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運とはズルく見えること
もぐもぐ
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朝の教室。連絡事項を伝え終えた先生が手元のファイルを閉じた。
「では、小休憩。準備をしてまた後で」
出口へ向かっていく先生を早歩きで追いかける。「先生ー」と声をかけるとピタリと立ち止まった。
「なにかなアールくん」
「球技大会のことで二、三個質問あって」
「どうぞ」と促されたので「あざっす」と軽い礼をして続けた。
「全員参加っていうのはプレイヤーとしてじゃないといけないのかってことと、他チームの練習を見学したいってのと、あと先生に協力して欲しいこともあって」
「分かった、始めの二つは確認しておく。最後の内容は今日の練習時間に詳しく聞きます、質問の返答もそこで。これでいいかな?」
俺が頷くと、再び「では」と言い残して教室を出て行った。振り返ると、座っているエイテムにショウカが話しかけている。球技大会の件で相談があると伝えてくれているのだろう。今日は三人分で納まらないお重をマルダさんに持たせて貰い、ランチの時間にクラス全員が揃う予定だ。
座学をいくつか受けて、正午。
「ちょいとごめんねー!」
慣れた動きで一つのテーブルに集まるエイテムたちの間に、ショウカがもう一つテーブルを持って入っていった。ピタリとくっつくように置いて大きな食卓を作る。
「アタシらも混ぜてもらえる?」
ショウカが尋ねると、フルーはエイテムに視線を向けた。彼女が頷きを返すとフルーはニコッと笑った。
「是非どうぞ。立派な包みも見えることだしね、ご相伴にあずかっても?」
「もちろん!」
俺はドンと包みをテーブルに置いてから開いた。現れたお重はやっぱり三人分にしても大きい。
「すごい……これは皆さんが?」
エイテムの視線に三人揃って首を横に振った。
「寮の世話をしてくれてる人が作ってくれたんだ」
「余り物も含めてたっぷり詰めたよ!」というマルダさんの笑顔が頭に浮かんだ。きっと食材や献立の管理に頭をひねってくれているんだろう。
「素敵ですね」
広げた弁当をエイテムが眺めている。さっぱり、がっつり、甘い物とジャンルの違う三つの段が彩りよく詰められていた。いいな、とエイテムが呟いたところにショウカが食いついた。
「そう思ってくれる?」
「えっあ、はい。とっても……」
エイテムが困惑しながらも答えると、頷き合ったショウカからコルアへバトンが渡った。
「あの、球技大会の後に寮で打ち上げを計画してるんです。よければぜひ! 出来ればクラスの皆さんで」
やりたくて、とコルアの声がしぼんでいった。
「どした?」
「いや、その」
俺が寄って小さな声で様子を尋ねると、同じく小声で答えが返ってくる。
「お誘いするにしては未定のことが多かったと思ってしまって……」
「大丈夫だって」
俺はコルアの肩をポンポンと叩いて話の続きを引き受けた。
「他にも球技大会のことで色々提案があってさ。俺たちでも考えたんだけど、三人にも一緒に考えて欲しくて」
どう? と尋ねると、三人はそれぞれに頷いてくれた。フルーがそれを見て「じゃ、提案からアイディアまで聞かせてくれる?」と切り出したので、俺たちは話し合った内容から勝手に思いついていた物まで一通り話した。いつの間にかソールドが何も言わずにメモを取ってくれていて、ノートの半分が箇条書きで埋まり、重箱も空になって積み上がっていた。
「うん。一息ついたね」
俺たちの話が途切れたタイミングでフルーが話をまとめ始めた。
「ひとまず、君たちの中でも意思統一が出来ているのは二つ。そのうち目標については今日先生も交えて話す時間があると」
俺は口を動かしながらウンウンと頷きで返した。
「なら、今は打ち上げについて話すべきかな。僕はここに入ってたお肉が好きだよ」
フルーがお重の一角を指さした。既に空になっているが、こってりとしたソースが仕切りに残っている。
「何入ってたっけ」
俺の呟きを受けて、考える間が一拍空いた後にエイテムが答えた。
「豚の角煮だったと思います」
「そう、それ。エイテムさんは? 何か気に入ったものあったかな」
フルーの質問にエイテムはレモンの乗ったクッキーを指さした。それから順番に好きなものを言い合い、打ち上げのメニューを考えている間に全員集合のランチタイムが過ぎていった。
「では、小休憩。準備をしてまた後で」
出口へ向かっていく先生を早歩きで追いかける。「先生ー」と声をかけるとピタリと立ち止まった。
「なにかなアールくん」
「球技大会のことで二、三個質問あって」
「どうぞ」と促されたので「あざっす」と軽い礼をして続けた。
「全員参加っていうのはプレイヤーとしてじゃないといけないのかってことと、他チームの練習を見学したいってのと、あと先生に協力して欲しいこともあって」
「分かった、始めの二つは確認しておく。最後の内容は今日の練習時間に詳しく聞きます、質問の返答もそこで。これでいいかな?」
俺が頷くと、再び「では」と言い残して教室を出て行った。振り返ると、座っているエイテムにショウカが話しかけている。球技大会の件で相談があると伝えてくれているのだろう。今日は三人分で納まらないお重をマルダさんに持たせて貰い、ランチの時間にクラス全員が揃う予定だ。
座学をいくつか受けて、正午。
「ちょいとごめんねー!」
慣れた動きで一つのテーブルに集まるエイテムたちの間に、ショウカがもう一つテーブルを持って入っていった。ピタリとくっつくように置いて大きな食卓を作る。
「アタシらも混ぜてもらえる?」
ショウカが尋ねると、フルーはエイテムに視線を向けた。彼女が頷きを返すとフルーはニコッと笑った。
「是非どうぞ。立派な包みも見えることだしね、ご相伴にあずかっても?」
「もちろん!」
俺はドンと包みをテーブルに置いてから開いた。現れたお重はやっぱり三人分にしても大きい。
「すごい……これは皆さんが?」
エイテムの視線に三人揃って首を横に振った。
「寮の世話をしてくれてる人が作ってくれたんだ」
「余り物も含めてたっぷり詰めたよ!」というマルダさんの笑顔が頭に浮かんだ。きっと食材や献立の管理に頭をひねってくれているんだろう。
「素敵ですね」
広げた弁当をエイテムが眺めている。さっぱり、がっつり、甘い物とジャンルの違う三つの段が彩りよく詰められていた。いいな、とエイテムが呟いたところにショウカが食いついた。
「そう思ってくれる?」
「えっあ、はい。とっても……」
エイテムが困惑しながらも答えると、頷き合ったショウカからコルアへバトンが渡った。
「あの、球技大会の後に寮で打ち上げを計画してるんです。よければぜひ! 出来ればクラスの皆さんで」
やりたくて、とコルアの声がしぼんでいった。
「どした?」
「いや、その」
俺が寄って小さな声で様子を尋ねると、同じく小声で答えが返ってくる。
「お誘いするにしては未定のことが多かったと思ってしまって……」
「大丈夫だって」
俺はコルアの肩をポンポンと叩いて話の続きを引き受けた。
「他にも球技大会のことで色々提案があってさ。俺たちでも考えたんだけど、三人にも一緒に考えて欲しくて」
どう? と尋ねると、三人はそれぞれに頷いてくれた。フルーがそれを見て「じゃ、提案からアイディアまで聞かせてくれる?」と切り出したので、俺たちは話し合った内容から勝手に思いついていた物まで一通り話した。いつの間にかソールドが何も言わずにメモを取ってくれていて、ノートの半分が箇条書きで埋まり、重箱も空になって積み上がっていた。
「うん。一息ついたね」
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「ひとまず、君たちの中でも意思統一が出来ているのは二つ。そのうち目標については今日先生も交えて話す時間があると」
俺は口を動かしながらウンウンと頷きで返した。
「なら、今は打ち上げについて話すべきかな。僕はここに入ってたお肉が好きだよ」
フルーがお重の一角を指さした。既に空になっているが、こってりとしたソースが仕切りに残っている。
「何入ってたっけ」
俺の呟きを受けて、考える間が一拍空いた後にエイテムが答えた。
「豚の角煮だったと思います」
「そう、それ。エイテムさんは? 何か気に入ったものあったかな」
フルーの質問にエイテムはレモンの乗ったクッキーを指さした。それから順番に好きなものを言い合い、打ち上げのメニューを考えている間に全員集合のランチタイムが過ぎていった。
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