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追い込み

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 そうして、そうこうやっているうちに、父親から手紙が返ってきた。
 戦々恐々と手紙を開いたものの、忙しいのかエドガーから何か聞いたのか、殆ど用件のみの内容でリューイの誕生日迄にフォンデルク辺境伯領の首都の屋敷へ戻るとの事だった。
 どうやら父親は現在まだ王都にいるらしく、この手紙も王都からだった。
 グフフ。
 恐らく、父親的には言外に”領地に戻るから首都にいろ”という事なのだろうが、実際に手紙に書いてあるのは文字通り父親の予定だけ。
 ここは敢えて空気を読まず、”スタンピート発生の予兆が見られる為、ルミナス村の屋敷へ帰ります。詳細が分かりましたら連絡します”と手紙を記載し、3月末に首都の屋敷に届くように手配した。
 グフフフ。
「リューイ。可愛い顔をしてどうした?」
 と、先程からゲスい笑みしか浮かべていない俺の頭を撫でるシルバリウスはやっぱりちょっと目のフィルターを早く洗った方が良いと思う。
 
 話を戻すと、父親が”何故首都の屋敷に居ないのだ”と怒ろうにも、居るようには言われてないし? スタンピートを理由に出されては、領主としては何も言えないだろう。
 それに、誕生日は大切な人と過ごしたいじゃない?
 せっかく成人するので、シルバリウスに初めてを貰って貰おうかと思っている。
 グフフフ。
 現世では色事の知識がなくても、情報が豊かだった前世知識は持っている。男同士がどこを使うのか位は知っているのだ。
 といっても、最近まで魔力枯渇症だったからか、俺自身は性欲があまりないが、シルバリウスはたまに夜中にベッドを抜け出している事を知っている。
 まぁ、詳しいやり方は分からないけど、シルバリウスにお任せすれば、何とかなる気がするのだ。
 ……多分。
 ……いや、もしかしてシルバリウスは童貞か?
 ……やっぱり自分でもこの世界の事を調べておこう。スチュアートには恥ずかしいから、庭師のハワードかな。
 でも、彼は恋愛拗らせて植物愛に目覚めちゃったんだよな……。
 まぁ、後で考えよう。

「と、いう事で、俺誕生日はルミナス村の屋敷で迎える事にするから」
 突然の言葉にダイニングで揃ってお茶を飲んでいたシルバリウスは驚いたようだ。
 因みに向かい側に座っているスチュアートは俺の言動に慣れているため、先を促すように頷いた。
 家族といると、俺も一応は貴族の身なので、こんな風に使用人の立場であるスチュアートと一緒の場所でお茶をしたりなんて出来なくなるのも嫌だしなぁと思った。
「恐らくスタンピートは4月下旬から5月中旬だと思う。その前までには俺も行って調査したい。そして、出来れば屋敷の人間を中心に対処してしまいたいと思っている。
 勿論調査を行う上で難しいと判断した場合は、領主の応援を貰う予定だけども」
 俺も、空いた時間ただのんびり過ごしていた訳ではないのだ。
 ゲーム内で勇者が召喚されたのが勇者の誕生日である6/4。その約一ヶ月前に、勇者召喚のきっかけになるスタンピートが発生するのだ。
 後はサスケが定期的に持ってきてくれる魔物の報告書内でも、徐々に魔物の数が増えているようだった。
「それに4/2の俺の誕生日は忙しくなる前に大切な人達と過ごしたいからね」
 シルバリウスが少し複雑な顔をしている。
 俺が本当の家族を選ばずルミナス村で過ごす事を心配してくれているのだろうか?
 まぁ、がっつりエドガーとバチバチやっているのを間近で見てたからねぇ。
 スチュアートは”とうとうぼっちゃまも大人の階段を……”とか言っていたように聞こえたけど、ただ単純に成人って意味だよね……?
「なので、その4日前にここを出るよ! だから最後の追い込みの金策……じゃなくて、鍛錬をしようと思う。
 スチュアートはここの引き払う準備とか、必要なものの買い物をよろしく。各々残り半月ほどよろしくね!」
 そして、俺達がダンジョンに行っている間に、スチュアートには屋敷の使用人達用の防御服も買って貰ったりした。
 あと、俺達は念願のインベントリ付き時間停止機能のある魔法収納鞄を購入して、今まで使用していた普通の魔法収納鞄をダンジョンで手に入れた魔石専用にしたり(でも結局それだけでは足りず追加購入もした)、あとはお土産用の補助媒体や補助アクセサリーを購入したり、各所で散財。
 その分、地下30階に挑戦して、荒稼ぎ。シルバリウスのチートで、俺の魔力消費が少ないのも勿論、俺の魔力総量も相変わらず増え続けている為、1日4回か5回はボス部屋に挑戦している。
 とりあえず、仲の良くなった職員のハルさんは日を追う毎に顔色が悪くなるし、換金せず魔石を多めに持ち帰ろうとすれば、一気に市場に流されると値崩れするからと最低半分は協会で買い取らせてくれと言われ、半分納品すれば現金がなくなってしまうという事で、残りは1年後迄の月払いにさせてくれと泣きつかれたり……。
 こちらも迷惑をかけている自覚は多少あった為、了承した。
 そして、元から長くは居ないと言っていたが、帰る日が決定してハルさんに伝えたら、心底ほっとしたような笑顔で”寂しくなりますね”と言われ、なんだかちょっとモヤモヤした。
 そして、いつの間にか俺にも二つ名がついていた。
 “水色の殺戮天使”だそう……。
 確かに家族にバレてからはローブのフードは外して戦っているし、最近よく見学者がいるなとは思っていたが、そんな名前が付いていたとは。
 因みにファンですと若い子……ではなく中年のおにいさん?(地下30階まで来れる実力派の大半は、ある程度年齢がいってしまう)に手紙を貰った時、シルバリウスの事も聞いてみたが、シルバリウスはなんと普通の剣士扱いだった!
 俺が空飛ぶ魔物系を一気に撃ち落とすという目に見える動きがある中、シルバリウスは”加速”を使用して目に見えない動きをしてしまうから、俺含めて普通の人にはシルバリウスは地上の魔物を地道に一体ずつ倒しているように見え、ただの剣士扱いになってしまっているようだ。
 シルバリウスだけを見ていれば、定期的に数十体纏めて屠られたりしているから分かるのだろうが……。
 まぁ、この国では「時」属性魔法があまり認知されていないから、そもそもそんな現象が起きていることすら、言われて意識しなければ分からないかもしれない。
 そんな感じで、3月末まで充実したダンジョン中心生活を送り、久しぶりにルミナス村の屋敷へ帰った。
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