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【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ

【7-3】

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「何故、ミカをわざわざ危険な目に遭わせねばならない? たとえ一時的なものだとしても、俺はこの子を手離す気は無い」
「待て、ジル、」
「大体、どんな理由を付けてミカを王都へ連れ出す気だ? 王族の者が、名目上だけとはいえ魔王のしもべである青年を連れているなど、とても普通のことではないだろうが。第一、お前が庶民を連れているというだけで注目を集めるだろうに、そんな状況にミカを、」
「だから、聞けと言っておるだろうが!」

 マティ様が苛立ちをそのまま手のひらに込めてテーブルを叩くと、ジルは不満そうな顔をしながらも口を閉ざす。僕は内心でハラハラしながらも、黙って流れを見守ることにした。
 眉間に皺を寄せた王子様は、男らしい勢いでカボ茶を呷って一口飲んでから、フンと鼻を鳴らす。

「私とて、ミカに危険なことはさせたくない。させるつもりも無い。……それに、王都に来てほしいのは今すぐではないし、何日も滞在してほしいわけでもないのだ。ほんの一時だけでいい」
「……じゃあ、何を目的にしているんだ?」
「……魔力が無いミカに、城下町を歩いてみてほしいのだ。魔力が無い身体でも、問題無く過ごせそうかどうかを知りたい。……弟の、カイのために」

 ああ、そうか。この世界に生まれた人はどんなに微弱でも魔力を持っているのが普通で、異世界から来たわけでもないのに魔力が皆無というカイ王子は異質なんだ。今は赤ちゃんで、お城の中でしっかり守ってもらえているんだろうけど、成長していけばそういうわけにもいかないだろう。魔力が無い身で普通に過ごせるかどうか、事前に検討することは大切なはずだ。
 カイ王子の名前が出た途端、ジルは不機嫌そうな表情を引っ込めて、心配そうな顔になった。彼としても、友人の弟の行く末が気になるのだろう。僕だってそうだ。

「僕で協力できることなら、お力になりたいです」
「ミカ、そうは言ってもな……、お前にも危険があるのには変わりない。色々な意味でな。……マティアスの弟のことは確かに気掛かりではあるが、しかし……」
「でも、ジル……」
「お前には魔力が無い。だから、ミカ自身にずっと保護魔法を掛けてやることも出来ない。俺が人前に姿を現すわけにはいかないし、魔鳥を二羽連れているのも悪目立ちする。だが、お前一人で王都を歩かせるわけにもいかない」

 マティ様に協力したいけれど、ジルの心配も分かる。魔力が無い僕はちょっとした魔法でも強い効果を受けてしまうのだと、イラさんに魔法で威嚇されたときに十分理解したのだから。
 考え込む僕たちを見比べながら、マティ様は溜息と共に言葉を紡いだ。

「ジルの懸念は、私とて分かる。……だから、今すぐではなく、適した時期を提案しようとしているのだ。ミカに王都を訪れてほしいのは、秋の感謝祭のときだ」
「なに……?」
「秋の……感謝祭……?」

 ジルは意外そうに黒目を瞬かせ、僕は不思議に思って首を傾げる。──秋の感謝祭、って何だろう? 名前からして、秋のお祭りなんだろうけど。
 僕がそれを知らないのを分かっているのか、こちらから訊かずとも、マティ様は説明を添えてくれた。

「秋の感謝祭は、毎年、第十一星図期間に王都で催される大きな祭りだ。春から秋までに得られた収穫に感謝し、冬を無事に乗り越えられることを祈り、盛大に祝う。感謝祭の見物のために旅行で王都を訪れる者も多く、人がごった返すのだ。王族の私が祭りを見物しているのも普通のことであり、通常時よりも衆目を集めづらい」
「賑やかなお祭りなんですね。でも、いくら普段よりは目立たないと言っても、王子様が誰か連れていたら、みんな気になるのでは……?」
「ああ、そうだな。……だが、秋の感謝祭の参加者は、黒い外衣を身に纏うことになっている。全体的にゆったりとした造りで、頭巾もついている。祭りが行われるのは夜間だし、顔を見られる機会は無いに等しい。王族は外衣を身に纏わないが、連れは着ているものだから、誰もミカの正体には気付くまい」

 魔法使いのローブみたいな、そういうものを着るのだろうか? 確かに、夜の人込みでフードをしっかりと被っていれば、顔を見られることはないだろう。……でも、それでもやっぱり、王子様がお忍びで誰かを連れているっていうのは、周囲の人も気になっちゃうんじゃないだろうか。

「心配はいらぬ。見せようによっては、周囲の者たちのほうが気を遣って、私たちのことを放っておいてくれるだろう」
「……そう、なのですか?」
「ああ。秋の感謝祭では、人混みにまぎれて秘密の逢瀬を楽しむ者も多い。ある程度の地位を持つ人物であればあるほど、その傾向が強い。そして、感謝祭のときだけは、見て見ぬ振りをされるものなのだ。──つまり、そういうことだ」
「……つまり、どういうことですか?」

 いまいちピンとこなくて尋ねると、王子様と魔王は視線を交わし合い、揃って溜息を零した。
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