216 / 246
【第10話】聖者も交わるカボチャパーティー
【10-10】
しおりを挟む
「まったく、何をしているんですか、貴方たちは。ミカさんを困らせてはいけませんよ」
「カミュ……!」
背後から聞こえた声がいつも以上に頼もしく思えて振り向くと、カミュは僕を見下ろして、安心させるように微笑んでくれた。
「困った同胞たちばかりで申し訳ありません、ミカさん」
「いや、そんなことは……、で、でも、この人が急に土下座してきたからビックリしちゃって……」
「ドゲザ? というのはよく分かりませんが……、とにかく、セレーナ。いい加減にしなさい」
「ひいいい! 申し訳ありませんんんん! アタクシなんぞが魔王閣下の下僕様を困らせるなんてえええ! あってはならないことでしたあああ!」
カミュが声を掛けると、セレーナさんはますます縮こまってしまう。土下座の体勢が悪化してしまった。
美しい赤い悪魔は溜息をつき、身を屈めて片膝をついて、紫の悪魔の肩をポンポンと叩く。緑の悪魔と僕は揃って固唾を飲んで、その様子を見守った。
「下僕様という言い方は、蔑んでいるのか敬っているのか不明ですし、良い言葉ではないですね。この方は、」
「申し訳ありませんんんん!」
「無駄に謝らなくてよろしい。ですから、この方は、」
「ひっ……、申し訳ありませんカマルティユ兄様あああ! 無駄に謝らないのでお許しくださいごめんなさいいい!」
「……」
途方に暮れたように、カミュは再び深い溜息を零す。横で聞いているだけでも、なかなかにツッコミどころが多くて大変そうだなぁと感じた。横目でノヴァユエを見てみると、なんとも居心地悪そうにしている。
「セレーナ。まずは黙って私の話を聞きなさい。私が許可するまで、一言も話さないように。言いつけを破ったら、ノヴァユエに罰を与えます」
「えーっ!? なんでボク!? カマルティユ先輩ってば自由すぎっ★」
カミュの冷ややかな一言を受けて、ノヴァユエは冗談混じりのヘラヘラした顔で笑ったけれど、セレーナさんは顔を真っ青にして必死に何度も首を縦に振った。
たぶん彼女は、自身に罰を与えられるよりも、親しい存在が巻き添えになるほうが堪えるのだろう。カミュ自身はセレーナさんと直接的な関わりは殆ど無かったと言っていたけれど、そうは見えないやり取りだ。魔の者同士の関係というか関わり方というか、そういうのはちょっと独特に感じる。
──というか、セレーナさん、瞳は橙色なんだなぁ。カミュもノヴァユエも、髪と目の色が同系統だから、彼女もそうなのかと思っていたけれど、よく見ると温かみのあるオレンジ色だった。色の組み合わせ的に、またなんとなくハロウィンを思い浮かべてしまう。
「いいですか、セレーナ。貴方には尋ねたいこと、確認したいことがあります。ノヴァユエを連れているということは、貴方にも心当たりはあるでしょう?」
セレーナさんは口を両手で押さえたまま、こくこくと頷く。それが面白く感じたのか、窓辺で並んでいるクックとポッポも真似をしてカクカクと頷いていた。
「我々が話をするにあたり、この城で場所をお借りしなければなりません。ご迷惑を掛けるのですから、きちんとご挨拶をしなくてはいけませんね。一方的に振舞って困惑させるなど、もってのほかです。分かりますね?」
セレーナさんがコクコク。クックとポッポがカクカク。
「そもそも、何故こんな調理場の窓から侵入するような真似をしたのか……。きちんと玄関から訪問するべきでしょう」
「あっ、それはボクの考えが甘かったからー★ カマルティユ先輩に見つかる前にさぁ、ミカの意見を聞いておきたかったんだもん☆ 結局はボクの気配隠しじゃ無理だったんだけどー★」
「当たり前ですよ。夏のあのときとは違って、今の私は万全の状態なのですから。ノヴァユエ程度の気配隠しなど、お見通しです」
甘えた声のノヴァユエの言葉をカミュが一蹴したところで、僕の真後ろに温かな気配が現れ、そっと背を撫でられた。その触れ方で、誰が転移してきたのかすぐに分かる。
「ジル」
振り返りながら名前を呼ぶと、予想通りそこに立っていた魔王は穏やかな眼差しを返してくれた。
「急にカミュがいなくなったと思ったら、妙に騒がしいようだから様子を見に来たんだが……、やたらと悪魔率が高いな」
「ああ、ジル様、お騒がせして申し訳ありません。仕事も途中でしたのに……」
ジルの登場に気付いて、カミュがセリーナさんの傍を離れてこちらへ寄って来る。紫悪魔の彼女は、口元を手で押さえたままジルを見て紅くなったり蒼くなったりしていた。
「いや、俺のことはどうでもいい。作業も、別に今日でなくとも構わないことだからな。何か気になることがあれば、咄嗟にミカの元へ駆けつけてくれたほうが、俺としても有難い。──それはいいんだが、そこの魔の者の女、今にも気絶しそうだが大丈夫なのか?」
そう言ってジルがセレーナさんを指差したのとほぼ同時に、紫悪魔は意識を飛ばしてしまったのだった。
「カミュ……!」
背後から聞こえた声がいつも以上に頼もしく思えて振り向くと、カミュは僕を見下ろして、安心させるように微笑んでくれた。
「困った同胞たちばかりで申し訳ありません、ミカさん」
「いや、そんなことは……、で、でも、この人が急に土下座してきたからビックリしちゃって……」
「ドゲザ? というのはよく分かりませんが……、とにかく、セレーナ。いい加減にしなさい」
「ひいいい! 申し訳ありませんんんん! アタクシなんぞが魔王閣下の下僕様を困らせるなんてえええ! あってはならないことでしたあああ!」
カミュが声を掛けると、セレーナさんはますます縮こまってしまう。土下座の体勢が悪化してしまった。
美しい赤い悪魔は溜息をつき、身を屈めて片膝をついて、紫の悪魔の肩をポンポンと叩く。緑の悪魔と僕は揃って固唾を飲んで、その様子を見守った。
「下僕様という言い方は、蔑んでいるのか敬っているのか不明ですし、良い言葉ではないですね。この方は、」
「申し訳ありませんんんん!」
「無駄に謝らなくてよろしい。ですから、この方は、」
「ひっ……、申し訳ありませんカマルティユ兄様あああ! 無駄に謝らないのでお許しくださいごめんなさいいい!」
「……」
途方に暮れたように、カミュは再び深い溜息を零す。横で聞いているだけでも、なかなかにツッコミどころが多くて大変そうだなぁと感じた。横目でノヴァユエを見てみると、なんとも居心地悪そうにしている。
「セレーナ。まずは黙って私の話を聞きなさい。私が許可するまで、一言も話さないように。言いつけを破ったら、ノヴァユエに罰を与えます」
「えーっ!? なんでボク!? カマルティユ先輩ってば自由すぎっ★」
カミュの冷ややかな一言を受けて、ノヴァユエは冗談混じりのヘラヘラした顔で笑ったけれど、セレーナさんは顔を真っ青にして必死に何度も首を縦に振った。
たぶん彼女は、自身に罰を与えられるよりも、親しい存在が巻き添えになるほうが堪えるのだろう。カミュ自身はセレーナさんと直接的な関わりは殆ど無かったと言っていたけれど、そうは見えないやり取りだ。魔の者同士の関係というか関わり方というか、そういうのはちょっと独特に感じる。
──というか、セレーナさん、瞳は橙色なんだなぁ。カミュもノヴァユエも、髪と目の色が同系統だから、彼女もそうなのかと思っていたけれど、よく見ると温かみのあるオレンジ色だった。色の組み合わせ的に、またなんとなくハロウィンを思い浮かべてしまう。
「いいですか、セレーナ。貴方には尋ねたいこと、確認したいことがあります。ノヴァユエを連れているということは、貴方にも心当たりはあるでしょう?」
セレーナさんは口を両手で押さえたまま、こくこくと頷く。それが面白く感じたのか、窓辺で並んでいるクックとポッポも真似をしてカクカクと頷いていた。
「我々が話をするにあたり、この城で場所をお借りしなければなりません。ご迷惑を掛けるのですから、きちんとご挨拶をしなくてはいけませんね。一方的に振舞って困惑させるなど、もってのほかです。分かりますね?」
セレーナさんがコクコク。クックとポッポがカクカク。
「そもそも、何故こんな調理場の窓から侵入するような真似をしたのか……。きちんと玄関から訪問するべきでしょう」
「あっ、それはボクの考えが甘かったからー★ カマルティユ先輩に見つかる前にさぁ、ミカの意見を聞いておきたかったんだもん☆ 結局はボクの気配隠しじゃ無理だったんだけどー★」
「当たり前ですよ。夏のあのときとは違って、今の私は万全の状態なのですから。ノヴァユエ程度の気配隠しなど、お見通しです」
甘えた声のノヴァユエの言葉をカミュが一蹴したところで、僕の真後ろに温かな気配が現れ、そっと背を撫でられた。その触れ方で、誰が転移してきたのかすぐに分かる。
「ジル」
振り返りながら名前を呼ぶと、予想通りそこに立っていた魔王は穏やかな眼差しを返してくれた。
「急にカミュがいなくなったと思ったら、妙に騒がしいようだから様子を見に来たんだが……、やたらと悪魔率が高いな」
「ああ、ジル様、お騒がせして申し訳ありません。仕事も途中でしたのに……」
ジルの登場に気付いて、カミュがセリーナさんの傍を離れてこちらへ寄って来る。紫悪魔の彼女は、口元を手で押さえたままジルを見て紅くなったり蒼くなったりしていた。
「いや、俺のことはどうでもいい。作業も、別に今日でなくとも構わないことだからな。何か気になることがあれば、咄嗟にミカの元へ駆けつけてくれたほうが、俺としても有難い。──それはいいんだが、そこの魔の者の女、今にも気絶しそうだが大丈夫なのか?」
そう言ってジルがセレーナさんを指差したのとほぼ同時に、紫悪魔は意識を飛ばしてしまったのだった。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語
ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。
変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。
ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。
タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる