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第4章(最終章)
【4-45】遠撃部隊合同訓練
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◆◆◆
──翌日。
ウィスタリア王城内で一番広大な庭に、王国騎士たち、そして両隣国から遣わされている兵士たちが集められていた。本日の合同訓練は、チェットとリツが先導することになっている。
キリエとリアムは、比較的安全と思われる端へ設置されている小さな天幕内から観察することになっていた。エドワードはひとまず停車場で馬車と共に待機してもらっているが、訓練後にどうにかしてリツと話してもらう予定だ。
定刻となり、庭の中央へチェットとリツが進み出る。二人とも武装しており、チェットは大型の弓を、リツは拳銃を手にしていた。
「諸君! 晴天で良かったなぁ! 合同訓練を始めっぞー!」
チェットが大声を張り上げる横で、リツは拡声器なるアルス市国の発明品を口に宛がい、穏やかな声を庭の隅々まで響かせる。
「本日の訓練は、あくまでも流れの感覚を何となく掴むためのものです。実際には城内の庭ではなく、王城前の大広間が戦場となるでしょう。加えて、本日はウィスタリアの王国騎士の皆さんには定位置に立ってもらうだけですが、実際には動き回ります。こちらに並んでいる的の数々も、実際には自分で動く魔族たちです。それを頭に置きつつ、怪我をしないことを第一に、矢や銃弾の軌道や速度を掴めるようにしてください」
リツの言葉を受け、兵たちは「はい!」と声を揃えた。雄々しい声音から、彼らの緊張感と意気込みがピリピリと伝わってくる。僅かに身震いするキリエを宥めるべく、リアムは細い背をそっと撫でた。
「まぁ、怪我をしない、怪我をさせない、それだけ頑張りゃいいさ! 合同訓練は今後も繰り返すし、徐々に実際の状況に近付けていくしな! 今日は、矢や銃弾の流れを把握してくれー! よぉし! 総員、定位置に付け!」
チェットの指示を受け、兵たちは決められた立ち位置へと移動してゆく。それを眺めながら、キリエはリアムへ向けて密かに精霊の加護を分け与えた。それに気づいたリアムは、微かに眉を顰める。
「キリエ様、そちらは不要です」
天幕内には他に誰もいないが、念には念を入れているのか、リアムは硬い態度と敬語を用いていた。遠回しに加護はいらないと伝えてくるリアムに対し、キリエは小さく首を振る。
「此処にも矢や弾が流れてくる可能性もあります。特に、あの銃という武器の弾は、とても速くて危険なものでしょう? 矢も危ないものだと思いますが、そちらは君も見慣れているでしょうし……、でも、銃は……」
「確かに、私は銃弾の威力を直に感じたことはございません。しかし、それでも貴方をお守りするのが私の役目。……キリエ様に、御負担いただく必要はございません」
精霊の加護をリアムへ与えるとき、キリエの心身には多少なりとも負荷が掛かるのだ。リアムはそれを心配しているのだろう。
「前にも言ったでしょう? 僕は君に守られるだけではなくて、君を守りたいのです。そのために、僕は試練を受けて、この力を自分の意識下で使えるようになったのですから」
「しかし……、」
「君は僕を守ってくれる。僕は君を守る。それでいいじゃないですか」
ね? とキリエが微笑んだところで、兵たちの準備が整ったらしい。チェットとリツが頷き合い、彼らも自身の持ち場へと駆けてゆく。庭の空気が張りつめ、大勢が集まっているとは思えないほどの静けさが満ちていた。
「みんな、自分の定位置に立ったな? よし、そんじゃあぼちぼち始めっか! おーい、リツ! 開始前に何か言っておくことはあるか?」
姿は見えないが、どこからかチェットの大声が聞こえてくる。それに呼応するように、リツの声も響いてきた。
「先程チェットも言っていましたが、怪我人が出ないようにすることを一番気をつけてください。しかし、そうは言っても、危険な訓練であるのは確かです。城内に医療班をいくつか配備していますので、少しでも負傷や不調があった場合にはすぐに申し出てください。今回は、全力を出す必要はありません。動かない的へ向かって一直線に撃って良いのです。そう意識してもらえれば、無駄に負傷者を出すことは無い位置配置になっていますから。……私からは、以上です。チェット、弓矢部隊への号令をお願いします」
「おうよ、任せとけ!」
いよいよ訓練が始まるという気配を感じ取り、キリエの横に立つリアムは静かに剣を抜いて身構える。キリエもまた集中力を高め、風の精霊の加護をいつでも引き出せるよう、指先に力を込めた。
「では、これより遠撃部隊合同訓練を開始する。総員、構え! ──弓矢部隊、撃て!」
チェットの号令が響き渡るやいなや、様々な方向から射出された矢の雨が勢いよく庭へ降り注いだ。
──翌日。
ウィスタリア王城内で一番広大な庭に、王国騎士たち、そして両隣国から遣わされている兵士たちが集められていた。本日の合同訓練は、チェットとリツが先導することになっている。
キリエとリアムは、比較的安全と思われる端へ設置されている小さな天幕内から観察することになっていた。エドワードはひとまず停車場で馬車と共に待機してもらっているが、訓練後にどうにかしてリツと話してもらう予定だ。
定刻となり、庭の中央へチェットとリツが進み出る。二人とも武装しており、チェットは大型の弓を、リツは拳銃を手にしていた。
「諸君! 晴天で良かったなぁ! 合同訓練を始めっぞー!」
チェットが大声を張り上げる横で、リツは拡声器なるアルス市国の発明品を口に宛がい、穏やかな声を庭の隅々まで響かせる。
「本日の訓練は、あくまでも流れの感覚を何となく掴むためのものです。実際には城内の庭ではなく、王城前の大広間が戦場となるでしょう。加えて、本日はウィスタリアの王国騎士の皆さんには定位置に立ってもらうだけですが、実際には動き回ります。こちらに並んでいる的の数々も、実際には自分で動く魔族たちです。それを頭に置きつつ、怪我をしないことを第一に、矢や銃弾の軌道や速度を掴めるようにしてください」
リツの言葉を受け、兵たちは「はい!」と声を揃えた。雄々しい声音から、彼らの緊張感と意気込みがピリピリと伝わってくる。僅かに身震いするキリエを宥めるべく、リアムは細い背をそっと撫でた。
「まぁ、怪我をしない、怪我をさせない、それだけ頑張りゃいいさ! 合同訓練は今後も繰り返すし、徐々に実際の状況に近付けていくしな! 今日は、矢や銃弾の流れを把握してくれー! よぉし! 総員、定位置に付け!」
チェットの指示を受け、兵たちは決められた立ち位置へと移動してゆく。それを眺めながら、キリエはリアムへ向けて密かに精霊の加護を分け与えた。それに気づいたリアムは、微かに眉を顰める。
「キリエ様、そちらは不要です」
天幕内には他に誰もいないが、念には念を入れているのか、リアムは硬い態度と敬語を用いていた。遠回しに加護はいらないと伝えてくるリアムに対し、キリエは小さく首を振る。
「此処にも矢や弾が流れてくる可能性もあります。特に、あの銃という武器の弾は、とても速くて危険なものでしょう? 矢も危ないものだと思いますが、そちらは君も見慣れているでしょうし……、でも、銃は……」
「確かに、私は銃弾の威力を直に感じたことはございません。しかし、それでも貴方をお守りするのが私の役目。……キリエ様に、御負担いただく必要はございません」
精霊の加護をリアムへ与えるとき、キリエの心身には多少なりとも負荷が掛かるのだ。リアムはそれを心配しているのだろう。
「前にも言ったでしょう? 僕は君に守られるだけではなくて、君を守りたいのです。そのために、僕は試練を受けて、この力を自分の意識下で使えるようになったのですから」
「しかし……、」
「君は僕を守ってくれる。僕は君を守る。それでいいじゃないですか」
ね? とキリエが微笑んだところで、兵たちの準備が整ったらしい。チェットとリツが頷き合い、彼らも自身の持ち場へと駆けてゆく。庭の空気が張りつめ、大勢が集まっているとは思えないほどの静けさが満ちていた。
「みんな、自分の定位置に立ったな? よし、そんじゃあぼちぼち始めっか! おーい、リツ! 開始前に何か言っておくことはあるか?」
姿は見えないが、どこからかチェットの大声が聞こえてくる。それに呼応するように、リツの声も響いてきた。
「先程チェットも言っていましたが、怪我人が出ないようにすることを一番気をつけてください。しかし、そうは言っても、危険な訓練であるのは確かです。城内に医療班をいくつか配備していますので、少しでも負傷や不調があった場合にはすぐに申し出てください。今回は、全力を出す必要はありません。動かない的へ向かって一直線に撃って良いのです。そう意識してもらえれば、無駄に負傷者を出すことは無い位置配置になっていますから。……私からは、以上です。チェット、弓矢部隊への号令をお願いします」
「おうよ、任せとけ!」
いよいよ訓練が始まるという気配を感じ取り、キリエの横に立つリアムは静かに剣を抜いて身構える。キリエもまた集中力を高め、風の精霊の加護をいつでも引き出せるよう、指先に力を込めた。
「では、これより遠撃部隊合同訓練を開始する。総員、構え! ──弓矢部隊、撃て!」
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