レディ・クローンズ

蟹虎 夜光

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Say goodbye to the past

第20話 舞乱 彼女の戦は何処へ

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 時は昔。かつて一人の少女は、人のいない町外れにて魔法を学んでいた。
「ここには……誰もおらぬな。」
 武蔵野小町……彼女は殿様の家臣でありながら、独学で学びたいことがあった。
「魔術之本……一体何奴が書いたのじゃ。」
 そこらのカラクリとは違う、人間の気から発動する炎や水といった非現実的でありながらも実用性がある代物。彼女にとってそれが魔法であると考えていた。
「今日も試してみるかの……風の舞!」
 彼女の持っている木の枝から風が放たれる。ちょっとやそっとの風ではなく嵐のような激しい風だ。
「こ、これは!凄いのじゃ!」
 先日は火を、その先日は水を……。彼女そのものに魔力があったという点もあるがそれよりも彼女には魔法少女としての素質があったのだ。
「……何をしているのだ、小町。」
「と、殿!これは……少し大きなカラクリと言いますか……」
 殿様の顔は一之輔と瓜二つだった。
「カラクリか……それにしても面白いものだ。小町、お前はやはり私を退屈させない。」
 殿様は小町の頭を撫でた。
「有り難きお言葉……」
 小町は殿様と接するにつれて現代の上司と部下……なんて言う関係ではなく、ひっそりと恋心を抱いていた。
「拙者、この命にかえても必ずお守りしますゆえ、どうかお気になさらず。」
「気にするな、自分の命は自分で守るさ……」
「しかし……」
「おなごに守られるようでは情けない。」
 殿はそう言うとその場を去った。

 数日後、戦が始まる前日だった。敵軍の家臣による不意打ちを食らったため小町の軍勢は急いで逃げるしかなかった。
「ちっ……水の舞!」
 火を水でかき消そうとしても限りはあった。どんな困難でも一人では無理なのかもしれない。
「殿!」
 そんな時、目の前に現れたのは殿様だ。
「お前のカラクリで……お前だけでも……」
「そんな!いけませぬ!」
「天下など取ってはいけないのかもしれぬ……」
 殿様はそう言うと気絶した。
「殿!殿!おのれ……敵陣め……!」
 水魔法で打ち消していったが、自分は助かっても失った代償は山のようにある。
「どうしてこうなるのじゃ……どうして殿と……拙者は……」
 世も末、ふとそんな言葉が脳裏を過ぎる。
「それに……この子は……」
 小町は殿様との子を身篭っていた。それ故に彼女は何よりも大事にしていたのがその子供だった。
「何もかも彼奴じゃ!彼奴が悪い!ここを抜け出して絶対に敵を討つ!」
 小町の目は脱出するという気持ちで燃えていた。殿様も助けられない身体でもこの子だけは助けたい。その本心で彼女は全力で抜け出した。

 それまた数日後、城は滅んだものの彼女は近くの村で赤子を産んだ。しかし育てる気力は喪失していた。
「もう……駄目じゃ。」
「何を諦めておるのじゃ。お主らしくない。赤子を守れたでは無いか。」
 救った赤子を最寄りの医療所にて産んだ子を見つめる。殿の嫌うおなごではあったが瞳はまるで動物の赤子のように綺麗な瞳で見つめてくる。しかしそれに癒されるような気もしなかった。
「お主の気持ちもわかるが……ここは笑顔で行こうでは無いか。暗い顔ではこの先生きることは愚か、何も出来ぬぞ。」
「……わかっておる。」
「それにお主もその子もまだわしから見たら幼子だ。命狙うのですら容易い。」
「こんな時にでたらめを言うでない。」
「それにお主だから言うが……この子はお主の魔法能力を赤子の時から取得しておる。一人でも大丈夫なほどにな。」
 そう言うと医師は外を見つめる。
「……!まずい!」
「なんじゃ?」
「この街も破壊されるぞ。」
 その声と同時に外が一瞬にして焼け野原になる現場が見えた。後からこれが魔法であることを知った。

「……ここは」
 目覚めた時には未知の世界だった。絵に書いたような未来が辺り一面に広がっていた。
「お目覚めかな。私はサド……魔法少女について研究している会社のしがない職員だ。」
「……質問の答えになっておらんぞ。」
「質問というのは愚かな行いだ。最古の魔法少女というのは愚者なのか。」
「お主だって疑問の一つや二つ持つであろう……。」
 サドは首を傾げたが、顔色を変えず冷静に話を続けた。
「良いだろう……答えてやる。初めにここは私に与えられた研究室である。お前の子孫である魔法少女はクローンの遺伝子研究に大きな影響を与えてくれる。言わば良い素材。」
「それはどうも……」
 この男の言動に怒る体力も存在しない。彼女は現代で言うところの鬱病になった。
「……」
「まぁいいや……とりあえず君はこの世界でいうところの高校一年生と同世代。学び舎で授業を受けるというのはどうだ?」
「寺子屋か……」
 彼女は自分の年齢が十五になったばかりであることを思い出した。平均的に若くして子供を産んだために、出世したような勢いではあったが、第三者からすればただのガキである。サドは心の中でそう思い、頭の中で小町も自分のことをそう思っていた。
「コネならある。面白いとは思わないか?」
「……うむ。」
 未来で生活する、こんな非現実的なことがあって良いのだろうか。見たところ発展はかなりしている。絵が動いている、服装も着やすそうで何より見覚えのない物が山ほど存在している。この世界というのは想像もつかないほどに……。
「素晴らしいものだ……」
 殿様を失い絶望していたが、世界はこんなにも変わり、そして何よりワクワクを与えてくれる。

 学び舎にサドが連れてってくれた。そこで彼女はある人に出会う。
「……!」
 見覚えのある顔立ち、間違いない彼は知ってる人だ。
「と…の?殿ではないか!」
「な、なんだよお前!」
 周りの目線が気になるが、今自分は殿様に会えた喜びに浮かれていた。
「……天下取りに行こうとした覚えもないし殿様でもねーよ、俺は福瀬一之輔っていうただの人です。」
「……殿は冗談が好きだな!」
「……もう勝手にしろ。」
 本当は殿様じゃないって分かっていた。でもここまで似ていて同い歳なんてむしろ出逢えたことこそ奇跡じゃないか。

 それからしばらくして。現在の数時間前。
「……いいかファスタ殿、恐らく殿と拙者が会えるのは今日で終わりだと思うのじゃ。」
「……どうして?」
「人間には魔力に限界がある。それに……ワシはもう体力なんて平気そうに見えて何も無いんじゃ。恐らく魔法少女になれるのも二回ほどじゃ。」
 そしてその一回をこの道化師のために使ってしまった。もう終わりだ。うすうすと心の中で無理をした。
「これも拙者の運命なのか……。」

 そんな時である。
「はーい、いにしえちゃん。」
 今度は女の声、しかもまだ子供っぽい。明神コハナ、彼女である。
「ゼブラちゃん、やられちゃって残念だわー。でも、本当の戦いってのはこれからよ。ふぁあいと!」
 その声と共に光弾を一つ投げた明神。
「貴方の恐怖から作ったの。せっかく作ったんだから頑張って倒してよね!」
 その姿は武将らしくも鬼のような形相をした何かである。
「……今度は殿を救えるかしら。」
「いや、殿様は戦うさ。」
 センキシに起動するアプリを構える。
「待つのじゃ!殿だけに戦わせるつもりは無い!」
 小町は覚悟を決めて殿の隣に並ぶ。
「これで最後ならそれもまた一興、この命殿のために捧げる。」
 その覚悟に疑問を抱く者、止めようとする者もいる。
「……何言ってんだお前。」
「待って小町ちゃん!起動したらあなたは……もう」
 そんな声、聞いていられない。
「いいのじゃ……もう寿命も短い。」
 二人は並び、構える。
「「起動」」
 戦士は並ぶ。

 つづく
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