宮廷画家令嬢は契約結婚より肖像画にご執心です！～次期伯爵公の溺愛戦略～

1人と1匹の一夜

5

「レオンさん」

　アマリアは窓に近寄った。

　カーテンを開け、窓も開けると、そこにいたのは想像通り、レオン。

　大きな体なので、伸びあがれば窓にも手が届くのだろう。

　いっぱいに体を伸ばして、窓をかりかりと引っ掻いていた。

「どうされたのです。もう眠る時間でしょう？」

　アマリアは苦笑した。

　自分も同じであることは棚に上げた。

　しかしレオンがしゃべるはずもない。

　レオンは数秒、アマリアをじっと見つめていたけれど、不意にぴょんっと跳ねた。

「きゃ……!?」

　アマリアがとっさに下がったことで、レオンはアトリエに飛び込んでくる形になる。

　窓が大きめだったのが幸いした。

「……レオンさん」

　とすっとアトリエの床に着地して、ぷるぷるっと首を振るレオン。

　アマリアはこの状況がまったくわからずに、それを見守るしかなかった。

　そのアマリアに、レオンはとことこ近寄ってきて、体を擦り寄せた。

　やわらかな毛並みが、アマリアの部屋着、白いワンピースに触れる。

　優しい感触だった。

　毛並みの中にある、あたたかな体温も伝わってくる。