悪のそし記

蟹虎 夜光

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辺境・真実編

第15話 女狐と小学校

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第15話 女狐と小学校

 数年前のある日、山林。仙秋街から離れたちょっと遠くの少人数で生息してる村、土代村つちしろむら近くには山林が存在しており、熊や鹿……様々な生物がそこにいた。
「があ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙」
 大きな熊の声が響く山林地帯……そこに一匹の小狐が村人の仕掛けた罠に捕まっていた。
「コン……」
 その声は親どころか他の生き物ですら届かない……そう思ったその時だった。
「ごめんねぇ、今離してあげるからね。」
 そう言いながら罠を離そうとする少年。
「おい!そいつですら獲物になるんだぞ!」
「ダメだよ!可哀想だよ!」
 その時の小狐は顔だけを見て、その彼を記憶しながら、小狐は何かしらの形で恩を返したいと思うようになった。しかし今は狩られるだけ、もし同等の姿になれたら……そう思うだけだった。

 現在、仙秋街。
 僕、結城光の部屋にカリアがやってきた。こうなった理由はあの鬼畜上司こと三ツ矢さんのせいである。
 
「え?カリアの社宅がないからシェアハウス?」
「そうそう、それに君女性慣れしてないよね?」
「えぇ……まぁ……はい。」
 確かに僕は女性慣れしていない。この間の件ですら、美杉さんへの報告、恐らくだけど有栖さんがいなければ僕は噛みつかれていただろう。
「兄妹(笑)だし大丈夫さ!……てなわけだから今日来るのでよーろしーくねー!」
「えぇちょまっ……もう」
 電話を突然切られ、僕に拒否権はないようだ。

 という形でカリアにベッドを与えて僕はソファーで寝ることにしたが、カリアは何かにうなされているようだ。
「うっ……」
 かつての教育の影響だろうか。やはりヒーローは何か隠してるからカリアはこんな感じに……でも待てよ。教育をしたのは長嶋であって彼は今何も出来ない、それどころか逮捕された人間だ。なら……彼女を苦しめる真の闇は更に奥に……。
「それ以上考えるな。」
 脳内に直接声が聞こえた。
「くっ……」
 彼女を助けるどころか僕までこうなっては意味が無い。
「……おはよう、光」
 うなされる何かから開放された彼女が起きる。僕はその声を祓って何事も無かったかのように対応する。
「お、おはよう……カリア。うなされてたけど大丈夫?」
「ううん……ここ最近じゃいつもこう、だから大丈夫。」
「そ、そう……無理しないでね。」
 やはりカリアに何かがついているのは確かだ。でもそれを調べる方法も何もかも僕には分からない……。
「歯も磨いたし服も着替えた、行くよ。」
「あっはい……」
 僕達はただただ特命依頼屋へと歩く。

「もう!そんなの当たって砕けろよ!」
 特命依頼屋はカイスの声が響いていた。一体何があったのだろうか。
「えぇ、だってそんなの出来ないですよ……」
 依頼主は少し大人びた女性のようだ。
「あー、彼女の名前はコン。どうやら元が狐らしくて助けた男の子に恩返しがしたいらしい。」
「はぁ……なんか似たようで違う童話が二件くらい過ぎる内容ですね……」
 三ツ矢さんの説明で大方内容はわかった。依頼者の名前はコン……名前の由来はどこかで見つけた狐をモチーフにしたキャラクターがコンと言っていたことからそう名乗ることにしたらしい。そして依頼者は緑色の液体をどこかで見つけ、舐めてから能力者となり、人の姿に化けたのだとか。
「自己紹介が送れました!依頼主のコンと申します!普段は小学生ですけど……今日は大人に化けちゃいました!」
 このあざとさ……まさに女狐である。
「つまり彼女は人間の老若男女……じゃなかった若い女性から老いた女性……老若女に化けることができるって訳。」
 モリさんの説明を聞いてなるほどとなったものの、なんというか童話みたいな道徳観のある話だ。ココ最近、売れっ子女優の旦那がハーレムしてて裏切り者に始末されたりしてたからなあ……。心が温まる。
 そして案の定、小学校に入って人間の幼女に化けたらどうもこうも惚れてしまったというわけだ。
「てかそもそもなんで一番女っ気のない俺がこの仕事引き受けてんだよ!結城はともかく……三ツ矢!お前の仕事だろ!」
「ちょっと面白いだろ……」
「ほんと性格悪いよな!お前な!」
 三ツ矢さんはカイスについに性格悪いと言われ始めた。
「お前には特になし!」
 カイスは逆ギレしながらモリさんに往復ビンタをしてその場を去ることにした。
「あーあ、カイスが切れた。こうなったらモリさん……頼めるかい?」
「あ、その……すみません、皆さん大変そうなので依頼はなかったことに……。」
「やります!」
 僕は思わず、そう叫んだ。
「……え?」
「なんのために僕達がいるんですか!やりましょうよ!」
 ここを乗り切れるツテがあるからだ。

「はぁ?なんで私なのよ。」
「お願いしますよ美杉さん!演技ならあなたの専門でしょ!」
 何かに化けることで告白も恩返しも出来るはず……そう思ったからこそ、僕は美杉さんの演技を参考にするのはどうかと電話で確認した。
「だいたい私のメンタルを考えてちょうだい、仲の良かった彼の調査を頼んで何も無かったを期待しようとしたらアウトオブアウト!……それどころか殺されたら怒る気力もないわよ!いい?そろそろ仕事だから失礼するわよ!」
 もちろん……電話は切られた。
「やっぱり……依頼は……」
「待って。」
 コンさんを止めるために、カリアが動く。
「一日偵察してみるから……それから考えてみない?」
 それは名案だ、三ツ矢さんは指でグッドサインを出した。
「はい……」

 手なわけで一日、彼女を様子見する。
「さぁてみんな!英語の授業をするよ!カナダから来たブラジル先生だ!」
「ハロー!アイムブラジル!」
 なんてややこしい名前の先生なんだ……それにしても今の時代の子供達は小学校から英語をするらしい。たまげたなぁ。……なんてことを考えながら彼等の様子をコンさんにつけた小型カメラで確認する。
「好きな動物と嫌いな動物……英語で言ってみよー!」
「ユー!プリーズ!」
 コンさんの恩返しをしたい人物が立ち上がった。名を澤木隆平と読むらしい。村の子供のため、通うのはちとキツいが日々を過ごすなかで学力はトップだとか。
「じゃあ澤木!まずは名前を名乗ってみてくれ!」
「は、はい!マイネームイズリュウヘイサワキ……」
「いいねぇ!じゃあ早速やって見よっか!」
 これでもし、狐が好きだといえばグッと近づけるチャンスなのでは……カリアと頷き、不思議と可能性がある……そう思ったその時だった。
「え、えっと……アイライクバード!アイドントライク……フォックス。」
 このときだ。小型カメラの音声を聞かなくとも、コンさんの心情を察するだけでキツくなってしまった。頼むから澤木くんの例え話であってくれ。僕はそう思ってしまった。
「さすが澤木、いいぞ。」
 コンさんの胸元に着いているカメラがだんだんと地に着くのがわかった。そのことから起きている現象は自然とわかってきた。間違いなく、コンさんはショックから気が抜けて元の姿になってしまった。わかった理由には子供達の悲鳴が聞こえるからだ。
 ザワつく教室……逃げ出すような足音……それを大きな声を出して追いかける先生……空気は地獄そのものだ。
「コンちゃん……いや、君……」
「クゥン?」
 そんな状態で話しかけようとする子がいた。間違いない、澤木くんの声だ。
「もしかして……君……」
「……」
「あの時の子供狐……?」
 澤木くんの反応に思わず、その声を聞いていた人全員が驚きを隠せなかった。
「やっぱり……弟が助けた……小さかった狐だ。」

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