子供たちのお話をどうぞ。 石垣島は野良猫がとても多い島。 2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。 「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。 でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。 もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。 本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。 スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

処理中です...