上 下
12 / 102

第12話 台風

しおりを挟む
「矢野君! 台風! 台風だって!」

「あぁ~、台風だな。 一週間位前から言ってたよな。
その時はどっちに進むか分からなかったけど、
やっぱりこっちに来るんだな。

この分だと今夜から明け方にかけて上陸するっぽいな」

「え? そんな前から分かってたの?
誰も何も言ってなかったけど?!」

「お前、携帯でニュース見ないのか?」

「ねえ、僕が携帯触ってるの見たことある?
今まで携帯なんて所持したことないよ!」

そう言うと、矢野君は僕の事を天然記念物でも見るような目をして見た。

「何? 携帯持ってないのがそんなに悪いの?」

「いや、今どき携帯無いって珍しくないか?

でもそう言われれば、確かに携帯いじってるの、見たことないよな?

逆に俺が携帯で色々やってると、
お前って煩わしいくらい俺に話しかけてきてたよな。

あれって、携帯無いから暇つぶしに話しかけてたのか?」

「暇つぶしって……違うよ……

僕はあくまでも、矢野君と仲良くなりたかったから話しかけてたんです~」

「はい、はい、そう言うことにしておこう」

そう言って矢野君は笑いながら肩をすぼめた。

「ねえ、ねえ、矢野君って台風経験したことある?
僕は福岡出身だから九州は結構台風来るんだけど、
東京ってほとんどそれちゃうよね?」

「そうだな、あまりこっちには来ないよな」

「じゃあさ、台風の強風の中、
傘さして外を歩いたこともないよね?」

僕がそう尋ねると、矢野君は、

“は~っ?”

としたようにして僕を見ると、

「それって危ないよな?
周りの人、何も言わないのか?」

と尋ねた。

「あれね、傘をさして飛んでいかないか実験したことあるんだよ!
矢野君は経験ないよね?」

僕がそう言うと、矢野君は少し考えて、

「まあ、無いわな。

で? 飛んで行ったのか?」

と笑いながら尋ねた。

「それがさ~ 傘、逆にひっくり返っちゃって、
買ったばかりの傘ダメにしたから園長先生に怒られちゃったよ~」

そう言うと、矢野君はお腹を抱えて笑い出した。

「もう! そんなに笑わなくっても良いでしょ!

じゃあさ、じゃあ、窓に
ガムテープ張ったりもしたことないよね?」

そう尋ねると、矢野君は

「ガムテープ?」

と方眉を上げた。

「そうだよ! 
窓ガラスが割れたときのガラスの飛び散り防止!」

そう答えると、

「あ~ なるほどな~」

と納得していた。

「九州って結構台風対策はしっかりしてるんだよね。
沖縄も台風国家だから対策はしっかりしてるから大丈夫だよね?」

「まあ、直撃されたら停電なんかは逃れられないだろうけど、
建物が崩れて飛ばされるってことは無いだろうな」

そう矢野君が言うと、僕は両手をパーンと叩いた。

「そうそう! 停電! 台風には付き物なんだよね~」

そう言うと、矢野君はまたまた目を丸くして僕を見ていた。

「ねえ、ここって周りは海だけど、浸水するのかな?」

「う~ん、ここら辺、海だけど、
浸水は今まで被害にあったって話は聞いたことないから
大丈夫だとは思うけど……」

「そっか、台風って聞いてそれが心配だったんだよね~
一度施設が浸水したことあって、
後片付けが凄い大変だったんだよね~」

僕がウンウンと頷きながら返事をしていると、
矢野君は僕を見て、

「台風対策もだけど、お前、やけにウキウキしてないか?」

と図星を指されてしまった。
確かに矢野君の言うとおりだった。

僕は小さいころから、台風がやって来ると、
怖いと言うよりは、ワクワクとして眠れなかった。

まるで修学旅行に行く前の日みたいに。

台風対策の準備なんて、
体育祭の準備の様でみんなでワイワイやって楽しかった。

停電になった日なんて、興奮してギャーギャー騒いだものだ。

僕は少しのワクワク感を胸に矢野君を見上げると、

「ねえ、台風来るんだったら、
早めに出た方が良いね。」

と少し嬉しそうに言った。

「そうだな、だけどお前、目がキラキラしてるぞ?」

そう言って笑うと、僕たちはお蕎麦屋さんを後にすることにした。

「は~ おいしかった。
ごちそうさまでした!

たまにはこういうのも良いよね!」

僕がそう言うと矢野君も僕の意見に賛成した。

「ねえ、もうあと3週しかないけど、
高校生は僕達だけだから仲良くしようね。

夏が終わると別れ別れになってしまうけど、
僕、矢野君とここで会えて良かったよ。

僕に携帯があれば連絡することも出来るんだろうけどな~」

そう言い終えたところで、急に雨が降り出してきた。

「早いね、もう台風の影響?」

矢野君は空を見上げると、

「台風の目はまだ離れてるけど、おそらくそうだろうな」

と言った。

「心なしか風も吹いてるような……」

僕がそう言うと、

「走るぞ!」

そう言って矢野君は僕の手を取った。

そして僕たちは人目もはばからず、
二人手を取り合って町の中を走り抜けていった。

矢野君の顔を見ると、
何かが吹っ切れたような感じで、
僕にはキラキラと輝いているように見えた。

それがとても楽しくて、矢野君の手を握りしめて走りながら、
僕の心臓はずっとドキドキとなりっぱなしだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

可愛くない僕は愛されない…はず

おがこは
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。 押しが強いスパダリα ‪✕‬‪‪ 逃げるツンツンデレΩ ハッピーエンドです! 病んでる受けが好みです。 闇描写大好きです(*´`) ※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております! また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)

conceive love

ゆきまる。
BL
運命の番を失い、政略結婚で結ばれた二人。 不満なんて一つもないしお互いに愛し合っている。 けど……………。 ※オメガバース設定作品となります。

すれ違いがちなヒカルくんは愛され過ぎてる

蓮恭
BL
 幼い頃から自然が好きな男子高校生、宗岡光(ヒカル)は高校入学後に仲間と自然を満喫したいという思いから山岳部へ入部する。  運動音痴なヒカルは思いのほか厳しい活動内容についていけず、ある日ランニング中に倒れてしまう。  気を失ったヒカルが見たのは異世界の記憶。買い物中に出会った親切な男が、異世界ではヒカルことシャルロッテが心から愛した夫、カイルだったのだと思い出す。  失神から目が覚めたヒカルの前には、記憶の中のカイルと同じ男がいた。彼は佐々木賢太郎、ヒカルの同級生で山岳部の部員だと言う。早速ヒカルは記憶が戻った事を賢太郎に話した。  過去に仲睦まじい夫婦であったという記憶を取り戻したからなのか、ヒカルは賢太郎の事を強く意識するようになる。  だが現代での二人はただの同級生で男同士、これから二人の関係をどうするのか、賢太郎の言葉だけでははっきりと分からないままその日は別れた。  溢れた想いを堪えきれずについDMで好きだと伝えたヒカルだったが、賢太郎からの返信は無く、酷く後悔することに。  主人公ヒカルをはじめとした、登場人物たちの勘違いによって巻き起こる、すれ違いストーリーの結末は……?

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

君がいないと

夏目流羽
BL
【BL】年下イケメン×年上美人 大学生『三上蓮』は同棲中の恋人『瀬野晶』がいても女の子との浮気を繰り返していた。 浮気を黙認する晶にいつしか隠す気もなくなり、その日も晶の目の前でセフレとホテルへ…… それでも笑顔でおかえりと迎える晶に謝ることもなく眠った蓮 翌朝彼のもとに残っていたのは、一通の手紙とーーー * * * * * こちらは【恋をしたから終わりにしよう】の姉妹作です。 似通ったキャラ設定で2つの話を思い付いたので……笑 なんとなく(?)似てるけど別のお話として読んで頂ければと思います^ ^ 2020.05.29 完結しました! 読んでくださった皆さま、反応くださった皆さま 本当にありがとうございます^ ^ 2020.06.27 『SS・ふたりの世界』追加 Twitter↓ @rurunovel

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

処理中です...