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25.ベヒーモス

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「べべべベヒーモス!??」

 シャムが叫び声をあげる。『巨獣ベヒーモス』。その魔物は体長20メートルを優に超えるカバの怪物。眠りを妨げられた彼の怪物は3匹の小さき人間達を見据えた。

「やばい、早々に近づかれた‼ 散るぞ!」

 グレイが声をあげるとルナはグレイと別方向に駆け出した。しかし、シャムはベヒーモスの巨大さに圧倒され、尻餅をついている。

「おい! しっかりしろ‼」

 グレイがシャムの腕を取り立たせるとシャムの意識がいくらか戻り、グレイと一緒に走り出した。

「ルナが気を引いてくれているみたいだな」

 少し離れたところから銃声が聞こえ、ベヒーモスがそれを追っている。緩慢な動きだが、その巨体も相まって、あっという間にルナとの距離を詰めているようだ。

「おいおいおい! あの子まずいんじゃないのかい⁉」

「ああ、そうだな」

 グレイは冷静に返した。

「そうだなって……アンタ達仲間じゃないのかい⁉」

 シャムがグレイの胸倉を掴む。グレイはあっという間に中刷りになるが、怯まなかった。

「そうだよ。だから、アンタの力を貸してくれ。」

「アタシの……力⁉」
 
 ……

「くっ‼」

 魔導銃を使って懸命にベヒーモスを牽制を続けるルナだったが、いよいよ追い詰められていた。

「グレイは……まだですか⁉」

 苛立ちながら叫ぶと爆発の音が鳴り響いた。グレイのお手製の爆薬が爆発した音だった。その音と同時にグレイがルナの横に現れる。

「あんなものまで作ってしまうなんて本当に器用ですね」

「だが、驚かせることは出来たとして、ダメージは与えられねえよ」

「ですが、準備は……」

「もちろん整った。ここからが反撃だ‼」

 ルナが銃弾を入れ替え、グレイが双剣を抜く。二人は別々の方向に走り出した。

 爆薬に驚いたベヒーモスであったが、再び小さき者に向き直った。逃げる者と向かってくる者……まずは向かってくる者から踏みつぶしてやろう。ベヒーモスは右の前足をグレイの真上に落とす。グレイの体躯を優に上回る大きさのその前足はグレイを飲み込むかに見えた。

 ガァァァァァン。

 しかし、何かが体に当たり、ベヒーモスは少しだけバランスを崩す。どうやら木が倒れてきて体に当たったようだ。……ベヒーモスをよろけさせるほどの木が突然? 何故? その瞬間、ベヒーモスは前足の関節に鋭い痛みが走る。

「……命がけだったが、うまくいったみたいだな」

 如何に巨大な生物とは言え、関節には隙が多い。ベヒーモスがよろけた瞬間にグレイはベヒーモスの関節を斬りつけていた。ベヒーモスは怒りに震えるが、巨木が更に倒れてくる。今度は頭にぶつかったため、ベヒーモスは軽い脳震盪を起こし、その場に倒れる。

「ルナ、今だ‼」

 突如現れたルナはベヒーモスの口の中に銃弾を無数に撃ち続けた。弾が無くなったころにはベヒーモスは動きを止めていた。

「……倒したのかい?」

 ベヒーモスの正面に回っり様子を確認するグレイと、弾を装填し直し、油断なく構えているルナのところにシャムがやってきた。

「いえ、寝ているだけです」

「ま、それでもここまでうまく言うとは思わなかったけどな。……アンタのおかげだ、シャム」

 ベヒーモスをよろけさせ、一瞬の意識を奪った巨木、それはシャムが斧で倒したものだった。

「役に立ったのかい? アタシが?」

「ええ、貴方が居たからこの状況に出来たのです」

 シャムは今まで自分の力が役に立ったことは無かった。あっても闘技場でピエロになって日銭を得られることくらい。物資を当てにする家族以外、純粋に誰かに頼られたことは無かった。

「あ、アタシが……」

「ああ、助かったぜ」

 シャムに声をかけるグレイをルナは急かした。

「グレイ、そろそろ……」

「ああ、そうだったな。早く止めを……」

 ベヒーモスはまだ死んでいない。そして、ここで命を奪わないことは自分たちの死に直結する。グレイは火薬を取り出した。

「これをヤツの口の中に……」 

 その瞬間、ベヒーモスは閉じていた目を見開いた。

 ガアアアアアアアアアアアア‼

「なっ‼」

 無数の麻酔弾を体内に取り込んだベヒーモスであったが、それでも深い眠りに至ることは無かったのだ。グレイとルナの体はこの出来事に体が強張る。一瞬早くベヒーモスが動き、ルナとグレイに襲い掛かる。そして、ここで二人の命は終える……はずだった。

「うおおおおおおおおおおお‼」

 シャムの大戦斧がベヒーモスの頭を斬り落とす。ベヒーモスの頭はグレイとルナの脇を超え、5メートル程度後ろに吹き飛んでいた。

「う、うおおおおおおおおおおおお‼」

 気が付くとシャムは再び雄たけびをあげていた。グレイとルナはそんなシャムに抱き着き、三人は勝利に喜ぶのであった。
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