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【第4話】応援フロランタンと祝福ケーキ
【4-5】
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◇
お昼まではカミュを手伝って掃除や洗濯をして、昼ごはんには、なんとジルお手製のミルク粥をいただいた。初めて作ったというジルは自信なさげに出してくれたけれど、彼の心が滲み出ているような優しい風味で美味しかった。
中水上のおじさんの命日に当たる今日、まさかミルク粥を食べるとは思わなかったな。ミルク粥によく似ているというジルの故郷の料理は甘い味付けだったらしいけれど、優しい魔王は僕が作ったミルク粥に合わせて作ってくれた。つまり、おじさんが作ってくれたものによく似ている。
あたたかくて、優しくて、嬉しくて、切なくて、ミルク粥を食べながら涙を零してしまいそうだった。でも、ジルとカミュに心配をかけたくないから、僕はそれを必死に堪えた。
昼食の片付けの手伝いを申し出たけれど断られてしまい、おやつと水筒と五十センチ四方くらいの大きさの麻袋を持たされて、さっさと城から追い出されてしまった。──いや、本当に、追い出されたとしか思えない状況なんだけど、一体どうしたんだろう。
朝からの二人の様子を顧みると、どうやら僕を調理場に入れたくないようだ。それならそうと言ってくれればいいのに、どうして隠そうとするんだろう。魔王の義務や仕事内容に関しては僕も全てを把握していないし、秘密にしておきたい作業を調理場で行う必要があるのかもしれない。
まぁ、いいか。せっかくのいい天気だし、一人でのんびりと採取ピクニックをするのも悪くない。
持たされたおやつは、僕が昨日焼いたフロランタンの残りだ。この世界にアーモンドは無いから、城周りで採れる木の実を何種類か使って作ったんだけど、とても良い出来だった。
カミュが保冷魔法を掛けてくれている木製の水筒には、たっぷりのミルクで割ったカボ茶が詰められているらしい。喉が渇きすぎないように気をつけてください、と何度も念を押されてしまった。
「クック! ポッポ!」
広大な玄関アプローチを進みながら名前を呼ぶと、二羽の愛鳥はすぐに飛んできて、僕の両肩それぞれに降り立った。僕の狭い肩では乗り心地が悪いだろうに、相変わらず器用に体勢を維持してドヤ顔をしている。ものすごく可愛い。
「これから、食べられる花を探すんだよ。手伝ってくれる?」
「クッ!」
「ポッ!」
クックとポッポは元気よく鳴き、カクカクカクカクと何度も頷いた。可愛い。
ジルの魔法によって強化を重ねられているクックとポッポの能力のひとつに、魔物回避がある。クックとポッポに魔物が近付かないように、そして万が一、暴走種が突っ込んできたとしても一定距離内には近づけないよう、魔王の魔力を溶かし込んでいるんだとか。
本当は僕本人にそういった魔法を掛けたいみたいだけれど、魔力を持たない人間に魔法を多用するのは怖いとのことで、代わりにクックとポッポへがっつりと魔法を重ね掛けしているらしい。おかげで、魔鳥たちは様々なスキルを身に着けて能力強化されているみたいだけど、小さな身体に無理を強いているんじゃないかと少し心配になってしまう。もちろん、僕が心配するまでもなく、ジルだってそういった配慮や考慮はしているはずだ。彼はとても優しい人なのだから、いたいけな小動物を傷めつけるような真似はしないだろう。
「クッ、ククッ」
「ポポッ、クルクルッ」
「えっ?」
クックとポッポが僕の髪を少し咥えて、優しく引っ張りながら鳴く。どうしたのかと我に返り立ち止まると、考えごとをしながら歩いていたからか、ジルやカミュから立ち入ってはいけないと言われている深い森のほうへ進みかけていたようだ。まだ城の敷地内だけれど、このまままっすぐ進んでしまうと、問題の森へ足を踏み入れてしまうところだった。
「道が違うって教えてくれたんだね。クック、ポッポ、ありがとう」
「クッ!」
「ポッ!」
お礼を言うと、鳥たちは当然だと言わんばかりにキメ顔をして、こっちに来いというように先導して飛び始めた。といっても、僕が一人で屋外にいるときは自分たちが護衛役だとジルから教え込まれているからか、決して距離を取ったりはしない。
飛んでは地面や僕の肩に降り、また飛んで、と繰り返しながら、クックとポッポは僕を城の裏手にある花畑へと誘導してくれる。あんまりゆっくり歩くとクックやポッポを無駄に疲れさせてしまうから、僕はせっせと足を動かした。
そうして到着した花畑では、カラフルな色彩が溢れ返っていた。
「わぁ……、やっぱり、何度見ても綺麗だなぁ」
思わず声が漏れてしまうくらい、美しい光景だ。花畑はなだらかな丘になっていて、城の建物からは少し距離があるものの敷地内だけれど、そうとは思えない広大さを誇っている。
手入れを加えているわけではなく、自然に任せて咲いているから、色々な種類の花が混ざり合っているけれど、だからこそ芸術的な鮮やかさを感じるのかもしれない。
「いい空気だし、いい匂いだし、綺麗な景色。最高だねぇ」
「クークッ!」
「ポッ、ポッ!」
僕の呟きに、鳥たちも上機嫌に応えてくれる。平和な情景に心を癒されながら、花摘みのミッションをこなすべく、僕は腕まくりをした。
お昼まではカミュを手伝って掃除や洗濯をして、昼ごはんには、なんとジルお手製のミルク粥をいただいた。初めて作ったというジルは自信なさげに出してくれたけれど、彼の心が滲み出ているような優しい風味で美味しかった。
中水上のおじさんの命日に当たる今日、まさかミルク粥を食べるとは思わなかったな。ミルク粥によく似ているというジルの故郷の料理は甘い味付けだったらしいけれど、優しい魔王は僕が作ったミルク粥に合わせて作ってくれた。つまり、おじさんが作ってくれたものによく似ている。
あたたかくて、優しくて、嬉しくて、切なくて、ミルク粥を食べながら涙を零してしまいそうだった。でも、ジルとカミュに心配をかけたくないから、僕はそれを必死に堪えた。
昼食の片付けの手伝いを申し出たけれど断られてしまい、おやつと水筒と五十センチ四方くらいの大きさの麻袋を持たされて、さっさと城から追い出されてしまった。──いや、本当に、追い出されたとしか思えない状況なんだけど、一体どうしたんだろう。
朝からの二人の様子を顧みると、どうやら僕を調理場に入れたくないようだ。それならそうと言ってくれればいいのに、どうして隠そうとするんだろう。魔王の義務や仕事内容に関しては僕も全てを把握していないし、秘密にしておきたい作業を調理場で行う必要があるのかもしれない。
まぁ、いいか。せっかくのいい天気だし、一人でのんびりと採取ピクニックをするのも悪くない。
持たされたおやつは、僕が昨日焼いたフロランタンの残りだ。この世界にアーモンドは無いから、城周りで採れる木の実を何種類か使って作ったんだけど、とても良い出来だった。
カミュが保冷魔法を掛けてくれている木製の水筒には、たっぷりのミルクで割ったカボ茶が詰められているらしい。喉が渇きすぎないように気をつけてください、と何度も念を押されてしまった。
「クック! ポッポ!」
広大な玄関アプローチを進みながら名前を呼ぶと、二羽の愛鳥はすぐに飛んできて、僕の両肩それぞれに降り立った。僕の狭い肩では乗り心地が悪いだろうに、相変わらず器用に体勢を維持してドヤ顔をしている。ものすごく可愛い。
「これから、食べられる花を探すんだよ。手伝ってくれる?」
「クッ!」
「ポッ!」
クックとポッポは元気よく鳴き、カクカクカクカクと何度も頷いた。可愛い。
ジルの魔法によって強化を重ねられているクックとポッポの能力のひとつに、魔物回避がある。クックとポッポに魔物が近付かないように、そして万が一、暴走種が突っ込んできたとしても一定距離内には近づけないよう、魔王の魔力を溶かし込んでいるんだとか。
本当は僕本人にそういった魔法を掛けたいみたいだけれど、魔力を持たない人間に魔法を多用するのは怖いとのことで、代わりにクックとポッポへがっつりと魔法を重ね掛けしているらしい。おかげで、魔鳥たちは様々なスキルを身に着けて能力強化されているみたいだけど、小さな身体に無理を強いているんじゃないかと少し心配になってしまう。もちろん、僕が心配するまでもなく、ジルだってそういった配慮や考慮はしているはずだ。彼はとても優しい人なのだから、いたいけな小動物を傷めつけるような真似はしないだろう。
「クッ、ククッ」
「ポポッ、クルクルッ」
「えっ?」
クックとポッポが僕の髪を少し咥えて、優しく引っ張りながら鳴く。どうしたのかと我に返り立ち止まると、考えごとをしながら歩いていたからか、ジルやカミュから立ち入ってはいけないと言われている深い森のほうへ進みかけていたようだ。まだ城の敷地内だけれど、このまままっすぐ進んでしまうと、問題の森へ足を踏み入れてしまうところだった。
「道が違うって教えてくれたんだね。クック、ポッポ、ありがとう」
「クッ!」
「ポッ!」
お礼を言うと、鳥たちは当然だと言わんばかりにキメ顔をして、こっちに来いというように先導して飛び始めた。といっても、僕が一人で屋外にいるときは自分たちが護衛役だとジルから教え込まれているからか、決して距離を取ったりはしない。
飛んでは地面や僕の肩に降り、また飛んで、と繰り返しながら、クックとポッポは僕を城の裏手にある花畑へと誘導してくれる。あんまりゆっくり歩くとクックやポッポを無駄に疲れさせてしまうから、僕はせっせと足を動かした。
そうして到着した花畑では、カラフルな色彩が溢れ返っていた。
「わぁ……、やっぱり、何度見ても綺麗だなぁ」
思わず声が漏れてしまうくらい、美しい光景だ。花畑はなだらかな丘になっていて、城の建物からは少し距離があるものの敷地内だけれど、そうとは思えない広大さを誇っている。
手入れを加えているわけではなく、自然に任せて咲いているから、色々な種類の花が混ざり合っているけれど、だからこそ芸術的な鮮やかさを感じるのかもしれない。
「いい空気だし、いい匂いだし、綺麗な景色。最高だねぇ」
「クークッ!」
「ポッ、ポッ!」
僕の呟きに、鳥たちも上機嫌に応えてくれる。平和な情景に心を癒されながら、花摘みのミッションをこなすべく、僕は腕まくりをした。
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