さよなら、初恋

菜花

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ミゲルのアバンチュール

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 ミゲルは元々貧乏男爵の家の三男であった。そういう家なら子供なぞ嫡子の他にスペアがいればこと足りる。ミゲルは魔力が高かったこともあり、十にも満たない頃に家族と離れ神殿に預けられた。以来家族とは一度も会っていない。
 そんな薄情な家族ではあるが、感謝していることが二つあった。身分が高ければ大神官にもなれたであろう魔力量の持ち主に産んでくれたこと。そしてもう一つは稀に見る美貌の持ち主に産んでくれたこと。
 顔が良いというだけで出かけ先の年上の女性は何かと親切にしてくれたり、見習いとしてやってくる巫女達と遊びを楽しんだりも出来た。
 そして魔力量と顔の良さが時の王太子に高く評価された結果、まさかの二十歳にして大神官着任だ。
 最も、それには自分が聖女と婚姻したくないからお前が誘惑して離さないようにしろという、前代未聞の裏取引こそが重要だったというオチがついているが。
 それでも大神官ともなれば全ての国民が自分にひれ伏す。王族と聖女以外の全ての人間が。
 家族に見放されて後ろ盾もなくて、何かと顔だけの男と馬鹿にされていたこの自分に。
 その魅力には逆らえなかった。
 一生平凡な人生を歩むくらいなら、この賭けにのってやる。



 召喚された聖女は十四で、自分より六つも年下だった。この世界の成人は十六だが、聖女が童顔じみているのもあって子供にしか見えない。特別な存在という言葉には惹かれるものがあるが、実態はどこにでもいる容姿の少女と思うと著しくテンションが下がる。
 子供子供していて頼りないかと思えば、自分が選ばれた存在だと知るとすぐ調子に乗った。そんなところにも幻滅させられる。
 マルシオからはお前に夢中にさせて万が一にも自分のところへ来ないように、とのことだったが、会ってすぐ聖女は自分に夢中になった。今まで遊んだ適当な女でももう少し手ごたえがあったというのに、これが聖女か……。

 そう思うように仕向けたとはいえ、自分を特別な存在でミゲルと両想いだと思い込んだ聖女が頻繁にデートをねだるものだから、ミゲルは苦痛でしかないのを隠して接待デートをしなければならなかった。
 おまけにそのデートだが、侍女の趣味が悪いのか、はたまた侍女は聖女に悪意でもあるのか、派手でセンスのない服ばかり着てきた。横を歩くのが恥ずかしい。聖女なら侍女くらい卸してみせろと不満が溜まる。

 聖女と仮初めの恋人になって良かったことといえば、自分の年齢では神官仲間達から支持を得られないのでは危惧していたのに、聖女の放蕩ぶりに皆呆れて自分に同情してくれたことだろうか。

 若い神官達は「お可哀想に」 「悩みがあったらいつでも相談してください」 と親身になってくれた。さらに……。

「聖女様のご意向に従っていては普段のお仕事もままならないでしょう。ここは私どもがしておきますので……」

 そう言ってきたのは、順当に行けば前大神官の後に大神官になっていたのはこの男だったと噂されているアレホ。
 勝手も分からないし、王命で聖女に付き合うのだから元から時間も足りていない。ミゲルはアレホに神殿の仕事を丸投げした。

 聖女との濃密な交際は一年に及んだ。慣れたかといえばそうでもない。
 もとより好きでも何でもない相手。顔も性格も好みではない。それなのに逆らえない相手。王命で一生付き合っていかなければいけない。ストレスが溜まるばかりだった。
 そんな折、外遊でとある侯爵家の領地に赴いた。土地が痩せてきたので大神官の祝福で回復させてほしいと。聖女といるより仕事をしているほうがストレスが溜まらない、そう思って訪ねた侯爵家には、美しい令嬢がいた。

「エリーと申します。大神官様。どうぞ、お見知りおきを」

 妖艶な容姿、豊満な体型。どれをとっても理想の女性だった。婚姻前の女性を人目も憚らずじっと見つめてしまい、家令からわざとらく咳払いをされてしまった。

 祝福を終えて帰る際、侯爵がにじり寄ってきて言った。

「私の領地は全ての貴族の中でも一、二を争う広さだと自負しております。それゆえに毎年豊作であったらどれほど助かることでしょうと常々。大神官様、うちのエリーも貴方にまた会いたいと思っているようです。どうか……」

 握手に見せかけて金貨を握らせてくる。
 節制、禁欲を掲げた神殿ではこんな融通はきくまいなと考えた時点で、ミゲルは堕ちていた。


 そんな時に聖女から距離を置いてくれと言われたのだ。乗らないはずがない。
 ほんの少し覚えた違和感も無視し、るんるん気分でまた外遊の予定書を出す。
 エリーの家は暖かい地方にあり、土地が肥えていれば一年中収穫が出来る。祝福という名の魔法をミゲルがかけ続ければ簡単なことだ。
 増えた収穫の数割は賄賂として王都の偉い人間達に贈る。貰った人間は更に儲けを得ようとミゲルが侯爵家に留まるように権限を持つ人間を言いくるめる。
 その結果、ほとんど神殿に帰らない大神官が爆誕した。





 四年。それはミゲルが侯爵領にいた期間だ。毎月広大な侯爵領のほぼどこかで土地に祝福をかけ、それが終わればエリーとのアバンチュールを楽しんでいる。
 いや、ミゲルからしてみればエリーとの愛はまさしく真実の愛であった。
 無理矢理押し付けられた聖女サマとは違う。一目会った時からお互い運命を感じていた。愛の言葉を欠かさず、時には身体も重ね、遊びに行く時は人目を気にすることも無くあちこちでいちゃついた。幸せな日々であった。

 そんな日々の中で、ミゲルの実の両親が侯爵領まで訪ねてくるという椿事が一回だけあった。
 ひとまず客間に通し、侍従を使って本心を聞きだす。彼らいわく。

「ミゲルのことを忘れたことなんて無かった。図々しいとは思っている。でも立派になった姿を一目でいいから見たい」

 この先不利になるような話でもあるのかと思っていたが、単なる個人の感情と知ってミゲルは安心した。安心して従僕達に命じ両親を叩きだした。

「一目でいいから! 数秒でもいいから!」

 両親は泣き叫んでいたが、ミゲルからすればざまあみろだった。
 捨てた子供が立派になったから手の平返しか。会ってやる義理なんかない。
 これに懲りたら不快だから二度と近くをうろつくな、と家人に伝えさせて終わった。
 この件はエリーの耳にも入ったが、彼女とは価値観が同じだと認識する結果になった。

「嫌いな人が不幸な目にあってるのを見るのって楽しいですよね!」

 ミゲルはエリーに肯定されたのが嬉しくて、その日は追い出された時の両親の醜態ぶりについて盛り上がった。

 侯爵領に来て最初の数か月は何事もなかったが、一年経つ頃ともなると聖女の筆頭侍女からの文句やらアレホの苦言やらがうるさくなった。
 顔を合わせたくなくて普段は侯爵家の用意した隠れ家などで過ごしている。
 二年も経つと分かってくれたのか何も言わなくなってきた。これでエリーと楽しめる。



 そして侯爵領に来てから四年。ミゲルは二十五になり、エリーとの結婚を真剣に考え始めていた。一応神殿の掟では大神官は生涯独身という決まりなのだが、聖女を誘惑するために大神官になったミゲルにはそんな掟は古臭いものとしか映らなかった。
 その聖女も旅芸人の噂では真面目に聖女らしいことをしていると聞くし、今更他の女との婚姻にとやかく言ってこないだろう。あとは王太子マルシオだが、自分が本命と結婚したいために聖女を押し付けてきた元凶だ。他の女と結婚することを止める権利などない。
 いつものようにベッドの中でエリーと戯れている時、不意に真面目なトーンで「そろそろ結婚しようか」 と言ってみた。泣いて喜んでくれるだろうと信じて疑わなかった。

 エリーはきょとんとしたあと冷たい目で「え……嫌ですけど」 と言ってきた。
 この時ほどミゲルが困惑した時はない。

「嫌って……じゃあ今までどうして俺と交際していたんだ?」
「領地を繁栄させるためですが? 媚びておけば衣食住提供するくらいで数年遊べる利益が出るんだから安いものですわ」
「俺は本気だったんだぞ! 人の心を弄ぶなんて悪魔だ!」
「賄賂を受け取っておいて人を悪魔呼ばわりなんて流石は大神官様ですねえ。ご不満なら、この関係は解消しましょう」
「……俺を好きではなかったのか?」
「美しい顔と相性の良い身体は今でも大好きです。でも結婚するには面倒くさい相手でしかないもの。いつまでもこちらの思惑に気づかないような残念な頭といつだって独り善がりな性格が無理。つか悪魔とか馬鹿にした直後に縋らないでくださいよ、気持ち悪い」



 ミゲルは侯爵領にいる目的を一夜にして失った。ショックのあまり隠れ家を飛び出し、数時間馬車に揺られて神殿に戻ったあと、ふらふらと聖女の私室に来てしまった。休日でゆっくりしていた聖女が、突然のノックにソフィアはもう洗濯が終わったのかと扉を開けると、四年ぶりに会うミゲルの姿を見て驚いてしまう。驚いたあとに、あまりにも憔悴した様子に訳有りか、と事情を尋ねる。

「大神官様? どうされましたか?」
「……」

 ミゲルはどうして真っ先に聖女の部屋に来たのか自分でもよく分かっていなかった。あれだけ自分を慕っていた聖女なら自分を馬鹿にしないだろうという甘えがあったのかもしれない。その勘は当たり、ミゲルのただならぬ様子に胡桃は椅子に座るように促し、温かいお茶を入れて出してくれた。

「どうぞ」
「ああ……ん? これは」
「以前好きだと仰られていたお茶です。取っておいて良かった」

 お茶……その言葉にミゲルは思い出した。聖女との一番最初のデートは植物園だった。そこで昼食を食べる際、園内で栽培されているお茶を「私はこのお茶が一番好きでして、味も香りも世界一だと思っています」 と世間話ついでに話したことがある。四年、いや、ほぼ五年も前の一言なのに、覚えていてくれたのかと思わず胸が熱くなってしまう。
 何せ今まで付き合っていたエリーなどは、この菓子が好きだこの本が好きだといくら言っても次のデートでは綺麗さっぱり忘れている。同じことを何度言っても驚かれるのは楽しいし、その天然なところが可愛いと思っていたが、今思うとそれは心底自分に興味が無かったという証拠にしか思えなくてひたすら腹立たしい。何であんなのに夢中だったのだろう。

 ミゲルはお茶を飲みながら、お茶菓子の準備をする聖女を見る。そして気付く。
 この子、こんな綺麗だったっけ?
 あの頃はいつもダサい服を着ていたのに、今はシンプルな修道服だ。地味、というより清楚な雰囲気に合っていて気品すら感じられる。
 というか、容姿が違う。いかにもどこにでもいる子供だった聖女は数年見ないうちに蝶が羽化するかのように綺麗になっていた。背が伸びてしなやかな身体付きに。大人っぽくなった顔は美少女と言って差し支えないくらいだ。もしミゲルのこの考えをソフィアが聞いたら「私が毎日手入れしていたんだから当然よ!」 とふんぞり返っただろう。

 お茶菓子を置いて目の前に座った聖女は、「このお茶菓子は美味しいんですよ」 「手を拭く物も必要でしょうか?」 と当たり障りない言葉ばかりで、ミゲルが突然訪ねてきた理由を聞こうともしない。

「何も聞かないんですね」

 当て付けっぽくミゲルが言うと胡桃は困ったように笑って言った。

「ここに来た時、酷く思いつめた顔をしておられました。おっしゃりたくないなら、それで構いません。大神官様は私の恩人ですもの。疲れているのなら、どうか休んでいってください。お茶菓子くらいしかありませんが、精一杯おもてなしいたします」

 確かに何も言いたくない。本命と思っていた相手にこっぴどく振られたなんて恥も恥だ。だが傷ついたから誰かに優しくしてほしい。そんなミゲルに胡桃は百点満点の対応をした。ミゲルの目が思わず潤む。
 子供だと思ってたけど、いつの間にか大人を気遣えるように成長してた。こんなの恋人だったら一生大切にするレベル……って、あれ?

 いや恋人、だよな? 何度もデートしたし、向こうは俺が大好きだったし。
 改めて目の前の聖女を見る。
 可愛い。そりゃあ磨かれた貴族令嬢みたいな派手さはないけれど、清楚で禁欲的な雰囲気の子がおっとり笑う姿ってなんかぐっとくる。確か召喚されて今年で五年になるから、今十九か。俺が二十五だから……年齢的にも十二分に釣り合う。もう手を出しても少女愛好家なんて言われない。

「聖女、その……」
「はい、なんでしょう」
「えっと、しばらく、会ってなかったですね」
「はい。でも会うのを控えようと私から言いだしたことですから……」
「で、でもいくらなんでも今まで無責任すぎました。これからはまた以前のように会いましょう」
「それは……難しいかと。私、今聖女の仕事を行っていて、休みは週二日なんです」

 現在の胡桃のシフトなんて知る由もないミゲルはどうしてそんなことになっているのか分からない。聖女の治療なんて診るのは偉い人だけじゃないのか? まさか庶民まで診てるのか? そういえばさっきから自分でお茶を入れたりお茶菓子を準備してるけど、侍女はどうしたんだ?

 その疑問に吹き飛ばすかのように盛大な足音を響かせてソフィアが部屋にやってきた。

「聖女様ー! あの大神官が帰ったらしいって神官達が騒いでて……って、きゃー! 何で殿方が勝手に聖女様の部屋に入ってるんですか! 女性の部屋ですよ! 出て行って! このけだもの!」

 ミゲルはソフィアによって強引に部屋から追い出された。
 あの侍女空気も読まずになんだと怒りをたぎらせていると、そういえば筆頭侍女が文句をつけてきたことがあったと思い出す。
 まさかあいつが筆頭侍女なのか? それにしては美人ではないし貴族の出とも思えない品の無さだが。
 アレホあたりに言ってクビにしてもらうかとアレホのところに行くと、彼は「お戻りになられましたか」 と安心半分、呆れ半分のような声音で言った。

「ああ。留守が長引いて悪かったな。ところで、聖女の筆頭侍女だが、あのそばかす女がそうなのか? 聖女に相応しいとは思えないから辞めさせては?」

 アレホは静かに首を振った。

「彼女以外に侍女がいないのに、そんなことは出来ませんよ。聖女の世話をする人間がいなくなってしまう」
「は? 十人くらい居ただろう? 彼女らはどこへ行ったんだ」
「辞めましたよ。貴方が神殿に戻らなくなってすぐに。新人いびりをしているのを聖女がご覧になりましてね」
「そんなことが……。まあ侍女はあとで補充するとして、聖女の勤労状況はどうなっているんだ? 働きすぎじゃないのか?」
「これでも以前よりは改善されたのですがね。マルシオ様が命令するまでは休みなど週一で……それでも大怪我や重病人には対応してしまうし」
「マルシオ? 王太子のことか? 何で王太子がそこで出てくるんだ?」
「……」

 アレホは少しだけ迷ったが、遅いか早いかの問題だと考えてミゲルに己の心情と、聖女を取り巻く現状を伝えた。

「……大神官様、一年ほど前より、王家から打診が来ております。聖女を王宮に戻すようにと」
「は!?」
「私以外の神官は拒否しております。何せ今の聖女は民衆に絶大な人気がありまして、彼女のお陰でどれほどの命が救われたことか。そしてこの神殿が途方もなく潤ったのも。彼女はもはや神殿の象徴です」

 ミゲルはふと、自分の腕に手を回して離れなかった頃の胡桃を思い出す。

「あの聖女が……そんなに」
「人は成長するものですよ、大神官様。そういう訳でして、神殿の意としては渡さないということになっておりますが、私個人としては彼女には王宮に行ってほしいのです」
「何を……神殿を裏切るのか!?」
「私はうんざりしているのです。他の神官達ときたら皆、聖女を金の生る木のように見るものばかり。今は神殿の主な業務が聖女の治療のようになっておりますが、本来そうではないでしょう。聖女の力を当てにしてばかりの現状が恥ずかしい。彼女がいなくなったら全員何をしていいか分からなくなるのではないでしょうか。そうなるのが早いか遅いかの違いなら、私が生きているうちに、取返しのつくうちに聖女には王宮に行ってほしい」
「……有益な聖女を逃がしたくないと思うのは普通ではないか。お前は意地の悪い見方をするのだな」

 アレホはミゲルのその言葉を聞いてふっと笑った。疲れた笑いだった。

「さすが、金と女に目がくらんで四年も帰らなかった大神官様。自分に似た人間を庇うのは当然のことでしたね」

 瞬間的に怒りが湧いたミゲルは殴りかかろうとした。しかしアレホは瞬きもせず、振り上げられた拳を前に一歩も動かない。

「どうぞ。お好きになさってください」

 その堂々とした態度が自分と彼の器の差を物語っているかのようで、ミゲルは殴ることが出来なかった。ぶるぶると震えながら拳を下すと、アレホはもう少し詳しく現況を語った。

「貴方がいた頃とは世間の人気が逆転していますね……。あの頃は美貌の神官と浮かれ聖女ということで貴方の人気は絶大だった。それが今や女狂いの神官と献身的な聖女とで反転してしまった。貴方の発言力も今はどれほどのものか」
「馬鹿にしているのか」
「事実です。……知っておかなければ、この先戦えませんよ」

 何とだ、とミゲルが言おうとしたところで、アレホは王家がどれほど神殿に介入しているか語った。

「王家には聖女のことだけではなく、無礼を働いたという理由で神官が二人解雇されています。神殿には自治が認められていましたが、それが徐々に削られてきている。聖女を取り戻すため、なのでしょうかね」
「な……権利の侵害だろう! どうして止めなかった!」
「私は大神官の代理であって大神官ではありません。強く出られたら止められない。まして聖女の肩を持ちすぎると神殿内に味方も少ないのですから」

 思いのほか事態が逼迫していることを悟り、ミゲルにはじわじわと焦りが生まれる。

「マルシオ様、今になってなぜ……ともかく、一度話をしないと」

 考えが声に出ていることにも気づかず、ミゲルはアレホの私室から去っていった。
 残されたアレホはこれからを思って溜息をつく。
 この先どうなることやら。自分は聖女様の幸せを第一に考えるだけだが、王家と神殿に振り回される聖女様の幸せはどこにあるのだろう。
 胡桃のやんちゃな時期も、憑りつかれたように治療し続ける時期も見てきた。婚姻したことはないが、気持ちはすっかり孫をみる祖父だ。あの子が幸せになるなら、マルシオでもミゲルでも構わない。特にミゲルは、聖女も最初の頃は一緒にいて本当に幸せそうだったから……。

 ミゲルが聖女並に改心するなら、なんだかんだ言ってもミゲルを応援してしまうかもしれない。馬鹿な子ほどかわいい。聖女が孫なら、ミゲルは年を取ってから出来た息子みたいな存在だ。だが、ミゲルが聖女を得ようとするのならその道は険しいだろう。

 アレホは先の見えない未来を思ってまた溜息をついた。
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