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10.パラティヌス遺跡

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 それから五日後、目的の遺跡に到着した。パラティヌス遺跡……グレイとシエルの遊び場だった、らしい。二人の村が無くなるまでは。

「良くあることさ。盗賊が現れて焼かれたらしい。俺が村を出た後の話だから、細かい状況はわからねえけどな」

 五日前、遠い目をしながらグレイはそう語っていた。その時の会話はそれっきりで、ルナはそれ以上のことをグレイに聞くことは出来なかった。

(今は目前のことに集中しましょう)

 グレイとの会話のことを、一旦、思考の外に追いやり、ルナはパラティヌス遺跡を見る。かなり古い建造物でところどころ破損しているが神秘的な雰囲気を感じる。……いや、『神秘的であってほしい』と感じる自分の心がそう見せるのかもしれない。

(この場所に何かヒントがあれば良いのですが)

 ルナがこのパラティヌス遺跡に来たのは、もちろん『天の英雄』の関する情報を集めるためだ。故あって遠回りをすることになったが、最初の目的地でもあった。

「ぼうっとするな。この中に用事があるんだろう? さっさと行くぞ」

 傍らのグレイに声をかけられた。その隣でシエルが眠そうにあくびをしている。

「も、申し訳ありません。……はい、よろしくお願いいたします」

 今、ルナが持っている情報で頼りになるのはここだけだ。ルナはそのことに期待と不安を感じながら、グレイとラルクの後に続いた。

・・・

 パラティヌス遺跡の中は亜人であるゴブリン達の住み家になっていた。

(村が無くなっちまった結果がこれか)

 以前は古いながらもとても綺麗で清潔感のある場所であったが、ところどころに魔物の死骸や、ゴブリンの物と思われる糞尿が放置されていた。

(やっぱり、こう言った現実を見るのは辛いな)

 グレイは陰鬱な気分でシエルの方を見る。シエルはそんなグレイの視線を気にせず、ただ横を歩いている。

「……ゴブリン」

 急にシエルが口を開けた。

「あ? ゴブリン?」

 グレイはまとも返すことが出来ず、オウム返しをする。

「ここにいるゴブリンは全部殺したよ」

 どうやら、いつもの不思議な力で剣を操作し、ゴブリンが襲ってくる前に撃破したらしい。

「本当に便利な力だな。それ」

 気だるい雰囲気で歩いていただけだと思っていたのにと驚きながらグレイはシエルに返した。

「あんたのおかげで手に入れたもんだよ」

 初耳だった。

「お、おい⁉ それってどういう……」

「着いたよ」

 グレイの質問を無視してシエルが目の前の扉を指さした。

「この扉の奥がこの遺跡の最奥部。そうだよね、グレイ?」

 そう言ってグレイを見るシエルの目は質問の回答を明確に拒絶していた。

「そうだな。……ルナ、入るぞ」

「は、はい!」

 二人のやり取りを気にしていたもう一人の同行者、ルナは急に話を振られ、驚いた様だった。

 シエルが扉を開ける。だが、グレイの頭には先ほどのシエルの言葉が離れない。

(どういうことだ?)

 シエルとは再会して以来、村を出てからの話をしたことが無かった。話をしようとしても明確に拒絶されていた。それも有り、仕事の用事以外の会話をすることも無くなり、話す際も必要最低限の言葉を交わすのみだった。しかし、さっきほどの会話は違った。

(シエルが村を出たのは、そして、あの力を手に入れたのは、俺が関係しているのか?)

 その仮説にグレイは大きな不安を感じた。

(もしかして、村が無くなったのも、俺が関係している?)

 グレイはもう一度シエルを見つめる。しかし、シエルは再度グレイを見ることはなかった。
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