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第2章
37話「黒髪の女性2」
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「ダーリン!会いたかった!」
「えっえっ!!!」
黒髪の女性はシロの首元に顔を埋め、両腕を背中に回す。
何が起きているか理解が追いつかない。
しかも昨日と同じように振り解くことが出来ない。
華奢な身体なのに凄い力だ。
「ちょっと何してんのよ!」
「あっアリス!」
きっと素っ頓狂な声を上げたシロに気が付いたのだろう。
シロは助けを求めるように手を伸ばす。
「とにかく離れなさいよ!ぐぎぎ……」
シロから黒髪の女性を引き離そうと肩に手を掛けるがどうしても引き離すことが出来ない。
「はぁはぁ……何て馬鹿力なの……」
「あら?貴方がパートナー?」
まるで引き離されそうになった事など気が付かなかったかのように涼しい顔を浮かべた黒髪の女性がアリスを見つめる。
「私達がパートナーです!シロさんから離れてください!」
リリスが険しい口調で黒髪の女性に答える。
ここまで他人にはっきり主張するリリスをシロは初めて見た。
「へぇ……」
黒髪の女性はまるで品定めをするかのようにアリスとリリスに視線を向ける。
「なっ、なによ……」
爪先から頭の先まで舐め回すように見つめる視線にアリスは一瞬たじろぐ。
「こんなお子ちゃまがパートナーだったら、そりゃ欲求不満にもなるか……」
「それって……どういう意味ですか?」
「あら?知りたい?私とシロの熱い夜を……シロ……昨日は凄かったわぁ」
黒髪の女性は艶かしい声色でシロの耳元に囁く。
アリスとリリスの顔色から血の気が引くのが見える。
「いや!知らない!知らない!」
「ひどいわ!あれだけ濃厚で濃密な夜を過ごしたのに……無かったことにするなんて……私のこと遊びだったのね!」
黒髪の女性は一転してシロの胸元に顔を埋めながら泣いているような素振りを見せる。
「ぐぐ……」
一度は青ざめたリリスであったが今度は一瞬で真っ赤なった。
あれだけ穏やかで優しいリリスが見たことない形相でワナワナと身震いする。
これは終わった。
シロは全身の血の気が引くのを感じていた。
「シロさんなんて……シロさんなんて……大」
「リリス!!」
大粒の涙を流しながら叫ぼうとしたリリスをアリスが制止する。
「リリス。これ以上先は言っちゃ駄目」
なだめるようにリリスの両肩に手を置く。
「お姉ちゃん……」
「咄嗟のことで混乱しちゃったけど、よくよく考えてみてみなさい。あのシロが出会ってすぐの女の人に手を出すと思う?」
リリスはハッとした顔をする。
「シロさんは一緒に寝ても手を出してこないし……覗きもしない……抱きついても手を回しすらしない」
「そう……シロはヘタレなのよ!!だから、あのシロがそんなことする筈ないのよ!!」
「そうです!!シロさんがそんなことする筈ない!!」
「アリス……リリス……」
ヘタレという称号については大いに意義ありだが、自分を信じてくれたことに安堵の声が漏れる。
「もうアンタの茶番に付き合うつもりはないわ。さっさとシロを離しなさい!!」
「はい!離してください!!」
「へぇ、お互いを信じ合えてるんだね。いいパートナーじゃない」
黒髪の女性はフフッと笑みを浮かべる。
「でも……駄目よ。ダーリンは私のパートナーにするって決めたんだから」
「ぐっ……何なのこの女……」
「おいおい……痴話喧嘩か?」
「修羅場よ修羅場」
いつの間にか4人を囲って人だかりが出来てしまっている。
しかし、3人はそれを気にする素振りも見せない。
「おーい、シロー!どうしたんだ?」
シロ達が着いてきていない事に気がついたエヴィエスが人だかりを掻き分けて中に歩み出る。
「エヴィ!!」
「ん?えっと……これどういう状況?」
「助けて!助けて!」
人だかりの中、女性に抱きしめられて助けを求めるシロとそれを睨み付けるアリスとリリス。
事態を飲み込めないエヴィエスは明らかに戸惑っている。
「助けるって言ったってな……って、ウタ!!ウタじゃないか!!何やってんだよ!?」
エヴィエスは驚きながら黒髪の女性に声に掛ける。
「あら、エヴィエスじゃない。最近見ないから死んだと思ってたわ」
「いやいや、死んでないから。んで何してんだよ。シロ達は俺の仲間なんだ。ちょっかい出すのやめてもらえないかな?」
「嫌よ!私はダーリンをパートナーにするって決めたんだから」
ウタはプイッとエヴィエスから顔を背ける。
「いやいや、そんな子供みたいな事言うなよ。凄い注目されてるし……とりあえず離そう……な?」
「嫌!!」
ウタはシロの首に回す腕の力をさらに強める。
「あれー?ウタちゃん!どうしたのー?」
エヴィエスに遅れてナイが人だかりの中に加わる。
「あっ、ナイじゃない。久しぶりね」
「シロが気に入っちゃったのかな?でも駄目だよー。シロはアリスちゃんとリリスちゃんのパートナーなんだから」
「嫌よ!!私のダーリンなんだから!!」
「そんな無理やりは駄目だよ……あっそうだ!」
ナイは一瞬眉をひそめるがすぐにいつもの笑顔に戻るとウタの耳に近寄りヒソヒソと耳打ちをする。
その言葉に耳を傾けるウタはウンウンと相槌を打つ。
「うん……うん……そうね……分かったわ」
その途端ウタはパッと手を離し、自由になったシロはヨロヨロと地面にへたり込む。
「シロ!」
「シロさん!」
急いで駆け寄った2人はしゃがみ込みながらシロに両肩に手を添える。
「ごめん……」
「何言ってるんですか?悪いのはあの女ですよ」
「全く……来て早々トラブルに巻き込まれるんじゃないわよ……」
ため息混じりに答えたアリスは静かに立ち上がり、ウタを睨みつける。
「この女一体なんなの!?シロにこんなことして許せない!」
「あら?何か文句あるの?」
「大アリよ!!」
怒り心頭のアリスと不敵な笑みを浮かべたウタはバチバチと視線を交わす。
「まあまあ、2人とも……凄い人だかりだから……な?」
「「うるさい!!」」
制止しようとしたエヴィエスは、2人に一喝されがっくりと項垂れる。
青い瞳と黒い瞳。
お互い一切譲ることない膠着状態が続いたが、その膠着を破ったのは意外にもウタだった。
「……まあ、いいわ。今は貴方達に譲ってあげる。でも……」
ウタは髪を耳に掛けながら、アリスの背後のシロに視線を送る。
「ひっ!」
その黒い瞳から放たれる視線は正に捕食者のそれであり、シロは肩に置かれたリリスの手を強く握る。
「それで、エヴィエス。これからどこに行くの?」
ギルドだ。シロ達がラウドさんに会う予定があってな。俺達も同行させてもらうんだ。
「へぇ、ラウドのところに……じゃあ私も行くわ」
「!?」
「何でアンタが着いてくるのよ!?」
「だって私もギルドに用事が出来ちゃったんだもん」
ウタは笑みを浮かべながらアリスに答える。
「でもパートナーが居ないアンタなんかがギルド行ったって門前払いよ!」
アリスはいつになく厳しい言葉を投げかける。
それだけ彼女に対して敵意を持っているということだろう。
「いや、アリス……ウタは特別なんだ」
「どういうこと?」
「ウタはギルド最強の行使者の1人なんだよ」
「!?」
「そう、私は人類最強の人間。だからギルドに行くのは当然。なんならラウドなんか顔パスで会わせてあげるわ」
ウタは勝ち誇ったように胸を張りアリスに視線を送る。
「だから、私がギルドに行くのは自由よね?アリス?」
「ぐっ……分かったわよ。でもギルドまでだからね」
アリスは渋々承諾する。
「さぁ、ダーリン行きましょう!」
「えっ……ちょっ!」
ウタは素早くシロの右側に回り込むと自らの腕を組んで身体を密着させる。
そのままシロを引き摺るようにして歩みを進める。
「私だって!!」
空いている左側に回り込んだリリスは同じように身体を密着させる。
シロを挟んでリリスとウタの視線がまたしても交錯し、バチバチと音を鳴らす。
「ちょっとなんなの!?私を置いて行くんじゃないわよ!」
2人に脇を抱えて連れ去られるシロの背中を唖然とした表情で眺めていたアリスだったが、自分が置いていかれたことに気がつき急いでその背中を追った。
「なあ、ナイ……」
「なに?エヴィ様ー?」
「お前、ウタに何て耳打ちをしたんだ?」
「えっとねー、パートナーは駄目だけどお嫁さんならいいんじゃない?って言ったんだよ!いい案でしょ!?」
まるで褒めて欲しいと言わんばかりのナイはエヴィエスに純粋無垢は笑顔を向ける。
「うわぁ……」
エヴィエスは3人に引き摺られるように連れて行かれる友の今後が前途多難になる事を確信し、静かに両手を合わせるのだった。
「えっえっ!!!」
黒髪の女性はシロの首元に顔を埋め、両腕を背中に回す。
何が起きているか理解が追いつかない。
しかも昨日と同じように振り解くことが出来ない。
華奢な身体なのに凄い力だ。
「ちょっと何してんのよ!」
「あっアリス!」
きっと素っ頓狂な声を上げたシロに気が付いたのだろう。
シロは助けを求めるように手を伸ばす。
「とにかく離れなさいよ!ぐぎぎ……」
シロから黒髪の女性を引き離そうと肩に手を掛けるがどうしても引き離すことが出来ない。
「はぁはぁ……何て馬鹿力なの……」
「あら?貴方がパートナー?」
まるで引き離されそうになった事など気が付かなかったかのように涼しい顔を浮かべた黒髪の女性がアリスを見つめる。
「私達がパートナーです!シロさんから離れてください!」
リリスが険しい口調で黒髪の女性に答える。
ここまで他人にはっきり主張するリリスをシロは初めて見た。
「へぇ……」
黒髪の女性はまるで品定めをするかのようにアリスとリリスに視線を向ける。
「なっ、なによ……」
爪先から頭の先まで舐め回すように見つめる視線にアリスは一瞬たじろぐ。
「こんなお子ちゃまがパートナーだったら、そりゃ欲求不満にもなるか……」
「それって……どういう意味ですか?」
「あら?知りたい?私とシロの熱い夜を……シロ……昨日は凄かったわぁ」
黒髪の女性は艶かしい声色でシロの耳元に囁く。
アリスとリリスの顔色から血の気が引くのが見える。
「いや!知らない!知らない!」
「ひどいわ!あれだけ濃厚で濃密な夜を過ごしたのに……無かったことにするなんて……私のこと遊びだったのね!」
黒髪の女性は一転してシロの胸元に顔を埋めながら泣いているような素振りを見せる。
「ぐぐ……」
一度は青ざめたリリスであったが今度は一瞬で真っ赤なった。
あれだけ穏やかで優しいリリスが見たことない形相でワナワナと身震いする。
これは終わった。
シロは全身の血の気が引くのを感じていた。
「シロさんなんて……シロさんなんて……大」
「リリス!!」
大粒の涙を流しながら叫ぼうとしたリリスをアリスが制止する。
「リリス。これ以上先は言っちゃ駄目」
なだめるようにリリスの両肩に手を置く。
「お姉ちゃん……」
「咄嗟のことで混乱しちゃったけど、よくよく考えてみてみなさい。あのシロが出会ってすぐの女の人に手を出すと思う?」
リリスはハッとした顔をする。
「シロさんは一緒に寝ても手を出してこないし……覗きもしない……抱きついても手を回しすらしない」
「そう……シロはヘタレなのよ!!だから、あのシロがそんなことする筈ないのよ!!」
「そうです!!シロさんがそんなことする筈ない!!」
「アリス……リリス……」
ヘタレという称号については大いに意義ありだが、自分を信じてくれたことに安堵の声が漏れる。
「もうアンタの茶番に付き合うつもりはないわ。さっさとシロを離しなさい!!」
「はい!離してください!!」
「へぇ、お互いを信じ合えてるんだね。いいパートナーじゃない」
黒髪の女性はフフッと笑みを浮かべる。
「でも……駄目よ。ダーリンは私のパートナーにするって決めたんだから」
「ぐっ……何なのこの女……」
「おいおい……痴話喧嘩か?」
「修羅場よ修羅場」
いつの間にか4人を囲って人だかりが出来てしまっている。
しかし、3人はそれを気にする素振りも見せない。
「おーい、シロー!どうしたんだ?」
シロ達が着いてきていない事に気がついたエヴィエスが人だかりを掻き分けて中に歩み出る。
「エヴィ!!」
「ん?えっと……これどういう状況?」
「助けて!助けて!」
人だかりの中、女性に抱きしめられて助けを求めるシロとそれを睨み付けるアリスとリリス。
事態を飲み込めないエヴィエスは明らかに戸惑っている。
「助けるって言ったってな……って、ウタ!!ウタじゃないか!!何やってんだよ!?」
エヴィエスは驚きながら黒髪の女性に声に掛ける。
「あら、エヴィエスじゃない。最近見ないから死んだと思ってたわ」
「いやいや、死んでないから。んで何してんだよ。シロ達は俺の仲間なんだ。ちょっかい出すのやめてもらえないかな?」
「嫌よ!私はダーリンをパートナーにするって決めたんだから」
ウタはプイッとエヴィエスから顔を背ける。
「いやいや、そんな子供みたいな事言うなよ。凄い注目されてるし……とりあえず離そう……な?」
「嫌!!」
ウタはシロの首に回す腕の力をさらに強める。
「あれー?ウタちゃん!どうしたのー?」
エヴィエスに遅れてナイが人だかりの中に加わる。
「あっ、ナイじゃない。久しぶりね」
「シロが気に入っちゃったのかな?でも駄目だよー。シロはアリスちゃんとリリスちゃんのパートナーなんだから」
「嫌よ!!私のダーリンなんだから!!」
「そんな無理やりは駄目だよ……あっそうだ!」
ナイは一瞬眉をひそめるがすぐにいつもの笑顔に戻るとウタの耳に近寄りヒソヒソと耳打ちをする。
その言葉に耳を傾けるウタはウンウンと相槌を打つ。
「うん……うん……そうね……分かったわ」
その途端ウタはパッと手を離し、自由になったシロはヨロヨロと地面にへたり込む。
「シロ!」
「シロさん!」
急いで駆け寄った2人はしゃがみ込みながらシロに両肩に手を添える。
「ごめん……」
「何言ってるんですか?悪いのはあの女ですよ」
「全く……来て早々トラブルに巻き込まれるんじゃないわよ……」
ため息混じりに答えたアリスは静かに立ち上がり、ウタを睨みつける。
「この女一体なんなの!?シロにこんなことして許せない!」
「あら?何か文句あるの?」
「大アリよ!!」
怒り心頭のアリスと不敵な笑みを浮かべたウタはバチバチと視線を交わす。
「まあまあ、2人とも……凄い人だかりだから……な?」
「「うるさい!!」」
制止しようとしたエヴィエスは、2人に一喝されがっくりと項垂れる。
青い瞳と黒い瞳。
お互い一切譲ることない膠着状態が続いたが、その膠着を破ったのは意外にもウタだった。
「……まあ、いいわ。今は貴方達に譲ってあげる。でも……」
ウタは髪を耳に掛けながら、アリスの背後のシロに視線を送る。
「ひっ!」
その黒い瞳から放たれる視線は正に捕食者のそれであり、シロは肩に置かれたリリスの手を強く握る。
「それで、エヴィエス。これからどこに行くの?」
ギルドだ。シロ達がラウドさんに会う予定があってな。俺達も同行させてもらうんだ。
「へぇ、ラウドのところに……じゃあ私も行くわ」
「!?」
「何でアンタが着いてくるのよ!?」
「だって私もギルドに用事が出来ちゃったんだもん」
ウタは笑みを浮かべながらアリスに答える。
「でもパートナーが居ないアンタなんかがギルド行ったって門前払いよ!」
アリスはいつになく厳しい言葉を投げかける。
それだけ彼女に対して敵意を持っているということだろう。
「いや、アリス……ウタは特別なんだ」
「どういうこと?」
「ウタはギルド最強の行使者の1人なんだよ」
「!?」
「そう、私は人類最強の人間。だからギルドに行くのは当然。なんならラウドなんか顔パスで会わせてあげるわ」
ウタは勝ち誇ったように胸を張りアリスに視線を送る。
「だから、私がギルドに行くのは自由よね?アリス?」
「ぐっ……分かったわよ。でもギルドまでだからね」
アリスは渋々承諾する。
「さぁ、ダーリン行きましょう!」
「えっ……ちょっ!」
ウタは素早くシロの右側に回り込むと自らの腕を組んで身体を密着させる。
そのままシロを引き摺るようにして歩みを進める。
「私だって!!」
空いている左側に回り込んだリリスは同じように身体を密着させる。
シロを挟んでリリスとウタの視線がまたしても交錯し、バチバチと音を鳴らす。
「ちょっとなんなの!?私を置いて行くんじゃないわよ!」
2人に脇を抱えて連れ去られるシロの背中を唖然とした表情で眺めていたアリスだったが、自分が置いていかれたことに気がつき急いでその背中を追った。
「なあ、ナイ……」
「なに?エヴィ様ー?」
「お前、ウタに何て耳打ちをしたんだ?」
「えっとねー、パートナーは駄目だけどお嫁さんならいいんじゃない?って言ったんだよ!いい案でしょ!?」
まるで褒めて欲しいと言わんばかりのナイはエヴィエスに純粋無垢は笑顔を向ける。
「うわぁ……」
エヴィエスは3人に引き摺られるように連れて行かれる友の今後が前途多難になる事を確信し、静かに両手を合わせるのだった。
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