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第2章
35話「到着」
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のどかな田園地帯を東へと抜けたシロ達は住宅地帯へ足を踏み入れていた。
歩道は石が敷き詰められ、その両脇に石と木が組み合わされた家が立ち並ぶ。
ウェステの街では見たことない建物の密度と行き交う人々にシロは圧倒されていた。
「姉さん……こんなに沢山の人見たことないよ」
「うん……思っていた以上だわ」
リリスとアリスも唖然としている。
周囲をキョロキョロと見渡す挙動不審な様は側から見れば田舎者とすぐに分かってしまうだろう。
「本当に凄いね」
「まあ、一番栄えてる街だからね。このくらいじゃないと……あっ迷子にならないように気をつけて」
この街ではエヴィエスだけが頼りだ。
シロを筆頭とする田舎者達は迷わないように注意しながらエヴィエスの後を追う。
「エヴィエスはケントルムにはどのくらい住んでたの?」
「んー、半年くらいかな。そんなに長くは住まなかったよ。だからそこまで詳しいわけじゃないんだ」
エヴィエスは何度か振り返りながら歩みを進める。
皆が付いてきているか確認するためだろう。
「そっか、でも十分助かってるよ」
「そう言ってくれるとありがたいね。そう言えば、昔はこれよりも栄えている国が沢山あったらしいよ」
「そうなの!?こんなに人がいるのに?」
これだけの人々が住む街よりも栄えている国はどんなものだったのだろう。シロには想像する事もできない。
シロの視線の先にはフィオと同い年くらいの少女が母親と幸せそうに手を繋ぎながら歩いている。
「うん、昔は壁なんか必要なかったんだ。だけど魔物が現れてから人間の数は半分以下にまで減ったんだ。救世主が現れなかったら人類は魔物に滅ぼされてたって言われているからね。だから、その時代よりは今の方が皆幸せなのかもしれないね……あっ着いたよ!」
エヴィエスは通りでも一際大きい3階建て建物を指し示す。
ウェステで一番大きかった教会よりもはるかに大きい三階建ての建築物だ。
「こんな立派な建物に泊まるの?」
「この街では一般的な宿だよ。それだけウェステが田舎だったってことさ。ちょっと空きを聞いてくるから待ってて。ナイ行くぞ」
「はーい」
エヴィエスとナイは迷わずに宿の中に入って行った。
「ねえ、アリス……」
「ん?」
「エヴィが一緒に付いてきてくれてよかったね」
「本当よね」
3人だったら間違いなく途方に暮れていただろう。
2人の背中を見送った3人はつくづくエヴィエスに感謝していた。
「お待たせ」
程なく戻ってきたエヴィエスは2つの鍵を持っていた。
「金を節約する必要もあるから、俺とシロが同部屋。アリス達は3人部屋ね。はい。シロの鍵」
そう言いながらエヴィエスはシロに鍵を手渡す。
「ありがとう」
「あー、まずは身体を洗いたいわ。もうベタベタで気持ち悪い」
「あっ!また私にも石鹸貸して!」
「仕方がないわねぇ」
「やったー!」
アリスとナイはこの旅で随分仲良くなったように見える。
面倒見の良いアリスと天真爛漫なナイは気が合うのだろう。
「そうだな。今日はみんな疲れてると思うから明日ギルドに行こう」
「そうだね。急いで行く必要はないし、今日はゆっくり休もうか」
「ええ、分かったわ」
「あっ、シロさん」
エヴィエスやナイ、アリスが宿に入っていき、それに続こうとしたシロは後ろから呼び止められて振り返る。
「ん?どうしたの?」
「あの……その……夕方2人で街を見に行きませんか?」
リリスは腕を自身の後ろに回し、やや頬を高揚させ俯いている。
「うん、いいよ。僕も見たかったし。でも、アリスは?」
「お姉ちゃんはいいんです」
「え……でも……」
「いいんです!」
強い口調で一歩前に歩み寄る彼女の表情は真剣そのものだ。
「……じゃあ、2人で行こうか」
「やった!」
リリスは旅までの疲れが吹き飛んだかのような笑顔を見せる。
「おーい、シロ行こう!」
「ああ、今行く!じゃあ、リリス。後で部屋に行くね」
「はい!」
シロにはなぜリリスがそこまで真剣になっているのか理解できない。
しかし、彼女の喜んだ表情を見ると自分の胸が温かくなるのを実感していた。
◆◆◆◆◆◆
「リリスー。準備できた?」
部屋に着いたシロは身支度を整えてから、リリス達が泊まる部屋をノックしていた。
「開けていいわよ」
部屋の中からアリスの声が聞こえて来る。シロは木でできた扉を開けるとアリスがベットに腰掛けてこちらを見ていた。
彼女は2つに結んだ髪を解き、濡れた髪に布を当てて水気を取っている。
「あれ?リリスは?」
シロは周囲を見渡す。
シロの部屋と同じく、木材でできた内装で違うのはベットが一つ多いくらいだ。
このあたりはケントルムとはいえウェステとほぼ変わらない。
「あー……リリス寝ちゃったのよ」
「え?」
確かにアリスが腰掛けるベットの奥に膨らみが見える。
「これから2人で街を見にいくんだったわよね?でも、部屋に着くなり倒れるように寝ちゃったの。多分、相当無理してたんだと思うわ」
確かにリリスは慣れない旅で無理していたのは分かっていた。
部屋に着いて緊張の糸が切れてしまったんだろう。
「そっか……なら仕方ないね。エヴィエスはナイと出掛けちゃったし……アリス一緒に行く?」
「いや、私はいいわ。リリスを置いて行くのはちょっとね……」
アリスはリリスが眠るベットに優しげな視線を送る。
「そうだね。リリス可愛そうだもんね」
「ええ、だから今日はシロ一人で出掛けてきていいわよ」
「うーん、分かった。じゃあ、近場をぐるっと見てくるだけにするよ」
「うん、いってらっしゃい」
「じゃあ、また明日ね」
「あっ、シロ!」
部屋から出て扉を閉めようとしたシロは、半分閉じた扉から覗き込むようにアリスを見つめる。
「どうしたの?」
「あの……今度……私とも一緒に街を見に行かない?」
控えめな声で俯く彼女の表情は、髪を乾かす布に遮られ見ることはできない。
「もちろん!じゃあ、リリスと一緒に3人で行こうか!」
「はぁ……そういうこと言ってんじゃないわよ……」
「え?」
シロはあからさまにガッカリしたアリスをキョトンとした表情で見つめる。
「……まあいいわ。気をつけて行ってきなね」
「うん、じゃあ行ってきます」
シロはアリス達の扉をゆっくりと閉めた。
(結局1人になっちゃったな……少しだけ見て帰ろう)
1人になったことは残念だが、初めて訪れた街を見て回るのに胸が高まっていた。
シロは階段を降り、一階のホールを抜けて宿から出て辺りを見渡す。
あたりは夕焼けに包まれ、石畳の道をオレンジ色に染め上げている。
ウェステの街であれば、この時間帯には人通りはまばらになってしまうが、ケントルムほどの街になるとやはり多くの人のまだ行き交っている。
シロは迷わないように建物や周りの風景を目に焼き付けながらあてもなく歩みを進めるのだった。
歩道は石が敷き詰められ、その両脇に石と木が組み合わされた家が立ち並ぶ。
ウェステの街では見たことない建物の密度と行き交う人々にシロは圧倒されていた。
「姉さん……こんなに沢山の人見たことないよ」
「うん……思っていた以上だわ」
リリスとアリスも唖然としている。
周囲をキョロキョロと見渡す挙動不審な様は側から見れば田舎者とすぐに分かってしまうだろう。
「本当に凄いね」
「まあ、一番栄えてる街だからね。このくらいじゃないと……あっ迷子にならないように気をつけて」
この街ではエヴィエスだけが頼りだ。
シロを筆頭とする田舎者達は迷わないように注意しながらエヴィエスの後を追う。
「エヴィエスはケントルムにはどのくらい住んでたの?」
「んー、半年くらいかな。そんなに長くは住まなかったよ。だからそこまで詳しいわけじゃないんだ」
エヴィエスは何度か振り返りながら歩みを進める。
皆が付いてきているか確認するためだろう。
「そっか、でも十分助かってるよ」
「そう言ってくれるとありがたいね。そう言えば、昔はこれよりも栄えている国が沢山あったらしいよ」
「そうなの!?こんなに人がいるのに?」
これだけの人々が住む街よりも栄えている国はどんなものだったのだろう。シロには想像する事もできない。
シロの視線の先にはフィオと同い年くらいの少女が母親と幸せそうに手を繋ぎながら歩いている。
「うん、昔は壁なんか必要なかったんだ。だけど魔物が現れてから人間の数は半分以下にまで減ったんだ。救世主が現れなかったら人類は魔物に滅ぼされてたって言われているからね。だから、その時代よりは今の方が皆幸せなのかもしれないね……あっ着いたよ!」
エヴィエスは通りでも一際大きい3階建て建物を指し示す。
ウェステで一番大きかった教会よりもはるかに大きい三階建ての建築物だ。
「こんな立派な建物に泊まるの?」
「この街では一般的な宿だよ。それだけウェステが田舎だったってことさ。ちょっと空きを聞いてくるから待ってて。ナイ行くぞ」
「はーい」
エヴィエスとナイは迷わずに宿の中に入って行った。
「ねえ、アリス……」
「ん?」
「エヴィが一緒に付いてきてくれてよかったね」
「本当よね」
3人だったら間違いなく途方に暮れていただろう。
2人の背中を見送った3人はつくづくエヴィエスに感謝していた。
「お待たせ」
程なく戻ってきたエヴィエスは2つの鍵を持っていた。
「金を節約する必要もあるから、俺とシロが同部屋。アリス達は3人部屋ね。はい。シロの鍵」
そう言いながらエヴィエスはシロに鍵を手渡す。
「ありがとう」
「あー、まずは身体を洗いたいわ。もうベタベタで気持ち悪い」
「あっ!また私にも石鹸貸して!」
「仕方がないわねぇ」
「やったー!」
アリスとナイはこの旅で随分仲良くなったように見える。
面倒見の良いアリスと天真爛漫なナイは気が合うのだろう。
「そうだな。今日はみんな疲れてると思うから明日ギルドに行こう」
「そうだね。急いで行く必要はないし、今日はゆっくり休もうか」
「ええ、分かったわ」
「あっ、シロさん」
エヴィエスやナイ、アリスが宿に入っていき、それに続こうとしたシロは後ろから呼び止められて振り返る。
「ん?どうしたの?」
「あの……その……夕方2人で街を見に行きませんか?」
リリスは腕を自身の後ろに回し、やや頬を高揚させ俯いている。
「うん、いいよ。僕も見たかったし。でも、アリスは?」
「お姉ちゃんはいいんです」
「え……でも……」
「いいんです!」
強い口調で一歩前に歩み寄る彼女の表情は真剣そのものだ。
「……じゃあ、2人で行こうか」
「やった!」
リリスは旅までの疲れが吹き飛んだかのような笑顔を見せる。
「おーい、シロ行こう!」
「ああ、今行く!じゃあ、リリス。後で部屋に行くね」
「はい!」
シロにはなぜリリスがそこまで真剣になっているのか理解できない。
しかし、彼女の喜んだ表情を見ると自分の胸が温かくなるのを実感していた。
◆◆◆◆◆◆
「リリスー。準備できた?」
部屋に着いたシロは身支度を整えてから、リリス達が泊まる部屋をノックしていた。
「開けていいわよ」
部屋の中からアリスの声が聞こえて来る。シロは木でできた扉を開けるとアリスがベットに腰掛けてこちらを見ていた。
彼女は2つに結んだ髪を解き、濡れた髪に布を当てて水気を取っている。
「あれ?リリスは?」
シロは周囲を見渡す。
シロの部屋と同じく、木材でできた内装で違うのはベットが一つ多いくらいだ。
このあたりはケントルムとはいえウェステとほぼ変わらない。
「あー……リリス寝ちゃったのよ」
「え?」
確かにアリスが腰掛けるベットの奥に膨らみが見える。
「これから2人で街を見にいくんだったわよね?でも、部屋に着くなり倒れるように寝ちゃったの。多分、相当無理してたんだと思うわ」
確かにリリスは慣れない旅で無理していたのは分かっていた。
部屋に着いて緊張の糸が切れてしまったんだろう。
「そっか……なら仕方ないね。エヴィエスはナイと出掛けちゃったし……アリス一緒に行く?」
「いや、私はいいわ。リリスを置いて行くのはちょっとね……」
アリスはリリスが眠るベットに優しげな視線を送る。
「そうだね。リリス可愛そうだもんね」
「ええ、だから今日はシロ一人で出掛けてきていいわよ」
「うーん、分かった。じゃあ、近場をぐるっと見てくるだけにするよ」
「うん、いってらっしゃい」
「じゃあ、また明日ね」
「あっ、シロ!」
部屋から出て扉を閉めようとしたシロは、半分閉じた扉から覗き込むようにアリスを見つめる。
「どうしたの?」
「あの……今度……私とも一緒に街を見に行かない?」
控えめな声で俯く彼女の表情は、髪を乾かす布に遮られ見ることはできない。
「もちろん!じゃあ、リリスと一緒に3人で行こうか!」
「はぁ……そういうこと言ってんじゃないわよ……」
「え?」
シロはあからさまにガッカリしたアリスをキョトンとした表情で見つめる。
「……まあいいわ。気をつけて行ってきなね」
「うん、じゃあ行ってきます」
シロはアリス達の扉をゆっくりと閉めた。
(結局1人になっちゃったな……少しだけ見て帰ろう)
1人になったことは残念だが、初めて訪れた街を見て回るのに胸が高まっていた。
シロは階段を降り、一階のホールを抜けて宿から出て辺りを見渡す。
あたりは夕焼けに包まれ、石畳の道をオレンジ色に染め上げている。
ウェステの街であれば、この時間帯には人通りはまばらになってしまうが、ケントルムほどの街になるとやはり多くの人のまだ行き交っている。
シロは迷わないように建物や周りの風景を目に焼き付けながらあてもなく歩みを進めるのだった。
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