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【第4話】応援フロランタンと祝福ケーキ

【4-20】

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「すごいね! とっても美味しそう!」
「そうですか? どこかおかしい所はございませんか?」
「おかしくなんてないよ。僕にはちょっと珍しい形に見えるけど……、たぶん、マリオさんがいた国ではこれが普通のケーキだったんだと思う」

 ケーキと聞いて真っ先に苺ショートケーキを思い浮かべる日本人は多いと思うし、僕もその一人だけれど、海外のショートケーキはもっと違うものだと何かで読んだことがある。マリオさんがどこの国の人かはよく分からないけど、彼がいた国ではホールケーキといえばこの形がメジャーだったのかもしれない。

「やはり、アース……ああ、いや、ミカにとってはチキュウだったか? そこの星の食文化は多岐にわたっているんだな。確か、アビーもまた違った形のケークだかを作っていた」
「ああ、そうでしたね。ショコォだかヒョコォだかがお好きとかで、ジョクラッタをたくさん使った黒いケェクを作られていました」

 アビーさんはマリオさんよりも前にいた食事係のおばあちゃんだったようだけど、たぶんチョコレート系のケーキを好んで焼いていたんだろう。ジョクなんとかっていう食材が、チョコレートに相当するものなのかな?

「アビーもマリオも、誕生日にはパチィだかパーチだかを行い、自らケークとやらを焼き、客人に振舞っていたようだが……、ミカがいた国ではどうだ?」
「うーん……、僕は祝われたことも祝ったことも無いけど……、誕生日を迎えた人は主役で、お祝いも家族や親しい人たちが計画を立てて、当日まで本人に秘密にしていることもあるみたいだったよ。ごちそうとかケーキとか贈り物とか、そういうのもお祝いしてあげる人が用意するのが普通だったんじゃないかな」
「なるほど。では、俺たちの用意はミカのいた国に近い形になったようだな。良い偶然だ」
「そうですね。ミカさんを驚かせたくて内緒にしておりましたし、偶然とはいえ完璧な支度になったのではないかと」

 満足そうに頷き合っている魔王と悪魔の和やかな姿に癒されながら、あらためて幸福を噛みしめる。まさか、誕生日をお祝いしてもらえる日が来るなんて。それも、あんなに立派なケーキを添えてもらって。
 中水上のおじさんが事故に遭ったときに持っていたということもあって、僕はなんとなく、ホールケーキというものが苦手だった。でも、今、手作り感満載の可愛らしくて大きなホールケーキを前にしても穏やかな気持ちでいられるのは、ジルとカミュが惜しみなく与えてくれる真心のおかげに違いない。
 感謝しなくては。今日という日を、幸せな時間を、温かな記憶をくれる全ての人々に。僕という存在を、この命を繋いでくれた全ての人々に。心からの感謝を捧げたい。

「ジル、カミュ、素敵なケーキをありがとう。本当に、本当にありがとう。とっても嬉しいよ。……ねぇ、最初に食べるのは、君たちのケーキでもいい?」

 マティ様からの贈り物も、もちろん嬉しい。大事にいただきたいし、感謝している。でも、やっぱり、この中で最初に手を伸ばしたいのはどれかと問われれば、ジルとカミュの手作りケーキだ。
 僕の問い掛けに対し、カミュはみるみる笑顔を輝かせて、紅い瞳をキラキラさせる。ジルも珍しく大きく表情筋が動き、にっこりと満面に笑みを浮かべた。

「ああ、勿論だ! 真っ先に選ばれるというのは、実に気分が良いものだな」
「まったくです! こんなにも胸躍るような幸福をいただけるとは! ありがとうございます、ミカさん。さっそく、お取り分けいたしましょう」
「出来るだけ綺麗に切り分けねばな」

 カミュがウキウキと魔法で皿を引き寄せると、ジルも指を振って魔法でケーキを切り分ける。美しくカットされたケーキは恭しく皿に乗せられ、カミュの手がそれをそっと僕の前に置いてくれた。人の手に渡す部分は魔法ではなく自らの手で、というのが彼らしい。

「さぁ、ミカ。食べてみてくれ」
「おかわりもありますから、ご遠慮なく」
「うん、ありがとう。……いただきます」

 心を込めて合掌し、差し出されたフォークを持つ。ドキドキしながらケーキへフォークを入れ、一口分を掬い、そっと口に運んだ。二対の視線を受けながら噛みしめたケーキは、幸福を凝縮したような優しい甘味に満ちていた。

「わぁ……、おいしい……!」

 お世辞ではなく、自然とそう零していた。本当に美味しい。
 スポンジ部分は少しパンに近いビスケットというか、想像していたよりも硬めの食感だけれど、そのほろほろした口当たりがクリームや果物と相性が良くてクセになる。クリームは地球で一般的なホイップクリームよりも柔らかく、とろんとして滑らかだ。クリーム自体の甘さは控えめだけれども、そのぶんミルクの優しい風味をたっぷりと味わえる。装飾にもなっている蜜漬けの果実や食用花の甘みが強いから、生地とクリームが素朴な仕上がりなのが逆に良い。甘さも食感も異なるそれぞれが上手く絡み合っていて、絶妙な美味しさを成り立たせていた。

「ジル、カミュ、すっごく美味しいよ! 美味しくって、幸せ……! こんなに美味しいケーキ、食べたことない。ジルもカミュもケーキ職人の素質があるんじゃないかなってくらい、本当に美味しい……!」
「そうか。そんなに喜んでくれるとは、こちらとしても嬉しい限りだ」
「ええ。とても幸せで、光栄です」

 興奮してフォークを片手に持ったまま力説する僕を穏やかに見つめて、ジルとカミュは嬉しそうな微笑を返してくれた。
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