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一生の宝物

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 結婚式はもう挙げてしまったので、改めて挙げるのは不自然だ。

 外の人々は、結婚のはじまりは契約だったなど知らないのだから。

 だからその代わりといってはなんであるが、一、二年のうちにという話であった爵位継承式典を、少し早めにおこなうことにしたのである。

 レノスブル卿も、爵位を譲る件については非常に前向きだった。

「フィオナも嫁に行ったし、フレイディが一人前になるなら早くてもなにも困るまい」

 そのように話して、今は毎日のように具体的な計画を立てはじめているところだ。

 その継承式典の目玉になるのが、この肖像画だ。

 フレイディが褒め称えてくれた出来だけではない。

 若奥様である存在が描いたものだとなれば、更に話題にも評判にもなるだろう。

 そのようにフレイディは言った。

「一生、大切にするよ」

 まだ絵の具が乾いていないので触れられないが、フレイディはできるものなら絵を抱え、抱きしめたいと言わんばかりの声で、代わりにそう言った。

 まるで自分と肖像画、両方に対して誓ってもらったように感じて、アマリアは溢れんばかりの幸せを感じた。

「ありがとうございます」

 フレイディはアマリアのその気持ちを悟ったのだろうか。

 肖像画に向き合っていたところから、アマリアのほうへ一歩近付き、腕を回してそっと自分に引き寄せてくれた。
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