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勇者パーティ現る

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 さて、早いもので勇者パーティの3人が屋敷に訪れた。
 取り敢えず、出迎えに出ればやはりリョウコは俺の隣にいるシルバリウスに見惚れていたんたけど、シルバリウスと共に屋敷を案内すればする程なんか壊れていった。
 “は? なんでロイが従僕?”、”え? なんかハワードっぽいのが庭に居たような。気のせいよね……”、”ニアがメイドって……似合うけどさ……”、”カーラが料理長? え? 錬金術師だよね? え? 錬金術で料理作ってる? ”、”まさかサスケまでは居ないわよね”
 よく分からないテンションで辺りを見回しながらブツブツ言うものだから、同じ勇者パーティのカメルとルドルフも若干引いていた。
 ……まぁ、2人以外の勇者パーティメンバー候補が1つの屋敷に全員居たらそうなるよね(笑)
 
 そして当然の事ながらその日の晩餐ではエドガーとの言い合い合戦が勃発。
「やっぱり転生者でしょ」
「何の話か分かりかねます」
「これだけ、屋敷にパーティメンバー揃えておいて何言ってるのよ? この1ヶ月パーティメンバー探す為にどれだけ国中を回ったと思っているのよ!」
「分かりかねます」
 エドガーはこめかみをピクピクはさせながらも冷静に回答する。
「居るはずの場所に誰1人居ないと思ったら、ここに全員集合って、何なの? 自分が勇者になって無双しようとしていたわけ? 残念ねぇ。私が現れちゃって」
「……マジ意味わからん」
「ほら! それ! “マジ”とか共通大陸言語には無い筈よ! 白状なさい!」
「……知らないものは知らねぇんだよ」

 エドガーがチラッと俺を見たものの、辟易したようにリョウコの相手をする。
 “マジ”とか教えたのは俺だからね、エドガーは何か勘付いたのかもしれない。
 分かった上で矢面に立ってくれるようなので、取り繕っていた仮面が早々に剥がれ、地が出てしまっている件は他の人には内緒にしといてあげよう。
 まぁ、スチュアート経由で父親にバレるかもしれないが。

 それにしても、勇者は能力は高そうだが、マナーは全然なっていないようだ。
 いくら客人とは言え、招かれた家の晩餐でギャーギャー騒ぐのはあり得ない。
 それも、この屋敷の主人として何度か話を逸らそうとしているにも関わらず、話を戻すし果ては聞こえないフリ。
 一応勇者は18歳設定で俺より年上の筈なんだけど、マナー所か一般常識もあるのか怪しげだ。
 因みに俺を邪険に扱う素振りの勇者に、シルバリウスの表情は無だ。

 そして、あっさりシルバリウスの誕生日が過ぎ、勇者は調査の合間に暇があればエドガーやシルバリウスに絡みにいっていた。
 ……本当はシルバリウスの誕生日も質素でも素敵な誕生日を用意しようと思っていたんだよ? とりあえず、今は語りたくない程リョウコが邪魔だったとだけ言っておく。
 リョウコの残念さとエドガーとシルバリウスへの纏わり付きに屋敷の雰囲気もぎこちない雰囲気になっていく中、年明けから本格的に調査をする為に、隊を編成するとなった時、やっと俺の事に勘付いたのか勇者に”2人で会いたい”と呼び出された。
 シルバリウスを誤魔化すのが大変だったけど、俺の使用人も駆使して同じ屋敷内だし何とか1人で会いに行ったとも。
 
 そして今。
 ドアは開けっぱなしの使われていない客室。
「あんたが転生者なんでしょ? そもそもあんたゲームに居なかったもんね。モブでシルバリウス様の婚約者ポジとかありえない!」
「……」
2週間も屋敷で過ごしていてやっと気が付いたのか
「シルバリウス様は私の前世の最推しなのよ! 銀髪に青目に端正な顔立ち、普段は無表情でたまに出る表情が何とも素敵で、主役級なのに奴隷身分っていうのがまたイケナイ関係を匂わせるようで背徳的なのよね」
「……」
 前半部分は分かる! 今も生で見る笑顔は鼻血が出ないようにするのに大変なのだ
「だから、召喚されてこの世界に来たと分かった時、シルバリウス様をお助けして、最後死なせない為に必死でレベル上げをしたのよ。助けて冤罪も晴らしたら私に惚れるはず。もうイケメン奴隷が心から主人に尽くすとかもう夢の世界よね」
「……」
この勇者痛くないか? 助けさえすれば自分に惚れると思っている?
しかも奴隷から解放はしないんだ。
……そういえば、そういう同人誌もあるって前世で誰かに聞いたことがあったような。
「なのにいつまで経ってもシルバリウス様は現れないから、城の人に聞けば死んだ事になっているし、じゃあさっさと終わらせるかと思えば、こんな所にいるし。
既に奴隷から解放されているのは残念だったけど、まぁゲームより表情が豊かそうでプラマイゼロってところかしら。
という事で、転生者でもどうでも良いんだけどモブのあなたは要らないの。婚約破棄してくれるかしら?」
 ここまで高圧的に言い切る勇者に唖然とする。
 頭が足りないかなとは薄々思っていたが、いくら勇者といえど権力を振りかざして他国の貴族の息子の婚約者を奪い取ろうなんて、国の代表として来ている自覚はあるのだろうか?
「すみません。あなたの仰っている事は分かりかねますが、シルバリウスとは既に結婚を前提とした婚約を結んでおり、国王陛下と教会の承認もある為そんなに易々と婚約破棄する事は出来ません。それに私もシルバリウスも同意しないでしょう」
 国王陛下への根回しは父親がしっかりやってくれているため、正式な反論が可能なのだ。
 まぁ国としてもよその国にシルバリウスをやってしまうよりは、自国の貴族の息子の婚約者にする方が良かったのだろう。
「あなたがシルバリウス様の何が分かるって言うのよ? シルバリウス様は私と結婚するのよ」
「……」
は? それは俺が言いたい事だわ。
勇者の行動で屋敷の雰囲気が悪くなっても気付かない位だから空気読めないんだろうなとは思ってだけど、ここまでとは。
「国の奴隷という枷は無くなったけど、あなたという枷が付けられて、そこから助け出すのは私。私が来たからにはあなたはもう退場して良いのよ。私が円満に言っているうちに婚約破棄しなさい。それとも悪役として断罪されたいの? あなた死ぬ筈だった所をせっかく生き延びたんでしょう? このままだと今度は乙女ゲームの悪役みたいに断罪されかねないわよ?」
そういう理屈ね! って乙女ゲーム? この世界は俺のやっていたRPGじゃないのか?
「……”乙女ゲーム”?」
「あら転生者の癖に知らないの? まあ、男だったら知らないか、この元のゲームはRPGだけど、テンプレ的には私が主人公なんだから乙女ゲーム要素も入るでしょう。そういう同人誌もいっぱい出ていたし」
「……」
 ちょっと一安心。確かにこの世界がゲームだけを元にした世界とは限らないけど、同人誌の世界とも限らない。
 そして、俺はこの世界で生きてきたのだ。元の世界はどうであれ、今生きている人達がこの世界を作っていると言うことを知っている。
「私もあなたを断罪したいとは思わないわ。でも今のままだとあなたの命の保証はできない。うちの国王にも、婚約者がいる人とは縁談を認められないとか言われてるし」
「……」
 再び唖然。
 ナチュラルに他国の貴族を脅しているんだけど。この勇者。しかも国王は婚約者がいる人は除外という意味で非常識な勇者に常識を言っただけで、婚約破棄させてこいという意味では無いと思うよ?
「だから別れてね。まぁ、あなたが未練たらたらでも、近いうちにシルバリウス様は私を選ぶと思うわ。そうしたら下手な足掻きなどせず、さっさと婚約破棄するのがお互いの為にも良いと思うの。私も無駄に傷付けたいわけじゃ無いから、モブはモブらしく慎ましく生きていくのが良いと思うわ。では失礼します」
 勇者は一方的に言いたいことだけ言って去っていった。
 ――シュタッ
 天井からサスケが降りてきた。
「殺ル?」
 多分通じて無い話もあるだろうけど、主人が侮辱されている事や今後の生命を脅かす発言はわかったのだろう。なんか影が蠢いていて心なしかカタコトのように聞こえたけど大丈夫だろうか。
「いや、自滅するだろうから放っておこう」

 ――そして数日後、年明けからの調査隊メンバーにエドガー率いる調査隊のメンバーにシルバリウスの名前はなく、リョウコ率いる調査隊のメンバーに名前があった。
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