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第4章(最終章)
【4-19】妖精人の長老の孫として
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キリエの発言を聞いた一同は驚きと共に絶句していたが、そのわずかな静寂をチェットが打ち破る。
「いやいやいやいや、無理だろ! アンタ一人で魔族二人の相手をしてるって? この姉弟が味方だとしても、それは賛成できねぇな」
「僕一人ではありませんよ。リアムにも傍にいてもらいます」
「いや、そうだとしてもだ! いくらアンタの騎士様が強くたって、一人……、いやこの際キリエも含めて二人でもいいけどさ、どっちにしろ、魔術とやらに即座に対抗できねぇだろ」
チェットの言葉に賛同するように殆どの者が頷いていたが、イヴとアベル、そしてリアムは静かに様子を見守っていた。
リアムは、キリエの安全に関して誰よりも過敏な男だ。そのリアムが黙っているということは、彼はキリエの思惑を理解しているのだろう。それを密かに喜ばしく感じつつ、キリエは冷静に言った。
「僕だからこそ、です。──みんなも知っているでしょう?僕は半妖精人です」
しん、と再び静まり返る。
「イヴとアベルの本心がどうであったとしても、様々な面から考えて妖精人へ手を出したくないのは本当なのではないかと思います。それに、僕は妖精人の血を引いていますから、精霊が味方してくれます。精霊と意志を通わせて加護を乞えるのは、妖精人だけですので」
銀色の眼差しが、魔族の二人をまっすぐに射抜いた。
「僕は、現在の妖精人の長老の孫です。……その意味は、お分かりいただけますよね?」
「長老の孫……、だと。本当か?」
「本当です」
イヴとアベルは、これまでで最大の驚きを見せる。やはり、彼らにとっては影響力の大きい情報だったようだ。
キリエは、地位や権力を誇示するのは好きではない。だが、これらを用いなければ乗り越えられない場面もあるのだと、王都に来てから何度も実感している。そして、今は己の立場を使うべきときだ。
自分とリアム、イヴとアベル。この四人だけになれる場が必要であるとキリエは考えているが、それは人間側の話し合いのためだけではない。彼らが意見をまとめている間に、違った側面から固めておくべき話があるのだ。
「妖精人の中では、長老は絶対的な存在です。ウィスタリア王国における国王のような立場です。その長老である祖父は、僕が半妖精人だと理解した上で、大切に想ってくれています。……イヴとアベルが本当に妖精人を尊重してくれているのなら、僕に手出しは出来ないはずです。もし仮にイヴたちが聞かせてくれた今までの話が全て嘘だったとしても、この地に精霊が存在していることも僕が半妖精人としてその加護を受けていることも事実です。他のみんなよりも、対峙できる可能性は高いのではないかと思います」
そうは言ったものの、キリエはイヴたちと争う気はなく、相手もそのつもりはないだろうと考えている。
今の言葉に密かに混ぜた意味合いを、自分よりもずっと賢いであろうイヴならば察してくれるはずだ、とキリエは期待していた。その願いが通じたのか、イヴは何かに気づいたような、意味深な瞬きをしてみせる。リアム、ジェイデンとマクシミリアン、リツも察するところがあったのか、それぞれ強い気持ちが込められた視線をキリエへ向けてきた。キリエは特定の誰かに対してというわけでもなく、小さく頷いて見せた。
「……まぁ、キリエが言うことも一理あるかな。では、君たちには、あまり遠くはない別室に行ってもらおうか。ただし、イヴとアベルには身体検査を受けてほしい。衣服の下まで全て改めさせてもらって、持ち物は全て置いて行ってもらい、念のために両手は縛って拘束してほしい。……どうかな?」
そんな提案をしたジェイデンは、魔族たちを試すような、あるいは値踏みするような視線を彼らへ注ぐ。しかし、イヴとアベルは激昂することなく、静かに頷いた。
「分かった。あたしは構わない。……アベルも、いい?」
「いいよ。ぼくたちはここで決別するわけにはいかないんだから。でも、お願いなんだけど、姉様の身体を調べるのは女性にしてね」
アベルが不安げに零した頼みに反応したのは、赤薔薇および白百合の騎士である。
「私たちが調べよう。無論、男性陣の目に触れぬよう配慮する」
「敷布のような、大きい布を借りられるかしらぁ? それで、イヴさんの周りを囲ってあげられればいいかなぁと思うのだけど。メイドさんたちも手を貸してくれるかしらぁ?」
「すぐにお持ちします」
「勿論、わたくしたちにもお手伝いさせてくださいませ」
女騎士たちへの協力をエレノアとキャサリンが明言すると、その輪へジャスミンとルーナも加わった。
「わたしも、そちらの検査に加わるわ」
「私も、女性陣に加勢するとしようかねぇ」
女性たちが団結すると、男性たちも誰からともなく立ち上がったり歩み寄ったりしてアベルのほうへと集まり始める。そんな中、アベルの緑色の眼差しがチラチラとセシルを見ていた。彼の視線の意図に気づいたセシルは、胸に手を当てて一礼する。
「お客様、こんな服装ではありますがボクの性別は男ですので、こちらの身体検査に加わってもよろしいでしょうか?」
「あ……、メイドじゃないんだ。うん、大丈夫だよ。ジロジロ見ちゃってごめんね」
「いいえ、紛らわしい格好をしているのはこちらですので。お気遣いいただき、ありがとうございます」
すぐに認識を改めたアベルは、わずかに眉尻を下げた。申し訳なさそうな態度は、演技とは思えない。セシルは気にした様子もなく、普段通りの微笑で会釈した。
とにもかくにも、特に反発する者もなく、一同は男女に別れて身体検査を行う運びとなった。
「いやいやいやいや、無理だろ! アンタ一人で魔族二人の相手をしてるって? この姉弟が味方だとしても、それは賛成できねぇな」
「僕一人ではありませんよ。リアムにも傍にいてもらいます」
「いや、そうだとしてもだ! いくらアンタの騎士様が強くたって、一人……、いやこの際キリエも含めて二人でもいいけどさ、どっちにしろ、魔術とやらに即座に対抗できねぇだろ」
チェットの言葉に賛同するように殆どの者が頷いていたが、イヴとアベル、そしてリアムは静かに様子を見守っていた。
リアムは、キリエの安全に関して誰よりも過敏な男だ。そのリアムが黙っているということは、彼はキリエの思惑を理解しているのだろう。それを密かに喜ばしく感じつつ、キリエは冷静に言った。
「僕だからこそ、です。──みんなも知っているでしょう?僕は半妖精人です」
しん、と再び静まり返る。
「イヴとアベルの本心がどうであったとしても、様々な面から考えて妖精人へ手を出したくないのは本当なのではないかと思います。それに、僕は妖精人の血を引いていますから、精霊が味方してくれます。精霊と意志を通わせて加護を乞えるのは、妖精人だけですので」
銀色の眼差しが、魔族の二人をまっすぐに射抜いた。
「僕は、現在の妖精人の長老の孫です。……その意味は、お分かりいただけますよね?」
「長老の孫……、だと。本当か?」
「本当です」
イヴとアベルは、これまでで最大の驚きを見せる。やはり、彼らにとっては影響力の大きい情報だったようだ。
キリエは、地位や権力を誇示するのは好きではない。だが、これらを用いなければ乗り越えられない場面もあるのだと、王都に来てから何度も実感している。そして、今は己の立場を使うべきときだ。
自分とリアム、イヴとアベル。この四人だけになれる場が必要であるとキリエは考えているが、それは人間側の話し合いのためだけではない。彼らが意見をまとめている間に、違った側面から固めておくべき話があるのだ。
「妖精人の中では、長老は絶対的な存在です。ウィスタリア王国における国王のような立場です。その長老である祖父は、僕が半妖精人だと理解した上で、大切に想ってくれています。……イヴとアベルが本当に妖精人を尊重してくれているのなら、僕に手出しは出来ないはずです。もし仮にイヴたちが聞かせてくれた今までの話が全て嘘だったとしても、この地に精霊が存在していることも僕が半妖精人としてその加護を受けていることも事実です。他のみんなよりも、対峙できる可能性は高いのではないかと思います」
そうは言ったものの、キリエはイヴたちと争う気はなく、相手もそのつもりはないだろうと考えている。
今の言葉に密かに混ぜた意味合いを、自分よりもずっと賢いであろうイヴならば察してくれるはずだ、とキリエは期待していた。その願いが通じたのか、イヴは何かに気づいたような、意味深な瞬きをしてみせる。リアム、ジェイデンとマクシミリアン、リツも察するところがあったのか、それぞれ強い気持ちが込められた視線をキリエへ向けてきた。キリエは特定の誰かに対してというわけでもなく、小さく頷いて見せた。
「……まぁ、キリエが言うことも一理あるかな。では、君たちには、あまり遠くはない別室に行ってもらおうか。ただし、イヴとアベルには身体検査を受けてほしい。衣服の下まで全て改めさせてもらって、持ち物は全て置いて行ってもらい、念のために両手は縛って拘束してほしい。……どうかな?」
そんな提案をしたジェイデンは、魔族たちを試すような、あるいは値踏みするような視線を彼らへ注ぐ。しかし、イヴとアベルは激昂することなく、静かに頷いた。
「分かった。あたしは構わない。……アベルも、いい?」
「いいよ。ぼくたちはここで決別するわけにはいかないんだから。でも、お願いなんだけど、姉様の身体を調べるのは女性にしてね」
アベルが不安げに零した頼みに反応したのは、赤薔薇および白百合の騎士である。
「私たちが調べよう。無論、男性陣の目に触れぬよう配慮する」
「敷布のような、大きい布を借りられるかしらぁ? それで、イヴさんの周りを囲ってあげられればいいかなぁと思うのだけど。メイドさんたちも手を貸してくれるかしらぁ?」
「すぐにお持ちします」
「勿論、わたくしたちにもお手伝いさせてくださいませ」
女騎士たちへの協力をエレノアとキャサリンが明言すると、その輪へジャスミンとルーナも加わった。
「わたしも、そちらの検査に加わるわ」
「私も、女性陣に加勢するとしようかねぇ」
女性たちが団結すると、男性たちも誰からともなく立ち上がったり歩み寄ったりしてアベルのほうへと集まり始める。そんな中、アベルの緑色の眼差しがチラチラとセシルを見ていた。彼の視線の意図に気づいたセシルは、胸に手を当てて一礼する。
「お客様、こんな服装ではありますがボクの性別は男ですので、こちらの身体検査に加わってもよろしいでしょうか?」
「あ……、メイドじゃないんだ。うん、大丈夫だよ。ジロジロ見ちゃってごめんね」
「いいえ、紛らわしい格好をしているのはこちらですので。お気遣いいただき、ありがとうございます」
すぐに認識を改めたアベルは、わずかに眉尻を下げた。申し訳なさそうな態度は、演技とは思えない。セシルは気にした様子もなく、普段通りの微笑で会釈した。
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