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8.ルナの思い
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(良かった)
ルナは素直にそう思った。あともう少しタイミングがずれていれば、グレイはクラーケンの墨の酸によって大けが、もしくは死んでいた可能性があった。無事に帰ってきたことが純粋に嬉しい。それが、最近会ったばかりの愛想の悪い男であっても。
(これ以上、誰にも死んで欲しくないもの)
ルナがここに至るまでにはたくさんの犠牲があった。その現実がルナの胸を締め付ける。
「おい」
気が付くと目の前にグレイが立っていた。ルナはこわばっていた顔に笑顔を貼り付け、グレイの方に振り向いた。
「なんでしょう?」
声を出すタイミングが遅いとか、余計なことをするなとか言ってくる気だろうか。宿屋で『あの話』をしてから、グレイにはそれまで以上に距離を置かれている気がする。だが、無理もない。いきなり『世界を救う英雄を探している』と言われれば誰だってそうだろう。自分だって、そんなあるかもわからないようなものにすがるのは都合が良すぎると思うし、狂人だと思われてもしょうがないと思う。だが、それでも探さなくてはいけないのだ。
「どうした?」
気が付くと目の前のグレイはまた怪訝な顔をしている。貼り付けた笑顔が引きつっていたようだ。
「なんでもございません。それより……」
「ああ、さっきは助かった。ありがとう」
グレイの口から出てきたのは意外にもお礼の言葉だった。口は悪いが素直な青年なのかもしれない。ルナの中でグレイの評価が大きく変わった。
「いえ、こちらこそありがとうございました。クラーケンを倒してしまうなんてさすがですね」
そういうとグレイはなぜか気まずそうに「いや」と答え、シエルの方を見る。確かにシエルの方がクラーケンの触手全部を相手にしていたから大変だっただろう。だが、その遠慮とももう少し違う感情が動いている気がする。
「貰った分の働きはする。だが、今回のクラーケンとの遭遇はこちらのミスだ」
一拍置いてグレイが頭を下げる。
「危険な目に合わせてしまい、申し訳なかった」
ルナは意外な展開にキョトンとしてしまった。まさか頭を下げられるとは……。グレイは愛想が悪く、とっつきにくい人間だが、思ったほど性格の悪い訳では無さそうだ。
「フフフ」
安心したからか、つい噴き出してしまった。
「なんだ? 何かおかしかったか?」
いきなり笑い出すルナに困惑したのか、グレイが声をかけてきた。
「フフフ、何でもありません。今回の件、私は特に気にしていません。目的地までよろしくお願いいたします」
微笑んだまま、ルナはグレイに答え、海を見つめる。久しぶりに笑った。作った笑顔では無く、笑ったのだ。
(まだ笑えるんだ)
ルナは確認すると改めて決意した。
(うん……頑張ろう。私にはやることがあるのだから)
ルナは素直にそう思った。あともう少しタイミングがずれていれば、グレイはクラーケンの墨の酸によって大けが、もしくは死んでいた可能性があった。無事に帰ってきたことが純粋に嬉しい。それが、最近会ったばかりの愛想の悪い男であっても。
(これ以上、誰にも死んで欲しくないもの)
ルナがここに至るまでにはたくさんの犠牲があった。その現実がルナの胸を締め付ける。
「おい」
気が付くと目の前にグレイが立っていた。ルナはこわばっていた顔に笑顔を貼り付け、グレイの方に振り向いた。
「なんでしょう?」
声を出すタイミングが遅いとか、余計なことをするなとか言ってくる気だろうか。宿屋で『あの話』をしてから、グレイにはそれまで以上に距離を置かれている気がする。だが、無理もない。いきなり『世界を救う英雄を探している』と言われれば誰だってそうだろう。自分だって、そんなあるかもわからないようなものにすがるのは都合が良すぎると思うし、狂人だと思われてもしょうがないと思う。だが、それでも探さなくてはいけないのだ。
「どうした?」
気が付くと目の前のグレイはまた怪訝な顔をしている。貼り付けた笑顔が引きつっていたようだ。
「なんでもございません。それより……」
「ああ、さっきは助かった。ありがとう」
グレイの口から出てきたのは意外にもお礼の言葉だった。口は悪いが素直な青年なのかもしれない。ルナの中でグレイの評価が大きく変わった。
「いえ、こちらこそありがとうございました。クラーケンを倒してしまうなんてさすがですね」
そういうとグレイはなぜか気まずそうに「いや」と答え、シエルの方を見る。確かにシエルの方がクラーケンの触手全部を相手にしていたから大変だっただろう。だが、その遠慮とももう少し違う感情が動いている気がする。
「貰った分の働きはする。だが、今回のクラーケンとの遭遇はこちらのミスだ」
一拍置いてグレイが頭を下げる。
「危険な目に合わせてしまい、申し訳なかった」
ルナは意外な展開にキョトンとしてしまった。まさか頭を下げられるとは……。グレイは愛想が悪く、とっつきにくい人間だが、思ったほど性格の悪い訳では無さそうだ。
「フフフ」
安心したからか、つい噴き出してしまった。
「なんだ? 何かおかしかったか?」
いきなり笑い出すルナに困惑したのか、グレイが声をかけてきた。
「フフフ、何でもありません。今回の件、私は特に気にしていません。目的地までよろしくお願いいたします」
微笑んだまま、ルナはグレイに答え、海を見つめる。久しぶりに笑った。作った笑顔では無く、笑ったのだ。
(まだ笑えるんだ)
ルナは確認すると改めて決意した。
(うん……頑張ろう。私にはやることがあるのだから)
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