Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑

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第2話 職場配置と部屋割り

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「うわ~ 海が真っ青!
ねえ、矢野君、見て、見て!

こんな済んだ色の海って初めて!

それにほら! 海と空の色が一つになって境目が分かんないよ~」

僕が興奮したように矢野君の肩を揺さぶってそう言うと、
彼は片目を開けてチラッと外を見ただけで、
大きなあくびをするとまた目を閉じた。

“チェッ、せっかく仲良くなりたかったのに……
初日からついてないな……”

そう呟きながら彼を横目で見て、

“まあ、夏の間だけだし、
我慢、我慢……

もしかしたら違う部署に回されて、

顔を合わせることも数えるくらいしかないかもだし……”

そう思ってまた外を眺めると、
バスはだんだんと海沿いに抜けていき、
目の前にキラキラとした

“ここは外国?”

というような景色が広がった。

キキ―ッとバスが止まると、

「お疲れさまでした~
ロビーに人事の方が迎えにいらっしゃってますので、
お入りになったら右側にお進みください」

そうバスの運転手さんに言われ、
僕は矢野君に続いてバスを降りた。

ホテル正面からも見える海辺に、
僕は走って壁に近づいた。

“何これ? 何これ?
凄い! 僕、本当にこんなところで働けるの?!”

もう言葉も出ないような景色に僕の胸は高まった。

“こんな所、泊るのに一泊いくらくらいかかるんだろう……

あっ……! あれは芸能人の!

あっ、あれはモデルの……

凄いや、凄いや!

やっぱりこんなとこ来るってお金持ちでないとダメなんだな……
でもすごいな、有名人に沢山会えるかも!

もしかして有名人の誰かと恋に落ちたりなんかしちゃって!”

そう思ってテレテレとしていると、

「早く歩けよ!
後ろがつかえてるんだよ!」

と矢野君がイライラとしたような声で僕に怒鳴りつけてきた。

“何をそんなにイライラしてるんだろう?
本当はここに来たくなかったのかな?”

そう思って後ろを振り向くと、
他の学生たちの注目を浴びていることに気付いた僕は、
少し小さくなりながら、小声で

「すみませ~ん」

と言ってコソコソと進んでいった。

“全く恥ずかしいったらありゃしない!

皆きっとまた僕だ~って思ってるよ!

何で矢野君も皆の前でどつくかなぁ~

仕事始める前から出来ない人に見られちゃう……

もう彼には近寄らないでおこう……”

そう思って始まったオリエンテーションでは、
部屋割と、職場配置が発表された。

僕の名前が呼ばれたときはワクワクだった。

“ロビーかな?
エレベータかな?
客室かな? 
何処だろう?
一杯人と知り合えるところが良いな!”

そう思っていると、

「長谷川陽向さんは洗濯室勤務でお願いします」

と来たもんだ。

“これじゃ有名人どころか、
誰にも会えないじゃん!”

そう思っていると、なんと!
何を隠そう、矢野君も洗濯係だった。

“嘘だ~! だれかこれは夢だと言って~!”

他にもバイト生2人が洗濯室勤務にいたけど、

「では部屋割りをご確認ください」

という指示で目に入った僕のルームメイト。
もう泣きたい以外の何と表現したらいいんだろう。

そこに書いてあった僕のルームメイトの名前は、

“矢野光”

矢野君の方をちらっと見てみると、
彼は配属されるところも、部屋割りも気にしていないように
相変わらず不機嫌そうな顔をしていた。

“どうしよう……
僕、矢野君とうまくやっていけるのかな?”

資料の中には色々とスケジュールも書いてあったけど、
何故か僕と矢野君は他のバイト生たちとは、
食事の時間も、休憩の時間も違った。

勤務時間や日にちもバラバラだけど、
僕と矢野君は思いっきりスケジュールがかぶっていた。

まだ一日目も始まってもいないのに、
僕は帰りたくなった。

でも城之内大学に行くためにそんなことは言ってられない。
何か辛いことがあると、
キャンパスでの恋愛ライフを思いながら僕は乗り切ろうと思った。

そう、僕が城之内学園に行きたい理由はただ一つ。

αの番が欲しいのだ。

悠長に出会いを待ってると、
αとの出会いがあるかもわからない。
それで無くてもαの家系は未だαと、と言う風潮は残っている。

そんな中に貧乏丸出しのΩの僕が、
αにたどり着くなんて富士山に登るのよりも大変だ。

だから城之内大学へ行って出会いの可能性を広げたい。

こういう思いの人は多い。
それゆえに城之内大学は

“お見合い大学”

と呼ばれている。

この大学で出会い、結婚する人は多い。
学生の80%程がこの学園で出会い、
出会って一年もしないうちに結婚する。

勿論学生結婚だ。
それでも皆何とかやっている。

正に天晴だ。

僕は第二次性の判定でΩと出た。
それ以来この大学に来るのは僕の夢だ。

運命の番なんて夢は持ってない。
ただ、ただ、αの番が欲しかった。

そして少し……いや、かなり欲を言えば、
とびっきりカッコよくてお金持ちのαが欲しかった。

ずっと、超貧乏で過ごしてきた僕は、
お金に関して異常なほどのコンプレックスと夢を持っていた。

その反動がこれだ。

多くのαは裕福層の出だ。
それにあやかる事が悪いことだとは思わない。

早く言えば玉の輿に乗ると言う事だ。

勿論ロマンスも欲しい。
僕をこよなく愛してくれる人が出来たら
それこそ夢のようだろう。

でも僕の生活が安定して、なんの苦労もさせないαが出てきてくれたら、
僕は何の迷いもなく愛を捨て、お金を選ぶだろう。

そんな出会いを求めた城之内大学への進学準備だったけど、
最初から鼻を弾かれたように、
僕はもう既にあきらめの心が生まれていた。

そんな時に通ったロビーの通路で見た創立者の写真。

彼の番だという人と笑顔でこちらを向く彼はとても自信に満ち溢れ、
誇らしそうに笑っていた。

“へ~ これが矢野君が言っていた創立者とその番か……

今から100年以上も前の人達なんだ……

この頃のαとΩって簡単に出会えたのかな?

授業ではこの頃にΩ改革があったって言ってたよな……?

一体どう言った人達だったんだろう?

あ、でも写真で見ると、親子みたいな感じだよな……
移り方かな?  それとも今流行りの歳の差婚?”

そう思って写真を横から見たり、下から見たりした。

“へ~ 番は陽一って名前か~ だからサンシャインか~
本当にベタぼれだったんだな……”

そう思って、矢野君の言ってた言葉を思い出してクスっと笑った。
それはとても微笑ましいと思ったからだ。

番の名前をホテルに付けるなんて……
本当に彼の事愛してたんだな……

羨ましいなあ~

それに彼の両親の思い出の地にポーンとこんなの立てるなんて……

凄いって言えば凄いよな……

僕もこんなに僕を愛してくれる番が現れればな……”

僕はうっとりとしながら彼らの写真を眺めていた。

“ん? 待てよ? この人の名前……

矢野浩二……

矢野君と同じ苗字……
ただの偶然かな?

きっとただの偶然だよね……

もしここの御曹司だったら僕と同室な上に、
洗濯係ってあり得ないよね~”

そう思いながら僕は部屋へと通じるエレベータへと乗り込んだ。
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