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第2章
【2-75】ジェイデンの考察
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「そんなに利用価値がありますか? 僕自身でさえ扱えないような特性なのに……」
キリエが首を傾げると、ジェイデンは立てた人差し指を振りながら諭すように言う。
「キリエ、君はもっと、自身が狙われやすい存在だという自覚をしたほうがいい。その銀髪銀眼だけでも君を象徴として欲しがる者は多いだろう。まぁ、その点に関しては僕も同類といえば同類なのかもしれないが。それに加えて不思議な特性まであると知れば、悪用を狙う輩は腐るほどいるはずなのだよ」
「そ、そうでしょうか……」
「そうだとも。それに、君自身が扱えなくとも、周囲がその特性を使いこなすことは可能かもしれない。今のキリエの話を聞いただけの僕でさえ、特徴をいくつか把握できたくらいだ」
「えっ……、本当ですか!?」
驚きを隠せないキリエに対し、隣のリアムはいたって冷静な態度だ。マクシミリアンは少しだけ驚愕の表情を浮かべていたものの、ジェイデンであればその程度の考察をしてもおかしくはないと思っているように見受けられる。
「まず、悪意を向けられづらいという特性。これはおそらく、次期国王候補あるいは国王の血を継ぐ直系の子孫以外の相手に有効なのではないかと思われる。キリエも重々承知だろうが、マデリンはあからさまに君へ嫌悪感を向けているだろう? 本来であれば、ヘンリエッタ様も同様のはずだ。だが、あの茶会で、ヘンリエッタ様はキリエを認めてマデリンを咎めていた」
確かに、その通りだ。ヘンリエッタはどこか悔しげな顔をしながらも、キリエを肯定していた。
「マデリンは明らかに、そして微妙な線ではあるがライアンもキリエを煙たがっているし、彼らのそういった率直な態度はキリエ本人へ届いている。しかし、ヘンリエッタ様はそうではなかった。彼らとヘンリエッタ様の違い、そしてキリエが今まで出会ってきた人たちとの違い、それは、次期国王候補もしくは国王の血を継ぐ直系の子孫か否かという点だろう」
「なるほど……」
「キリエの瞳が紅くなって奇妙な現象が起きた件に関しては、おそらく君の怒りの感情と連動している。自分でも制御できない憤りを感じたときに、その不思議な自然現象が起きているのではないか? キリエは普段はあまり怒らないだろうから、その反動力が作用している可能性もあるな」
ジェイデンの見解を黙って聞いていたリアムが、頷きながら言葉を挟む。
「私も、ジェイデン様と同様のことを考えておりました。自身の想像に自信が持てず、キリエ様にはお話ししておりませんでしたが、ジェイデン様も全く同じことを御高察なされたことで確信に近づいたように思います」
「それは僕を買い被りすぎなのだよ。ただ、リアムと同じ考えというのは、こちらとしても心強い」
そう言って満足げに笑ったジェイデンは、リアムへ頷きかけてから、改めてキリエと向き合った。
「キリエの話は分かった。だが、何故これを僕たちに話そうと思ったのかが分からないのだよ。悪者に狙われる可能性が高いから守ってほしい、と言われるのなら理解できる。……だが、君の目的はそうではないだろう?」
「はい。……自分でも、僕は普通ではないという自覚はあります。この髪と眼も、他の人たちと違いすぎます。人間ではないのかもしれません。……気味が悪いと思われても仕方がないと思っています。だから、協力を申し出てくれた君に、正直に話しておきたかったのです。こんな僕とでも、運命を共にしたいと思えますか?」
騎士たちは少々せつない眼差しで、キリエを見つめてくる。キリエが自らこのようなことを語っているのを、痛ましく感じているのだろう。
しかし、ジェイデンは、彼らとは逆に明るく笑い飛ばしてきた。
「ははっ、何を言っているんだ! 当たり前なのだよ! 確かに、キリエの出自や特性には謎がある。しかし、僕にとってはそんなものは些細なことでしかないし、最も共に歩んでいきたい兄弟はキリエだと思っている気持ちも揺るがない。──だから、もういちど問おう。キリエ、僕と運命を共にしてくれないか?」
「はい、喜んで。……よろしくお願いします、ジェイデン」
裏表のない笑顔で差し出されたジェイデンの手を、キリエは素直な気持ちで握り返す。双方の側近騎士たちは、互いに目配せをしつつ、主たちの様子を微笑ましそうに見守っていた。
──すると、その時、不意にノックの音が響く。何事かと四人がドアへ注目すると、ジョセフが遠慮がちに入室してきた。
「御歓談中、失礼いたします。……マデリン=フォン=ウィスタリア様がお見えになりましたが、いかがいたしましょうか?」
「えっ、マデリンが? ジェイデン、ここへ来ることを教えていたのですか?」
「いや、僕は何も伝えていない。キリエが招いたわけでもないのか? マックス、僕らからは何も言っていないよな?」
「ええ、何も。三日前にマデリン様の御屋敷へ伺った以降は、特にご連絡しておりません」
「僕は招待した覚えはないです。……リアム、君が何かお伝えしたのですか?」
「いいえ、私からは何もお伝えしておりません」
マデリンを招いた者は、誰もいない。四人の主従は困惑して互いに視線を送りあっていたが、突然の来訪とはいえ兄弟の訪問を無下に扱うわけにもいかない。
「ジェイデン、ここへマデリンも呼んでいいでしょうか? ソファーの数が足りないので、みんなで食堂へ移動してもいいのですが」
「いや、マックスとリアムには一度立って控えていてもらおう。マデリンの用事がすぐに済むのであれば、大げさな大移動をする必要もない。僕が本日ここへ来たことを隠すつもりもないから、問題はないのだよ」
ジェイデンは快く了解し、騎士たちも同意を示すように首肯した。
キリエが首を傾げると、ジェイデンは立てた人差し指を振りながら諭すように言う。
「キリエ、君はもっと、自身が狙われやすい存在だという自覚をしたほうがいい。その銀髪銀眼だけでも君を象徴として欲しがる者は多いだろう。まぁ、その点に関しては僕も同類といえば同類なのかもしれないが。それに加えて不思議な特性まであると知れば、悪用を狙う輩は腐るほどいるはずなのだよ」
「そ、そうでしょうか……」
「そうだとも。それに、君自身が扱えなくとも、周囲がその特性を使いこなすことは可能かもしれない。今のキリエの話を聞いただけの僕でさえ、特徴をいくつか把握できたくらいだ」
「えっ……、本当ですか!?」
驚きを隠せないキリエに対し、隣のリアムはいたって冷静な態度だ。マクシミリアンは少しだけ驚愕の表情を浮かべていたものの、ジェイデンであればその程度の考察をしてもおかしくはないと思っているように見受けられる。
「まず、悪意を向けられづらいという特性。これはおそらく、次期国王候補あるいは国王の血を継ぐ直系の子孫以外の相手に有効なのではないかと思われる。キリエも重々承知だろうが、マデリンはあからさまに君へ嫌悪感を向けているだろう? 本来であれば、ヘンリエッタ様も同様のはずだ。だが、あの茶会で、ヘンリエッタ様はキリエを認めてマデリンを咎めていた」
確かに、その通りだ。ヘンリエッタはどこか悔しげな顔をしながらも、キリエを肯定していた。
「マデリンは明らかに、そして微妙な線ではあるがライアンもキリエを煙たがっているし、彼らのそういった率直な態度はキリエ本人へ届いている。しかし、ヘンリエッタ様はそうではなかった。彼らとヘンリエッタ様の違い、そしてキリエが今まで出会ってきた人たちとの違い、それは、次期国王候補もしくは国王の血を継ぐ直系の子孫か否かという点だろう」
「なるほど……」
「キリエの瞳が紅くなって奇妙な現象が起きた件に関しては、おそらく君の怒りの感情と連動している。自分でも制御できない憤りを感じたときに、その不思議な自然現象が起きているのではないか? キリエは普段はあまり怒らないだろうから、その反動力が作用している可能性もあるな」
ジェイデンの見解を黙って聞いていたリアムが、頷きながら言葉を挟む。
「私も、ジェイデン様と同様のことを考えておりました。自身の想像に自信が持てず、キリエ様にはお話ししておりませんでしたが、ジェイデン様も全く同じことを御高察なされたことで確信に近づいたように思います」
「それは僕を買い被りすぎなのだよ。ただ、リアムと同じ考えというのは、こちらとしても心強い」
そう言って満足げに笑ったジェイデンは、リアムへ頷きかけてから、改めてキリエと向き合った。
「キリエの話は分かった。だが、何故これを僕たちに話そうと思ったのかが分からないのだよ。悪者に狙われる可能性が高いから守ってほしい、と言われるのなら理解できる。……だが、君の目的はそうではないだろう?」
「はい。……自分でも、僕は普通ではないという自覚はあります。この髪と眼も、他の人たちと違いすぎます。人間ではないのかもしれません。……気味が悪いと思われても仕方がないと思っています。だから、協力を申し出てくれた君に、正直に話しておきたかったのです。こんな僕とでも、運命を共にしたいと思えますか?」
騎士たちは少々せつない眼差しで、キリエを見つめてくる。キリエが自らこのようなことを語っているのを、痛ましく感じているのだろう。
しかし、ジェイデンは、彼らとは逆に明るく笑い飛ばしてきた。
「ははっ、何を言っているんだ! 当たり前なのだよ! 確かに、キリエの出自や特性には謎がある。しかし、僕にとってはそんなものは些細なことでしかないし、最も共に歩んでいきたい兄弟はキリエだと思っている気持ちも揺るがない。──だから、もういちど問おう。キリエ、僕と運命を共にしてくれないか?」
「はい、喜んで。……よろしくお願いします、ジェイデン」
裏表のない笑顔で差し出されたジェイデンの手を、キリエは素直な気持ちで握り返す。双方の側近騎士たちは、互いに目配せをしつつ、主たちの様子を微笑ましそうに見守っていた。
──すると、その時、不意にノックの音が響く。何事かと四人がドアへ注目すると、ジョセフが遠慮がちに入室してきた。
「御歓談中、失礼いたします。……マデリン=フォン=ウィスタリア様がお見えになりましたが、いかがいたしましょうか?」
「えっ、マデリンが? ジェイデン、ここへ来ることを教えていたのですか?」
「いや、僕は何も伝えていない。キリエが招いたわけでもないのか? マックス、僕らからは何も言っていないよな?」
「ええ、何も。三日前にマデリン様の御屋敷へ伺った以降は、特にご連絡しておりません」
「僕は招待した覚えはないです。……リアム、君が何かお伝えしたのですか?」
「いいえ、私からは何もお伝えしておりません」
マデリンを招いた者は、誰もいない。四人の主従は困惑して互いに視線を送りあっていたが、突然の来訪とはいえ兄弟の訪問を無下に扱うわけにもいかない。
「ジェイデン、ここへマデリンも呼んでいいでしょうか? ソファーの数が足りないので、みんなで食堂へ移動してもいいのですが」
「いや、マックスとリアムには一度立って控えていてもらおう。マデリンの用事がすぐに済むのであれば、大げさな大移動をする必要もない。僕が本日ここへ来たことを隠すつもりもないから、問題はないのだよ」
ジェイデンは快く了解し、騎士たちも同意を示すように首肯した。
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