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【第4話】応援フロランタンと祝福ケーキ

【4-16】

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「クッ?」
「ポッ?」

 急に話題に加えられたのを察したのか、近くで寄り添って座り込んでいた鳥たちは、二羽揃って僕を見上げて首を傾げた。可愛い。

「魔鳥たちの力を借りるとは、どういうことですの?」

 アリスちゃんも、鳥たちと同じように可愛らしく首を傾げた。なんて平和で愛らしい光景だろう。カミュがこの場にいたら、すごい勢いでテンションを上げてはしゃぎそうな気がする。
 僕は腰を上げて膝立ちになり、アリスちゃんと向かい合った。きちんと視線を合わせてから、きょとんとしている少女へ説明をする。

「この子たち、クック、ポッポっていう名前なんだ」
「クック……ポッポ……?」
「ククッ」
「ポポッ」

 名を呼ばれた鳥たちは緩く飛んで、僕の両肩それぞれへ乗ってきた。クックとポッポはアリスちゃんを見下ろしながら、どこか得意気に胸を張る。可愛いけど、彼らが何を誇らしげにしているのかは謎だ。

「アリスちゃんも言っていたように、この子たちは魔鳥で、僕を守護するように魔王から命じられているんだ。魔王から色々な魔法を掛けられていてね、道案内もできるし、魔物と出会わないようにする能力も付けられているんだ。この子たちがいれば、魔物が寄ってくることは無いんだよ」
「まぁ、すごい……! そんなに優秀な魔鳥なんて聞いたこともありませんわ。あなたたち、すごいのね」

 お嬢様に褒められて、白黒の鳥たちはドヤ顔をしている。アリスちゃんがおずおずと手を伸ばすと、クックとポッポは大人しく撫でられていた。和む光景に頬を緩ませつつも、僕は先を続ける。

「森を抜けた先の村までになっちゃうけど、どちらか一羽にアリスちゃんのお見送りをしてもらおうと思うんだ」
「えっ? で、でも……二羽いっしょにミカさんをお護りしているのでしょう?」
「そうだけど、対になっているわけじゃないんだ。二羽が一緒にいないと発揮されない能力じゃなくて、どちらか一羽だけだったとしても同じ効果が発動するらしいよ」

 どんな魔法なのかを正確に知っているわけじゃないから具体的な説明は出来ないけれど、どうやらクックとポッポはそれぞれ単体でも十分に強固なセキュリティ能力を授けられているらしい。この子たちを譲ってくれたマティ様も、まさかジルがそこまで魔鳥の能力をカスタマイズするとは思っていなかっただろうけど、とにかく一羽だけだとしても相当な守護能力があるのが現状のクックとポッポだ。

 カミュ曰く、二羽が揃っていることを条件にして同程度の守護を発動でにるようにしたほうが、ジルにとっても鳥たちにとっても負担が少ないらしい。それでもジルが最強の鳥を二羽にすることに拘ったのは、どちらか一羽に何かあったとしても僕の身を護れるようにという過保護の表れなのだ。ありがたいけれど、申し訳ない。

 ──と、そういうわけで、短時間かつ短距離であれば、どちらか一羽をアリスちゃんに貸しても大丈夫なはず。森の先の村までくらいであれば、たぶん平気。僕は今、城の敷地内にいるし、おそらくこちらの様子をカミュがどこかからか見守っている。聡い彼のことだから、僕がアリスちゃんに鳥を一羽貸すと見越した上でそうしているはずだ。

「家まで同行させられなくて申し訳ないけど、村までだとしても魔鳥に護ってもらえたほうが心強いんじゃないかな?」
「それは……そうですけれど……、でも、ミカさんが危なくなってしまうのでは?」
「大丈夫だよ。……本当は、僕も村まで行ってあげられればいいんだけど、この城の敷地を出るわけにはいかないから、ごめんね」
「いいえ、いいえ! ミカさんのお気遣いには、本当に感謝しておりますわ。大事な鳥をお貸しいただけるだけで、十分に助かります。……でも、ミカさんは、それでよろしいの?」

 そう言うお嬢様の表情が、やや曇る。鳥のことを気にしているのかと思って大丈夫だと言い重ねようとしたとき、先にアリスちゃんがポツリと言葉を発した。

「ミカさん一人くらい、わたくしが養ってさしあげます」
「……へっ?」
「魔王にこき使われているのでしょう? あなたもこのまま、わたくしと一緒に逃げればよいのですわ! この世界のことなら、わたくしが教えてさしあげますし、学校にも通わせてさしあげますわ。お、おっ、おおお、お婿さんにしてさしあげても、よろしくてよ?」
「……ふっ、ふふっ」
「な、何がおかしいの!? わたくしは、真剣に心配しているのです!」
「うん、そうだよね。ふふっ、ありがとう。馬鹿にして笑ったんじゃないよ。アリスちゃんの気持ちが嬉しくて、つい笑っちゃったんだ」

 憤慨しているからか、照れているからか、顔中を真っ赤にしているお嬢様の子どもらしい厚意が微笑ましい。悪い魔王の側にいる異世界人を素直に心配して、連れ出して面倒をみてくれようとしている。世間体だとか、立場上のしがらみだとか、そういったものが一切絡まない、純粋な気持ち。──僕が抱くことがなかった無垢な親切心が眩しくて、面映ゆい。

「ありがとう、アリスちゃん。そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、僕はこの城の食事係だから。僕のごはんやおやつを楽しみにしてくれている人たちを残して行くわけにはいかないかな」
「……それって、魔王や、その手下のことでしょう? 確かに魔王も、今はミカさんを大事にしているようですけれど……」

唇を少し尖らせた少女は、魔鳥たちをじっとりとした目で見つめる。そんなお嬢様の小さな頭を撫でて、僕は言った。

「そうだよ。僕は魔王のしもべとして、ちゃんと必要としてもらっているんだ」
「……じゃあ、もし。もしも、魔王に捨てられてしまったときは、フレティユという街を訪ねていらして。わたくしのお父様が、そこの領主なのです。必ず、お力になりますわ!」

 やはり、このお嬢様はとんでもない良家の姫君だったらしい。幼いながらも備わっている品格からして、納得の生い立ちだ。密かに感嘆しつつもそれを表に出さないようにして、僕は頷いた。

「うん、ありがとう。もしものときには、アリスちゃんを頼らせてもらおうかな」
「ええ、約束ですわよ! わたくしが、ミカさんを養いますわ!」

 一方的に約束だと言い切った彼女は、満足そうだ。何にせよ、これでアリスちゃんも心残りなく出発できるかな? そんな僕の意思が通じたのか、クックがアリスちゃんの小さな肩に無理やり乗る。羽で覆われた体に頬を押され、お嬢様はくすぐったそうに笑った。

「さぁ、アリスちゃん。そろそろ行った方がいいよ。日が暮れる前に村に着かないとね。クックがついて行ってくれるって」
「クッ!」
「わぁ、もっふもふですわ! よろしくね、クック!」
「クック、この森の先にある村までアリスちゃんを連れて行ってあげてね」
「ククーッ!」

 了解したと言わんばかりに高く鳴いた白い鳥が、先導して飛び始める。僕は、アリスちゃんの小さな背を押した。

「さぁ、アリスちゃん。クックを見失わないように、しっかりついて行くんだよ」
「わかりましたわ! ミカさん、色々と本当にありがとう! わたくし、お父様やお母様ときちんと話しますわ」
「うん、その意気だよ! 気をつけて帰ってね。あと、素敵な誕生日になりますように!」
「ええ! ありがとう!」

 満開の笑顔を残して、アリスちゃんは美しいワンピースの裾をひるがえし、クックを追って駆け出した。途中、何度も振り向いては手を振ってくる。それに応えて幾度も手を振り返していると、次第に少女の姿が見えなくなっていった。
 そうして幼い後ろ姿が完全に消えると、背後で微かな物音がして、何者かの気配が現れた。
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