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【第4話】応援フロランタンと祝福ケーキ

【4-9】

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 魔法少女と聞いた僕は、休日の朝に放映されているような、女の子たちがキラキラ変身して悪者をやっつけているアニメを想像してしまう。でも、きっとそうじゃないんだろうなという予想もしている。
 この世界の人は、魔法を使えるのが当たり前という感覚のようだし、実際、生活を便利にするための要素として当然のように駆使されている。だから、魔法を使える女の子なら誰でも魔法少女ってことになるのでは……?

「……アリスちゃんも、魔法を使えるんだよね?」
「えっ!? え、ええ、でも、アデルと比べたら何も出来ないも同然ですわ」
「でも、魔法を使えるんだよね? 少なくとも、魔王と戦ってみようと考える程度には」
「えっ、ええ……、だって、その、わたくし、剣術などは習っておりませんので」
「ということは、アリスちゃんも魔法少女なんだよね?」
「は……っ、はぁぁぁぁ!? あなた、何をワケの分からないことを言ってますの!?」

 瞬時に顔を真っ赤にして頬を膨らませたアリスちゃんは、レディらしくない勢いで地団駄を踏む。どうやら僕は、彼女の中の怒りスイッチを押下してしまったらしい。
 驚いたクックとポッポは、キュルキュル鳴きながら僕の前に進み出たものの、少女を威嚇していいものか悩んでいるようだ。僕は愛鳥たちを宥めるように両手でそれぞれをもふもふしながら、アリスちゃんに謝った。

「ご、ごめんね。僕、自分が魔法を使えないこともあって、その辺の事情は殆ど分からないんだ」
「……魔法が使えない、ですって?」
「そう。僕には魔力も無いし、魔法を使う能力も全く無いんだよ」
「う、嘘おっしゃい! 魔鳥を手なずけているじゃありませんの! それも、二羽! そんな高等な使役魔法を使っておいて、魔法が使えないなんて嘘がまかり通るはずないですわよ!」

 ビシッと人差し指を突きつけられて、推理ドラマで探偵から犯人だと言われたみたいな気分になる。無意識に呼吸を詰まらせてしまった。勿論、後ろめたいことなんか何も無いのだけれど。

「えーっと……、この子たちは僕が従えているわけではないというか……、僕が魔法を掛けているわけじゃないんだ」

 しゃがむ体勢がちょっと疲れてきた僕は、そのままお尻を落とし、少し脚を開いた形でゆるく体育座りする。すると、クックとポッポが両膝それぞれに乗ってきて、アリスちゃんに向かってドヤ顔を披露した。お嬢様は、鳥たちを疑惑の目で見下ろしている。

「こんなに懐いているのに……? 明らかに、ミカさんを主人だと思っているじゃありませんの」
「主人というか……、この子たちは、僕を護るように言われているから、面倒をみてくれているだけだよ。あと、名前をつけたのが僕だから、それで仲良くしてくれているのもあるかな」
「名付け親なのに、主ではないと……?」
「うーん……、この鳥たちに魔法を掛けているのは魔王なんだ」

 魔王。その名を聞いた途端、アリスちゃんの小さな肩がピクリと震えた。そして、恐る恐る、僕に問い掛けてくる。

「ミカさん。……そういえば、あなたは、どうしてここにいるのかしら?」
「えっ? クックとポッポ……、ああ、この子たちの名前なんだけどね、この鳥たちがアリスちゃんのことを知らせてくれたというか、連れて来てくれたんだ」
「そっ……、そうではなくて、この城にいるのはどうして? 魔王の城に、住んでいらっしゃるの?」

 ああ、そうか。僕は名前は教えたけれど、それ以外は何も身を明かしていないんだ。そう気付いて、遅ればせながら何者なのかを説明した。

「僕は、魔王の食事係なんだ。ディデーレの人間ではなくて、他の世界から召喚されてきたんだよ。僕が元々生きていた世界では、人間はみんな魔力を持っていなかったし、魔法も存在していなかったんだ」
「……魔王のしもべですの?」
「うん、そうだね」

 怖がらせてしまうかもしれないと心配になったけれど、つぶらな紫の瞳を大きく見開いている彼女は、もっと違うことを気にしているようだ。

しもべに魔鳥を二羽も与えているというんですの……? 魔法も使えない、ただの食事係に……、そこまでするくらい、魔王はあなたを大切にしているの……?」

 おそらく、魔鳥はとても貴重な存在なんだろう。それを二羽も譲ってくれたのはマティ様なんだけど、お忍びで訪れている第三王子の存在を明かすわけにはいかない。誤魔化す言葉も思い浮かばず、かといって頷くのも躊躇われる。
 不自然に黙り込む僕の不審さも気にならないのか、アリスちゃんはとてもショックを受けた様子で、両手で自分の頬を包み込んでいた。

「魔王だって、自分のしもべをこんなにも大切にしているというのに……っ、わ、わたくしは、自分の誕生日を家族にお祝いしてもらうことも出来ないなんて……!」
「──!」

 誕生日。──幼い唇からポロリと飛び出たその単語が、僕の胸にずっしりと沈み込み、暗く重たい澱となって心の底にこびりついた気がした。
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