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第4章(最終章)

【4-15】魔石職人

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「こちら側でも、そういう結論を出していた。魔族が魔術を駆使するには魔石が必須だと把握していたから、魔石が握れない状況に追い込むのが最善の策ではないか、と」

 そう答えたリアムの言葉に真っ先に反応したのは、アベルであった。しかし彼は、なぜかリアムではなくキリエを見つめて問いかけてくる。

「なんで? どうして魔石のことを知ってたの?」
「えっ、えぇと……、」

 嘘やごまかしを口にしたくはないが、かといって、どこまで話してよいものか判断が難しい。そう思って視線を泳がせるキリエだったが、目が合ったジェイデンは静かに頷いた。その金眼が「自由に話して大丈夫だ」と背を押してくれているように感じたキリエは、おずおずと語り出す。

「……僕の兄弟が、魔石を持っていたのです」
「兄弟って、妖精人エルフ? 今更だけど、キリエは妖精人?」
「い、いいえ、兄弟は人間です。僕は半妖精人ハーフエルフで……、」
「半妖精人。あー……、カインが得意気に語ってた襲撃話の半妖精人って、もしかしてキリエ? ってことは、カインが死の呪いをかけた付き人ってのがリアム=サリバン? へぇ……、よく生きてたね。どうやって生き延びたの?」

 キリエを話しやすい相手とみなしたのか、アベルは友好的な口調で率直な問いを繰り返してくる。キリエとリアムがカインの襲撃を受けたことは周知の事実となりつつあるが、それがどのような攻撃であったのかは曖昧にしてきていた。ましてや、魂結びに繋がりかねない話は徹底的に避けてきたのである。
 このままではまずいと考えたキリエは、強引に話題の軌道修正をした。

「それより、魔石のことなのですが……っ、」
「ん? うん、魔石が何?」
「僕の兄弟は人間で、もちろん魔力なんて無いのですが、その石を使って不思議な炎を出すことが出来ていて……、それって、どうしてでしょう?」

 ライアンがキリエとジェイデンに対して何をしたのかは、現在では細部まで公表されている。それはライアン自身が望んだことでもあり、魔族に唆されて道を踏み外した悪い事例として注意喚起の意味を込めて国民に知らしめるべきだ、という彼の主張に従って一般国民にも情報を広めたのだ。
 だからこそ、様々な人物が集まっているこの場でも話題に出来たのだが、アベルは予想以上に食いついてきた。

「その魔石って、赤い色をして、このくらいの大きさのやつ? 炎は、黒っぽくなかった?」
「え、えぇと……」
「その通りなのだよ。石の特徴は君が言う通りで、不気味な黒炎を噴き出していた。ちなみに、その兄弟は魔石はカインから手渡されたと言っていて、石に念じれば特殊な炎が出ると教えられていたらしい」

 口ごもるキリエに代わり的確に答えたのは、それまでずっと沈黙を貫いてきたうちの一人であるジェイデンであった。ウィスタリアの三国側は皆が驚きを表情に出していたが、魔族の姉弟はやはり全く動じない。
 アベルはジェイデンをちらりと一瞥して頷いたものの、再び視線をキリエへ向ける。

「それ、ぼくが作った魔石だよ」
「えっ……、アベルは魔石を作れるのですか?」
「そう。この子は魔力を持っていないけど、魔術式の理解力が抜きん出ている。そういう類の人は魔石職人になる場合が多くて、アベルは今の魔族の中で最高位の職人なんだ」

 説明の役割がイヴへと戻った。

「アベルが作る魔石は、特別。魔力を持たない者でも魔術を放てるような魔石を作れるのは、アベルだけ。中でも、あの黒炎の魔石は彼の最高傑作。……だけど、ある日、急に無くなった」
「無くなった?」
「そう。……きっとカインに盗まれたんだと思っていた。その予想は当たっていたと、今わかった。でも、まさか、この国に持ち込んでいたとは思わなかった」
「でも、姉様、それはそれで良かったんじゃないかな」

 イヴの言葉にほぼ重ねるようにして、アベルがぽつりと呟く。

「この国の、普通の人間の手に渡って、ぼくの魔石が使えることを確認できたわけでしょ。確認すべきことを前倒しして出来たって考えれば、時間短縮になる」
「それはそうだけど……、確認だけならあの傑作を使う必要はなかった。あれは、長い時間をかけておまえが完成させた大切なものだったのに」
「いいんだ、姉様。ぼくは別に、あれに執着しているわけじゃないから。それに、あれを使えたということは、みんなに配ろうとしてる程度のものなら問題なく使ってもらえそうだし」
「えっ? あ、あの、ちょっと待ってください……!」

 姉弟間で話が進んでいくのを、途中でキリエが止めた。二対の緑の眼差しに射貫かれながら、キリエはおそらくこの場の大多数が抱いているであろう疑問を口にする。

「今、みんなに配るというような話が聞こえたような気がするのですが……、もしかして、魔石を配布しようとしているのですか? この国で?」

 ライアンの襲撃を受けたとき、まだ受霊の儀を行っていなかったキリエは瞳が紅く変化している間の記憶を失ってはいるものの、魔石が齎した炎の恐ろしさは忘れられずにいるのだ。あのようなものを国内にばら撒かれるのは、なんとしても避けたい。
 しかし、イヴもアベルも平然と頷いてみせた。

「うん、そうだよ」
「そのつもり」
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