出来損ないの人器使い

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第2章

27話「獣人の少女6」

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 エヴィエスにやや遅れて燃え盛る集落に突入したシロは魔物に囲まれていた。

 取り囲むように位置したオークやフェンリルは咆哮をあげながらシロに襲いかかる。

(全く……アリスの所為であの人を見失ったじゃないか)

 オークが振るう野太刀を紙一重で躱しながらアリスに不満を漏らす。

(煩いわね!!今そんな暇ないでしょ!!シロ後ろ!!)

 アリスの声が頭に響き、シロは振り返る事なく後ろに向かって引き金を引く。

「グギャア!!」

 シロが放つ水弾に貫かれた魔物が悲鳴をあげる。

(シロさん!!次は左です!!)

 左に視線を送ると渾身の力を込めたオークが野太刀を今まさにシロに向かって振り下ろそうとしている。

「!?」

 シロは素早くアリスとリリスの銃を十字に交差させ野太刀を受け止める。 
 ギィン!!っという金属音が響き、その衝撃でシロの脚が若干地面にめり込む。

 凄い力だ。
 直撃をもらうと流石にまずい。

 シロは野太刀を受け止めながらオークの腹に蹴りを入れて空中に飛び上がると上空からシロを見上げる魔物達に向かっ水弾を放つ。

 雨のように降り注ぐ水弾は瞬く間に魔物達を貫いていく。

 炎が燃え盛る音に魔物の断末魔がこだまする。

 シロが再び地面に降り立った時、足元には無数の魔物の死骸が転がっていた。

「ふぅ」

 同調の力の強さを改めてシロは実感していた。
 特に敵に囲まれた時、シロとアリス、リリス3人が目を光らせていれば死角などない。

「あの人を探さないと!」

 シロは再び迫りくるオークに水弾を打ち込みながら集落の奥へと進む。

(ねぇ、シロ気が付いてる?)

(……うん。あれって……獣人だよね)

 茶色い髪の青年の後を追う途中、集落に住んでいたと思われる人達の亡骸を目にしていた。
 事切れた人達は皆頭に獣を想起させる耳が付き、尻尾が生えている。
 それは人間との決定的な違いであり、彼らが獣人であるということの証でもある。

(なんでこんなところに獣人が居るのかしら……あの人は人間だったわよね?)

(……うん。でもそれはあの人を助けてから聞いてみればいいさ)

 人間と獣人は相容れない存在だが、あの人の真剣な目は本物だった。何か事情があるのだろう。

(シロさん!!)

 リリスの声が響き、シロは視線の先に緑色の髪の女性が倒れた青年を守るように両手を広げているのを目にする。

 女性の眼前にはオークが迫ってきている。

 一刻の猶予もない。
 しかし、距離が離れ過ぎている。このままでは間に合わない。

 シロは迷わず2つの銃口をオークに向かって重ねる。

(ちょ!!シロ!!アレを使うの!!)

(うん。あの人達を救うにはこれしかない)

 シロの髪が一瞬逆立つ。

「貫け!デュアルバースト!!」

 シロの魂の叫びに呼応するように2つの銃口から矢のように吹き出た水流は渦を巻くように突進し、少女を脅かしていたオークを一瞬で消し飛ばす。

「はぁはぁはぁ……」

 水流から放たれた水が雨ように降り注ぎ、それが燃え盛る炎によってジュワッと音をたてて蒸発する。

 やはり、この技はかなり消耗が激しい。
 力をセーブして使ったにも関わらずシロは肩で息をするほど消耗していた。

(全く……無茶しすぎよ)

(でも、アレを使わないと助けられなかったよ)

 シロは事態が飲み込めていない表情をした少女に駆け寄り、優しく声をかける。

「大丈夫?探したよ。魔物はあらかた片付けたからもう大丈夫」

「うぅ……ありがとう……エヴィ様……」

 大粒の涙を流す緑色の髪の少女は後ろに倒れる青年の胸に縋り付く。
 エヴィと呼ばれた青年はシロの目から見ても重傷を負っていることがわかる。

「ナイ……すまなかったな」

 大きな声をあげながら泣き続ける少女を優しく抱きしめる。

「ちょっと……ごめん……」

 かすれた声でエヴィエスは自身の胸で泣き続けるナイを優しく起こし、ヨロヨロと立ち上がる。

 そして、ゆっくりと目の前の家の中へ入っていく。

 シロもエヴィエスに続いて家の中に入ると重なり合うように横たわる獣人の影が2つ見えた。
 1人は老人……もう1人は幼い少女だろうか。

 老人が守るように少女を抱きしめている。

「フィオ……バールさん……ごめん……」

 エヴィエスは既に事切れている老人に近付きその手を握る。

「フィオちゃん……おじいちゃん……」

 ナイと呼ばれた少女も大粒の涙を流しながら幼い少女の額に優しく手を添える。
 血を吐いたのだろう、少女の口からは血が流れた後が付いている。

 きっと2人にとって大事な人だったのだろう。
 大切な何かを失った時に流す涙。
 2人の流す涙がケンプを失ったルウムの涙と重なり、シロは胸が締め付けられるのを感じる。

 シロは2人を直視することが出来なかった。

「エヴィ様!!

 沈黙が周囲を包むなか、唐突にナイの声が響く。

「フィオちゃん!!まだ生きてるよ!!」

 その言葉を聞いたシロも獣人の少女に駆け寄った。

「フィオ!!フィオ!!」

「フィオちゃん!!フィオちゃん!!」

 2人が懸命に呼びかける。

 するとゆっくりフィオは目を開ける。
 血を失い過ぎてしまったのだろう。
 彼女の顔は真っ青になっている。

「……エヴィ……兄ちゃん……ナイ……姉ちゃん……」

「ごめん……ごめん……」

 エヴィエスの瞳から流れ落ちた涙がフィオの頬を濡らす。

「私……色んな世界を……見たかった……ガハッガハッ」

 咳と共にフィオの口から血が流れる。

「フィオちゃん!!」

「フィオ!!もう喋らなくていい!!」

 2人は懸命に叫ぶ。

 このままだと少女が事切れるのは時間の問題だろう。

 シロは両手の銃に視線を落とし、この状況を無言で見つめていた双子姉妹に語りかける。

(……アリス、リリス、いいよね?)

(もちろん!アンタが倒れたら私達が守るわ!!)

(はい!全力で助けてあげてください!!)

(……ありがとう)

 シロは静かに銃口を瀕死の少女に向ける。

「やめろ!!」

 それに気が付いたエヴィエスがシロに向かって叫ぶ。
 きっと苦しみを止めるためにフィオを殺そうとしていると勘違いしたんだろう。

「大丈夫。彼女は助かる。僕を信じて。」

 フィオを守ろうと必死な形相で睨みつけるエヴィエスにシロは優しく語りかける。

「……本当に助けられるんだな?」

「うん、助ける」

「……分かった」

 シロはゆっくりと目を閉じる。
 ここで彼女を助けられなければ、力を手にした意味がない。

 魂を注げ……

「リリス……力を貸してくれ。ヒールバレット」

 シロが放った水弾はキラキラと輝きながら獣人の少女を優しく包み込む。

 そして、少女の顔はみるみる血色が戻り穏やかな表情に変わる。

「フィオちゃん!!息してる!!助かったよ!!エヴィ様!!」

 ナイが歓喜の声をあげながらエヴィエスに抱きつく。

 シロは全身を襲う倦怠感に襲われながらもギリギリ意識を保っていた。
 しかし、それよりも彼女を助けることができた安堵感の方が遥かに大きかった。

 これが、シロの親友。エヴィエスとの出会いだった。
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