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運とはズルく見えること

身近にある魔法

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 運動場につくとジウ先生がホワイトボードに文字を書いていた。エイテムは窓磨き、フルーとソールドは柔軟体操と各々で待ち時間を過ごしている。


「あっ」


 エイテムの方からボールが転がってきた。拾い上げてみると柔らかく、そこまで重みもない。バレーボールだろうか。

 投げ返そうと構えると、エイテムが慌てて手を振った。俺がぴた、と動きを止めた隙に走り寄ってくる。


「受け止める自信が無くて。拾っていただいて助かりました」


「いやいや。これ、何のボール?」


 尋ねながら、一緒にボールが置かれていた棚に向かう。ズラーッとボールが並んでいるが、大きさ・色など様々だ。かごに山盛り入っているテニスボールと野球のボールだけはパッと用途が分かった。


「……私も詳しく無くて」


「そっか。今後授業でやれると良いなー……これ野球とか! 俺やってたよ、エイテムさんは何かやったことある?」


「あ、いいえ。私は……その、散歩ぐらい」


「エイテムさんって寮じゃ無かったよね。この辺でいい散歩スポットある?」


「それなら川沿いの」


 エイテムが言葉を切ってジウ先生の方を見た。つられて顔を向けると、ペンを手放して腕時計を確認している。壁に掛かった時計はあと二分で授業が始まる時刻になっていた。


「やべ、ホワイトボード見とくか。行こ!」


 頷いたエイテムと連れだって移動する。他の四人もホワイトボードの内容をのぞき込みながら話していた。


「もういいか、始めよう。では、正面に注目!」


 わらわらと全員が集まってくると、ジウ先生が声を上げた。ホワイトボードが手で示される。


「今回は来月にある球技大会の出場種目を決める。うちのクラスは人数が少ないからクラス単位で出場する種目はもう決まっている。なので、個人種目を決めていきます」


 ホワイトボードには箇条書きで種目名が並んでいた。赤い丸がつけてあるのは人数が必要なスポーツだから、出ることが決まっているクラス種目だろう。


「ドッジボールとバスケしか出らんないんすね」


「ああ、参加するクラス数の兼ね合いだ。ドッジボールはうちのクラスがかなり不利なんだけれど、これも参加数の都合です。それで、個人種目は最低でも一人につき一種目出て貰います。一種目ごとに出られる人数は横に書いてあるから」


 候補はビリヤード、ボーリング、スカッシュ、卓球の四種目。上二つが四人、下二つが二人までの制限付きのようだ。


「兄さんは何にしますか?」


「そうだなぁ……全部うっすらやったことあるんだよ。だから、どうやって選んだもんかな」


「そうなんですか? 僕はどれも経験が無いです。兄さんは知識もそうですけど、経験も僕より豊富ですね」


「え! あぁ、まあね」


 昔の自分と今の自分、記憶や知識をきちんと区別しておこうと思っていたのについ口から出た。だが、どうせやれば動きに出るだろうから、嘘をつかずに済んだと思えば良いだろう。


「そうだ、やったこと無いなら一通り試してみるか? みんなも」


 俺が声をかけると、一度試してみる方向に話が固まった。運動場を四つに仕切ってミニ競技場を作り、全員で回っていると時間が来てしまった。


「じゃあ希望を取ろうか」


 先生が挙手を求めるとビリヤードにフルーとショウカ、スカッシュにエイテムとコルア、卓球に俺とソールドときれいに二人組で分かれた。


「良かった良かった、すんなり決まったね。団体競技の練習は後日やりますが、個人競技は決まった練習時間が無いから各々の裁量に任せます。ルールだけ把握してくれれば全く練習しなくても、逆に特訓してきても構いません」


 では、解散という先生の言葉で今日の授業は終了した。帰り際、ホワイトボードを消している先生に俺は気になっていたことを尋ねた。


「競技中に魔法使うのってアリなんですか?」


 任意発動でルールすら変えそうな魔法はさすがに使えなさそうだが、確認しておきたかった。


「いや、無しだね。スキルは基本自動で発動するから構わないんだけど、魔法はね」


「ですよねぇ。土魔法でドッジボールの偽物作ったり、って思ったんですけど」


「時間が余れば、クラスのレクリエーションとして魔法を使うスポーツもやってみようか」


 この世界でのスキルや魔法の歴史は浅いようで、特にスキルの認識なんてものはまだまだ最新技術として扱われている。いずれはスキルの有無がスポーツに関わりを持つのだろうか。
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